魔なる鼓動を硝煙と ~行き詰まり科学&魔法世界のダークエルフ奮闘記~

花祭 真夏

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第一部

第二十七話 昔話をしよう

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 昔々、黒王と呼ばれるダークエルフがおりました。

 彼は魔術王と並ぶ魔力使い『統魔王』の配下の1人です。知識や理論を脇に置き、研鑽でもって魔法を行使する努力の人。狩猟を主として自己研鑽に励むダークエルフ達は、里を超えて集落を超えて彼の元で学びました。

 次第に彼の住処は町となり、都となり、国となって長く長く。

 しかし、いつまでも順風満帆とはいきません。

 ダークエルフは長寿であるが故に、同族間での繁殖力が低いという欠点があります。他種族奴隷との混血を増やして国の体裁を保っていたものの、種として純粋な純血を失う危険と懸念も。ただ、本能的で快楽的な気風から混血化に歯止めがかからず、氏族の頭領達は頭を抱えます。

 そこで、黒王は一計を案じました。

 自身の種と奥義を3つの家系に伝え、純血相伝としたのです。黒王崩御後は3家系が中心となり、各家の姓を取ってイグニ・アス・ディアリ黒王国と改名。相伝の魔法技術で他国の侵略を抑え続け、数千年を超える歴史を刻むに至る。

 …………でももう、黒王国はありません。

 例え1人1人が強くても、質はいつか数に倒されるのです。


「だからっ、僕は戦争なんて大っ嫌いなんだよっ! 弾が足りないでしょっ!? 魔力が足りないでしょっ!? 後始末が面倒だから本気で向かってくるんじゃないよっ!」


 直進性と貫通能力を魔術で高めた刻印魔鉄AP弾を1発撃ち、1人を撃ち抜いて背後の歪曲空間へ呑ませて曲げる。

 何に中っても貫いても、真っ直ぐ飛び続ける特殊弾。空間そのものを歪められて軌道を変え、次の1人と再度の曲折。わずか3秒の間に42回繰り返し、囲み迫るハイエルフ達を残らず地に落とし伏せさせた。

 ――――若い女は脚、それ以外は頭。

 四肢の1つか命を失い、腕組む彼女が魔術で癒す。情けではなく彼女の方の思惑で、追加の蔦魔術が指先まで絡んだ。指は魔術起動ショートカットとして多用されており、詠唱省略を未然に防ぐ。

 後はもう、煮るなり焼くなり。


「可哀そうに、貴女達っ。片脚が千切れ飛んで、もう兵士としてはやっていけないわっ。大人しく協力してくれれば、国盗り後に私が雇ってあげますからねっ?」

「外道異端者めっ! 貴様の繁殖場で母体にするつもりだろうっ!? 一思いに殺せっ!」

「殺すなんてもったいないっ。純血も混血も私達の国には必要なのよ? この戦で少なくとも1万人は犠牲になる計算だから、貴女達には減った分を産んでもらわないといけないの」

「くそっくそっくそぉおおおっ! 誰かっ、誰か殺してくれっ! 慰み物にされて永らえるなんて認められるかっ!」

「自害できないの?」

「そういう『しきたり』です。自死した命は自然に還らない、と」


 泣き叫ぶ女魔剣士の腕を踏んで、うつ伏せで潰れる乳圧を一揉み。

 爆以上超未満の柔らかと、キュッと締まったウェストに腰鎧でちょっと圧される張りの尻。繁殖母体としては上等すぎて、欠損娼婦の方が稼げそうだ。どちらにせよ産まされることには変わりないけど、末より上に彼女の幸せはある。

 収納ポーチから手の平サイズの、四角柱魔結晶をそっと取り出す。


「あらあらあら? お持ち帰り?」

「っ!?」

「僕の一族、こういう高慢ちきな連中に騙されて攫われて奴隷にされたんだ。だからかもしれないけど、泣いて嫌がって抵抗するエリートにすっごく興奮するっ。特に、ハーフを仕込まれて家族に謝る傲慢種族が大好きっ」

「よかったわね。新生樹王の夫、新生黒王の子を孕めて産めて育てられる…………うまく転べば、将来自分達の国を持てるかもしれないわ。明るい未来の為に、恥辱を呑んで快楽に心を委ねなさい」

「いやっ、やだっ! やめろっ、やめてっ! いやっいやいやいやいやいやぁああああああああああああああああああっ!」

「あとで名前を教えてねっ」


 首の裏に魔結晶をつけ、僅かに光って女体が消える。

 持つ手を反して表を見ると、緑髪の耳長美女が頬と乳房の一部を平らに。まるでガラス窓に押し付けられて犯されているかのようで、初夜の趣向がたった今決まる。楽しみに楽しみにポーチにしまって、うつむく残りをぐるっと一望。

 他は、まぁいいか。

 ユルウェルの采配に委ねよう。


「グロウバルン殿? 旦那様の影の中におりますでしょう? 残り物を城の地下牢に送って頂けませんか?」

「……俺の役目はサムアの護衛なのですが…………」

「影魔術なら行き来は一瞬でしょう? 請け負って頂ければ、1人くらい『行方不明』でも気付かないかもしれませんよ? えぇ、私達は夫婦2人きりで進軍してますから、打ち捨てた者達全てを把握なんてできませんので」

「…………報酬は別途現金で。俺は奴隷に興味はありません」

『ひっ!? あ――』


 自身の影から湧き出た手が、生き残りの全てを黒の面に引き込み消えた。

 僕達を除いて、後は頭のない死体だけ。

 さすがにもう用はなく、森の街道を睦まじく歩く。抵抗するのはとっくに飽きた。周囲警戒の片手を互いに空け、組み合う片手で絡まり進む。

 …………ちょっとだけ、グロウバルンの固い身持ちを気にしつつ。


「ねぇ、ユルウェル?」

「なんでしょう?」

「旦那様呼び、やめない?」

「慣れてくださいっ。夫を持つなんて初めてで、興奮が抑えきれないのっ」

「そう――――――ん?」


 なんか今、すごく聞き捨てならないこと言わなかった?
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