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第一部

第二十二話 疑わしきは仕方なし

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 一見して純血ダークエルフの奴隷売買を持ち掛ける、お得意様宛ての特別な営業。

 それとなくわかるように、魔力障壁テントのオープン浮遊輸送車でジャンとブディが僕を運ぶ。外からの認識阻害魔術を張ってはいるが、出来る者なら解析中和して内部を見ることが可能な程度。あくまで普通の特別営業を装い、森の上や大樹の陰へ商品と売り主を晒して見せる。

 ――――アルマリア達は、商談が成ったと装って国外へ帰りの途。

 もちろん、いつでも戻せるように転移マーカーを持たせてある。


「ねぇ、ブディランス。領主様ってどんな人? ちゃんと挨拶して結婚も認めてもらえてたんだよね?」

「簡単に言えば『異端生物学者』。ハイエルフの優越性を認めつつ、優性遺伝子の進化・繁栄限界論を唱えて学会から追放された。仕方なく実家に戻って領主を継いで、自分の仮説が間違いかどうかの研究を個人的に行ってる」

「国からは多種族主義と目され、研究の目的はハイエルフの存続繁栄だからと国粋主義派にも見られてもいます。哺乳類と鳥類の話ではないですが、故事に倣って名付けられたのが『蝙蝠公』に『灰色公』。肌の白さと腹の黒さと、一見どっちつかずの政治が愚鈍共の非難の対象です」

「でも支持は厚いんだよね?」

「理想より実利を取る方ですので」


 口調は淡々と抑揚は薄く、自信と誇りを乗せてジャンは語る。

 声ばかり大きく行動しない扇動家と、権限と実力を兼ね備える行動派。平時であれば前者が強く、緊急時には後者が強い。この世界はほぼほぼ常に乱世渦巻き、急先鋒として立ち続けて多くの仲間を得ていったのか。

 純血にも混血にも、幅広く推される時の人。

 確かに、次期国家元首にふさわしいかもしれない。今の樹王は過去の栄光と遺産だけ継ぎ、厄介な威光で威張り散らす無駄プライドの塊。国の危機に茶会を催し、緊急事態のボタンだけ押したら優雅な時間へずっと引き篭もる。

 何度も何度もそうやって、いい加減足元がひび割れていることも知らずに。


「仲良くできそうかな?」

「手ぇ出すなよ……?」

「娘が成人した一児の母でしょ? 未亡人はまだしも熟女は趣味じゃないよ。僕のストライクゾーンは初潮前後から、雌の重みが乗り出す愛欲の齢くらいなの」

「今年で御年631歳で、ダークエルフ換算だと315歳くらいです。十分範囲内なので、私も勿論警戒させて頂きます」

「間違いって、いつも間違って起こるんだよ?」

「自分から間違えに行くのは違ぇだ――――っ!?」


 操作盤に置かれるブディランスの指が、残像を一瞬の右へスライド。

 車体が急に右を向いて、急加速して森の中へ。次瞬、本来の経路上で閃光が弾け、辺りに幾つもの魔力反応が生まれた。遮蔽効果の高い感知妨害マントを羽織り、覆面の耳長白肌が次々飛来する。

 障壁越しに感じる、混じりっ気のない白緑の魔圧。

 純血。しかも洗練度合いが半端じゃない。


「本当に偽装できてたの!?」

「ネタがないだけで公然の秘密って奴だっ! それにしたって強硬すぎるとは思うけどよっ!」

「国軍上層部直属、諜報白の3番ですねっ。普段は国外で情報収集しているのですが、帰国していたとは初耳ですっ。あっ、あの中で本物は1人ですからご注意をっ」

「やっぱり!? 『魔力が全員均一で同色』って、何かの間違いかと思ったよっ!」


 パチンっ!と指を鳴らして奴隷服を消し、いつものジャケットとミリタリーパンツに早着替え。

 大急ぎでポーチから片眼型赤外線スコープを取り出し、ざっと見回したら両目の認識が一致しない。姿は見えて魔力は感じて、目測170cmの男性型熱源は1つもない。代わりにあるのは幻影中心に浮かんで飛ぶ、丸く冷たい機械の姿。

 飛行魔術式を外殻に刻まれた、『自爆型』の光学立体投影装置。

 あぁ、わかった。すぐわかった。これ、魔術傾倒な国軍じゃなく科学取り入れのレジスタンスの同士討ちを結果にしたいんだ。

 疑わしきを仕方のない犠牲にして、反逆者一味への攻撃材料を作ろうとしてる。


「ブディランス、装備まで売ってないよねっ!?」

「強盗列車から補充してない!」

「十分! そっちがとびっきりの好相性だ!」
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