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第一部
第十八話 お楽しみは控えめに
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『次のニュースです。旧グレスティース工房都市にて、犯罪組織間の抗争が発生。8本の大工房塔が全て倒壊し、周辺は瓦礫の山と化しました。都市付近には戦闘飛行船トライデントと思われる残骸もあり、現場確認を行ったディルシナ魔王国の調査団は――――』
「搾られとるぞ、魔力」
「あっ、やっぱり?」
椅子に座ってテーブルに右腕を置き、手をかざすセイコフから回答を聞く。
今回の空戦にて、使用した空間魔術は断層1回、歪曲1回、転移3回の合計5回。全て10m単位の大規模行使なれど、片手回数で音を上げるような鍛え方はしてこなかった。最低でも同規模を20回は出来た筈で、原因究明の為に彼の診察を受けている。
で、結論は『搾られてる』。
『誰に』か『何に』かは大方見当がつく。
「魔力の行き先はヴィナじゃ。オリハルコンの加工で魔力を使い果たし、主従契約のラインから足りない分を補充しとるのじゃろう。おそらくは満腹になるまで吸い続けるぞ? 並みの魔術師なら60人分は軽く超えるな」
「デルサは大丈夫だったのに?」
「本人から聞いた話じゃと、魔剣や魔刀を鍛える為に日頃から蓄魔をしとったらしい。半分以上を持っていかれて、また溜め直しじゃと言っとった。その内、性魔術でお主から搾り取ろうと考えるかもしれんの」
「好き勝手に使われるのはもう御免だよ。どいつもこいつも、僕『達』のことを魔力タンク扱いして……っ」
「種族特性故、半ば仕方ない。まぁ、じゃからこそ、吸われた分しっかり使うが良いじゃろうな」
僕から手を放してリモコンを取り、セイコフはテレビのチャンネルを切り替え一服。
海賊電波を受信して増幅し、補正をかけたチラつく映像。どこもかしこも破壊されたグレスティースで特集を組んでいて、『正体不明の犯罪組織』に『ディルシナ魔王国の調査団』。どこが情報操作をしているか非常にわかりやすく、魔力を整えたら顔を出しに行く予定を立てる。
――――過去視系の時空魔術を使えば、僕達の姿だって見えただろうに。
あくまで組織を強調し、僕という個人の印象を掻き消している。
「それで? 黒幕を追うのか?」
「そのつもり。向こうがヴィナやデルサを狙う前に、こっちから出向いて全部すり潰す。ウェルシーナの後ろ盾があれば、ある程度の無茶も利くし」
「となると、次は聖ヒュンエル樹王国じゃな。ギレイス・ファンダリアの出生登録はあそこになっとる。問題は、ハイエルフの国にダークエルフの入国が許されるのか……」
「魔力袋扱いなら入れるよ。エルフは下民、ドワーフ系は奴隷、ダークエルフは人権のない道具、それ以外は卑民ってのが連中の考え。革命派レジスタンスが牛耳る辺境都市なら密入国も不可能じゃない。ただ、信用がないとどこも自由はないね」
「…………なぜ、ブディランスはそんなところに行っとるんじゃ?」
「出身があそこだから。人間奴隷とハイエルフのハーフだよ」
昔、酒の席でチラッと聞いた過去の愚痴を思い返す。
ハイエルフとそれ以外のくくりで営む社会にあり、散々使われた胎に宿って裏路地の闇医者で生を受けた。成長しきる前に母は亡くなり、幼いながら種族平等を謳うレジスタンスへ身を投じる。仲間と共に充実した青春を過ごす最中、鎮圧軍の放った毒ガス弾で生き残ったのは自分だけ。
絶望の中で救われて、また絶望に落とされて逃げだした憐れ。
幸いなのは、彼には信頼できる仲間が『まだ』いること。僕と違って全然まし。根こそぎ奪われなかった分、僅かな未練と希望をクソったれな現実に持っていられる。
…………羨ましくなんて、ない。
「あやつを頼るか?」
「それが楽だろうけど、対価にレジスタンスへの協力を求められそうだから却下かな。僕は一介のアウトローで賞金首。国家転覆に与する政治犯は器じゃない」
「例の銃があれば、クーデターなぞ簡単にできるじゃろう? ハンドガンサイズで疑似メテオ級の威力とは、さすがはオリハルコンと言ったところか。これが量産できたなら、世界はまた滅亡隣り合わせの混沌乱世と化すのかのう?」
「権力で抑えつけられてる連中に、加工技術も設備も用意できないって。何より原材料が全然ない。正規ルートでも裏ルートでも、出回ってすぐ噂になって誰かに出る杭を打たれてそれで………………」
「…………やっと気づいたか」
自分で並べ立てた情報と推論と、知り合いの生い立ちを纏め組み上げ頭を抱えた。
表に出ていないオリハルコンが、元レジスタンスの手で現レジスタンスにもたらされる。
効率よく加工できれば、インゴット1つでハンドガン5丁は生産可能。でも威力研究なんて考えもしない食い詰め場末が、安全マージンを取った試し撃ちなんてするだろうか? それこそ今テレビで流れているグレスティースのクレーター群を見て、嬉々として量産し即行動を起こしかねない。
しかもしかもしかも、銃本体は耐久性の塊。
戦場漁りが拾って売って、世界は過度の緊張と混乱。
「…………魔力補給薬、在庫ある?」
「今朝から1割値上げしとるがな。幾つ欲しいか言ってみい?」
商魂たくましい笑顔を睨み、僕は財布を丸ごと渡した。
「搾られとるぞ、魔力」
「あっ、やっぱり?」
椅子に座ってテーブルに右腕を置き、手をかざすセイコフから回答を聞く。
今回の空戦にて、使用した空間魔術は断層1回、歪曲1回、転移3回の合計5回。全て10m単位の大規模行使なれど、片手回数で音を上げるような鍛え方はしてこなかった。最低でも同規模を20回は出来た筈で、原因究明の為に彼の診察を受けている。
で、結論は『搾られてる』。
『誰に』か『何に』かは大方見当がつく。
「魔力の行き先はヴィナじゃ。オリハルコンの加工で魔力を使い果たし、主従契約のラインから足りない分を補充しとるのじゃろう。おそらくは満腹になるまで吸い続けるぞ? 並みの魔術師なら60人分は軽く超えるな」
「デルサは大丈夫だったのに?」
「本人から聞いた話じゃと、魔剣や魔刀を鍛える為に日頃から蓄魔をしとったらしい。半分以上を持っていかれて、また溜め直しじゃと言っとった。その内、性魔術でお主から搾り取ろうと考えるかもしれんの」
「好き勝手に使われるのはもう御免だよ。どいつもこいつも、僕『達』のことを魔力タンク扱いして……っ」
「種族特性故、半ば仕方ない。まぁ、じゃからこそ、吸われた分しっかり使うが良いじゃろうな」
僕から手を放してリモコンを取り、セイコフはテレビのチャンネルを切り替え一服。
海賊電波を受信して増幅し、補正をかけたチラつく映像。どこもかしこも破壊されたグレスティースで特集を組んでいて、『正体不明の犯罪組織』に『ディルシナ魔王国の調査団』。どこが情報操作をしているか非常にわかりやすく、魔力を整えたら顔を出しに行く予定を立てる。
――――過去視系の時空魔術を使えば、僕達の姿だって見えただろうに。
あくまで組織を強調し、僕という個人の印象を掻き消している。
「それで? 黒幕を追うのか?」
「そのつもり。向こうがヴィナやデルサを狙う前に、こっちから出向いて全部すり潰す。ウェルシーナの後ろ盾があれば、ある程度の無茶も利くし」
「となると、次は聖ヒュンエル樹王国じゃな。ギレイス・ファンダリアの出生登録はあそこになっとる。問題は、ハイエルフの国にダークエルフの入国が許されるのか……」
「魔力袋扱いなら入れるよ。エルフは下民、ドワーフ系は奴隷、ダークエルフは人権のない道具、それ以外は卑民ってのが連中の考え。革命派レジスタンスが牛耳る辺境都市なら密入国も不可能じゃない。ただ、信用がないとどこも自由はないね」
「…………なぜ、ブディランスはそんなところに行っとるんじゃ?」
「出身があそこだから。人間奴隷とハイエルフのハーフだよ」
昔、酒の席でチラッと聞いた過去の愚痴を思い返す。
ハイエルフとそれ以外のくくりで営む社会にあり、散々使われた胎に宿って裏路地の闇医者で生を受けた。成長しきる前に母は亡くなり、幼いながら種族平等を謳うレジスタンスへ身を投じる。仲間と共に充実した青春を過ごす最中、鎮圧軍の放った毒ガス弾で生き残ったのは自分だけ。
絶望の中で救われて、また絶望に落とされて逃げだした憐れ。
幸いなのは、彼には信頼できる仲間が『まだ』いること。僕と違って全然まし。根こそぎ奪われなかった分、僅かな未練と希望をクソったれな現実に持っていられる。
…………羨ましくなんて、ない。
「あやつを頼るか?」
「それが楽だろうけど、対価にレジスタンスへの協力を求められそうだから却下かな。僕は一介のアウトローで賞金首。国家転覆に与する政治犯は器じゃない」
「例の銃があれば、クーデターなぞ簡単にできるじゃろう? ハンドガンサイズで疑似メテオ級の威力とは、さすがはオリハルコンと言ったところか。これが量産できたなら、世界はまた滅亡隣り合わせの混沌乱世と化すのかのう?」
「権力で抑えつけられてる連中に、加工技術も設備も用意できないって。何より原材料が全然ない。正規ルートでも裏ルートでも、出回ってすぐ噂になって誰かに出る杭を打たれてそれで………………」
「…………やっと気づいたか」
自分で並べ立てた情報と推論と、知り合いの生い立ちを纏め組み上げ頭を抱えた。
表に出ていないオリハルコンが、元レジスタンスの手で現レジスタンスにもたらされる。
効率よく加工できれば、インゴット1つでハンドガン5丁は生産可能。でも威力研究なんて考えもしない食い詰め場末が、安全マージンを取った試し撃ちなんてするだろうか? それこそ今テレビで流れているグレスティースのクレーター群を見て、嬉々として量産し即行動を起こしかねない。
しかもしかもしかも、銃本体は耐久性の塊。
戦場漁りが拾って売って、世界は過度の緊張と混乱。
「…………魔力補給薬、在庫ある?」
「今朝から1割値上げしとるがな。幾つ欲しいか言ってみい?」
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