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第一部

第十七話 銃砲魔空戦

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「早速のお出ましかっ、ストレス解消に付き合えっ!」


 傾く甲板に両足で立ち、戦闘速度まで加速して山向こうから現れる3隻を視認する。

 機動戦車を流線形装甲で覆い、空中慣性飛行をメインに据えた高速戦闘飛行船『トライデント』。

 三又矛の名称由来となる、水平三連120mm魔術砲が唯一にして最大の武器。正面に据え付けられたアレらをすれ違い様に船首向け、発射したら速度を保ったまま高速離脱。3次元機動のヒット&アウェイを戦隊組んで繰り返し、初撃を凌いだとして延々延々追って追って追って撃ち撃ち撃ち撃ち穿ち滅ぼす。

 ――――地上4輪車フリークが語る、空のドリフト専用機。

 相性的には悪くない。たまには一方ではなく遊んでやろう。


「プリントレーザー砲準備っ」

『プリントレーザー砲6門フルオープン。視覚誘導、同期……完了。魔術印プリンタークリーニング開始……完了。術式フィルターを選択してください』

「指定マーカー転移っ」

『指定マーカー転移魔術式に換装……完了』

「良しっ」


 左の弧から右螺旋の軌道を描き、周期性と冗長性を排したランダム飛行で距離を詰める。

 真っ青な空と赤茶の大地と、茶緑迷彩の3隻がぐるぐる。慣れていなければ1分で船酔いし、ぶちまけのフレアを置き去りにする極悪凶悪だ。大してあちらは大気という地面に一瞬をぶつけ、瞬間加速の後に逆方向フェイントと船体横向け。

 高速空戦に照準が間に合わない?

 なら、船体ごと向けてぶっ放せの潔さ。


「そういうトチ狂い方は大好きだよっ!」


 半秒後、1秒後、2秒後に通過する空間座標へ赤熱の爪が置かれ待ち受ける。

 1本だけなら熟練操舵で回避可能。だから短間隔で3本置き、収束した熱線の檻に自ら飛び込ませる。初撃から射撃で来ないのは余程自信があるのだろうが、こちらはその船のプロトタイプより『100年早く産まれている』。

 空戦とはいえ、銃とはいえ、魔術戦。

 新参の知恵と古参の経験、どちらが上かの勝負に昂る。


「――、――――!」


 両手を前に、左へずらす。

 船の前で巨大な空間断層を作り、右舷20mの空へ通過させた。張られた溶断の檻は左舷に置き去り、1度目の邂逅を無難に済ませる。これが挨拶で次が本番で、速度を保ったままドリフトしていく飛行戦車へ視線を1つ。

 3つ全ては追えず、1つに集中して印が浮かんだ。


「セットッ!」


 敵船体の1つの腹に、高出力レーザーの焼き印がプリントされる。

 大きさにして、大人の握り拳1つ程度。被弾の衝撃もなく視覚的にも小さく、互いに気づく前にもう2つも狙う。しかし向こうも戦法を変えて大きく回り、竜の爪のように上2方向+直下の3軌道から狙ってきた。

 しかもこれは、肌がひりつく。

 2つは囮で誘いで牽制。残り1つが本命の予感。


「やるねぇっ、じゃあ今度はこっちっ!」


 目の前の中空を掌で挟み、球体のように横に回す。

 前方の景色が一瞬揺らめき、確かに切り替わって砲撃は後方。

 180度反転された歪曲空間へ飛び込み、船の進行方向が真逆となってあちらと並走する。ドリフト照準の火砲は当然の如く空を焦がし、何もない地上2点で爆発した。こちらはこちらでレーザー砲照準を容易につけ、2隻の頭に1つずつの印をプレゼント。

 準備完了。

 最後の仕上げに、アクロバット軌道から地上に向けてレーザー照射。


「ついてこれるっ?」


 船が空向き重力抗い、全開船速で引きちぎりにかかる。

 山脈山頂は彼方となって、雲を超えて気温が零下。横の地平は水平となって、向こうの大陸の地平が映る。もっと頑張れば宇宙まで飛び出せるものの、後追う連中の為に緩やかな円で今度は真下。

 重力の加速を味方につけ、僅かなチキンレースでプライドを燃やす。


「ははっ! 一気に距離を離すと思ってる!? 最大速力からすれば、そっちはすぐ追いつけるんだよっ!? ちゃ~んと互いのスペックを見ないと…………こうやって良いようにされちゃうんだよっ!」


 パチンっ!の指音を、白雲の貫通に合わせて1つ。

 同時に船首を上向け減速かけ、墜落競争から早々にリタイアする。本来ならピンチでありミスであり敵のチャンスであるが、3つの船影は雲の上から現れやしない。代わりに地上で一際大きく、炎と土煙が爆発を告げた。

 どうやら、うまくいったようだ。

 巨大質量の全速落下を、『地上のマーカーに合流転移させる』強制自爆戦法。


「空間魔術師を嘗めちゃいけないよ? 科学技術との合流で、僕達こそ1番に強化されたと自負してる。研究や統合開発の結果が秘匿される昨今、わからん殺しへの対策は常にしないと――――って、あ、れ……?」


 下半身から力が抜け、両膝をついてぺったん座り。

 辛うじて動く両手すら、無意識の震えが止まらない。これはやってしまったと舌を出し、誰でもない自分の失敗を責めた。思えばデルサとの戦闘でも転移魔術をかなり使い、オリハルコンハンドガンの試射なんて無駄遣いも頭を過ぎる。

 ――――体内魔力の欠乏症状。

 流石に戦闘飛行船3隻は、一気に飛ばすには大きすぎたか。


「あっちゃぁぁぁ…………これじゃ魔力液の注射もできないなぁ……オルドラ、魔力軟膏持ってきて。ついでに服脱がせて全身に塗って」

『了解。ご奉仕魔力補給にお伺いします。操舵はレイレインに引き継ぎ。射手不在となるため、防衛注意』

「一番濃いのをお願いねっ。はぁぁぁぁぁ…………っ、帰ったら1日お休み取ろっと」


 アンデッドの女従者に助けを命じ、僕は仰向けに寝て雲を見上げた。

 多数の法則が集う世界において、定まった解答はいずれなくなる。手向けた言葉を反芻し、自分自身にも言い聞かせた。次にあぁなるのは自分かもしれず、その為の備えは出来ているのか?と。

 わからないよ、そんなの。

 どれだけやれば足りるのか、わからないからひたすら求める。銃も、魔術も、従者も、道具も、集めて考え選んで調べる。人生の終わりまで繰り返す生と死のイタチごっこを、生きている限り生きる為にずっと続ける。

 …………魔力の欠乏なんて、久しぶりだなぁ……。


「――――なぁんか、おっかしいなぁ……?」


 簡易計算と今までの感覚が、魔力消費と両方合ってない。
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