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第一部

第十五話 棚からぼた餅

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『サムアぁあああ゛ああ゛っ、彼氏にすてられたぁあ゛ああああ゛あ゛ああああっ!』


 透け透けネグリジェのせいで魅惑の褐色爆乳を余さず晒し、映像通信ディスプレイの向こうでアウトローギャルのアルマリアが泣き叫ぶ。

 彼女とプライベートの接点はない。

 にもかかわらず、わざわざセイコフ経由で通信してきたのは一体何故か? 答えは彼女も所謂『ぼっち』で、尽くすタイプだから件の彼氏以外に友好がない。襲撃を共にしたブディランスもハイエルフの国に行ってしまい、泣きつく先が僕しかいなかった。

 とりあえず、楽しんだ姉妹にシーツをかけて、ベッドの上で胡坐をかく。


「アルデリ・ディナーズでフルコース奢ってあげるから泣き止んで? セイコフ、どんな状況?」

『馬鹿な話じゃよ。オリハルコンインゴットを1つ、枕にでもできないかとタオルを巻いて寝ていたそうじゃ。で、同棲しとった男に服やら何やら諸共盗まれ、2日経っても音信不通。加えてガルガのブラックマーケットで、同品の売買がされたと噂になっとる』

「ぇぇぇ? ゴブリンとオーガのなんちゃって国家に、オリハルコンなんて買い取れる経済力ある? 国家予算と国民全員の貯蓄予想を合わせたって、全然これっぽっちも足りないよね?」

『購入者はポッと出の資産家じゃ。名はギレイス・ファンダリア。バルネスト帝国出身で、ハイドワーフとハイエルフのハーフなんじゃと。ただまぁ、情報屋調べの資産状況を見るに、手数料を引いた購入費用は丸っと手元に戻っとるが…………』

「そりゃそうだよね。ガルガのマーケットって物々交換主体のどんぶり勘定で、売買当事者の気分で簡単に値が変動する感情市場。他種族の上玉10人も都合すれば、運営の買収だって難しくない」

『そういうことじゃな。ほれ、アルマリア。預かっておった揺り籠の代金じゃ。それと、残りのインゴットは儂が預かっておったから残っとるぞ?』

『こんどはっ、こんどはほんきだったのに゛ぃぃいぃぃ゛いいいいぃぃ…………っ!』


 失恋、盗難、詐欺のトリプルを喰らって、泣き崩れる褐色ギャルは見るに堪えない。

 こう沸々と、弱っているところを優しくしてパックリ食べてしまいたい欲が沸き上がる。冗談のように言っていた誘い文句は、正直なところマジの本気。いっそ彼女もこのベッドの上で、一緒に毎晩過ごさせてしまおうか。

 半端な指鳴らしを手の中で3回。

 癖にように繰り返し、視線を合わせずセイコフに指示する。


『……言い忘れたがアルマリア。今の家は引き払ったほうが良いぞ?』

『な、なんでっ!? なんでっ!?』

『当たり前じゃ。逃げた男はもう始末されとるじゃろうが、どこでインゴットを手に入れたかを吐いた可能性がある。なら、まだある筈と襲撃かけるのが欲深の性じゃ』

「なら、僕の船に乗る? 僕もアンデッド奴隷の遺族に追われてるから、似た者同士で警戒ばっちり。多次元拡張で部屋を増やせるし、残った私物も全部積めるよ?」

『えっ、えっちなことするんでしょっ!?』

「もちろん。冗談に聞いてたかもだけど僕、アルマリアのこと本気で好きだよ? 嫌われ者のダークエルフでも、蔑んだ目で見ないのはアルマリアだけ。幸せになって欲しいし幸せにしたいし、僕と一緒になって欲しい」

『あっ、えっ、え゛っ?』


 戸惑う彼女を真っ直ぐ見つめ、説明不足の真実を視線に籠める。

 えっちなことしたい。真実。

 本気で好き。真実。

 蔑んだ目で見ない。真実。

 幸せにしたい、一緒になりたい。真実。

 ここまではちょっと下心ありの真っ当な告白。しかし、表に出していない内心を晒せば、きっと評価は逆になる。『傷心中だから押しには弱い』、『愛奴という名の奴隷にしたい』、『抱きしめて囁いて滅茶苦茶にしたい』、『自分専用の褐色ギャルって凄く良い響き』。

 その辺は言葉でなく、浴室か寝室で全部ぶちまける罠。

 手に入れる為に晒す必要はなく、むしろ隠して引き込んで逃げられなくして注いでやる。


『あ、ぅ……っ』

「だめ?」

『だっ、だめ、じゃ、ないっ、けど……っ』

『見てられんの。決心がつかんにしても、すぐに行動せんと間に合わん。コレをつけて先に行け。残りは纏めたら連絡する』

『えっ? なにっ、なにこれっ?』

『第一便、準備できたぞ』

「了解。いらっしゃい、アルマリア」


 通信先で簡素なペンダントが褐色肌にかかり、空間魔術を起動して1300kmの距離を一瞬で超える。

 視界にない、把握できない領域と繋ぐ場合、あらかじめ用意したマーカーを座標や対象の基準にする。アルマリアがつけたペンダントはその1つで、直接接触する物体を対象にこちらへ移した。パッと向こうが消えてこちらへ現れ、程良い肉付きと爆乳を僕の正面に落として抱き着き。

 180度横に回って、裸男と下着女が上下0距離密着の事案。


「セイコフ、他の荷物をお願いねっ」

『任せい。アルマリア、早めに素直になるんじゃぞ?』

「えっ、えっ、えぇえええええ――――んぶっ!?」


 唇を奪って無理矢理黙らせ、ネグリジェの前留めを外し中身を堪能。

 こうなってしまえば、もう逃がしたりなんかしない。前の男のように捨てるなんて論外。ずっとずっとずっとずっとずっと、僕の元で下で気持ち良く気持ち良い幸せをあげる。

 ちょっとずつちょっとずつ。

 緩んだドアに指かけ広げる。


「ん、ちゅ……はぁぁぁっ。僕は、絶対に捨てないからねっ」
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