魔なる鼓動を硝煙と ~行き詰まり科学&魔法世界のダークエルフ奮闘記~

花祭 真夏

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第一部

第十四話 魔法科学世界の銃

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「……っ、マスター……頼まれていたもの、出来ました……」

「ありがと。見せてもらって良い?」


 厚革の作業着に身を包み、平たい仮面までつけて露出ゼロのヴィナからトレイを受け取る。

 エンディグレル工房塔一階の外に停泊する、僕の飛行クルーズ船の作業室。工房で熔かして型入れして、削り出ししてもらったハンドガンパーツ一式。消耗が激しい部品以外は全てオリハルコンで作ってもらい、精度の高さに思わず息を吐く。

 ほれぼれするほど、美しく素晴らしい虹色の白銀。

 特にバレル先端のフロントサイトから、歪みなく真っ直ぐ伸びるラインが濡れる。男なのにコレなら『良い』と、勘違いして本望と狂信するほど。12.7mm弾を撃ち出すライフリングも注文通り、螺旋の芸術を暗い穴中で披露している。

 ヴィナの仮面を上げて顔を出し、煤塗れを気にせず深く口づけ。


「ん……ちゅ……はぁぁ…………すっごくいいよっ。姉妹でとっても頑張ったんだねっ」

「――ッ! い、いかがわしい言い方をしないでっ! それよりっ、デルサ姉様を自由にしてくださいっ! このくらいの加工なら、私一人でも十分できますっ!」

「ダメダメ。オリハルコンの加工ができる奴隷なんて、どこ行っても追われて捕まってメス堕ちからの強制労働だ。2人仲良く、僕の下で気持ち良く働いてねっ。あ、パーツはもう十分だから、デルサも呼んで試射しよっか」

「くっ…………姉様を呼んできますっ。それと、夜伽は私が先ですからっ。姉様にまで回しませんからっ」

「ふふっ、楽しみにしてるねっ」


 涙を湛えた単眼の一瞥で、生ける死体の妹は強いられる奴隷の姉を庇う。

 実に実に可愛らしく、愛らしい家族の絆だ。呼びに行く後ろ姿は怒りと悲しみが滲んでいて、残り香にメスの期待がほんの少し。まだ起動して4日と経っていないというのに、彼女の使い魔心は着実に確実に成長している。

 まるで、この組み合わせ組み上げたオリハルコン製ハンドガンのよう。

 自分が愛用している銃の材質変更コピー品故、視界の端に入っていれば2分とかからず完成させられる。いずれはヴィナとデルサも仕上がることだろう。隣に腰掛け指を這わせ、尻を胸を弄って舐め上げて歓喜の嬌声を自ら上げる。

 そして、弾を装填したマガジンを挿れて、スライドを引きセーフティ。

 ベッドの上なら構いやしないが、今撃つのは大惨事に過ぎる。


「呼んだかよ、クソ野郎」

「良い響きっ。デルサのクソ野郎呼び大好きっ。昨夜もおかげで凄かったんだよっ?」

「――――ッ゛!」

「マスターッ、さっさと要件を済ませてくださいっ! ハンドガンなんてオリハルコンの無駄遣い、わざわざしたのには理由があるんでしょうっ!?」

「無駄遣いじゃないよ。魔法科学に疎い君達はまだ知らないだろうけど」


 収納ポーチにハンドガンをしまい、僕は彼女達を連れて甲板に上がった。

 一面を巨大な塔、残りを倒壊したりひび割れたりした廃墟群が埋める光景。

 地上3階相当の高さから、都市対角線にある工房塔まで一望できた。生者の影は一つもなく、デルサの話では僕が殺した連中で絶えたとのこと。どこに何をしても誰も文句を言わず、側にテーブルを置いて4丁の同型ハンドガンを並べて見せる。

 ――――鋼鉄製、魔鉄製、ミスリル製、オリハルコン製の4種を。


「デルサ。実銃と魔法銃の違いって何かわかる?」

「知るかっ。ただ一つわかるのは、オリハルコンで実銃作るなんてただの無駄遣いってことだっ。ぶん殴るにしても部品点数が多くて、すぐガタが来て精度が落ちるっ」

「そうだね。銃剣がせいぜいってのが通例だ。でも、20年前に見つかった遺失技術を解析したら、それは間違いだってわかったんだ」


 鋼鉄製のハンドガンを手に取り、近くの壁に3発撃ち込む。

 大口径弾の威力は馬鹿にならず、着弾箇所には穴が開いた。ほんの少しの焔が上がり、秒も持たずに小さく消える。それを見た2人は辟易した顔で、もう1つの無駄遣いを非難してくる。

 使っている弾は、炎の魔術式を刻んだ核を人工魔石で包んだ魔術弾。

 たった1発で、中流ホテルの1泊と同等の価値がある。


「魔術弾は銃身内での魔術暴走を防ぐため、撃ち出しは無煙火薬、魔力供給はライフリングとの摩擦時に行う。魔力伝導性が極端に低い鋼鉄で使えば、この通りの残念な結果だね。これだけ見れば、銃身に魔術式を刻んだ魔法銃の方がオリハルコン製に向いてると思ってしまう」

「当たり前だろ。現に、氷の魔王を討伐した茨の魔王一派は、そのオリハルコン製炎属性魔法銃で有利を取ったって話だ。今は多属性の精霊国相手に苦戦してるらしいけど」

「うん。1属性に特化し、他が使えないのが魔法銃の欠点。対して、魔術弾を個別のマガジンに装填し、幅広く使えるのが実銃の利点。でも魔力伝導性と耐久性の兼ね合いが難しく、実用面では魔法銃に軍配が上がる」


 魔鉄――――魔力伝導物質を混ぜ込んだ鉄合金――――で作ったハンドガンに持ち替え、同じように3発壁に撃ち込む。

 着弾と共に小規模な炎が花束の如く。壁に空いた穴は鋼鉄製と同じであり、物理威力の程度は変わらない。だが、魔法威力は確かに上がり、しかし費用対効果は明らかな赤字。

 続けざまにミスリル製を取って撃つ。

 炎は着弾した箇所で渦を巻き、人間大の火球を作って大きく弾けた。


「魔力伝導性に優れた素材は、魔術弾の威力を上げてはくれる。ミスリル製なら弾の代金に見合ってるとも思う。でも、素の耐久性は鋼鉄製に劣るから、火薬爆発の圧力やスライドの摩擦ですぐ歪んでジャムを起こす」

「ミスリル自体、銀の派生鉱物ですからね。使用者の魔力の質と量で強度が左右されます。素養のない者が手を出して、すぐ壊した例は数え切れません」

「つっても、ライフリングから弾に魔力吸われて、実銃だと無強化と変わらねぇだろ。親父がそのことで客と揉めてたぜ? 『これじゃグレイウルフの群れに喰い殺される』って」

「ごもっとも。で、ここにオリハルコン製のハンドガンがあります。素の強度は鋼鉄を凌ぎ、魔力伝導性はミスリルより上。さらに、鉱物特徴として『魔力を蓄えられる』ことから、同じ弾でここまで違う」


 出来立てホヤホヤの新愛銃を手にして構え、今度は都市の外へと狙いを定める。

 なだらかな山の麓。

 上から転げてきたであろう大岩の陰。

 空間歪曲で覗いた先にたむろする、盗掘団と思しき怪しげな集団。僕達の戦闘を見て、今がチャンスと勇んで来たのか。残念だけどその考えは間違いで、これからもずっと間違いのまま。

 大口径弾特有の『ドカンッ!』の銃声。

 歪曲空間に入ってすぐ、弾は1人の頭と接触した。直後、大きな爆発と共に小さなキノコ雲が空へと昇る。5km以上離れていても衝撃波は廃墟を傷つけ、いくつかの建物が余波で倒壊。

 ――――メテオ級と比べて2回り落ちるものの、とてもハンドガンの威力ではない。


「な、ぁ――っ!?」

「なっ、なんですかっ!? なんなんですかっ!?」

「これがオリハルコン製の実銃だよ。魔力を過剰供給された魔術弾は、着弾と同時に術式暴走と崩壊を起こして大爆発を巻き起こす。さて? こんなものが作れるって、20年も前に各国上層部は知ってるわけだ。――――ヴィナ由来の胎児とオリハルコンなんて組み合わせ、ドミディナが揃えてた理由と目的はコレなんじゃない?」

「「ッツ゛!?」」

「どうする? 大量殺戮兵器の母親になって、世界を何度目かわからない大戦に陥らせる? 誰ともわからない犯罪組織につかまって、無差別テロの片棒担いで無数の民間人を見殺しにする? そ・れ・と・も、姉妹で愛するご主人様と、気持ち良い毎日をずっとずっと楽しんで暮らす?」


 突き付けられた自分達の価値に、震える2人を優しく抱き寄せる。

 どこに逃げても地獄は生まれる。巻き込まれるのは何人か、何十人か何百人か。はたまた千人万人億人もっともっと?

 世界滅亡すら、可能性としてある。

 果たして果たして、正気でいられるかな?


「……っ、…………っ゛」

「安心してヴィナ、デルサ。僕が2人とも守ってあげるから。ね?」


 僕はそう言って手を引き誘い、船内を通ってシャワー室を開いた。
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