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第一部

第十三・五話 目をつける女

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 常夜の中で霧深く、堅牢な黒石を積み上げた巨大で長大な果てなき魔塔。

 聖と正義を騙る賊から、魔なる民を町ごと守る城壁のなれ果てだ。本来町の外と繋がるはずの上は、高い高い空の彼方まで真っ直ぐ縦に伸びて伸びて伸びる。外から見れば雲をすら貫く途方もない規模であり、内と外で螺旋状に昇るフロアが小さな町や集落を作っていた。

 そして、その地上87階にある古風な貴族屋敷。

 扉や道、調度などは人のそれより倍は大きい。まるでそこに住まう者の大きさを示し、かつ整い掃除された高価な品々が格を表す。絨毯一つとっても職人の吐息を感じられ、内の一つに膝をつく男は潔い覚悟で敗北を知らせた。

 ブラックオーガの戦闘諜報員、グロウバルン・ゴディ。

 跪くとはいえ280cmの巨漢は、ソファーに腰掛ける単眼の女主に首を垂れる。


「妹君の救助、失敗致しました……」

「うん、聞いた聞いた。ダークエルフのサムア・ディアリ? ショタ狂いDVメスドワーフの元性奴隷が、一端のアウトローとは恐れ入ったわ。70年ってうちらには短いようで、結構長い時間なんやねぇ」

「いかような処分も、お下しください」

「うちはあんたに『お願い』しただけやよ? そもそも、本来の身分はそっちが上やろ?」


 バスローブの前を開けて入浴後の肌を晒し、青肌の女傑はキセルを吹かす。

 妹2人より1回り大きく、まさしく魔の付く大きな乳房。白綿のカーテンを被って真っ直ぐ垂らし、腿の上まで何も引っかけない。戦士のように締まった腹部は大空間の向こうにあり、下乳が影となってへそをすら隠す。

 ――――ディルシナ魔王国防衛大臣、オルサ・ヴェス・エンディグレル・ウェルシーナ。

 今は亡きエンディグレル大工房の長女であり、武闘派魔貴族ウェルシーナ家に嫁いだ玉の輿の成り上がり。サイクロプスにあって230cmの長身で、大剣を使わせればドラゴンすら斬り殺す。その縁あってウェルシーナ家の跡取りと一緒になったが、子を作る間もなく討伐任務で先立たれた。

 …………にもかかかわらず、放逐されず重用されるのは有能さ故。


「正式な任務には成功しとる以上、うちからは何も言えん。ドミディナ周辺の3国が列車強盗して、直後通信途絶の結果全滅。ドミディナとユーティルスの戦争は流れて、隣接4国が疑心暗鬼の良い感じカオス状況。おかげで民間の有能を引っ張れて、後ろ盾が欲しい軍閥連中の弱みまで握れたんは最高やよ」

「ですが、お心の燻りは……」

「言うんやない。今のうちはディルシナの『公』や。エンディグレルの『私』は、抱えてても出したらあかん」


 一際大きくオルサは吸って、大きく大きく横向き吐き出す。

 グロウバルンに与えられた任務は、同盟国のユーティルスをドミディナから守ること。

 彼以外にも複数の諜報員、裏組織、正規兵を動員した国家プランであり、過程で集まった情報の中で下の妹が売られていたと知ってしまった。しかも繁殖用アンデッドとしてオリハルコン加工技術者の量産母体に使われ、故郷産のインゴットまで流出している始末。貴族の体面から『まとめて処分』を命じたものの、僅かな可能性にかけて彼につい頼んでしまった。

 でも、命令ではない。

 任務でもない。

 個人的なお願いで、コーヒーに3つ目の角砂糖を期待する程度に過ぎない。


「幸い、サムアはクズの中でもまともな方や。散々穢されるやろうが、無駄に傷つけられたり殺されたりはされん。あんま良くない人生経験積ませる思うて、預けとくのもええ」

「ご命令頂ければ、奪還に赴きます」

「そん時は頼むわ。ひとまず、しばらくはゆっくりせいよ。あっちは別に見張らせとるから――――」

『閣下、お休みのところ申し訳ございません。リスクレベル4の報告です。ブラックマーケットにてオリハルコンインゴットが1つ出品、即競り落とされました。件のサムア・ディアリ一味とは別の模様。加えて、落札者はエンディグレルに盗掘団を派遣』

「了解。詳細な情報を集めて報告せい。グロウバルン、疲れてるとこ悪いんやけど、現地入りしといてな。指示は追って出すわ」

「はっ!」


 素早く流れるように立ち上がり、はっきりわかる礼を取って黒の巨漢は闇霧に紛れた。

 亡き夫の元部下で、遺言に従って尽くし続ける過度の盲目。信頼する者は数あれど、信用も合わせるのは彼ただ1人。股に指入れ湿りと火照りを、仕方なく自分で弄って冷ます。

 ――――DVメスドワーフが、何人も性奴隷を抱えていたわけだ。

 満たす先を失った未亡人の昂りを、好きに発散できるのは羨ましい。


「…………サムア・ディアリ、なぁ……」


 アウトローのダークエルフなら、性奴隷に良いかもしれない。
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