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第一部

第十三話 これからよろしく。末永く

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 床に落ちて壁に当たって、貼り付いた球は縦に横に弾けて膨れた。

 接地面から反対向きに、鍾乳石の様な白色縦長の山が生える。まばらに不規則に50cm程のまるで草むら。唯一違うのはほとんど必ず足を取られ、直線の移動をほぼほぼ封じる事。

 加えて、いかにも『足場にしてしまえばいい』と思わせる罠。

 その手を取った瞬間、僕の価値は9割決まる。


「魔術補助型科学兵装っ」

「未明の手を使われて頭が冷えた? じゃあ、もう一回ざわつかせてあげよっか。お姉ちゃんの身体、2日ほど使ったけどとってもとっても良かったよ」

「ッ゛!」


 邪魔する小山の間を縫って、瞬間加速と停止を繰り返す単眼女剣士は100m程度を2秒で抜けた。

 階下から上がってくる直前に山の群れへ、内の1つに転移して乗る。研ぎ鍛えられた肉体が、大きくも可愛らしい血走る瞳が、逃さず僕を捉えて追った。蛇のように地を這い緩急をつけ速く、白刃煌めかせ遠刃を一振り。

 濃い魔力の刃が飛び、目の前の空間を下に向けてずらす。

 空間の断層を通った刃が、本来繋がる頭上を過ぎた。正面からの突破はズレた床下からしか行えない。当然横から斬り込むしかなく、右に現れた美女はその場で淀みない1回転を大刀と共に。

 今度は5mの高さまで移り、やり過ごしつつポーチから首輪を一つ。


「僕、彼女と取引をしたんだ。僕の所有物を弔う代わりに、相応しい対価を支払ってもらうって。でもでも、君がいるなら絶対無理だ。財産の所有は生者に優先があるから、彼女が支払える物はない」

「姉様はっ、ドミディナで検体として扱われている筈だっ! 何故貴様が持っているっ!?」

「数日前に輸送列車を襲撃して、その戦利品。にしても、わざわざ意思のある生殖用アンデッドにしたのは理由があるの? おかげで毎回嫌だ嫌だって悲鳴を上げて、愉しめてるから良いんだけど…………一緒に運ばれてたオリハルコンとか人工培養の胎児とか、なぁんか不穏でオハナシを訊きたいなぁ?」

「――――! あいつらっ! 古き血の研究と言いながら、姉様を汚していたのかっ!」


 まるで銀と青の蛇を思わせる残像群を残し、即死級の牙が石を小山を壁を斬り裂く。

 喰われないよう移って移って移って移り、十分余裕のあるダンスが楽しい。向こうに隙が無い間は手が出せないが、一度でも機会があれば勝ちは手の中。先に捕らえて知る限り吐かせたドワーフ同様、服従の首輪を付けさせて身も心も僕のモノ。

 ただ、問題もある。

 始終魔術は時空魔術の一種なのに、魔力の消費が少なくて非常に燃費が良い。


「ねぇねぇ、その物騒な刀を置いて、ベッドの上でお話ししようよっ。お互いに気持ちよくなって、知ってることを交換し合わないっ? 3人の将来を相談して、幸せを掴む努力をしようよっ」

「卑劣漢っ! クソ野郎っ! 死ねっ!」

「罵倒の仕方が姉妹そっくりっ。嬉しいなぁっ、楽しみだなぁっ、妹が目の前でモノにされて、ヴィナはどんな声で啼いてくれるんだろっ? 一番上のお姉さんも一緒に欲しいなぁっ。確か魔族国家に嫁いで、現政権の大臣してるんだっけっ?」

「あんな裏切者など知るかっ! どいつもこいつもっ、私達をっ、エンディグレルをっ、喰い物扱いする連中は皆死ねっ! 滅びろっ!」


 感情の昂りに、刀の振りが足の運びが径を徐々に大きく大きく。

 まだまだ雑には程遠いが、無駄を削ぎ落してカンナとヤスリまでかけたような最小軌道が少し歪んだ。あともうちょっと、ほんの数cmでつま先が障害にぶつかる。なら決定的な一言でダメ押しのとどめを、突き付け差し上げて狂わせてあげよう。

 確実な安全圏への連続転移から、少しずつ少しずつ距離を詰める。


「ねぇ?」

「くどいっ! 黙れっ!」

「お姉ちゃんの処女、ごちそうさまっ」

「――――ッツ゛ツ゛!」


 流麗な一歩が、精緻な脚の弧が、足裏を大きく浮かせて小山に乗った。

 足場にして飛び掛かり、一刀の下に伏せる気だろう。だが、直後彼女は驚愕で更に目を見開く。僕が乗って跳んで問題ない筈の足場がボロッと、踏み込みに逆らわず崩れて落ちたから。

 ――――想定していない下半身の動きに、全身の安定が失われてカバーの前転。

 一瞬で小山がハリボテと判断し、思いきり回ってもう一つを崩す。うん、そうだよね、そうするよね、そのくらいできるよね。だから仕込んだソレは有効に機能し、直接小山と触れた脚と背が床に張り付いて仰向けを強制した。

 タネを明かせば、小山の中には強力な接着剤。

 僕が立っていたのは、直接じゃなく魔力の足場を挟んでいたから。


「ツ゛――!」

「やっと動きが止まったね。それじゃ、バイバイ反抗的なキミ。イタダキマス、従順なキミ」

「クソックソッ、クソォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッツ!」


 とても女の子に相応しくない咆哮を、首輪を転移してつけさせて途中で止める。

 強張り張って握る手が開かれ、四肢がだらんと瞳はとろんと。刀を奪って仕込み暗器も外し、武装を解除したら下腹に指置く。ぴっちりしたボディスーツ越しに上へとなぞって、目より顔より大きな二山ぶつかっても文句は出ない。

 にっこり、僕は微笑んだ。

 頭を過ぎる面倒事を捨て置き、姉妹と遺産を今はしゃぶりつくそうと決めて。
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