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第一部
第十話 里帰り
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揺り籠の選別とアルマリアとの戦利品交換を済ませ、自宅兼長距離移動手段の飛行クルーズ船に乗って2日の船旅を1300km。
途中の停泊をじっくりねっとり、熱く済ませながら空を進む。行先は嫌な記憶しか残らないかつての棲み処で、雲と霧の向こうに隠れる廃墟群。速度と高度を落として聳える塔が8本円陣を組み、半ばで折れて僕達を迎えた。
寝室の窓から、果て横たわるヴィナを抱えて見せる。
「ほらっ、60か70年ぶりのグレスティースだよっ。嬉しいでしょっ?」
「ふぐ……っ、ぇぐ……っ……っ」
「アンデッド従者の基本的な役目だから、受け入れて楽しんだ方が良いよ? それよりほらほらっ、ヴィナのおうちはどこっ? 近くに降りてあげるから早く教えてっ」
急かす僕に震える手で、折れた塔の一つを彼女は指し示す。
グレスティースは8つの大工房を有し、その周りに傘下の工房と資材所が集う一大都市だった。少し離れて鉱山があり、産出した鉱石を優先的に仕入れて捌く。そうして大きく大きく大きく膨れ、人口23万の栄華が昨日のように幻に見える。
そこら中に石造りの廃墟と、戦闘の爪痕が残る街並みと重なって見える。
「エンディグレル工房か。確か工房長には三人の娘がいたけど、知ってる人いる?」
「ぐす……っ…………私の……前の名前は……バルサ・フエル・エンディグレル…………ドルゼス・グラッグ・エンディグレル工房長の……次女……です……っ」
「そっかそっかっ。よかったねぇ~。他の工房はもう全部血筋が絶えちゃったけど、エンディグレルだけは残りそうだよ? ううん、これから復活するのかなぁ~?」
「っ……外道っ、下種っ、女の敵っ!」
「僕なんてまだ良い方だよ? 生身の女を捕えてクスリ漬けにして、自由売買してる国だってあるんだから。帰りに寄って奴隷市場に行ってみる? 揺り籠市場も賑わいがすごいよ?」
この世界における古参国の話を軽くして、僕達はラブラブ絡み合いながらシャワー室へ。
水生成魔術装置の残魔力ゲージが半分を切り、手をついて充填してから熱めの湯を浴びた。汗とか色々流し綺麗になって、洗浄浄化済みのタオルで水気を拭く。ふわふわ越しの暴力的はどうあっても暴力的で、上から下まで下から上まで何度も何度も往復してしっかりしっかり。
悲鳴を上げて嫌がり捩り、逃げようとする小娘はひどく煽情的。
「やっ、やめて、くださいっ!」
「そんなこと言って、脚が止まってるよ? 実は良いんでしょ? 好きなんでしょ?」
「っ! 操縦っ! しっかり操縦してくださいっ! いつまでもアンデッドに任せてると、自動迎撃装置に落とされますよっ!?」
「あんなの、戦中に全部壊されちゃったよ。攻撃側からすると邪魔でしかないからね。もう一つも残って――――」
『警告。地上より照準されています』
「!? 緊急回避!」
フッと脳内と腹奥が落下の感覚に陥り、浮遊する全身に降りてきた天井がぶつかって転がる。
家具やその他、固定されていない全ても宙を舞った。元からこうした事態を想定して、強化プラスチック等の壊れにくい物を使っている。唯一壊れると嫌なヴィナを抱きかかえ、船内床に仕込んだ移動補助魔術を起動した。
カップが、水差しが、シーツが、椅子が、僕達と一緒に正しい向きで床に足着く。
――――同時に、外から聞こえる『パンッ!』とか『バンッ!』とか『ドゥンッ!』の破裂音。
「迎撃装置は壊れてるんじゃないんですかっ!?」
「うん、コレは狙撃だね。しかも素人。飛行クルーズ船なんて巨体に、初弾でAS弾中てられないのは才能以前だ」
「AS弾?」
初めて聞いたという風な彼女にシーツを羽織らせ、僕は急いでミリタリーパンツとジャケットだけ着用。
船体は真横に傾いているらしく、窓の外は廃墟の街並みを一面にしていた。マズルフラッシュが3地点で煌めき、半秒と経たず1000m超を飛んで音を爆ぜさせる。簡易計算で音速の6倍近い弾速であり、弾種予想は見事的中。
通称、エア・スマッシュ弾。
正式名称、時限透過魔術弾頭。
「発砲から指定時間中は大気を透過して、空気抵抗による減速・威力低下を受けずに超遠距離狙撃を実現する魔術弾だよ。透過術式が解けると空気の壁と衝突して、強力な衝撃波を生み出すから『エア・スマッシュ弾』とも呼ばれてる」
「だ、だいじょうぶ、なんです、か? 落とされ、たり……」
「狙撃手に適性がなさそうだから、回避運動してれば、まぁ? 通常の狙撃は2次元の点だけど、AS弾は『3次元の点』を狙わないといけない。彼我距離、弾速、術式効果時間、惑星自転等の直接・間接的要因を突き合わせて、やっと命中させることが出来る。逆を言えば、不規則回避する前の初弾で中てられないと、こうして反撃を喰らう羽目になる」
ジャケットの格納魔術ポーチから、弁当箱サイズの設置型爆弾を3つ取り出し床に置く。
時限起爆3秒に設定し、空間のひずみを作ってすぐさま放り込んだ。ひずみを閉じると窓外が光って、大きな爆炎が立ち昇る。そしておおよそ3秒が経ち、ようやっと爆発の音が腹底を叩く。
AS弾狙撃の利点は、熟練者でなければ活かせない。
運用と扱いの難しさ故、空間魔術と爆発物の併用に撃ち合いで不利がつく。
…………っていうか、初弾を撃ったら移動しろよ。砲台代わりの運用なのかもしれないけど。
「お掃除してくるから、良い子で待っててねっ」
「……っ、わかり……ました……」
途中の停泊をじっくりねっとり、熱く済ませながら空を進む。行先は嫌な記憶しか残らないかつての棲み処で、雲と霧の向こうに隠れる廃墟群。速度と高度を落として聳える塔が8本円陣を組み、半ばで折れて僕達を迎えた。
寝室の窓から、果て横たわるヴィナを抱えて見せる。
「ほらっ、60か70年ぶりのグレスティースだよっ。嬉しいでしょっ?」
「ふぐ……っ、ぇぐ……っ……っ」
「アンデッド従者の基本的な役目だから、受け入れて楽しんだ方が良いよ? それよりほらほらっ、ヴィナのおうちはどこっ? 近くに降りてあげるから早く教えてっ」
急かす僕に震える手で、折れた塔の一つを彼女は指し示す。
グレスティースは8つの大工房を有し、その周りに傘下の工房と資材所が集う一大都市だった。少し離れて鉱山があり、産出した鉱石を優先的に仕入れて捌く。そうして大きく大きく大きく膨れ、人口23万の栄華が昨日のように幻に見える。
そこら中に石造りの廃墟と、戦闘の爪痕が残る街並みと重なって見える。
「エンディグレル工房か。確か工房長には三人の娘がいたけど、知ってる人いる?」
「ぐす……っ…………私の……前の名前は……バルサ・フエル・エンディグレル…………ドルゼス・グラッグ・エンディグレル工房長の……次女……です……っ」
「そっかそっかっ。よかったねぇ~。他の工房はもう全部血筋が絶えちゃったけど、エンディグレルだけは残りそうだよ? ううん、これから復活するのかなぁ~?」
「っ……外道っ、下種っ、女の敵っ!」
「僕なんてまだ良い方だよ? 生身の女を捕えてクスリ漬けにして、自由売買してる国だってあるんだから。帰りに寄って奴隷市場に行ってみる? 揺り籠市場も賑わいがすごいよ?」
この世界における古参国の話を軽くして、僕達はラブラブ絡み合いながらシャワー室へ。
水生成魔術装置の残魔力ゲージが半分を切り、手をついて充填してから熱めの湯を浴びた。汗とか色々流し綺麗になって、洗浄浄化済みのタオルで水気を拭く。ふわふわ越しの暴力的はどうあっても暴力的で、上から下まで下から上まで何度も何度も往復してしっかりしっかり。
悲鳴を上げて嫌がり捩り、逃げようとする小娘はひどく煽情的。
「やっ、やめて、くださいっ!」
「そんなこと言って、脚が止まってるよ? 実は良いんでしょ? 好きなんでしょ?」
「っ! 操縦っ! しっかり操縦してくださいっ! いつまでもアンデッドに任せてると、自動迎撃装置に落とされますよっ!?」
「あんなの、戦中に全部壊されちゃったよ。攻撃側からすると邪魔でしかないからね。もう一つも残って――――」
『警告。地上より照準されています』
「!? 緊急回避!」
フッと脳内と腹奥が落下の感覚に陥り、浮遊する全身に降りてきた天井がぶつかって転がる。
家具やその他、固定されていない全ても宙を舞った。元からこうした事態を想定して、強化プラスチック等の壊れにくい物を使っている。唯一壊れると嫌なヴィナを抱きかかえ、船内床に仕込んだ移動補助魔術を起動した。
カップが、水差しが、シーツが、椅子が、僕達と一緒に正しい向きで床に足着く。
――――同時に、外から聞こえる『パンッ!』とか『バンッ!』とか『ドゥンッ!』の破裂音。
「迎撃装置は壊れてるんじゃないんですかっ!?」
「うん、コレは狙撃だね。しかも素人。飛行クルーズ船なんて巨体に、初弾でAS弾中てられないのは才能以前だ」
「AS弾?」
初めて聞いたという風な彼女にシーツを羽織らせ、僕は急いでミリタリーパンツとジャケットだけ着用。
船体は真横に傾いているらしく、窓の外は廃墟の街並みを一面にしていた。マズルフラッシュが3地点で煌めき、半秒と経たず1000m超を飛んで音を爆ぜさせる。簡易計算で音速の6倍近い弾速であり、弾種予想は見事的中。
通称、エア・スマッシュ弾。
正式名称、時限透過魔術弾頭。
「発砲から指定時間中は大気を透過して、空気抵抗による減速・威力低下を受けずに超遠距離狙撃を実現する魔術弾だよ。透過術式が解けると空気の壁と衝突して、強力な衝撃波を生み出すから『エア・スマッシュ弾』とも呼ばれてる」
「だ、だいじょうぶ、なんです、か? 落とされ、たり……」
「狙撃手に適性がなさそうだから、回避運動してれば、まぁ? 通常の狙撃は2次元の点だけど、AS弾は『3次元の点』を狙わないといけない。彼我距離、弾速、術式効果時間、惑星自転等の直接・間接的要因を突き合わせて、やっと命中させることが出来る。逆を言えば、不規則回避する前の初弾で中てられないと、こうして反撃を喰らう羽目になる」
ジャケットの格納魔術ポーチから、弁当箱サイズの設置型爆弾を3つ取り出し床に置く。
時限起爆3秒に設定し、空間のひずみを作ってすぐさま放り込んだ。ひずみを閉じると窓外が光って、大きな爆炎が立ち昇る。そしておおよそ3秒が経ち、ようやっと爆発の音が腹底を叩く。
AS弾狙撃の利点は、熟練者でなければ活かせない。
運用と扱いの難しさ故、空間魔術と爆発物の併用に撃ち合いで不利がつく。
…………っていうか、初弾を撃ったら移動しろよ。砲台代わりの運用なのかもしれないけど。
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