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第一部
第九話 小悪魔の取引
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魔法と科学は両立しない。そんなことを言うのは発想の貧者だ。
魔法だけで科学がない世界。科学だけで魔法がない世界。どちらもあるが中途半端な世界。どちらもなくてよくわからない世界。
そういった幾つもを、一つの世界に集めたらどうなるか。
たった一つに飽きた暇人共は、自分のそれを持ち寄って大きな一つを作り上げた。魔法があって、科学があって、それ以外も全てがある混沌世界。今も新しい何かが見つかれば追加され、固定の概念はいつでも覆される覚悟が要る。
故に、争いも多い。
生きる為に。守る為に。勝つ為に。富む為に。
「グレスティースの純魔鉱石は、凝縮固化した魔力の塊。当時、粉末にしたものを吸引して、一時的に魔力を底上げするって手法が流行ったんだ。魔法武器の素材としても優秀だから採掘が深くまで及んで、オリハルコンの鉱脈が見つかって色んな連中が派手に動いた」
「色んなって?」
「蓄財に目が眩んだ鉱山組合、賄賂と横流し狙いの政府役員と犯罪組織、都市丸ごと手中に収めたい隣国の軍事国家と宗教国、最高級純魔武器で飽き足らない解決屋のクソ共」
「何でそんなに詳しいのよ? サムア、まるでその頃にいたみたいじゃない?」
「実際いたよ。僕は今年で157歳。76歳で里を滅ぼされて、80歳から92歳まであの都市にいたんだ。滅亡のきっかけになった争奪戦争では都市防衛軍に強制動員されて、昼は戦闘、夜はお姉様方のお相手って寝る間もなかったなぁ……」
70年前から数えて5年間の、欲と欲と欲に塗れた強欲のるつぼを目蓋に浮かべる。
オリハルコンという欲の極みを巡って、誰もが争い、誰もが踊った。誰かの掌の上で、あるいは自分から道化を装って。その果てに訪れたのは誰彼構わぬ無差別の地獄で、ふと、収納ポーチに入れっぱなしのソレをテーブルの上に取り出し横たえる。
瞳孔が開き、右腕を齧り取られ、右腿を短刀に貫かれたドワーフの美女傑。
褐色の肌に赤の乱れ髪、低身長ながら鍛え抜かれた肉体と大きな乳尻。脇腹には山を割るピッケルの刺青が掘られ、懐かしむセイコフは目を細めた。同時にヴィナも大きく目を見開き、よろよろ寄って彼女の肩を揺する。
「デ、デイセ、さん……? デイセさん……っ? デイセさんっ!?」
「こやつと知り合いか。ヴィナの身分はかなり高い方だったんじゃな」
「なぁ、サムア。この女……っていうか、死体は?」
「当時のゴシュジンサマの一人だよ。グレスティース鉱山組合長の娘で、防衛軍の大隊長。いやもう、本当に酷い女だったよ。僕の事を性処理用具としか扱わなくって、散々殴られて犯されてってねぇ……」
「部隊が壊走した時、クスリを盛ってアンデッド奴隷にしたんじゃったか。未だに持っておったとは思わなんだ」
「具合良いし、片腕なくても護衛になるし。お金が溜まったら死霊義肢を付けて、パーティ組むのも良いかもね」
「なんでっ!? なんでこんなひどいことをっ!? この方は国葬に値する英雄なんですよっ!?」
「だって、僕を捕えて犯して暴力振るって、小間使い兼肉壁にしてたクソアマだもん」
世間的にどうあろうと、クソはクソで恨みは恨み。
純真無垢な少年を性欲とストレスの捌け口にし、都合の良い奴隷扱いした罪は残ったまま。贖罪として立場を逆に飼ってはいるが、魂の抜けた残骸では死に際の清々さを再現できない。味わった屈辱も痛みも欠片も返せず、僕の一生の供をさせても全然全然対価に不足。
でも? まぁ? 他に払ってくれる人がいるなら、それなりの価値はあったのかな?
「弔ってほしい?」
「え……?」
「このクソを外面に合った弔いで送ってほしいかって聞いてるの。ちょっとよそよそしい言葉選びだから、本性は知らない薄い関係なのかな? それでも、代わりに自分を支払ってまで、彼女の為にしてあげたい?」
「あっ、ヴィナちゃん、その提案に乗っちゃダメよ? 絶対、対価に貴女の全てを要求してくるわっ。絶対服従の奴隷アンデッドにされて、毎朝毎晩滅茶苦茶にされるわよっ?」
「アルマリア。主従契約は済んどるから、その辺りは当然の権利で対価にならんぞ? サムアが言いたいのはおそらく――――」
「それ以上は交渉の肩入れになるよ、セイコフ。で、答えは? ヴィナ?」
「私……私……っ」
胸の前で自分の拳を握り、目を瞑ってヴィナはしばし考えに入る。
当事者の僕は待ち、他は眺めて答えを待った。およそ死後70年の彼女では、元から選択肢は無いような物。その残り少ない一つか全部か、差し出してでもおそらく他人を救済したいのか?
彼女の覚悟は、果たしていかほどか?
「…………わかり、ました。でも、私が差し出せる物は何があるかわかりません。見合うだけの何かを得られた時、それを対価とさせてください」
「良いよっ。それじゃ、早速確認に行こうかっ」
「え゛?」
魔法だけで科学がない世界。科学だけで魔法がない世界。どちらもあるが中途半端な世界。どちらもなくてよくわからない世界。
そういった幾つもを、一つの世界に集めたらどうなるか。
たった一つに飽きた暇人共は、自分のそれを持ち寄って大きな一つを作り上げた。魔法があって、科学があって、それ以外も全てがある混沌世界。今も新しい何かが見つかれば追加され、固定の概念はいつでも覆される覚悟が要る。
故に、争いも多い。
生きる為に。守る為に。勝つ為に。富む為に。
「グレスティースの純魔鉱石は、凝縮固化した魔力の塊。当時、粉末にしたものを吸引して、一時的に魔力を底上げするって手法が流行ったんだ。魔法武器の素材としても優秀だから採掘が深くまで及んで、オリハルコンの鉱脈が見つかって色んな連中が派手に動いた」
「色んなって?」
「蓄財に目が眩んだ鉱山組合、賄賂と横流し狙いの政府役員と犯罪組織、都市丸ごと手中に収めたい隣国の軍事国家と宗教国、最高級純魔武器で飽き足らない解決屋のクソ共」
「何でそんなに詳しいのよ? サムア、まるでその頃にいたみたいじゃない?」
「実際いたよ。僕は今年で157歳。76歳で里を滅ぼされて、80歳から92歳まであの都市にいたんだ。滅亡のきっかけになった争奪戦争では都市防衛軍に強制動員されて、昼は戦闘、夜はお姉様方のお相手って寝る間もなかったなぁ……」
70年前から数えて5年間の、欲と欲と欲に塗れた強欲のるつぼを目蓋に浮かべる。
オリハルコンという欲の極みを巡って、誰もが争い、誰もが踊った。誰かの掌の上で、あるいは自分から道化を装って。その果てに訪れたのは誰彼構わぬ無差別の地獄で、ふと、収納ポーチに入れっぱなしのソレをテーブルの上に取り出し横たえる。
瞳孔が開き、右腕を齧り取られ、右腿を短刀に貫かれたドワーフの美女傑。
褐色の肌に赤の乱れ髪、低身長ながら鍛え抜かれた肉体と大きな乳尻。脇腹には山を割るピッケルの刺青が掘られ、懐かしむセイコフは目を細めた。同時にヴィナも大きく目を見開き、よろよろ寄って彼女の肩を揺する。
「デ、デイセ、さん……? デイセさん……っ? デイセさんっ!?」
「こやつと知り合いか。ヴィナの身分はかなり高い方だったんじゃな」
「なぁ、サムア。この女……っていうか、死体は?」
「当時のゴシュジンサマの一人だよ。グレスティース鉱山組合長の娘で、防衛軍の大隊長。いやもう、本当に酷い女だったよ。僕の事を性処理用具としか扱わなくって、散々殴られて犯されてってねぇ……」
「部隊が壊走した時、クスリを盛ってアンデッド奴隷にしたんじゃったか。未だに持っておったとは思わなんだ」
「具合良いし、片腕なくても護衛になるし。お金が溜まったら死霊義肢を付けて、パーティ組むのも良いかもね」
「なんでっ!? なんでこんなひどいことをっ!? この方は国葬に値する英雄なんですよっ!?」
「だって、僕を捕えて犯して暴力振るって、小間使い兼肉壁にしてたクソアマだもん」
世間的にどうあろうと、クソはクソで恨みは恨み。
純真無垢な少年を性欲とストレスの捌け口にし、都合の良い奴隷扱いした罪は残ったまま。贖罪として立場を逆に飼ってはいるが、魂の抜けた残骸では死に際の清々さを再現できない。味わった屈辱も痛みも欠片も返せず、僕の一生の供をさせても全然全然対価に不足。
でも? まぁ? 他に払ってくれる人がいるなら、それなりの価値はあったのかな?
「弔ってほしい?」
「え……?」
「このクソを外面に合った弔いで送ってほしいかって聞いてるの。ちょっとよそよそしい言葉選びだから、本性は知らない薄い関係なのかな? それでも、代わりに自分を支払ってまで、彼女の為にしてあげたい?」
「あっ、ヴィナちゃん、その提案に乗っちゃダメよ? 絶対、対価に貴女の全てを要求してくるわっ。絶対服従の奴隷アンデッドにされて、毎朝毎晩滅茶苦茶にされるわよっ?」
「アルマリア。主従契約は済んどるから、その辺りは当然の権利で対価にならんぞ? サムアが言いたいのはおそらく――――」
「それ以上は交渉の肩入れになるよ、セイコフ。で、答えは? ヴィナ?」
「私……私……っ」
胸の前で自分の拳を握り、目を瞑ってヴィナはしばし考えに入る。
当事者の僕は待ち、他は眺めて答えを待った。およそ死後70年の彼女では、元から選択肢は無いような物。その残り少ない一つか全部か、差し出してでもおそらく他人を救済したいのか?
彼女の覚悟は、果たしていかほどか?
「…………わかり、ました。でも、私が差し出せる物は何があるかわかりません。見合うだけの何かを得られた時、それを対価とさせてください」
「良いよっ。それじゃ、早速確認に行こうかっ」
「え゛?」
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