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第一部

第七話 戦利品改め

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「サイクロプス少女のアンデッドか。乳の大きさといい、良い趣味しとるのう、サムア」


 窓のないレンガ壁床の怪しい店奥――――手術室並みに明るく魔力灯が照らす中で、ベッドに乗せられた裸体少女をしわくちゃの手が触れずになぞる。

 禿げ上がった頭で年老いた身体で、魔覚を生涯鍛え続ける魔術鑑定士『セイコフ』。

 列車強盗から脱出した後、僕達は戦利品鑑定を依頼するために彼を訪ねていた。僕の魔術で150km離れた隠れ家のマーカーに転移し、外に出て通りを2つ過ぎればこの店の前。クスリで頭を飛ばした娼婦達の呼び込みを断って、営業時間過ぎで締まった出入り口を短距離転移でスルーする。

 調理途中の夕食はブディランスが代わり、完全に事案の現場をアルマリアと眺めた。


「アンデッド?」

「そうじゃ。ただ、揺り籠と一緒で生殖機能は生きとるし、魔力さえ注げば使い魔と同じに動くじゃろう。主従契約術式の跡が無いのは気になるが、何事もなければお主が『初めて』の相手になれる。使われた形跡も見当たらんし」

「おじーちゃん、私達のはどうなのよ?」

「残念じゃが、全部純度100%のオリハルコンインゴットじゃよ。1つで30億トルエは下らん。こんなもん、ブラックマーケットでも買い手がつかんぞ……」

「半額で良いから買わない?」

「百分の一でも無理じゃ!」


 価値が高すぎて買い手が見つからない事実に、アルマリアは「え~っ!? なんでよなんでよぉ~っ!」と駄々っ子のように喚いて転げる。

 何かの理由で装備更新をする気がなく、現金化できないならアルマリアは今回無収入に終わる。揺り籠という高需要品を手にした僕や、防具をオリハルコン製にしたいブディランスとは天地の差。何とか売ろうとセイコフの服を掴んで揺すり、額に人差し指を置かれて軽く諭され窘められる。

 価値ある品が、常に最適解とは限らない。

 何事も適度適切が一番だ。


「サムアっ! アンタの死体と幾つか交換してよ!」

「割に合わないよ。主にこっちがもらい過ぎって点で」

「アンタの天秤主義はこの際置いて――――っていうか、どっちも一緒に見つけて一緒に略奪したわけでしょ? 私にも死体を貰う権利はあるし、アンタにも屑鉄を貰う権利はある。100を50と50で半分こしましょうよっ」

「一応、自分で使う用にも揺り籠を狙ったんだよっ……? 僕みたいに里から出たダークエルフは、娼館で騙されたって自己責任ってされるからこういう手しかないんだからね……?」

「なら、儂が調停してやろう。揺り籠50とインゴット10の交換じゃ。単純価値ではなく、現金化の容易さとサムアへの迷惑料で比率をわかりやすく。どうじゃ?」

「むぅぅぅ……っ」


 まぁまぁ悪くない提案に、少しばかり心が動く。

 揺り籠一つの価値は、モノに寄るが平均10万トルエ。高額ではあるものの即金で買われることも多く、50もあればアルマリアにとって十分な収入となる。しかし、価格差3000倍は運命的不利益を呼び込むのに十分で、一体どんな不幸に見舞われるのか今から心配。

 取引の価値は、天秤が釣り合うか近くないと破滅を生む。

 どんな世界でも、どんな分野でも当たり前のセオリーだ。


「うぅ…………全部検分した上で、60体と10個なら応じるっ」

「やったっ! ありがとっ、サムアっ!」

「おまけに一晩付き合ってよっ」

「だから私には彼氏がいるんだってばッ! 浮気なんてして捨てられたらどうするのよっ!?」

「軽そうな見た目で真面目じゃな、アルマリアは。――――ほれ、サムア。お主の使い魔候補を収納せんか。このデカパイは枯れた儂でも流石に堪える……」

「はいはい…………ん? 使い魔? うん、使い魔かぁ……」

「?」


 横たわる巨大な華奢を抱き起し、抱きしめ軽く口づけ一つ。

 ほんのり魔力を舌先に籠め、入れて注いで額を付け合う。起動させない程度の最低限に最小限に。主としての最初の役目を、言霊を乗せて彼女に刻む。

 モノは誰で誰のモノか。

 たった今からはっきりさせる。


「君の主の名はサムア・ディアリ。君の名はヴィナ・ディアリ。僕の使い魔として、永遠の所有物として、魂に刻み身体に刻め」

「…………ぁ……ぅ?」

「ん? あれ?」


 額に熱が伝わり、大きな瞳がうっすら開く。

 微睡む少女が眠りから覚める様に、彼女は僕の胸で目を開けた。きょとんと可愛らしい表情を浮かべ、銀色の髪を首と共に左右に揺らす。アッチを見て、こっちを見て、上を向いて、下を向いて――――糸一つ纏わぬ自らの乳房に、抱き合う僕に顔を真っ赤に。


「きゃぁああああああああああああああああああああああああああっつ!」


 高く幼い少女の悲鳴は、とてもとても耳に痛い。
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