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第一部

第五話 ホクホク

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 収奪用の格納ポーチの口をつけ、スッと離すと棺が消える。

 空間魔術の術式を内部に刻み、内容量拡張と多次元展開・収納を付与した手の平サイズ。揺り籠の棺を10個収められる容量を30の異空間にそれぞれ有し、ありったけ片端から大急ぎで取り込んでいく。243個の収納は2分以内で完了し、警戒に当たる煮え切らない顔へ親指立てて完了を伝えた。

 アルマリアもブディランスも、大分人間として正しい反応だ。

 僕のように、死体遊びするほど腐ってはいない。


「サムア? ソレ、どうするの?」

「好みのは取り置いて、残りは売るよ。手軽に使える妊娠・出産可能な死体って、需要は多いしコレクター人気があるんだよね」

「ゾンビみたいに、噛まれて感染ってならねぇか?」

「大丈夫大丈夫っ。性病にもならないから生身より安心っ」


 そう。生身なのに病気にならない、都合の良い女の極致がコレだ。

 温もりだの母性だので言い訳する連中と違い、女に女しか求めない男は手軽に簡単にをひたすら求める。

 特に戦場ではその傾向が強く、略奪強姦が蔓延って禍根を残すことが多い。揺り籠は非人道的ながら、生者を守る必要悪としてどの国でも導入された。女体の調達には黒い噂が絶えないが、一体で何百人という女性を未然に救える。

 ――――もっとも、退役した軍人達がコレにハマり、拉致や誘拐の温床となってもいるのだが……。


「死体とスるなんて気味が悪いわっ」

「同感だ。で、サムアの目標は終わったんだろ? 今度は俺達に付き合えよ」

「了解。じゃ、3階の武器格納庫にでも……んん?」

「どうした?」


 格納して空っぽになった部屋の隅に、僕は気付いて2人に手招き。

 揺り籠の棺で塞がっていた壁の中に、レバーが1本埋まっていた。

 緊急脱出口には思えず、周りを見てもドアらしい継ぎ目はない。目くばせし合って頷き合って、ブディランスが掴み引いて起こす。すると30mの壁一面から白い煙が噴いてズレて、上から向こうに倒れて開く。

 …………方向的には外殻装甲で覆われる車両外側。

 なのにソコにあったのは、研究所とでも言うべき広い空間だった。2階建ての家がすっぽり入るくらい、高さのある天井と装置の数々。培養槽と思しき円柱のガラスケースも複数並び、受精後数日の生殖細胞が細かな泡沫にゆらゆら揺れる。

 そして、ソイツに僕は目を奪われた。

 青い肌で子供くらいの低身長で、腰の手前まで伸ばした銀の髪で、大人が羨むほどの超デカパイを薬液に漂わせるサイクロプスの美少女。


「あの娘もーらいっ!」

「警戒しなさいよ!」

「問題ねぇみたいだぜ、アルマリア。単純に多次元拡張された空間だ。出入口は俺達が入ってきた拡張元以外に一つも――――おいおいおいおいっ! マジか、マジかよ!?」

「今度は何よ、ブディランス?」


 少女の状態を確かめ、開封操作をし始めたら歓喜と驚愕をブディランスが上げる。

 チラッとそちらを見ると、虹色に煌めく白銀インゴットが山積みされていた。見覚えのある輝きに、僕も思わず目を疑う。しかし、既に十分な成果を手にしているため、汚らわしく手と口を出す無様は喉の奥へ奥へ呑み込み抑える。

 150年の生の中で、たった1度しかお目にかかったことがない稀少鉱石。

 オリハルコンのインゴット。


「ぐ、ぅ……っ、僕は……いらない、よ……っ」

「強がってんじゃねぇよ、1個持ってけ! 俺はこっちの山、アルマリアはそっちでいいか!?」

「一体何なのよ、コレ?」

「オリハルコンだよ! 武器庫に積んであるだろうミスリルなんて目じゃねぇ! このインゴット1つで、ハイエルフの戦装束20着は仕立てられる! 共通価値換算で…………っ、とにかく急いで収納しろ!」

「イマイチわからないけど、まぁ良いか。要は金になるってことよね?」

「全部は売るなよ!? 最低でも自分の装備をコイツで作り直せ!」

「気が乗らないなぁ、そいつは…………サムア。私から買って現金にしてくれない?」

「100回破産しても無理っ!」


 知らないが故に無理難題を吹っかけるアルマリアに、機器を操作しながら僕は叫んだ。

 神鉄と称されるその鉱石は、硬度、柔軟性、耐久性、魔力伝導性など、あらゆる面で他の鉱物を凌駕する。加工のしにくさから鍛えられる鍛冶師は限られるが、高質の装備を求めたら必ず行き着くハイエンド。需要に対して産出量は砂漠の砂粒より少なく、現存する装備を熔かして手に入れる方が現実的とまで言われている。

 そんな代物が、しかもインゴットで、一山推定50本?

 大国の国家予算の半分にも届きかねない額を、僕は支払える当てがない。


「ったく! ほらっ、お前の分を収納ポーチに入れておいた! 丸ごとやるから、そのデカい谷間の中にでも大事にしまえ!」

「好きでデカくなったわけじゃないのよ? 肩こりが酷いし、ハンドガン以外の銃が扱いにくいから邪魔でしかないのよ?」

「細けぇことは今は置いとけ! サムアっ、そっちはまだかかるか!? 俺達はさっさと脱出したいんだけどよっ!?」

「悪いが、そいつは無理だ」

「ッ!?」


 研究所の出入り口から投げられた声に、僕達は最寄りの物陰に身を隠す。

 覗き見て4つの人影が見え、内1つがごく最近見上げた280cmの黒肌巨漢。ところどころ負傷はあっても元気いっぱいで、他3人も似たような物。3対4の不利をどう巻き返そうか、思考を回して手だけ上へ。

 最後のキーを指で叩き、排出される薬液の音と一緒に跳び出す。


「何の用かな、ルーキーッ!?」

「仕事と落とし前だっ!」
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