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第一部

第四話 即席編成

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 左手に扇子、右手に拳銃を構えるギャル遊女風褐色娘、アルマリア。

 フルフェイスガスマスクをつけ、ジャケットとズボンに大量のガスグレネードを吊り下げるヤバイ系ファッション工兵、ブディランス。

 顔と名前を知っていて何度か仕事も一緒にして、でも仲間とは見なしていない共通目標の同業者。そんな彼と彼女と廊下を走り、カバーポイントのクリアリングを以心伝心行っていく。ドアを開けて気配を探り、角まで行って十字路の正面左右――――


「!? 貴様ら、何者だ!?」

「左通路3人!」

「援護するわ!」


 アルマリアが扇子で扇ぎ、厚い風の壁が警備兵を横壁に押し付けた。

 左の壁に2人、右の壁に1人。

 軽く息を吐いて左に照準し、3発射撃を2回連続。防御・障壁魔術仕込みのヘルメットは初弾と2発目を軽く弾き、3発目でやっと脳漿を散らした。半秒遅れて右の頭も弾け、追い打ちのガスグレネードが遠く遠く放られる。

 プシュゥゥ……の音と追加の声から背き、僕達は真反対の通路へ振り向き真っ直ぐ。


「どこにむかってんだ?」

「2号車1Fの安置室」

「安置って、もしかして死体置き場? なんだってそんなところに行くのよ? この列車はこれから前線に行くんだから、何も積んでないでしょ?」

「たっぷり積んでるよ。多分、今回の荷で一番稼げると思うくらいに」

「そりゃ楽しみだ――っと、この先は連結部だな」


 ドアに寄った時点で、中から漏れる悲鳴と銃声。

 大型すぎる輸送列車故、車両間の連結部は大きな一つの部屋となっている。人間大サイズの連結ジョイントが合計8つ、巨大長大を繋いで渡す。そして1号車と2号車を行き来しようとする者が、味方敵対問わず現れ戦闘となる。

 ――――優勢なのは、襲撃者側。

 3号車の救援に向かって、残った数は小隊1つだけ。


「あっちゃぁ……ロッテスがやられてるよ。軍用魔銃の対障壁性能を見誤ったかな?」

「カトラスぶんぶんして、脳内麻薬でキマってたんでしょ。数は少なくても正規兵で、この短時間に簡易陣地まで作ってる。敵を嘗め出したらルーキーと変わらないわ」

「透明化魔術で対岸には行けそうだな。で、どうするよ?」

「援護しよう。ココに凍結ガスグレお願い」

「ほいほい」


 手で大きく輪っかを作り、僕は短い詠唱を唱えた。

 拳一つ分の大きさに空間が歪み、ピンを抜いて3秒のグレネードをブディランスが放り込む。すぐに歪みを元に戻し、直後に冷気が遠くでボンッ! 銃声が止んでそちらを見ると、防衛していた小隊がカチコチ氷漬けで全員絶命。

 こっちに気付いた数人が、笑って片手を振ってくる。


「流石、空間系魔術の達人とガス戦闘の第一人者ね」

「褒めても夜のお供くらいしか出来ないよ?」

「同じく」

「私はそんな軽い女じゃないからっ。彼氏だってちゃんといるわよっ」

「脳内彼氏?」

「バイブに名前つけてると見た。仕事以外はコミュ障だからなぁ……素材は良いのにもったいねぇ……」

「ブディランスっ、アンタ先頭で突っ走って良いわよっ?」

「おぉ、怖い怖いっ」


 姿勢を低く、ブディランス、僕、アルマリアの順に2号車のドアへ。

 僕達から見て一番右の下。列車進行方向から見ると左舷端1階の出入り口を開ける。明かりが消えて真っ暗な中は人の気配がなく、慎重に入ってドアのロックと風の障壁を唱えて塞ぐ。

 ――――5×30mの長い部屋に、上下2段で並べられた小型棺桶が両側にズラッ。

 知らなければ戦死した兵士用と一瞬思い、おかしなサイズにアレ?っと思う筈。ココにある全てが同じ寸法で、高さは1メートルと少し程度。低身長種族でも収めるのに難儀し、それこそ死体袋という同用途があるだろうと違和感に気付く。

 また、戦争となれば数が心許ない。

 戦死者というのは、規模にもよるが3桁程度では収まらないのだ。


「……おい、なんだコレ?」

「気味が悪いわ。何か入ってるの?」

「入ってるよ。中身見る? ほら」


 丁度横になっていた一つを囲み、中身を開いて二人は呻いた。

 両手両脚が付け根から落とされ、青白い肌を一切隠さず、形の良い乳房を上に聳えさせる綺麗な綺麗な死んだ後の美女。

 ほんのり腹が膨れていて、垂れ乗るブロンドの髪が僅かに小刻みに鼓動を伝えた。正常な頭なら、倫理なら、理解できないと唾棄するだろう。だが、理解できる者なら垂涎であり、幾つあっても足りはしない。

 …………戦場の性処理と、人口急減の対策として生まれた画期的な軍備品。

 通称『揺り籠』と呼ばれる、死体の非人道的有効活用法。


「ココにある243体が、今回の僕の獲物だよ」
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