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始まりの章 女神領の決闘 編
第八話 領主カイザンと代理女神〜結果〜
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ミルヴァーニがカイザンのデコピンを受けて目を開けたまま気絶してから、数十秒が経った。
字面と戦闘を客観的に観て取れるミルヴァーニの印象は最悪としか言いようがないが、観覧の者たちからの騒めきはない。
・・・大人しく見守ってくれんのは助かるけども、........俺に起こせっての?男子高校生が見知らぬ女性を無理やり気絶させた時点でアウトなのに、そんなの犯罪レベル高すぎ。帝王じゃねぇか。
結論から言って、どうしようもない。
どうやら、アミネスはカイザンの状況を分かってて近付いて来ないっぽいし、ハイゼルはミルヴァーニのやられように驚いて自分も気絶しかけてるし、顎外れかけてるし、たかが外れちまってるし。どうすることも......。
「・・・・・・・ここは」
「ぉ」
ミルヴァーニの弱々しい声が微かに聞こえたから、嬉しくてガッツポーズした。もちろん、心の方で済ませている。
今、彼女の視界が映しているのは仰ぐ空のみ。誰に聞いた訳でもない。きっと、誰かが優しく答えてくれるのだと、そう思うのはあの日から諦めていたから...。
開けっ放しだった目の乾燥にしばらくもがくと、朦朧とした意識の中で上半身だけを起こして頭を押さえる。デコピンで脳震でも起こしているのだろう。翼がもげそうになったのは、グロいので見なかったことに。
深呼吸をしてようやく落ち着いたミルヴァーニと、よかった自分から起きてくれて、と安心しきったカイザンの目が合った。
・・・これは、現状の説明要求か?
そう解釈してカイザンが口を開くと、運悪くミルヴァーニも喋り始めた。
「まずは、おはようとでも言っておくか。つっても、お前が気絶してから数十秒。今はみんな、お前が起きてハイゼルが無事に決闘の結果発表をするのを心待ちにしているところ.......って、自分で状況を整理すな、話を聞けっ」 「そうだ、思い出しました。私はエイメル様に領主の座へと戻っていただくために帝王なる男に決闘を挑み、特殊能力を知らされぬまま卑怯な不意打ちを受けを、額を銃のような何かで撃ち抜かれて.........えっ、何か、おっしゃりましたか?」
・・・ずぅっと、声被ってたからな。....つか、帝王なる男って何だよ。
もう一度デコピンをしてやりたい気持ちを必死に抑えて、ミルヴァーニが状況を理解した様子なので話を進める。
そのためにはまず、審判にも入ってもらわないと。
「おい、ハイゼルや。自意識の方は起きてるか?」
「・・・・・・・・はっはい」「こりゃ、ダメだ」
点が二個くらい続いた時点で結論は出ていた。
ハイゼルをどうしたものか。規則に従うと誓ったからには、明らかな勝利だったとしても、審判のジャッジ無しには成立しない。
「なあ、ハイゼルってどうし....」
仕方なくミルヴァーニに救援要請を出そうとしたら、いつの間にかうっすり元気になって、しっかりと立ち上がっていた。
不調の大半が演技というなのガチだったとはいえ、まだ無理解が体内を蝕んでいるはずだ。女神種、元最強種族ともあれば、尚更のこと。あの特殊能力は格上にこそ通用するものだから。
うっすりとでも体調を治したことは凄いことだ。
・・・まさか、また自慢とか言い出すんじゃ。
「私の負けです」
「えっ」
唐突な発言に思わず自慢の聴力を疑った。一応言うと、帝王は全部が自慢。もちろん、他を知らないだけのただただ自称。
驚いた表情が落ち着かないカイザンを見て、ミルヴァーニが。
「.....一方が認めれば、審判の判定なしに決闘の勝者敗者は決定するんですよ。知りませんでしたか?」
「いや、そっちに驚いたんじゃなくて...」
・・・あらやだ、この女神自分で認めてくれるような素直な子だったなんて。 ていう驚きでさ。
当然、ミルヴァーニはカイザンの心を読めないけど、ここで何を話すべきが何かは分かる。
「端的に言って、驚きました。あの一撃の威力はきっと、貴方の特殊能力が私にした何かが影響しているのでしょう」
・・・見事に正解。さすがは女神種ってとこだ。でも、
「後悔が遅いのは女神種全共通なんだよな」
どうやら、本当にカイザンの勝利を認めてくれるらしい。今の勝者だけがしていいような発言に反論がなかった。無論、それだけが決め付けている訳ではないが。
まあ、デコピンで気絶なんてしたら、その後の続行は恥ずかしくてできたものではないだろうし。
・・・そう考えたら、俺って結構ひどいことしたのかな。
決闘で勝って良心が傷付くなんて、それだけ聞いたら正に帝王ではないか。償いの一つでもしておこう。
「まあ、気絶させちまったのは悪いと思ってるよ。代わりと言っては何だが、俺の特殊能力を教えてやるよ」
特別大サービス、気前の良さを売りにしていこうか迷っている女神領領主様。
その大胆な代償行動の内容が聞こえた観覧の女神種たちが、興味津々に耳を傾け始めた。
そこまで気前は良くないから小声でお送りする。
「俺の、ウィル種の特殊能力は、[データ改ざん]。相手のウィルスが俺のウィルスよりも優っている全ての要素、つまり、ステータスをゼロにすることができる最強の能力なんだぜ。つっても、範囲は限られてるし、相手のウィルスを読み取るには種族名と名前を知っているのが必須条件。しかも、魔力量的に一対一じゃないと勝てる気がしない悲しい特典付きだ」
小声であることを忘れて、途中から自慢したくてしょうがない声のボリュームになっていたと言い終わってから気付いた。
・・・まあ、前半が聞かれてなければ大丈夫だろう。きっと。
償いとかじゃなく、単なる自尊心で特殊能力を語られたミルヴァーニは、頭の中でカイザンの説明を復唱して、分かりやすく内容を要約してくれた。
「つまり、私は貴方よりも幾多ものウィルスが優っているということですね」
「うるせぇ、二本指でデコピンしてやろか?」
キメ顔で目を合わせてきたから躊躇なく構えた。
デコピンと言いながら、握り拳状態にあるのは見逃してほしい。
・・・このままだと本当に殴っちゃいそうだ。
ハイゼルは未だに目の焦点が合ってない様子だし、この女神領に長く居座るのは危ないと思う。暇になったのもそのせい。負のオーラで包まれているんだ。
この際、自分で仕切って早々に終わらせよう。早く出たい。
「てな訳で。決闘の勝者、兼領主として命ずる。お前は今日から俺の代わりに仕事を務め、俺たちの旅の中での転移役になれ。......加えて、俺の特殊能力、くれぐれも広めるんじゃねぇぞ。約束破ったら、針千本に糸通せよ」
決闘前に約束させた条件を領主らしく命令みたく申し付け、機密情報に関しては地獄の罰を予め伝えて絶対に逆らえなくしてやった。
昔、カイザンが家庭科の補習課題でそれを言い渡された時、絶望で二時間はただ針を見つめていたのを思い出す。翌日、担当教員が補習前日に彼氏からフラれて八つ当たりがしたかっただけだと知った時は、101本目の針にただただ愚痴をこぼしていた。
カイザンの提示した罰内容もまた、八つ当たり以外の何物でもないが、敗者であるミルヴァーニに従わない選択肢はない。勝者、兼領主最高。
「ご命令のまま、勤勉に職務を全う致します。........言っておきますが、貴方に服従するという訳ではありませんことをお忘れなきよう。貴方という存在が領主に在ること、決闘を終えても尚気に入りませんから」
あくまで、カイザンには敗者として規則に従うと誓うだけで、領民として忠誠を誓うことにはまだ抵抗があるという。
領主に対して堂々と言い放つその姿に、自分の身分を普通に忘れて引き気味になるカイザン。引きつった笑みの途中で思い出し、決闘を通して大得意になった余裕の笑みに切り替える。勝ったから余裕とかもう関係ないのに。これはそう、威厳だ。
「最強種族に対して、随分と正直だな。どうなっても知らないぞ」
いや、お前は知ってるだろ。と自分でもツッコミがすぐに思いつく警告を発した。
ミルヴァーニはそれを片手を上げて制すると、諦めたような表情で六言。
「ですが、の話ですよ。勝者たるウィル種としては認めざるをえません。ウィル種は確か、あの時代の戦争で絶滅したのですよね。ということはつまり、現種王の地位は貴方に在るということ。神話で語り継がれる[憤怒の神]ヴィッセルの力は全領地の者が知っています。また、不服ながら貴方は創造種に選ばれしウィル種のようですし.......カイザン様なら、この領の権限を持たれることに一切の怒りも疑問も感じませんよ」
・・・ごめん、長くて途中からの内容入ってない。
悪いとは思ってる、心の中で。だし、心の中から謝る。
知らない言葉とかあったし、ちゃんと復習したテスト範囲内から単語を出してもらいものだ。予習を見越してテストを作るな。
・・・ていうか俺、種王なんだ。女神領の領主やってて、ウィル種の種王とか肩書きの大渋滞。これに帝王が入ったら、いよいよ侵略者だな。
恥ずかしいけど、異名はいつか自分で決めた方が断然いい。
将来の自分を想像して、決意する。なるべく、厨二病っぽくないやつを。....道は長そうだ。
腕に力を込めて己に誓っていると、目の前のミルヴァーニが何かに気付いて視線をずらした。嬉しそうな顔。ゆっくりと近付いてくる足音にカイザンも反応する。
「カイザンさん、やっと終わったんですね」
振り向くとほぼ同時に声をかけられた。
声の主はもちろんアミネス。先程のツッコミのおかげか、痰が絡むこともなくよく声が出ている。
「おー、アミネスは、応援とかしててくれたのか?」
数秒は何を言おうか迷って、願望混じりに言ってみる。否定されても、心では応援されていなかったのだと理解しているから、ダメージは最小限になる予定だ。
「そんなまさかですよ。応援されてるって本気で勘違いしていたなら本当にすみません」
「その発言によって生まれる傷への謝罪は?」
謝罪という予想外の変化球が飛んできた。 公衆の面前でなければ、躊躇なく胸を押さえ悶え苦しんでいただろう。いつもと違う痛さ。
・・・ぐぅーーー。まあ、何にせよ。これにて決闘は終了しましたってオチで、次に引き継ごうか。
カイザン&ミルヴァーニ
「いざ、旅に出発。どれだけこの時を楽しみにしたことか」
「ハイゼルの話によると、一週間程前から」
「計算しなくてよろしい。そういうのを聞きたいとかじゃなくて、めちゃめちゃ心待ちにしてた的なのを言いたい訳」
「あー、そういう用件でしたか」
「何で分からないんですか?その理由が私には分かりかねます。分かろうとする気もありません」
「何故、アミネスの真似を?全然似てませんので、今後一切、私の前ではしないでいただけると幸いです」
「えっあー、いや、アミネスの真似したら、また動揺してくれんじゃないかと思って」
「甘く見ないでもらえませんか?私が抱き、育み、大切に育てて来たアミネスの愛を、カイザン様のお下手な真似でどうにかできるとお思いですか?それに...」
「はい、そこまで。次回予告に行こうか」
「...ごほん。では、次回。最暇の第九話「旅の始まりは獣耳で」の前に、そこに向かうまでの章末話が入ります」
字面と戦闘を客観的に観て取れるミルヴァーニの印象は最悪としか言いようがないが、観覧の者たちからの騒めきはない。
・・・大人しく見守ってくれんのは助かるけども、........俺に起こせっての?男子高校生が見知らぬ女性を無理やり気絶させた時点でアウトなのに、そんなの犯罪レベル高すぎ。帝王じゃねぇか。
結論から言って、どうしようもない。
どうやら、アミネスはカイザンの状況を分かってて近付いて来ないっぽいし、ハイゼルはミルヴァーニのやられように驚いて自分も気絶しかけてるし、顎外れかけてるし、たかが外れちまってるし。どうすることも......。
「・・・・・・・ここは」
「ぉ」
ミルヴァーニの弱々しい声が微かに聞こえたから、嬉しくてガッツポーズした。もちろん、心の方で済ませている。
今、彼女の視界が映しているのは仰ぐ空のみ。誰に聞いた訳でもない。きっと、誰かが優しく答えてくれるのだと、そう思うのはあの日から諦めていたから...。
開けっ放しだった目の乾燥にしばらくもがくと、朦朧とした意識の中で上半身だけを起こして頭を押さえる。デコピンで脳震でも起こしているのだろう。翼がもげそうになったのは、グロいので見なかったことに。
深呼吸をしてようやく落ち着いたミルヴァーニと、よかった自分から起きてくれて、と安心しきったカイザンの目が合った。
・・・これは、現状の説明要求か?
そう解釈してカイザンが口を開くと、運悪くミルヴァーニも喋り始めた。
「まずは、おはようとでも言っておくか。つっても、お前が気絶してから数十秒。今はみんな、お前が起きてハイゼルが無事に決闘の結果発表をするのを心待ちにしているところ.......って、自分で状況を整理すな、話を聞けっ」 「そうだ、思い出しました。私はエイメル様に領主の座へと戻っていただくために帝王なる男に決闘を挑み、特殊能力を知らされぬまま卑怯な不意打ちを受けを、額を銃のような何かで撃ち抜かれて.........えっ、何か、おっしゃりましたか?」
・・・ずぅっと、声被ってたからな。....つか、帝王なる男って何だよ。
もう一度デコピンをしてやりたい気持ちを必死に抑えて、ミルヴァーニが状況を理解した様子なので話を進める。
そのためにはまず、審判にも入ってもらわないと。
「おい、ハイゼルや。自意識の方は起きてるか?」
「・・・・・・・・はっはい」「こりゃ、ダメだ」
点が二個くらい続いた時点で結論は出ていた。
ハイゼルをどうしたものか。規則に従うと誓ったからには、明らかな勝利だったとしても、審判のジャッジ無しには成立しない。
「なあ、ハイゼルってどうし....」
仕方なくミルヴァーニに救援要請を出そうとしたら、いつの間にかうっすり元気になって、しっかりと立ち上がっていた。
不調の大半が演技というなのガチだったとはいえ、まだ無理解が体内を蝕んでいるはずだ。女神種、元最強種族ともあれば、尚更のこと。あの特殊能力は格上にこそ通用するものだから。
うっすりとでも体調を治したことは凄いことだ。
・・・まさか、また自慢とか言い出すんじゃ。
「私の負けです」
「えっ」
唐突な発言に思わず自慢の聴力を疑った。一応言うと、帝王は全部が自慢。もちろん、他を知らないだけのただただ自称。
驚いた表情が落ち着かないカイザンを見て、ミルヴァーニが。
「.....一方が認めれば、審判の判定なしに決闘の勝者敗者は決定するんですよ。知りませんでしたか?」
「いや、そっちに驚いたんじゃなくて...」
・・・あらやだ、この女神自分で認めてくれるような素直な子だったなんて。 ていう驚きでさ。
当然、ミルヴァーニはカイザンの心を読めないけど、ここで何を話すべきが何かは分かる。
「端的に言って、驚きました。あの一撃の威力はきっと、貴方の特殊能力が私にした何かが影響しているのでしょう」
・・・見事に正解。さすがは女神種ってとこだ。でも、
「後悔が遅いのは女神種全共通なんだよな」
どうやら、本当にカイザンの勝利を認めてくれるらしい。今の勝者だけがしていいような発言に反論がなかった。無論、それだけが決め付けている訳ではないが。
まあ、デコピンで気絶なんてしたら、その後の続行は恥ずかしくてできたものではないだろうし。
・・・そう考えたら、俺って結構ひどいことしたのかな。
決闘で勝って良心が傷付くなんて、それだけ聞いたら正に帝王ではないか。償いの一つでもしておこう。
「まあ、気絶させちまったのは悪いと思ってるよ。代わりと言っては何だが、俺の特殊能力を教えてやるよ」
特別大サービス、気前の良さを売りにしていこうか迷っている女神領領主様。
その大胆な代償行動の内容が聞こえた観覧の女神種たちが、興味津々に耳を傾け始めた。
そこまで気前は良くないから小声でお送りする。
「俺の、ウィル種の特殊能力は、[データ改ざん]。相手のウィルスが俺のウィルスよりも優っている全ての要素、つまり、ステータスをゼロにすることができる最強の能力なんだぜ。つっても、範囲は限られてるし、相手のウィルスを読み取るには種族名と名前を知っているのが必須条件。しかも、魔力量的に一対一じゃないと勝てる気がしない悲しい特典付きだ」
小声であることを忘れて、途中から自慢したくてしょうがない声のボリュームになっていたと言い終わってから気付いた。
・・・まあ、前半が聞かれてなければ大丈夫だろう。きっと。
償いとかじゃなく、単なる自尊心で特殊能力を語られたミルヴァーニは、頭の中でカイザンの説明を復唱して、分かりやすく内容を要約してくれた。
「つまり、私は貴方よりも幾多ものウィルスが優っているということですね」
「うるせぇ、二本指でデコピンしてやろか?」
キメ顔で目を合わせてきたから躊躇なく構えた。
デコピンと言いながら、握り拳状態にあるのは見逃してほしい。
・・・このままだと本当に殴っちゃいそうだ。
ハイゼルは未だに目の焦点が合ってない様子だし、この女神領に長く居座るのは危ないと思う。暇になったのもそのせい。負のオーラで包まれているんだ。
この際、自分で仕切って早々に終わらせよう。早く出たい。
「てな訳で。決闘の勝者、兼領主として命ずる。お前は今日から俺の代わりに仕事を務め、俺たちの旅の中での転移役になれ。......加えて、俺の特殊能力、くれぐれも広めるんじゃねぇぞ。約束破ったら、針千本に糸通せよ」
決闘前に約束させた条件を領主らしく命令みたく申し付け、機密情報に関しては地獄の罰を予め伝えて絶対に逆らえなくしてやった。
昔、カイザンが家庭科の補習課題でそれを言い渡された時、絶望で二時間はただ針を見つめていたのを思い出す。翌日、担当教員が補習前日に彼氏からフラれて八つ当たりがしたかっただけだと知った時は、101本目の針にただただ愚痴をこぼしていた。
カイザンの提示した罰内容もまた、八つ当たり以外の何物でもないが、敗者であるミルヴァーニに従わない選択肢はない。勝者、兼領主最高。
「ご命令のまま、勤勉に職務を全う致します。........言っておきますが、貴方に服従するという訳ではありませんことをお忘れなきよう。貴方という存在が領主に在ること、決闘を終えても尚気に入りませんから」
あくまで、カイザンには敗者として規則に従うと誓うだけで、領民として忠誠を誓うことにはまだ抵抗があるという。
領主に対して堂々と言い放つその姿に、自分の身分を普通に忘れて引き気味になるカイザン。引きつった笑みの途中で思い出し、決闘を通して大得意になった余裕の笑みに切り替える。勝ったから余裕とかもう関係ないのに。これはそう、威厳だ。
「最強種族に対して、随分と正直だな。どうなっても知らないぞ」
いや、お前は知ってるだろ。と自分でもツッコミがすぐに思いつく警告を発した。
ミルヴァーニはそれを片手を上げて制すると、諦めたような表情で六言。
「ですが、の話ですよ。勝者たるウィル種としては認めざるをえません。ウィル種は確か、あの時代の戦争で絶滅したのですよね。ということはつまり、現種王の地位は貴方に在るということ。神話で語り継がれる[憤怒の神]ヴィッセルの力は全領地の者が知っています。また、不服ながら貴方は創造種に選ばれしウィル種のようですし.......カイザン様なら、この領の権限を持たれることに一切の怒りも疑問も感じませんよ」
・・・ごめん、長くて途中からの内容入ってない。
悪いとは思ってる、心の中で。だし、心の中から謝る。
知らない言葉とかあったし、ちゃんと復習したテスト範囲内から単語を出してもらいものだ。予習を見越してテストを作るな。
・・・ていうか俺、種王なんだ。女神領の領主やってて、ウィル種の種王とか肩書きの大渋滞。これに帝王が入ったら、いよいよ侵略者だな。
恥ずかしいけど、異名はいつか自分で決めた方が断然いい。
将来の自分を想像して、決意する。なるべく、厨二病っぽくないやつを。....道は長そうだ。
腕に力を込めて己に誓っていると、目の前のミルヴァーニが何かに気付いて視線をずらした。嬉しそうな顔。ゆっくりと近付いてくる足音にカイザンも反応する。
「カイザンさん、やっと終わったんですね」
振り向くとほぼ同時に声をかけられた。
声の主はもちろんアミネス。先程のツッコミのおかげか、痰が絡むこともなくよく声が出ている。
「おー、アミネスは、応援とかしててくれたのか?」
数秒は何を言おうか迷って、願望混じりに言ってみる。否定されても、心では応援されていなかったのだと理解しているから、ダメージは最小限になる予定だ。
「そんなまさかですよ。応援されてるって本気で勘違いしていたなら本当にすみません」
「その発言によって生まれる傷への謝罪は?」
謝罪という予想外の変化球が飛んできた。 公衆の面前でなければ、躊躇なく胸を押さえ悶え苦しんでいただろう。いつもと違う痛さ。
・・・ぐぅーーー。まあ、何にせよ。これにて決闘は終了しましたってオチで、次に引き継ごうか。
カイザン&ミルヴァーニ
「いざ、旅に出発。どれだけこの時を楽しみにしたことか」
「ハイゼルの話によると、一週間程前から」
「計算しなくてよろしい。そういうのを聞きたいとかじゃなくて、めちゃめちゃ心待ちにしてた的なのを言いたい訳」
「あー、そういう用件でしたか」
「何で分からないんですか?その理由が私には分かりかねます。分かろうとする気もありません」
「何故、アミネスの真似を?全然似てませんので、今後一切、私の前ではしないでいただけると幸いです」
「えっあー、いや、アミネスの真似したら、また動揺してくれんじゃないかと思って」
「甘く見ないでもらえませんか?私が抱き、育み、大切に育てて来たアミネスの愛を、カイザン様のお下手な真似でどうにかできるとお思いですか?それに...」
「はい、そこまで。次回予告に行こうか」
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