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始まりの章 女神領の決闘 編

第三話 領主カイザンと元領主〜図書館の女神〜

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 女神領は建物や移動手段などの全てが魔法の応用となっている。
 いつでも輝き続ける中央時計台や周辺の建物、通る者の魔力により転移魔法が自動起動される転移門ワープ・ゲート、あとは意味もなく道が浮いていたりもある。
 どれも非戦闘用の特効魔法の一種。転移系統や変質系統がいい例だ。
 これらの魔法は全て、税金のように領民から徴収される魔力によって成り立っているらしい。

・・・どう考えても魔法の無駄使いだよな。....いいなあ、俺も魔法とか普通に使いたいよ。こんな使い方すんなら俺に才能の片鱗でも分けて欲しいよ。

 女神領は確かに広いが、ワープとか要らないと思う。翼があるなら飛んで行け。

「自由に扱える魔法があって少しでも不自由を減らせるのなら、使って損はないと思いますけど。それに、集められた魔力は領の結界維持にだって利用されているんですよ」

 税金で成り立っているとは言え、転移門に必要な魔力は通り主からの徴収、つまり、税金を払っていても魔力量に乏しい人材は使用不可能。カイザンももちろんのこと。

・・・いろいろとガミガミ言うけどさ、俺だって転移とかしてみたいよ。そりゃね。でも、ウィル種は魔力保有量が一般的な種族よりも少ないとか最悪。男だけど女神種で生まれたかったと思っちゃう始末だよ。

 実際、女神種には男も居る。しかし、女神領の掟により、成人して子を作らせた者は領を出なければならないらしい。そのため、女神領ここには男の子までしかいないのだ。

・・・女神ばっかって、最初はなんだか良いと思ったけど。大半が全員漏れなく...。

「良かったじゃないですか。前にカイザンさんが言ってた、はーれむ?でしたっけ。....まあ、ほとんどの皆さんは百歳を軽ーく超えていますけど」

それが一番の問題点なことは言うまでもない。
 これ以外にも、女神領にはたくさんの掟が存在している。制定者はエイメル、なんと女神種初代領主らしい。五千歳は軽く超えている。

・・・そういや、言語理解の件があったよな。最初は難だと思われた。

 決闘の際、エイメルとの会話が成り立っていたことから、既に対面で会話することには何の不自由もないことは証明されている。'話すには'、お察しの通り、文字の読み書きはさっぱりである。

・・・いやー、俺もこの一ヶ月は文字とかしっかりと覚えようとしたんだよ。でもさあ、こっちの言葉ばっか覚えたら日本語の方がゲシュタルト崩壊とか起こしちゃうかもだし。

「何ですか、その言葉は。そんなのはどうでもいいので、本当に覚えてくれませんか、文字の読み書き。私にどれだけ仕事をさせる気ですか」

 領主の仕事をする際、アミネスには文章の全てを音読してもらい、よく分からなかったらそのまま押し付けている。悪いとは思うけど、最強種族だし良いよなと言う気持ちになってしまう。これも全てエイメルが悪いのだ。決闘で負けたりするから。

「.....で、どうしてお前はさっきからふつーに俺の心を読んでんだよ。客観的に見て独り言だからな、それ」

・・・何となくスルーしてたけどもー。一方のキャッチ能力がめっちゃ低い絶望的な会話のキャッチボール続けてたぞ。ホント、側から見て独り言。

「そんな事ありませんよ。カイザンさんが女の子と話すのに緊張して全く喋れない人みたいに見えてるだけです。健気にも少女が会話のエスコートする、そういう素敵な光景です」
「それ、俺じゃなくてもいいだろ」

 アミネスはそう言って軽くカイザンを事実のように罵る。いつも通りのラリーだ。反論しようか迷った結果、事実として受け取って、ツッコミだけを入れておく。

 現在、二人は女神種の元領主エイメルの大図書館へと徒歩で移動中。発案者であるハイゼルは仕事のため、商業区へと一人向かってしまった。
 正直、エイメルの元に二人だけで行くのは心的に厳しい。'自称'死闘を繰り広げた相手だからではない。申し訳ない気分になるから。
 女神領の掟の一つ、領主が関わる決闘において、領主側が敗北した場合、勝利した相手と地位を交換しなければならない。
 あの場でのカイザンは侵入者、地位に変えれば最低地位にあった。

 故に、エイメルは今、最低地位として大図書館で働かされている。ハイゼルが言った、エイメルが代理できない理由がこれだ。仕事を任せるだけとはいえ、最高地位たる領主の肩書きを渡すことはできない。

・・・はあ、もう、会いにくいだろうよぉーー。絶対、俺のこと恨んでるから。無理だって。誰だよ、発案者。

 一キロ先、ハイゼルがくしゃみをした。

 誰かのせいにしてなきゃやってられない気分だ。いっそ、エイメルが最低地位に落ちたのも誰かの仕業にしてしまえばいいさ。例えば、掟の制定者ーーーーエイメルだった。自業自得にしておこう。カイザンは何も悪くない。

「とか言っている間に着いちゃいましたよ」

 憂鬱を示すかのようにずっと下を向きながら歩いていたカイザン。
 アミネスの声かけで顔を上げると、目の前には巨大な建造物がそこに鎮座していた。元居た場所から一直線にここへと向かってきたのだから当たり前だけど。

 大が付く図書館、何気に初めて訪れるため、その大きさには本当に度肝を抜かれるものだ。

 この大図書館の異常な大きさの程は、見に行った経験はないが、きっと東京ドームの何個分だ。
 これ程の大きさな理由は、シンプルに本の量からだ。魔法や種族にその特殊能力、領地についてなど、最強の種族に相応しき知識書の数々だ。

・・・この中に、あのエイメルが...。

 入る前に一応、深呼吸でもしておこう。アミネスには空気を読んで待ってもらって......。

「入りますねー」
「やっぱそうなるよねー」

 いつものノリでアミネスがさっさと扉を開ける。その影に隠れてカイザンも渋々中に入っていく。まだ緊張してるのに....。
 もう入ってしまったし、覚悟を決めよう。決意し、堂々と挨拶をしてやろうと思った。それよりも早く、エイメルはカイザンたちに気付いていた。

「これはこれは、アミネスにカイザー様。どうなされたんですか?」

 そう言って、エイメルは決闘など無かったかのような微笑みを見せた。しかし、その挨拶は決して流せない。

「お前も.......。親から授かった名前を勝手に改ざんしないでくれないかな」

 この世界での英語という概念がどうなっているのかは不明だが、とにかく失礼極まりない話である。

・・・カイザー、カイザー......。帝王か、もっと勇者とかで広めるにはどうすれば良かったもんなのかな。ウィル種がダメだったかなー。

 それを読んだアミネスは、小さく呟くと、堪えきれずに....。

「勇者............ぷっ」
「毒舌吐いてくれた方が何割かマシなんだけどっ!!」

 笑われた。鼻で笑われるより刺さった。何なら呟いた後、一回こっちのこと見てから笑ったからね。

 危うく殴り.......デコピンしそうになったのを歯を噛んで耐え、溢れんばかりの羞恥を必死に抑えて今回の訪問目的、エイメルとの話を始める。
 二人は、司書スペースの前に置かれた椅子に腰掛ける。カイザンが先に座った後、アミネスが隣一つ空けて座った。

「ちょっと聞きたいことがあって来たんだけどぉ」

 歯を噛んでいたから怒ってるみたいな聞き方になった。エイメルはあの時同様、気にしていないようだ。
 決闘のことは一切触れず、穏便に話を進めよう。

「聞きたいこと、ですか。して、その内容はどういった?」
「俺.....たち、旅に出ようと思ってさ。領主の代理が必要なんだよ。お前なら適任な女神知ってるかなって」

 アミネスに旅へと一緒に行くアポを取っていないことを思い出して固まってしまったが、勇気を出して続きを言った。アミネスからの反論はなく、了承されているのだと判断する。

ホッと一安心、旅への一歩を踏んだ気分。あとは代理さえ決まれば。

「代理・・・・・それなら、ミルヴァーニが宜しいのではないですか?」
「いや、誰だよそれ」

 最高の提案をしたと一瞬だけドヤ顔になるエイメルに最速のツッコミを返した。真に率直な感想を述べただけである。

・・・と言うか、エイメルってこんなキャラだったんだ。随分と親近感の湧く元領主だな。それよりも、ミルヴァーニなんて名前は初耳のはずだ。いや、聞いたか?領主が取り仕切る上位領内会議でそんな名前が出たような気がする。

思い出せそうで思い出せない。なんか悔しい気持ちになったところで、一つ空けて隣の椅子から。

「ミルヴァーニさんは、他の領との外交任務に勤めている方です。丁度一ヶ月前、他領地へと向かったので、カイザンさんは知らなくても当然ですかね。ダメな領主なんですし」

ため息混じりの隠せない失望。混ぜないで、隠して。がカイザンの悲しい嘆き。
 アミネスの言った外交官なる者は、他領地との貿易などの交流、協定や同盟関連の手続き、または公際法(国際法)等の制定会議に関わる重大な役職に属する。言い換えれば、多種族との関わり合いの全てに精通する存在だ。

 となると、一つの可能性が唐突に思い浮かぶ。

・・・ここに来る異世界転生前にそいつが外交任務ってのに行ってくれてなかったら、エイメルじゃなく、そいつと決闘してたのかもな。

 今でこそ考えてみれば、あの決闘はエイメルに確かな余裕があって勝利できた。もし、他の者ならば..........女神種とはもう絶対決闘したくないと思う。

・・・まあ、決闘なんてする機会とも今日でおさらば。明日まで待つ気もないし、今日から旅に出るつもりだからな。...........あれ、俺って今フラグ立てた?......いや、こういうのは気にしたら負けか。

「んじゃあ、エイメル。そのなんとかヴァーニが帰って来たら、伝えておいてくれよ」

 早々に話を切り上げたく、面倒な報告はエイメルに任せることにした。この一ヶ月、任せる仕事のみ多くやっている領主様だ。
 一方、任されたエイメルは困った顔で、

「あの、私からですか?」
「うん、それ以外になくない?......今日の内にここを出る予定を今さっき決めたしな。何か問題でもあるのか?」
「問題ありありです」

 即答で物申す、もとい意見したのはエイメルではなく、アミネス。ちょっと怒っている、あるいは、不満げ。どちらにせよ、顰蹙を買ったことに間違いない。

「今日の内とか、そんな話聞いてないんですけど」
「だって、我慢ならないんだもん。....もちろん、付いて来てくれるんだよな」

 身勝手な子供的理由からの誤魔化しを含めた一方的な要求。普段態度からして、アミネスには言い返す権利が十分にあるのだが....、

「はあ・・・・まあいいですけど。カイザンさんは私がいないと何もできませんからね」

 この、仕方がありませんね風の了承に一番驚いたのは、他の誰でもないカイザン。もともとアミネスには付いて来てもらおうと考えていたけれど、交渉に長い時間を要するのは必然的だと思っていた。だから、まずは無理やりにでも同行させようとしていたのに。

・・・読まれていた、のか?.....なんか企んでたりしないよな。なんか、すごく怪しいっていうか、不安っていうか。

 旅に二人で行ける喜びは大きい。その反面、アミネスが素直に受け入れたのは怪しいと思う他ない。
 それを全部心で喋ってしまっているカイザンでは、一生答えに辿り着けないだろう。

「エイメルさん、ここの本を何冊か借りてもいいですか?種族と領地に関する本は必要だと思うので」
「ええ、宜しいですよ。では、ご要望の本は私が探します。....見つかりました。これですね」

 依頼受諾から数秒も経たずにエイメルが二冊の本をアミネスに手渡した。
 転移魔法の応用でエイメルは探す時間と持ってくる手間をカットしたのだ。本来なら、物体転送テレポーテーションは物体の在り処、つまりは座標を完全に把握することが必要不可欠な高位魔法。それを平然と日常生活で使用する異常さ。

・・・さすがは元最強種族ってことだよな。...加えて、ホントに魔法の無駄使い種族。

 無意識に嫉妬の目を向けていた。
 魔力保有量が少ないためにカイザンは転移魔法なんて夢のまた夢。女神種が一般的に使用している魔法すらも使った瞬間に、全魔力を無くした存命の魔枯死体となるのは明白。
 ただただズルイと思うしかない。

 そう言えば、創造種は魔力は有れど、特殊能力以外の魔力変換は苦手らしく、アミネスもまた魔法と言える魔法を使ってはいない。
 エイメルから受け取った本をカバンに入れ込むアミネスを横目に、同族を見つけた気分でホッと一息吐く。
 と、安心したら急にある事を思い出した。

「あっそーだ。.....ここで一つ、重要な報告がありまーす」
「まさか、漏らしちゃいましたか?」
「思春期男子としては重要案件だな、それ。.....違くてな、話しておくべきことがあるんだよ」

 誰かからの邪魔はあったが、改めて、カイザンの醸し出す重々しい雰囲気に、エイメルが緊張した面持ちで雰囲気作りを率先、アミネスは暇そうな顔になり、しまったはずの本をわざわざカバンから出して読み始めた。
 アミネスは何があってもいつものままだ。カイザンに興味がないだけかも。

・・・でも、大丈夫。これを言えば、驚かないとか絶対ない。

「俺って実はさ、異世界から来たんだよ」

 沈黙が発生した。または、静寂とも言う。
 予想通りのリアクションに若干の笑みをこぼし、続いて転生について話を進めようとすると、アミネスが目線を本に向けたまま言葉だけ返してきた。

「この一ヶ月、何度も読.......言ってましたよ。異世界、転生?既に聞き慣れましたから、反応の仕様がないですね」
「言う、の前に読むって言いかけたよな?・・・・ま、まあ、呑み込むのが早いのは助かるよ。エイメルはど、どぅーだ?」

・・・助かるなんて嘘だー。本当はもっと激しく驚いて欲しかった。驚きでアゴが外れてくれてもよかったと思ってる。....これはまあ、嘘だけど。

 アミネスは諦め、エイメルに向き直る。

「カイザン様が異世界から来たとなると、いろいろと合点がいきますし、十分に信じられるかと」

・・・こっちもかいっ!!この一ヶ月、女神種の冷静イメージってほとんど薄れてたのに。主に誰とは言わないけれど。

 一キロ先、ハイゼルがくしゃみした。

 それはともかく、エイメルの合点がいくという点には、アミネスも同意で頷いていた。

「それは私も思いましたね。五千年前の種族戦争で絶滅したはずのウィル種が急に復活して、突然にも女神領に現れた。変な言葉も使いますし、一般教養が薄いですし、文字も読み書きができない。最初に着てた服とか、気の抜けた性格とか、珍奇と言いますか。いろいろと変でしたよ」
「話の内容が途中から変わってるような」

・・・ディスられてたよね、多分。....まあ、信じてもらえたってことでいいんだよな。きっと。

 信じてもらえたってことに関してだけ一件落着感を出すカイザンに、アミネスから一言。

「で、カイザンさんが異世界から来たと分かったところで、何だと言うのですか?」
「えっ・・・・いや、特にないね。二人の反応を見たかっただけと言うか、この後に話は一切発展とか余裕でしないって言うか...」

 ごみごみと理由を思いつくだけ述べ、結果まとまらないまま思考がストップ。またも、アミネスから一言。

「まとめると、無謀であったと」
「.....この状況をまとめるに相応しい結論だな」

 公称帝王に対して、ここまで辛辣に事実を言えるのはアミネスだけだとつくづく思う。
 分からないけど、なんだか良くない空気になってるってのも。

「えっと、じゃあ。他、俺に質問とかあったりする?」

 場を仕切って、話を転換。質問コーナーを開設してさっきのをなかったことに。すると、エイメルがゆっくりと手を挙げた。

「では、私から一つ宜しいですか?」
「いいともだけど、エイメルからって何か怖いな」
「普通の質問ですので、どうぞ安心してください」

 安心してと言いながら急に声音を低くするあたり、あの時は演じているキャラだとばかり勘違いしていたが、どうやら素の可能性急浮上。
 どんな質問が来るのか、身構える必要がありそうだ。

「・・・・カイザン様は、ウィル種についてどう思われているのですか?」
「どうって、何がだよ」
「貴方様の特殊能力はおそらく、対象者のウィルスに一時的な改変をもたらすもの。ウィル種のウィルは、ウィルスを表していると、そう思われますか?」

 ウィルスとは、種族の根源とされる体内に刻まれた情報体ステータスの総称。
これは、一つの古代神話に繋がる。

 何千年も前から語り継がれる神話では、始まりが人間種であったとされている。
 人々は神と呼ばれし一人の存在を尊み、強く崇めていた。
 家畜を飼い、育て、食す。農地を開拓し、稲作を繰り返し、人口が増える度に広い土地を切り拓き、領土を拡大し続ける。
 そうやって、人々は幾多もの工夫を凝らし、命を繋ぎ続けていた。
 しかし、そんな平和は長い時にして束の間のこと。
 無力で無知な人間種を、大規模な自然災害が襲った。
 自然の猛威の剥く牙は想像を上回る程の凶暴さを持ち、逃げ惑う人々を豪風で薙ぎ払い、建造物の数々を駆逐。大地震の衝撃は地表の大半を席捲、激震が次々と二次災害を生み出しては、破壊を続ける。
 ボロボロになり、絶滅すら危ぶまれた人間種に、神は慈悲深くも施しを与えてくださった。
 人間種の代表とした三人の女性は、神から知恵と知識の受け皿と、自然現象へ介入する術を形として授けられた。
 それが後の女神種であり、魔力を御するウィルスを与えられたのだとされている。
 それから、人間種が困難に苛まれる度、神は新たな種族を創り続けた。その後の、五千年前に各地で勃発した領土を巡る大規模種族戦争は、また別のお話である。

・・・ウィル種とウィルスの関係性は特殊能力から言うまでもないけど、そんな簡単なことあるのか?

「いや、俺の代名詞設定がそんな簡単で良いわけがないよな」

 カイザン的には、な訳ないという予想より、そうであってほしくないという願望の方が強い。
 仮にも最強種族であり、自称主人公。自分の大事な種族がそんな簡単であってほしくないと思うのは当然のことだ。

「設定?ですか」

 カイザンの答えに、エイメルが首を傾げる。その反応から数秒、カイザンが理由に気付く。

「あぁ、いや、ごめん。分からないこと言ったな。忘れていいぜ。....質問への回答は、違うと思うってことで」
「そう、思われるのですね...」

 最後にエイメルは意味深な反応だけ残して、用事を済ませたカイザンたちは大図書館を出ることになった。
 借りた本二冊は旅から帰って来たら返すと約束をし、カイザンとアミネスは再び二人だけの状況に。

 エイメルが視界から見えなくなると、何だか安心して思わずホッと一息を吐く。そして、突然膝から崩れて落ちた。

「どういう状態なんですか?」
「緊張して疲れたんだよ。力みまくってたの気付かなかったか?」

・・・エイメルだぞ。元は天下のエイメルさんだぞ。最低地位に誰かのせいで落とされた元最強種族様だぞ。分かってるのか?

 一つの可能性に怯えてどれだけカイザンが緊張し切っていたことか。
 外見からは悟られないように気を付けていたけど、アミネスには気付かれていたのではないかと思う。

「気付かないですよ、見てませんでしたから」
「視界には入ってだろうよ」

 軽く首を傾けられた。逆にスゴイよ、あの場で視界に入れないの。
 これ以上言っても特に意味は無さそうだから緊張の理由をもっと明確にして話を進める。

「まあ、エイメルが本当に丸くなっててくれて良かったよ。復讐とかマジで勘弁だから」

 カイザンの心からの安堵の言葉に、アミネスが眉尻を下げて落胆したような顔をする。

「名声の全てを奪われてないのですから、復讐なんてあり得ませんよ。カイザンさんとの決闘に敗れ、哀れにも領主の座から落とされた訳ですけど、エイメル様が種王であることは変わりません。なので、領地の名は、エイメル様の家名たる[イリシウス]のまま。女神種の最高戦力に他なりませんから」
「知ってるよ、それくらい。誰に向けての説明だよ」
「・・・・」

 ヒロインとして設定補足をしたアミネスは、主人公のカイザンに的確に詰められて沈黙を作った。
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