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始まりの章 女神領の決闘 編

プロローグ3 〜公称帝王の誕生〜決闘〜

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 男が与えられた種族の特殊能力、それさえエイメルよりも早く放たれば、勝てないことはない。そうするには、戦うまでにどうにかしてその状況を作る必要がある。

・・・んなもん簡単だよ。やり用はいくらでもある。

 まずは、こいつの冷静さを無くしてしまえばいい。
 最も簡単な手段は、怒らせることに限る。ある意味で男の本領発揮だ。

「さっきと言い、さっきからと言い、何かとムカつくよな、あんた。いや、女神だし、お年的にはおばさん。数段行って、ババアか?」

 検証1、地獄の必勝法、年上女性への問題発言。
 子供が純真無垢のままに言い放ち、ママ友やPTAを崩壊させる刃の口撃。これが効かないはずが...。

「ムカが、つく?聞いたことのない言葉ですね。ですが、察するに不機嫌さを表しているようですね」

・・・その説明によって、よりムカがついたわ。つーか、効けよ。悶え苦しめよ、両耳を押さえて。

 ちなみに、ムカつくは大阪が発祥の地。異世界にあるはずがない。エイメルもすぐに戯言と受け取った。

 どうやら、エイメルにはそっち方面のメンタルアタックは効果を示さないようだ。となると、性格の全否定系。でいくしかない。

「つーか、そんな口調とか態度でよく、種王?だっけか。やってるもんだな。誰も従ってくれないんじゃない?孤高の女神決め込んでんだろ」

 検証2、人格否定。
 まだ会話のラリー数は少ないが、それでもいちゃもんの付け所はいくらでもある。最悪、嘘でも言ってしまえば武器となる。

「我々は常に気高く在らねばならぬ種族故、当たり前のものとも思えますが」

・・・これも効かないんかいっ。

 ツッコミは口にしたら負けだと思う。

 カイザンの怒涛の口撃虚しく、全く状況は動いてくれなかった。.....ふと握り込んだ拳に、汗が混じっているのに気付いた。暑さからくるものじゃなく、精神からが発生源。

・・・やっぱり、最強とか言われると無条件でただただ焦る。チートスキルとか持たれてたら確実に負ける訳だし、怒らせ過ぎて急に戦闘を始められるのも困る。そうなった場合、転生早々にまた死ぬ。

 ひとまず、落ち着こう。気付かれぬように深呼吸を行う。
 エイメルに焦りを気付かれてはいけない。あくまで平静を装って、エイメルの否定を再開しよう。奴が怒りに呑まれて暴言を吐き出したらそれで勝利確定だ。

「絶対嘘だわー、こいつ自分が種王とか勘違いしてるタイプだよ、絶対。翼とかも年齢来てんじゃないの?」

 .....そう願う一方で、最強種族と言う肩書きは、そう易々と感情に呑まれる存在でない事を全身の威圧と覇気だけでエイメルは体現している。これを目の前に感じている以上、あらゆる手において引き気味になろうとしてしまうのは必然的であり、彼女以外の存在に共通する万物普遍の理でもある。
 それが分かっていてか、彼女は対峙する者への威圧を何度もかける。

「何度言えば分かるのですか?私は、正真正銘の種王です。全種族の頂点に君臨する女神種、最強種族のエイメル・イリシウスです」

・・・いちいち肩書きを全部語らないでよろしい。どんだけ自慢したいんだよ。しかも内容がほぼほぼ一緒だし。

 挑発の全ては返され、焦りやムカつきでメンタルはもう壊れかけの状態だ。年長者の自慢話ほど笑顔で聞けないものはないと実感する。オチない、つまんない、共感要素なし。

 このままだと一向に進まない気が猛烈にしてきた。

 一体どうしたものか。そう考えていると、今更ながら周りの騒がしさが耳に入った。
 二人の言い争いに気付いた者たちが次々と集まり始め、あっという間に大観衆となっている。これら全てがおそらく女神種。翼でいっぱいだ。

 こうなってしまえば、不意打ちとかの問題じゃない。集中放火の嵐になる。クラスの嫌われ者がドッチボールで集中攻撃されるのと同じだ。全部が漏れなく顔か頭を狙ってくる。

・・・一応言うけど、経験とかないからね。

 とにかく、多勢に無勢。ただでさえピンチの状況で、これ以上は本当にやめてほしい。

「ってか、原因の大半って俺か。さすがに、うるさくし過ぎたな。余裕でヤバイよな?」

 と、何故かエイメルに問う。
 ここに来て、初めて男が引き気味になってそんな事を言ってきた。エイメルが嘲笑を浮かべる。....実はこれも、男が勝つための作戦の一つ。
 なんだけど、嘲笑されるって心的にキツイ。
 見下しで笑われるのは、人として終わった瞬間に等しい。そんなことをされた際には、恥ずかしくて私有地すら堂々と歩けたものではない。

 独り、作戦成功の喜びと羞恥心の感情に蝕まれている男に、エイメルは軽く、本当に軽く微笑んだ。

「安心してくださってよろしいのですよ。貴方への制裁など、私一人で十分ですので」
「発言内容に安心要素が一つも見当たらないんだけど、壮大な言い間違いだったりするのか?」

・・・まあ、こっちとしては好都合だがな。どうぞどうぞ、お一人でどうぞ。...くくくくく。

 予想外のことであったが、お一人様なら安心のこと。このまま行けば先制すらも譲ってくれる可能性大。
 実際がどうとかは知らないけど、エイメルは自身を過大評価してくれている。おかげで彼女には今、圧倒的な余裕がある訳だ。

・・・ヤバイ、心の笑みがもう少しで顔に出そうだ。どうしよう。

 絶対に勝てる。異世界ここに来て早々に最強を倒せるなんて、嬉し過ぎる想定外。今後の予定とかついつい考えてしまう。宝くじを買った日みたいな。

 笑みだ。とにかく笑みが止まらない。
 誤魔化しも含めて、対抗するように言い返す。

「まあー、あんたも安心、してくれよな。ワンパンで終わらせてやるよ。痛みは増し増しでな」

・・・そう、ワンパンだ。特殊能力の一撃目を除いてのな。

 自信たっぷりな男を、エイメルが感情を表にして強く睨みつけた。自尊心により働いた怒り、その男に貶されたからだ。

 これは、もはや口論。言われたら対等に言い返すのが当たり前の選択。を建前とし、本音は全てが自尊心のための行動選択に他ならない。

 定跡なら、エイメルがまたここで返して...。

「そろそろ、お戯れもよした方がよろしいと、警告してあげます」
「....お戯れって、事実を言って何が悪いんだ?」

 急な警告に驚いたが、変わらず怒りを誘う発言で返す。
 男の気の抜けた本音に、エイメルが歯を噛んで自制心での抑制、怒りを言葉で現す。

「そんなひょろひょろの体から放たれる攻撃で、我々女神種を屈服させることができる筈がないでしょう。貴方から溢れ出るその余裕さも全て、所詮は自己暗示の果て、自己欺瞞で形成された偽りの自信以外の何物でもないのですよ。いい加減、ご自身で気付かれたらどうですか。五千年、最強種族の座は我々女神種に在るという事実と、それに対して貴方の力が一切及ばない程の下位に在ることに」

 感覚的に落雷が直撃し、全身を漏れなく焼け焦がした。発言への驚愕、と言うよりは、シンプルにショック。
 それは何故か、エイメルの言ったこと。前半部分のひょろひょろ発言が耳から離れない。効果抜群過ぎて後半に何言っていたかよく聞いていなかった。

 エイメルのひょろひょろ発言は男の心の芯に響いた。そうじゃないって、言い返しずらいからだ。鏡見てみろの一言で負ける。お前って細えな。と言われてしまえば、一時間以内にもっと細い人を探さないとそういう印象があだ名として定着する。腕相撲でズルするしかない。

 ちょっと、装っていた平静が脱皮しそうだ。
 これより、エイメルに否定された自己暗示に入る。

・・・いや、ひょろひょろとかないし。俺はこれでも握力があるように見えて、実はないんじゃないか風の男を装ってるんだぜ。詳細は伏せるけども。俺は一般的な肉付きだ。中肉中背なんだよ。

 言葉に負けたらダメだ。=精神の負けを意味する。ひょろひょろの前半部分しか聞こえなかったから、エイメルが何て言ったかテキトーに予想してそれっぽく言い返そう。

「そうやって追い詰めて、相手側へ一方的に敗北を暗示させるのがお前の戦い方やりかたなのか?随分とまあ、自力に自信の無い奴のやることだぜ」

 エイメルに負けじと、余裕ぶった笑みを浮かべて動揺を隠そうと必死に。

・・・当然ながら引きつってます。だって、さっきのは効果抜群なんだもん。しかも急所を。あと一週間は引きづるね、絶対。つまづく

 男の下手すぎる笑みを、一体、エイメルがどう受け取ってくれるか。

「・・・・余裕の表情、ですか」

・・・えっ騙せた? ...え、この世界って意外とそういうのいけるくちか?

 思いの外、通用した。エイメルが騙され易いだけなのか。真相は定かではない。
 異世界という存在が急にチョロく見えてきた。何だか勝てる気しかしなくなった男、そこで、互いの傲慢口論が終了したと次に語られた。

「・・・・さて、そろそろ始めるとしましょうか。最期の無駄話も済んだことですし」

 終了したのは、つまらない前座のような無駄話全体。これ以上は我慢の限界にあるエイメル。
 始めるとはつまり、

「決闘です。どちらが優位にあるか、決闘にて証明致しましょう。正式な規則の下、貴方に確かな敗北と醜態たる屈辱の両方を贈らせていただきます。これを、最強種族から貴方への制裁とします」

 男に向けられたエイメルの人差し指。そこから言葉として差し出されたのは、所謂、決闘の果たし状である。

 男の了承を待たず、エイメルは決闘の準備を勝手に始める。

「ハイゼル、審判を任せます」
「はっはい」

 決闘のにおいてのルールの一つ、勝敗は審判が決定する。
 観覧の者たちの中、突然エイメルから名を呼ばれて審判の役を承ったハイゼルと言う女神。慌てた様子で所定の位置へ。

・・・審判?不必要なもの気もするけど、これだけ大勢集まったらそうなるのか。

 郷に入っては郷に従え、異世界のルールに従う他ないとは思う。...正直言って、審判がエイメル側なのは文句しかないけれど、高貴な女神が忖度をするとは思えない。そもそも、明らかなる勝利を見せつければいいだけのことだ。

・・・とはいえ、なんだよな。

 すっとハイゼルを見てみると、何だか挙動がおかしい気がする。役を担ってから体が小刻みに震えてるし、安心しきれない。たぶん、本番に弱いタイプの人。女神種って全部こうなのだろうか。

 一応のため、聞いておくべきだろう。

「あの、ハイゼルさん。公平な目で観てくれますよね?」
「えっ・・・・・・はっはい」
「大丈夫だよねっ!?」

 安心できない審判の登場に、再び心が震えてきた。本当に分かりやすく勝たないといけない。

 さっきまでの恐怖心がまた別の理由で湧き上がってきた男の心中を察してか、エイメルが声をかける。

「ハイゼルに任せれば大丈夫ですよ。早々に準備を済ませていただけませんか?私はもう終えていますので」

 カイザンとは対照的に、エイメルは平常心を保ったままの表情だが、心の中では酷く怒っている感じ丸出しの低く冷淡な声音で告げてきた。
 怖がらせるのが故意であることは明確だ。

 だが、心の平穏は保たれた。

・・・にしても、決闘か。正式ってことは、賭け事が必須。勝った後に何か要求していい訳だ。せっかく最強種族の領地に来て迷惑被ったんだし、夢への階段をショーカットするくらい良いよな。

 男の余裕さは消えるものではない。勝った後のことを考えられるこの精神状態を、余裕と言わずして何と言う。今、おかしな野郎って言ったやつ誰だ?

 ....とにかく余裕でしかないのだ。

 だって、既に勝利は約束されたも同然。エイメルが最後に言った一言は、完全に決闘の開始を告げたもの。それとともに、とある通知でもある。

・・・譲ってくれる訳だろ。先制の先手を俺に。

 女神種ともあろう者が、開始を告げても尚、構えらしき構えをしていない。
 理由は明白、エイメルが男を格下と見るからこそ。
 '貴様の一撃を、真正面から耐えてやる'と言っているのだ。攻撃が一切効かず、後悔に呑まれる男を見下したいがため。

「いいぜ、その余裕を破るのが楽しい訳だよな。上等、上等。お言葉に甘えさせてもらおうじゃねぇか。後悔しても遅いからな!!」

 防御も攻撃の構えもなく、ただ突っ立っているも同然のエイメルに向かって、男は手を伸ばす。その手のひらを開いて。
 あのハゲ.....閻魔様から授かりし種族、自称最強の特殊能力を解放する時が来た。

・・・使い方は教えてもらったけど、成功するかは未知数。未使用だし。...深呼吸でもするか。

 目を閉じ、成功を祈願して長めに深呼吸。吸って吐いての繰り返しで心拍を整える。

・・・大丈夫、時間はたっぷりある。エイメルなら疲れて足がぷるぷるするまで棒立ちさせて待たせてやればいい。てさ、あれだけ言いまくって失敗とかマジ終わりだからな。羞恥心で生きていけないよ。

 小学校の運動会の百メートル走で女子全員に負けたあの頃を思い出す。蟯虫検査で引っかかったのも。

・・・まあ、あれよりはマシだろうけど、恥ずかしいってことは変わらねぇよ。....あの時、全力で俺のことを引きまくる友達が離れないようにどれだけ苦労したことか。

 嫌なことを思い出したから俄然やる気が出てきた。

・・・もういいや、さっさと倒そう。他の黒も蘇ってきそう。

「そんじゃまあ、譲ってもらって先手必勝だ」

 男の開始宣言にエイメルがホッとした表情に。深呼吸に何十秒使ったかな?

 それはそれとして、改めて気合いの入れ直し、広げたまま手のひらに意識を集中させる。すると、血の流れに沿って他の要素もそれに加わっていく。...それは、魔力だ。

 本来、魔力とは感覚的に供給が可能な部類にあるが、男はそれを知らない。エイメルがちょっと憫笑したことも男は知らない。
 けど、笑われたってのは理解している。見下されていると再実感。笑みがこぼれる。

・・・随分な余裕じゃねぇかよ。

 深呼吸などもろもろ時間を費やしたが、エイメルは男を見下しているから不意打ちも何もしてこなかった。助かるけども、猛烈にムカがつく。
 あの澄ました顔面に高校一年生の平均的渾身の一撃を入れてやりたい。きっと全治三日にはなる。私有地で前を向いて歩けないくらいの傷になるか否か。

 いろいろな感情が重なるのと同時、手のひらが激しく発光。それは、無色の魔力によって生成された特質魔法による特有の現象。意識の集中で魔力が蓄積された結果。
 直視を拒む光が周囲一帯を照らすも、エイメルは一時的盲目とはならない。意志の固さを語るが如く、よく考えたらこいつ何分か目を閉じていない。意味がごっちゃになるけど、ドライな瞳で見つめ続けている。

 文字数稼ぎにもう一度言おう。この顔を殴りたい。目の上下に跡を作って細目にしてやりたい。全治二日くらいの。

「いくぜ、最強種族。...さあ、何秒後に元が付いているか、みんなで考えてみようかー」

 歌のお兄さん風を交えつつ、しっかりと宣告する。この一撃でのエイメル敗北確定を。
 この特質魔法で全てが決まる。それを理解したのは、男だけじゃない。

「それは、その光は特質魔法。・・・効果までは判別できない」

 エイメルは発光の特徴から魔法の系統を見破るも、光の持つ意図、何を現すかを見極めることは不可能。
 特質魔法とは、使用者の魔力によって細かく変異を繰り返すモノ。他者が間接的に内容を調べることは無理解の世界だ。

 今、エイメルができることは、起きること全てへの対処。
 男が無意識に見せる勝利の笑みから何かを感じたのか、エイメルが余裕さの感情を捨て去り、行動に出る。

 とっさに身構え、両の手のひらを合わせて中心に魔力を注ぎ込む。
 瞬間的な紫の輝光。そこから造り出されるのは、透き通る紫電の魔力剣。それを水平にして、切っ先を向けたまま正眼の構えに。

 しかし、その行動は何の意味も持たない。エイメルの構えは所詮、防御の後にある反撃に徹するものなのだから。
 男はエイメルの一連の行動を見守ると、手のひらに在る魔力の枷を外す。

・・・やっと、俺を対等な敵と認識してくれたんだな。でもまあ、後悔したって遅いって言ったよな。

「女神種、エイメル.....」

 唐突に自分の名と種族名を言われ、反射的に剣を強く握る。疑問による対応、戦闘において疑念の感情は危機であり、早急に排除すべき点。
 男の沈黙、何かを待つような雰囲気を感じ、敵意を込めて問う。

「今のは一体、何だと言うのですかっ!?」

 問いに対する返しは不敵な笑みが一つ、それだけではない。溜められた魔力が特殊な効果を持つ魔法としてエイメルに牙を剥く。

「さあ、お待ちかねの一撃を受けてみろよ。俺の特殊能力、[データ改ざん]をなっ!!」

 言葉に反応、あるいは共鳴するように光が光量を増し、一瞬だけ強く輝いて消滅した。
 直後、エイメルの足下から消えたはずの光が出現。瞬きの間に全身を包み込んだ。
 ここからの対処は無為、一度包まれれば最後、抗う術は存在しないから。

 数秒後、光が徐々に薄れていき、何事もなかったかのようにエイメルが姿を現す。
 一見して無害。自分の事は自分が一番分かっている。外見だけじゃ分かるはずがない。あの魔法は内面を、エイメルの肉体自体の構成、種の根源たるウィルスを歪めるように働いたからだ。

・・・だってまあ、俺は、ウィル種だからな。

 自身の体に異変を感じ、殺意と深い疑念の目で男を睨み付けたエイメル。怒り、それ以上の困惑。それに対して、男は笑いかける。この特殊能力についてエイメルが考えた予想への返し、「ご名答」と言葉よりも目が雄弁に語っていた。

 その笑みで怒りを抑えきれなくなったエイメルが魔剣で斬りかかろうとする。が、そこに魔剣は存在していない。在るのは、魔力消失の微かな余韻のみ。
 本来であれば、誰もが動揺すべき場面。それでも、女神種としての威厳さは冷静さを欠く事などない。あるのは、抱くのが遅過ぎた後悔。

「これが、あなたの。....いえ、ウィル種の特殊能力ですか」

 既に敗北感を滲ませたやっとの確信。気付くのが遅過ぎた。

「さすがは'元最強種族'、知ってたか。でもさあ、遅いってさ。....じゃあ、あんたの要望通り、決着を急ごうか」

 男は一人で準備体操を始めて軽く体をほぐすと、今まで以上に楽しそうな顔をして空いた手を強く握り締める。
 そのまま真正面、エイメルに向かって走り出す。
 一般的な高校生平均と言えるその拳は、ほぼ全てのウィルス情報ステータスゼロにされたエイメルに豪腕として放たれる。
 この決闘の最後がどうなったか、説明する必要は特にない。

 物語の始まりにしては酷く呆気なく、光だけがただ目立っただけの地味な魔法で二人の決闘は終幕したのだ。

 結果、男は女神領領主エイメル・イリシウスを倒したことにより、最強種族の異名を得るとともに女神領[イリシウス]の二代目の領主となったのである...。
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