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第三章 未来の選択

2 未来の選択

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「そこで宮十は不逞浪士に殺されたということで処理された。運良くお前達がいた場所は夜の路地だったからな、見つけた隊士達もハッキリと顔を確認できなかったと話していた」

「それなら何故あんた達は俺を監視する」



 その問に男は、その後のことを続けて話す。

 灯籠さんが姿を消した後、新選組は宮十さんを殺した不定浪士を探した。
 だが、もし灯籠さんが見つかるようなことがあれば、伏せておきたい話が皆に知られてしまう。
 だからといって姿を消した灯籠のことは隠しきれないと考えた新選組の局長と副長は、鬼灯 灯籠は死んだことにした。


 その翌日。
 この茶屋を訪ねた男は地面に広がる血のあとを見つけ、ここにいるに違いないと目をつけ、そのあとはこの店を監視していたらしく、気づかれないように偵察をしていると、店から女と男が出て来た。
 それは、散歩に出掛ける私と灯籠さんの姿であり、この店にいることは確定となった。

 それからも監視を続けた新選組だったが、また別の日、お祭りへ向かう私と灯籠さんの姿を見てこのままにしておくには危険だと判断した。

 死んだことになっている灯籠さんを、このまま人目につかせるわけにはいかず、この事実を知っている幹部隊士のみで店の監視を始めた。

 酷い深手を負っていたので、新選組からすれば死んでいてくれた方のが都合が良かったらしい。
 だが、生きているどころかまだ京にいて人目につく場所にも出歩いている。
 歩きながら警戒はしているようだったが、それでも十分に隊士達の目につくことも考えられる。

 そこで、元々隊士だった灯籠さんなら気づくに違いないと、わざと見つかるようにお店の客として扮した隊士を送り込み、警戒するように促し、外にでないようにさせた。

 だがこのまま放置するわけにもいかしず、局長の指示を受けて今日こうして来たというのが話の流れのようだ。



「これは局長が決めたことだ。鬼灯 灯籠、お前は人の目につかない場所に行きそこで暮らせ」

「わかった。だが、その後は放っておいてくれるんだろうな」

「ああ、勿論だ。場所もこちらで手配した」



 男が懐から紙を取り出すと、そこには地図が書かれている。
 周りに人も住んでいないため、人目に触れることもなく静かに暮らせるだろうと男は言う。

 その紙を灯籠さんが受け取り「わかった」と頷くと、男は店を出ていく。

 死んだことにした新選組のやり方には納得できないが、指示もないのに宮十さんを殺めてしまった灯籠さんは、本当なら新選組に掴まり切腹させられていたかもしれない。
 それを考えれば死んだことにされたくらいで済んだのだから大したことではないのかもしれないが、灯籠さんは殺したくて宮十さんを殺したわけではないのに。

 複雑な気持ちが胸に渦巻いていると、私の体は灯籠さんの腕の中に閉じ込められてしまった。



「俺の為にそんな顔をするな。俺は小毬と過ごす未来が大切なんだ」



 私も灯籠さんの背に腕を回すと、ぎゅっと抱き締めその存在を確かめる。



「俺と来てくれるか」

「はい、私も一緒に連れていってください」



 笑みを浮かべる私の頬に、一筋の涙が伝う。
 先程までは、もう二度と灯籠さんに会えないと思っていた。
 でもこうして二人が共に過ごす未来が今はある。


 その翌日。
 必要な分だけの少量の荷物を手に、二人は地図に書かれた場所へと向かう。

 出立前に店の外で立ち止まると、二人は出会った日のことを思い出していた。
 あの時は、お互いにこんな日が来ることを考えもしなかった。

 色々あった日々は全てこの店で起きた大切な二人の宝物。



「行こう」

「はい」



 新たな未来へと向かうため、私達は京の町を離れ、地図に書かれた場所へと足を進める。

 その場所は、京からは距離があり、途中の村や外で野宿などをしながら二日かけ、私達は目的地に辿り着くことができた。



「すっかり夜ですね」

「そうだな」



 二人は家の中の押し入れに仕舞われていた布団を敷くと、無言のまま座っていた。
 なんだか緊張してしまい言葉が出ずにいると、二人の視線が合う。
 見つめ合ったまま近付く距離に唇が重なり、満たされる温かい温もりに二人は笑みを溢す。


 それから月日は流れ、最初は何もない場所で苦労したものの、今ではここでの生活にもなれ、今日は二人近くを散歩していた。



「そういえば、前にもこんな風に散歩しましたよね」

「そうだったな。外の空気を吸った方がいいと言って、あんたは俺を無理矢理引きずり出したな」



 あの時のことを思い出して笑う灯籠さんに「ああでもしないと外に出てくれないと思ったからです」と頬を膨らます。

 そんな会話をしながら歩いていると家が見え、空を見ると茜色の光が周りを暖かく包み込むように照らしていた。



「綺麗ですね」

「ああ。茜色の空はあの日以来見る度に胸が苦しかったんだが、今は違う」



 茜色の空は灯籠さんにとって、あの苦しく悲しい日の出来事を思い出させていた。
 でも今は「あんたと見るこの空は暖かく感じる」と言ってくれる灯籠さんに「私もです」と答えると、灯籠さんは私に口づける。

 幸せに満たされた日々の時間全て、灯籠さんがあの茜空を見た日から決まっていたのかもしれない。

 あの日、灯籠さんが新選組から逃げて辿り着いたのが私のお店であり、そこで出会い日々を過ごした。
 そんな過ぎ行く日々に、お互いがお互いを想い大切にし必要とした。

 その日々の中には辛いことや悲しいこともあったが、今あるこの幸せに、私の瞳から涙が落ちる。



「ッ……すみません。こんなに幸せでいいのかなと考えてしまって」



 涙を手で拭っていると、灯籠さんは私を抱き寄せ「それは俺の台詞だ」と耳元で囁く。

 茜色の光が二人を包み込み、悲しみの色は暖かな色へと姿を変え、二人の未来も明るく照らしていくに違いない。


《完》
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