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世界が滅びて数億年/テーマ:ふるえる
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ふるえることもなく、ただ暗い中に沈んでいた私に聞こえてきたのは、ピキピキっという音とパリンっと割れる音。
眩しい日差しに目が眩む。
暗闇の中にいたときは感じなかった冷たさや寒さが一気に押し寄せ、私の身体はガタガタとふるえだす。
「まさか絶滅した人間が凍らされているとわな。珍しい物を手に入れたものだ」
どのくらいあの暗闇にいたのかわからないけど、外の光で視界が真っ白になるくらいには長い時が経ったんだろう。
「目が機能していないようだな」
何を言ったのか聞き取れなかったけど、その人物が言葉を唱えると私の視界が鮮明になる。
顔を上に向ければ、全身を黒で包み、長く黒い髪を右に結い前に垂らした人物がこちらを見ていた。
声で女性とばかり思っていたが、中性的な顔立ちに性別は判断できない。
「すまないな。目より先に身体を温める必要があったな」
その人物は、手に持った木の棒を私に向けるとまたも謎の言葉を発し、今度は私の周りを温かい風が纏う。
ふわりとしたその風は一瞬にしてズブ濡れだった全身を乾かしてしまい、まるで魔法のような出来事に興奮して口を動かすが、パクパクとするだけで声が出ない。
「魚のようだな。まあ、数億年も氷漬けにされていれば、声が出ぬのも無理はない」
そう言って私の身体を抱き上げると、突然歩き出す。
どこに向かっているのか尋ねたいのに声が出ないのは不便だ。
目を治してくれたりズブ濡れの全身を乾かしてくれたりしたから悪い人ではないと思うけど、知らないことばかりで不安になる。
暫くして見えてきたのは、木でできたお家。
その中へと連れられ椅子に座らされると、草などが置かれた場所から一つの小瓶を手に取り私へと差し出す。
受け取り中を見ると、小さく丸い玉状の物が入っている。
「私は声帯の魔法は苦手なんでな。その薬を毎日飲めば数日で声も出せるようになるだろう」
その日から私はこの人物、ティノンと共に生活をした。
声が出せない数日の間は筆談で会話をしたが、最初に私が文字を書いたとき「やはり古代語だな」と口にしたティノン。
今のこの世界では使われていない文字みたいだけど、ティノンは古代語の知識もあったため無事に筆談することができ、おかげで色々知ることができた。
私の最後の記憶。
突然世界の気温が低下していき、人類が滅びるとニュースが流れていたあの日のことは、今でも最近のことのように思い出せるというのに、気づけば数億年。
ティノンの話によれば、数億年前人類は滅び今では魔女のみが存在する世界になっているそうだ。
言い伝えでは、当時の魔女が人類を滅ぼし魔女だけの世界を作ったなど色々な話があるようだが真実は誰にもわからない。
ティノンは古代の物に興味を持ち、色々と調べる過程で古代語を覚えたりと知識をつけ、ついに、私という古代の人間を見つけた。
魔女の中には古代の人間に興味を抱く者は多くいたが、実際の人間を見つけることができた者はおらず、いつしか人間は存在しないものという認識へと変わっていった。
それでもやはり信じる者は少なからずいるもので、そのうちの一人がティノン。
ティノンは自身が知っている古代のことを話し、私はそれが正しいか間違っているかなどを語らった。
筆談での会話にも疲れてきたある日、声が元に戻った私が最初に口にしたのは「あの日、本当は何が起きたのか知りたい」ということ。
ティノンが今まで調べてきて、そのことについてだけはハッキリわからなかったのに、魔女でもない私が突き止められるのかはわからない。
それでも、私はあのときのことを知りたい。
「自身に起きた事を知るのはいいことだ。それに、私も興味がある」
魔女と古代の人間の奇妙な組み合わせ。
ただ自身の興味を満たしたいだけの魔女。
自身に起きた事を知りたい人間。
理由は少し違っても、真実を知りたい気持ちが同じ二人は、人類が滅びた原因を突き止めるため協力関係となる。
その先に待っている事実が良いものじゃないことはわかりきっているが、私もティノンも『知りたい』という探究心が突き動かす。
《完》
眩しい日差しに目が眩む。
暗闇の中にいたときは感じなかった冷たさや寒さが一気に押し寄せ、私の身体はガタガタとふるえだす。
「まさか絶滅した人間が凍らされているとわな。珍しい物を手に入れたものだ」
どのくらいあの暗闇にいたのかわからないけど、外の光で視界が真っ白になるくらいには長い時が経ったんだろう。
「目が機能していないようだな」
何を言ったのか聞き取れなかったけど、その人物が言葉を唱えると私の視界が鮮明になる。
顔を上に向ければ、全身を黒で包み、長く黒い髪を右に結い前に垂らした人物がこちらを見ていた。
声で女性とばかり思っていたが、中性的な顔立ちに性別は判断できない。
「すまないな。目より先に身体を温める必要があったな」
その人物は、手に持った木の棒を私に向けるとまたも謎の言葉を発し、今度は私の周りを温かい風が纏う。
ふわりとしたその風は一瞬にしてズブ濡れだった全身を乾かしてしまい、まるで魔法のような出来事に興奮して口を動かすが、パクパクとするだけで声が出ない。
「魚のようだな。まあ、数億年も氷漬けにされていれば、声が出ぬのも無理はない」
そう言って私の身体を抱き上げると、突然歩き出す。
どこに向かっているのか尋ねたいのに声が出ないのは不便だ。
目を治してくれたりズブ濡れの全身を乾かしてくれたりしたから悪い人ではないと思うけど、知らないことばかりで不安になる。
暫くして見えてきたのは、木でできたお家。
その中へと連れられ椅子に座らされると、草などが置かれた場所から一つの小瓶を手に取り私へと差し出す。
受け取り中を見ると、小さく丸い玉状の物が入っている。
「私は声帯の魔法は苦手なんでな。その薬を毎日飲めば数日で声も出せるようになるだろう」
その日から私はこの人物、ティノンと共に生活をした。
声が出せない数日の間は筆談で会話をしたが、最初に私が文字を書いたとき「やはり古代語だな」と口にしたティノン。
今のこの世界では使われていない文字みたいだけど、ティノンは古代語の知識もあったため無事に筆談することができ、おかげで色々知ることができた。
私の最後の記憶。
突然世界の気温が低下していき、人類が滅びるとニュースが流れていたあの日のことは、今でも最近のことのように思い出せるというのに、気づけば数億年。
ティノンの話によれば、数億年前人類は滅び今では魔女のみが存在する世界になっているそうだ。
言い伝えでは、当時の魔女が人類を滅ぼし魔女だけの世界を作ったなど色々な話があるようだが真実は誰にもわからない。
ティノンは古代の物に興味を持ち、色々と調べる過程で古代語を覚えたりと知識をつけ、ついに、私という古代の人間を見つけた。
魔女の中には古代の人間に興味を抱く者は多くいたが、実際の人間を見つけることができた者はおらず、いつしか人間は存在しないものという認識へと変わっていった。
それでもやはり信じる者は少なからずいるもので、そのうちの一人がティノン。
ティノンは自身が知っている古代のことを話し、私はそれが正しいか間違っているかなどを語らった。
筆談での会話にも疲れてきたある日、声が元に戻った私が最初に口にしたのは「あの日、本当は何が起きたのか知りたい」ということ。
ティノンが今まで調べてきて、そのことについてだけはハッキリわからなかったのに、魔女でもない私が突き止められるのかはわからない。
それでも、私はあのときのことを知りたい。
「自身に起きた事を知るのはいいことだ。それに、私も興味がある」
魔女と古代の人間の奇妙な組み合わせ。
ただ自身の興味を満たしたいだけの魔女。
自身に起きた事を知りたい人間。
理由は少し違っても、真実を知りたい気持ちが同じ二人は、人類が滅びた原因を突き止めるため協力関係となる。
その先に待っている事実が良いものじゃないことはわかりきっているが、私もティノンも『知りたい』という探究心が突き動かす。
《完》
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