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あなたに会いたい/テーマ:あなたに会いたい
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いつからだろう。
上司と部下の関係から変わりたいと思ったのは。
気づいたときには恋となり、上司から異性に変わった。
この気持ちを伝えるのは簡単だけど、伝えたあとの事を考えると言えなくなる。
断られたら気まずくて、辛くて、一緒の職場で働くなんて出来ないことは想像がつく。
「い……おーい」
呼ばれていることに気づかず慌てて返事をすれば、私の上司であり思い人の筒井さんが帰宅時間だと知らせてくれる。
今日の仕事は終えているので、デスクの上を片付けてしまえば定時での帰宅。
忙しい時は残業や仕事の持ち帰りもあるけど、ここの会社はホワイト企業で大満足。
会社を出て電車に乗れば、時間的に混んでいて立たなければならないのが辛いところなんだけど、私にとってそれは幸せな一時。
筒井さんは私が降りる駅の次の駅だから、お互い定時で上がるときは一緒に帰るのが決まりみたいになっている。
一緒の職場で上司とはいえ、入社して早一年。
一人での業務にも慣れてきたことで会話も減り、今では帰宅の電車内くらいしか近くにいられない。
隣に視線を向ければ、吊革を持って真っ直ぐに前を向く筒井さんの姿。
あまり見てると気づかれそうで直ぐに視線はそらすけど、触れそうな距離にいるんだと意識するだけで鼓動は高鳴る。
そんなことを考えていると、停車した駅から人が雪崩込む。
「大丈夫か。今日は人が多いな」
人とぶつかり、蹌踉けた体が横へと傾き筒井さんにぶつかるが微動だにしない。
吊革を持っていたからそこまでの勢いはなかったけど、筒井さんが咄嗟に体を私へと向けてくれたことで前から受け止められる形になり痛みもなく、その逞しさに顔が熱くなる。
「どうかしたか。何処か痛むのか」
私の体が筒井さんにピッタリとくっついていることを思い出し慌てて離れてから、真っ赤になっているであろう顔を見られないように伏し目がちに「大丈夫です」と伝える。
謝罪とお礼も口にしたけど、軽くパニックで何を言ったのか覚えていない。
少しして私が降りる駅に着き、筒井さんに挨拶をして駅に出ると、何故か筒井さんまで電車から降りた。
筒井さんは次の駅のはずなのに何で降りたんだろうと思っていたら「少しここに用事がある」と言われ、まだ一緒にいたい気持ちから「良ければお供します」と口にしていた。
「いや、用事は今済む」
その言葉の意味が理解できずにいた私に「電車内での言葉は本気か」と尋ねられ思い当たるのは、ぶつかったときに軽くパニックを起こしていたあの時。
自分で何を言ったか覚えていないんだけど、まさか「筒井さんにドキドキして何話したか覚えてません」なんて言えるはずもないので頷けば、筒井さんは片手で口元を覆う。
まさか、何か気に触るようなことでも言ったんじゃないかとヒヤヒヤしていていると、口元から手を離した筒井さんが真っ直ぐに私を見て「俺も好きだ」と言ってきた。
筒井さんの言葉が頭の中で何度も木霊する。
好きってどういう好きなのか。
何でそんな話になったのか。
理解するにはまだ時間がかかりそうだというのに、都会の電車は早すぎる。
次の電車が停車して「また明日」と言い残した筒井さんは再び電車の中へ。
扉が閉まり走り出した電車が見えなくなっても私はその場で固まっていた。
筒井さんの言葉から考えると、私は告白をしたということなのか。
それとも、恋愛ではない別の事を話してそれへの言葉だったのか。
記憶がない私は、ただ明日を待つしかない。
いつも以上に『あなたに会いたい』と思いながら。
《完》
上司と部下の関係から変わりたいと思ったのは。
気づいたときには恋となり、上司から異性に変わった。
この気持ちを伝えるのは簡単だけど、伝えたあとの事を考えると言えなくなる。
断られたら気まずくて、辛くて、一緒の職場で働くなんて出来ないことは想像がつく。
「い……おーい」
呼ばれていることに気づかず慌てて返事をすれば、私の上司であり思い人の筒井さんが帰宅時間だと知らせてくれる。
今日の仕事は終えているので、デスクの上を片付けてしまえば定時での帰宅。
忙しい時は残業や仕事の持ち帰りもあるけど、ここの会社はホワイト企業で大満足。
会社を出て電車に乗れば、時間的に混んでいて立たなければならないのが辛いところなんだけど、私にとってそれは幸せな一時。
筒井さんは私が降りる駅の次の駅だから、お互い定時で上がるときは一緒に帰るのが決まりみたいになっている。
一緒の職場で上司とはいえ、入社して早一年。
一人での業務にも慣れてきたことで会話も減り、今では帰宅の電車内くらいしか近くにいられない。
隣に視線を向ければ、吊革を持って真っ直ぐに前を向く筒井さんの姿。
あまり見てると気づかれそうで直ぐに視線はそらすけど、触れそうな距離にいるんだと意識するだけで鼓動は高鳴る。
そんなことを考えていると、停車した駅から人が雪崩込む。
「大丈夫か。今日は人が多いな」
人とぶつかり、蹌踉けた体が横へと傾き筒井さんにぶつかるが微動だにしない。
吊革を持っていたからそこまでの勢いはなかったけど、筒井さんが咄嗟に体を私へと向けてくれたことで前から受け止められる形になり痛みもなく、その逞しさに顔が熱くなる。
「どうかしたか。何処か痛むのか」
私の体が筒井さんにピッタリとくっついていることを思い出し慌てて離れてから、真っ赤になっているであろう顔を見られないように伏し目がちに「大丈夫です」と伝える。
謝罪とお礼も口にしたけど、軽くパニックで何を言ったのか覚えていない。
少しして私が降りる駅に着き、筒井さんに挨拶をして駅に出ると、何故か筒井さんまで電車から降りた。
筒井さんは次の駅のはずなのに何で降りたんだろうと思っていたら「少しここに用事がある」と言われ、まだ一緒にいたい気持ちから「良ければお供します」と口にしていた。
「いや、用事は今済む」
その言葉の意味が理解できずにいた私に「電車内での言葉は本気か」と尋ねられ思い当たるのは、ぶつかったときに軽くパニックを起こしていたあの時。
自分で何を言ったか覚えていないんだけど、まさか「筒井さんにドキドキして何話したか覚えてません」なんて言えるはずもないので頷けば、筒井さんは片手で口元を覆う。
まさか、何か気に触るようなことでも言ったんじゃないかとヒヤヒヤしていていると、口元から手を離した筒井さんが真っ直ぐに私を見て「俺も好きだ」と言ってきた。
筒井さんの言葉が頭の中で何度も木霊する。
好きってどういう好きなのか。
何でそんな話になったのか。
理解するにはまだ時間がかかりそうだというのに、都会の電車は早すぎる。
次の電車が停車して「また明日」と言い残した筒井さんは再び電車の中へ。
扉が閉まり走り出した電車が見えなくなっても私はその場で固まっていた。
筒井さんの言葉から考えると、私は告白をしたということなのか。
それとも、恋愛ではない別の事を話してそれへの言葉だったのか。
記憶がない私は、ただ明日を待つしかない。
いつも以上に『あなたに会いたい』と思いながら。
《完》
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