1話完結のSS集Ⅱ

月夜

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綺麗な私/テーマ:化ける

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 可愛いや美人の基準は誰が決めたのか。
 昔の美人は今で言う可愛いや美人とはまた違うと聞いたことがある。
 化粧で化ければそれは美人で可愛いのだろうか。
 だとしたら、誰でも美人や可愛いになれてしまう。

 見た目は持って生まれた自身の姿。
 化粧はまやかしに過ぎない。
 だから私は大人になってもメイクをせず、私自身の姿で過ごしている。
 なのに、何故周りはそれを良しとしないのか。



「社会人なんだから化粧くらいしないと」



 職場の先輩に言われたけど、何故そんなこと言うのかわからない。
 社会人になったら、まやかしの姿をしなければいけないなんて決まりはないけど、化粧は大人のマナーだと周りは言う。
 遂には上司にまで遠回しに言われてしまい、私は人生初のメイクをする。

 会社へ向かう間の道では、過ぎ行く人が私に視線を向けている。
 化けた姿にそこまでの威力があるんだろうかと思いながら会社につくなり、周りがシーンと静まり返る。



「ちょっと、こっちに来なさい」



 先輩に腕を掴まれ連れて行かれたのは化粧室。
 持ってきていたメイクポーチから化粧落としを取り出した先輩は、私の顔をゴシゴシと擦りメイクを落とす。



「貴方、ふざけてるの? そんな化物みたいなメイクして来るなんて」



 メイクを今までしたことのない私は、どうやら別の意味で化けたらしく、先輩がメイクをほどこしてくれた。
 鏡で見た自分の姿は、化粧をしてないときとあまり変化がない。



「貴方は元がいいから、ファンデーションをするくらいで十分よ。ほら、仕事に戻るわよ」



 先輩が化粧室から出ていったあと、私は鏡と向かい合う。
 私は元が化けてたんだと笑みを浮かべ、メイク落としでは決して落とすことの出来ない本来の私を鏡に思い浮かべる。
 赤いコートを着るのをやめ、マスクをやめ、現代社会に溶け込んだ自分。

 化粧なんかしなくても、元の私はこんなにも美しい。
 それでも隠さなければならないのは、この美貌に周りが逃げ出してしまわぬように。
 鏡に映る自分の口元に手を触れれば、本来の姿が鏡に浮かび上がる錯覚をおこす。
 口が裂けたその姿は、昔に噂された都市伝説そのもの──。


《完》
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