6 / 26
おまじない/テーマ:おくすり
しおりを挟む
私には、信頼出来る人が居なかった。
信じていた家族や友人に裏切られ、人を信じられなくなり気持ちは沈む。
そんな私にただ一つあるおまじないは『孤独を愛せ』という言葉。
孤独はいつも私に有り、決して裏切らない唯一のモノ。
「新人歓迎会をしようと思うんだけど」
「結構です」
自分達が騒ぎたい場を、新任歓迎会という名目でしようとしてるだけ。
誰も私の事なんて歓迎してない事くらい知ってる。
暗い、冷たい。
コソコソと悪口を陰で言ってる事に気づいてないとでも思ってるんだろうか。
「えー、主役がいなきゃ意味ないよ」
断っているのに執拗いこの男は私の教育係。
この人だけは周りが関わろうとしない中、私声をかけてくる物好き。
「教育係だからって気にかけていただかなくても大丈夫ですから」
「それだけじゃないって。君ともっと仲良くなりたいからさ」
ニコリと笑うその笑顔を見ると、昔の事を思い出して怒りがわく。
ヘラヘラ笑って味方なふりして、裏切る奴らと同じ。
「迷惑なんですよ。仕事の事だけ教えていただけたらいいですから」
冷たく一言言い残し、私はその場を離れた。
心で何度もおまじないの言葉を唱える。
私には孤独しか信じられるものはなく、孤独だけを愛すると決めた。
あんな笑顔にはもう騙されないと決めていたのに、その日以降も何度も絡んでくる。
皆で新任歓迎会じゃなくて俺と二人ならどうかとか、何でこの人はこんなにも執拗いんだろう。
仕事に関係のない話を毎日繰り返し、帰ろうと外に出た時に声をかけられついにキレた。
「いい加減にしてください! 私は一人が好きですし、貴方と仲良くなりたいとも思わない」
「それってさ、本心?」
そう聞かれて言葉が出ないのはなんでだろうと考えたとき、私は気づいてしまった。
おまじないはお呪いだったんだと。
自分が傷つかないように私は、恐怖をお呪いで避けていただけ。
「俺さ、君みたいな子知ってるんだよね。助けられなかった子をさ……」
いつも笑顔を絶やさない先輩が初めて見せる悲しげな表情を見て、全てを察した。
聞かなくてもわかる。
孤独を愛し続けた人間がその先どうなるかなんて。
いつしか私の中で呪いとなったお薬を、少し手放してもいいだろうか。
それでまたお薬が必要になったとしても、もう一度だけ人を信じてみたいと思ってしまったから。
「新人歓迎会、二人でならいいですよ」
「本当? やったね」
嬉しそうにニッと笑う先輩の笑顔につられるように、私は気づかれないようひっそりと口元を緩める──。
《完》
信じていた家族や友人に裏切られ、人を信じられなくなり気持ちは沈む。
そんな私にただ一つあるおまじないは『孤独を愛せ』という言葉。
孤独はいつも私に有り、決して裏切らない唯一のモノ。
「新人歓迎会をしようと思うんだけど」
「結構です」
自分達が騒ぎたい場を、新任歓迎会という名目でしようとしてるだけ。
誰も私の事なんて歓迎してない事くらい知ってる。
暗い、冷たい。
コソコソと悪口を陰で言ってる事に気づいてないとでも思ってるんだろうか。
「えー、主役がいなきゃ意味ないよ」
断っているのに執拗いこの男は私の教育係。
この人だけは周りが関わろうとしない中、私声をかけてくる物好き。
「教育係だからって気にかけていただかなくても大丈夫ですから」
「それだけじゃないって。君ともっと仲良くなりたいからさ」
ニコリと笑うその笑顔を見ると、昔の事を思い出して怒りがわく。
ヘラヘラ笑って味方なふりして、裏切る奴らと同じ。
「迷惑なんですよ。仕事の事だけ教えていただけたらいいですから」
冷たく一言言い残し、私はその場を離れた。
心で何度もおまじないの言葉を唱える。
私には孤独しか信じられるものはなく、孤独だけを愛すると決めた。
あんな笑顔にはもう騙されないと決めていたのに、その日以降も何度も絡んでくる。
皆で新任歓迎会じゃなくて俺と二人ならどうかとか、何でこの人はこんなにも執拗いんだろう。
仕事に関係のない話を毎日繰り返し、帰ろうと外に出た時に声をかけられついにキレた。
「いい加減にしてください! 私は一人が好きですし、貴方と仲良くなりたいとも思わない」
「それってさ、本心?」
そう聞かれて言葉が出ないのはなんでだろうと考えたとき、私は気づいてしまった。
おまじないはお呪いだったんだと。
自分が傷つかないように私は、恐怖をお呪いで避けていただけ。
「俺さ、君みたいな子知ってるんだよね。助けられなかった子をさ……」
いつも笑顔を絶やさない先輩が初めて見せる悲しげな表情を見て、全てを察した。
聞かなくてもわかる。
孤独を愛し続けた人間がその先どうなるかなんて。
いつしか私の中で呪いとなったお薬を、少し手放してもいいだろうか。
それでまたお薬が必要になったとしても、もう一度だけ人を信じてみたいと思ってしまったから。
「新人歓迎会、二人でならいいですよ」
「本当? やったね」
嬉しそうにニッと笑う先輩の笑顔につられるように、私は気づかれないようひっそりと口元を緩める──。
《完》
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】1話完結のSS集
月夜
恋愛
別作品『1話完結の短編集』より短いお話の詰め合わせです。
ちょっとした時間のお供にでもお読みくださいませ。
多ジャンルではありますが、恋愛のお話が多めになると思うので、カテゴリは恋愛にしております。
[各話の表記]
・テーマ(コンテスト用に書いた作品にのみ)
・他サイト含むコンテスト(受賞、優秀作品を頂いた作品のみ記載有り)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる