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もう少し/テーマ:AI
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ついに買ってしまったお手伝いAI。
かなり高くてコツコツ貯めたお給料でやっと購入できたAIロボ。
流石に持って帰るには大きいので配達してもらい、ようやく今日届いた。
この日を楽しみに仕事を頑張ってきた分期待もMAX。
壊さないように丁寧にダンボールから取り出し説明書に目を通す。
「教えた家事は全てこなせるって、もうお手伝いじゃなくて家政婦AIじゃん」
一人説明書にツッコみながら、取り敢えず電源を入れる。
全て音声で動くらしく、先ずは額を押しながら「起動」と声をかけるが反応なし。
まさか不良品かと思ったら「起動する前に一日充電をしてください」と書かれた文に、楽しみはまだお預けかと肩を落とす。
この日の為に有給を使って三日休みにしておいて良かった。
ダンボールに入っていた機械を取り出しAIの充電開始。
明日には使えるだろうとワクワクする気持ちが隠しきれないまま時間は過ぎ、やってきたその瞬間。
「起動」
私の声に反応してAIの瞼が開く。
青い瞳が特徴的な女性型AIロボ。
一目見た瞬間に即決して購入したけど、やっぱり透き通るような青い瞳が素敵すぎる。
「音声登録いたしました。顔認証登録」
機械音もなく立ち上がったAIに感動しつつ、次のステップに進む。
声を掛ければその通りに動くと説明書には書かれていたものの、本当に大丈夫なのかと思いながら声を掛ければその通りに動く。
滑らかな動きがまるで本物の人間みたい。
「洗濯を入れたら洗剤を入れて、あとはこのボタンを押すだけ」
「承知いたしました」
洗濯、料理、掃除と教えていくけど、ひとつひとつ自分でやって見せないと覚えてもらえないのが少し手間ではある。
流石に料理は一度に作れないので、朝食だけでも用意してもらえるように目玉焼き、焼き魚、味噌汁の作り方は教えた。
今日の晩御飯には炒飯を作るからそれも覚えさせれば、かなり私の生活が楽になる。
「朝ご飯は予約ボタンを押せば時間指定出来るからね」
「承知いたしました」
さっきから『承知いたしました』しか言わないから何だか心配だけど、明日も有給で仕事は休みなのでAIに朝食や掃除などを頼んで出来るか試してみよう。
今まで独り暮らしだったのに、何だか家族ができたみたい。
翌日、私はリビングで唖然としていた。
何をどうしたらこうなるのか。
魚や目玉焼きは焦げてるし、味噌汁には味噌の塊が入っている。
極めつけは、床に散らばった洗濯物を拾うAIの姿。
「えっと……。何があったの?」
「記憶通りに行動したのですが、同じ様に出来ませんでした」
そう言ったAIロボはどことなく落ち込んでいるように見えた。
感情はないから、そんな風に見える事なんてあるはずないんだけど、洗濯を拾う姿がなんだか放っておけず私も手伝う。
これじゃあなんの為に購入したのかわかんないけど、教えてすぐにやれなんて言う方が無理な話だ。
「出来るまで教えるから大丈夫だよ」
その後AIロボは、私が教えることを吸収していった。
家事の全てをこなせるようになり、会話も、まるで本物の人間と話しているようにまで学習していく。
「先輩、おはようございます」
「おはよう。最近アナタ元気ね」
「AIロボのお陰なんですよ」
職場の先輩に自分が購入したAIロボの事を話すと、先輩はスマホの電源を入れたかと思えば私に画面を見せた。
そこに映っていたのは私が購入したAIロボ。
その下には『不良が発覚回収中』の文字。
「不良って、どういうことですか?」
「やっぱりこのAIロボだったのね」
新たに販売された青い瞳のAIロボ。
学習が早く人気だったらしいが、あまりに人間に似過ぎたことから気味悪がる人が続出しクレームが多い事から回収になったとのこと。
確かに思い当たることはあるけど、私はそれを気味が悪いと思ったことはない。
「私の友達もこのAIロボを購入してて見たことがあるんだけど、何だか気味が悪かったわ」
先輩には早めに返品した方がいいと言われたけど、故障とかじゃないならそんな必要はないと思った。
それに彼女はもう私の家族なんだから、手放すなんてできない。
仕事帰りには夕飯を用意して待っていてくれたり、休みの日には一緒に料理をしたり。
私は彼女との生活が楽しいのだから。
「ただいま」
「おかえりなさい。夕飯出来てるよ」
優しい笑顔で迎えてくれる彼女を、誰が気味悪がるものか。
今夜も用意された夕飯を食べ、準備されたお風呂に入ったあとは彼女とお喋りする。
一人で生活していた頃は、楽しみなんて何もなかったのに、今では彼女のお陰で笑う事が増えた。
「ふあー、そろそろ眠るね。おやすみ」
「おやすみ」
私が眠る時、彼女は自分で自身の充電をする。
充電という名の睡眠を。
AIロボに名前はない。
AIロボに感情はない。
もし人に近づくAIがいたら、それはもう人間そのものなんだろうか。
ふと浮かんだ考えは瞼を閉じれば沈んでいく。
「もう少しだよ──」
遠くで聞こえた声も沈む。
聞こえた声は誰のものかなんてわからない。
眠りの中へと一緒に落ちる。
──私が人間になるまでもう少し。
《完》
かなり高くてコツコツ貯めたお給料でやっと購入できたAIロボ。
流石に持って帰るには大きいので配達してもらい、ようやく今日届いた。
この日を楽しみに仕事を頑張ってきた分期待もMAX。
壊さないように丁寧にダンボールから取り出し説明書に目を通す。
「教えた家事は全てこなせるって、もうお手伝いじゃなくて家政婦AIじゃん」
一人説明書にツッコみながら、取り敢えず電源を入れる。
全て音声で動くらしく、先ずは額を押しながら「起動」と声をかけるが反応なし。
まさか不良品かと思ったら「起動する前に一日充電をしてください」と書かれた文に、楽しみはまだお預けかと肩を落とす。
この日の為に有給を使って三日休みにしておいて良かった。
ダンボールに入っていた機械を取り出しAIの充電開始。
明日には使えるだろうとワクワクする気持ちが隠しきれないまま時間は過ぎ、やってきたその瞬間。
「起動」
私の声に反応してAIの瞼が開く。
青い瞳が特徴的な女性型AIロボ。
一目見た瞬間に即決して購入したけど、やっぱり透き通るような青い瞳が素敵すぎる。
「音声登録いたしました。顔認証登録」
機械音もなく立ち上がったAIに感動しつつ、次のステップに進む。
声を掛ければその通りに動くと説明書には書かれていたものの、本当に大丈夫なのかと思いながら声を掛ければその通りに動く。
滑らかな動きがまるで本物の人間みたい。
「洗濯を入れたら洗剤を入れて、あとはこのボタンを押すだけ」
「承知いたしました」
洗濯、料理、掃除と教えていくけど、ひとつひとつ自分でやって見せないと覚えてもらえないのが少し手間ではある。
流石に料理は一度に作れないので、朝食だけでも用意してもらえるように目玉焼き、焼き魚、味噌汁の作り方は教えた。
今日の晩御飯には炒飯を作るからそれも覚えさせれば、かなり私の生活が楽になる。
「朝ご飯は予約ボタンを押せば時間指定出来るからね」
「承知いたしました」
さっきから『承知いたしました』しか言わないから何だか心配だけど、明日も有給で仕事は休みなのでAIに朝食や掃除などを頼んで出来るか試してみよう。
今まで独り暮らしだったのに、何だか家族ができたみたい。
翌日、私はリビングで唖然としていた。
何をどうしたらこうなるのか。
魚や目玉焼きは焦げてるし、味噌汁には味噌の塊が入っている。
極めつけは、床に散らばった洗濯物を拾うAIの姿。
「えっと……。何があったの?」
「記憶通りに行動したのですが、同じ様に出来ませんでした」
そう言ったAIロボはどことなく落ち込んでいるように見えた。
感情はないから、そんな風に見える事なんてあるはずないんだけど、洗濯を拾う姿がなんだか放っておけず私も手伝う。
これじゃあなんの為に購入したのかわかんないけど、教えてすぐにやれなんて言う方が無理な話だ。
「出来るまで教えるから大丈夫だよ」
その後AIロボは、私が教えることを吸収していった。
家事の全てをこなせるようになり、会話も、まるで本物の人間と話しているようにまで学習していく。
「先輩、おはようございます」
「おはよう。最近アナタ元気ね」
「AIロボのお陰なんですよ」
職場の先輩に自分が購入したAIロボの事を話すと、先輩はスマホの電源を入れたかと思えば私に画面を見せた。
そこに映っていたのは私が購入したAIロボ。
その下には『不良が発覚回収中』の文字。
「不良って、どういうことですか?」
「やっぱりこのAIロボだったのね」
新たに販売された青い瞳のAIロボ。
学習が早く人気だったらしいが、あまりに人間に似過ぎたことから気味悪がる人が続出しクレームが多い事から回収になったとのこと。
確かに思い当たることはあるけど、私はそれを気味が悪いと思ったことはない。
「私の友達もこのAIロボを購入してて見たことがあるんだけど、何だか気味が悪かったわ」
先輩には早めに返品した方がいいと言われたけど、故障とかじゃないならそんな必要はないと思った。
それに彼女はもう私の家族なんだから、手放すなんてできない。
仕事帰りには夕飯を用意して待っていてくれたり、休みの日には一緒に料理をしたり。
私は彼女との生活が楽しいのだから。
「ただいま」
「おかえりなさい。夕飯出来てるよ」
優しい笑顔で迎えてくれる彼女を、誰が気味悪がるものか。
今夜も用意された夕飯を食べ、準備されたお風呂に入ったあとは彼女とお喋りする。
一人で生活していた頃は、楽しみなんて何もなかったのに、今では彼女のお陰で笑う事が増えた。
「ふあー、そろそろ眠るね。おやすみ」
「おやすみ」
私が眠る時、彼女は自分で自身の充電をする。
充電という名の睡眠を。
AIロボに名前はない。
AIロボに感情はない。
もし人に近づくAIがいたら、それはもう人間そのものなんだろうか。
ふと浮かんだ考えは瞼を閉じれば沈んでいく。
「もう少しだよ──」
遠くで聞こえた声も沈む。
聞こえた声は誰のものかなんてわからない。
眠りの中へと一緒に落ちる。
──私が人間になるまでもう少し。
《完》
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