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小指の契約/テーマ:これからもよろしく
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私の人生は最悪だった。
学校ではイジメられ、家では母からの暴力。
私の顔や身体に痣がたえることはないのに、周りの大人は見て見ぬふり。
こんな人生が嫌なのに、怖くて死ぬことすらできない自分が逃げ出せる場所なんてない。
苦しみも、痛みもなく死ぬ方法はないかって調べていたとき思った。
何で私が死ぬ必要があるのかと。
悪いのは私をイジメる奴等と親、そして傍観者の奴らだ。
検索内容を『復讐』に変えて調べるけど、どれも私が警察送りになるものばかり。
「なんかないの、アイツ等だけに復讐する方法は」
イライラしながらスライドする手が止まる。
書かれていたのは『悪魔契約』というもの。
対価は契約する悪魔によって異なると記載されているけど、つまり私の代わりに悪魔がアイツ等に罰を与えてくれるってこと。
これなら、私が罪に問われることはないけど、悪魔なんて物語の中だけの存在。
「本当に呼び出せるのかな……」
悪魔を呼び出すのに必要な物を確認すると、つい「うっ」となってしまうような物ばかり。
死骸なんて用意できるはずがないと諦めかけたとき「材料が揃えられない場合、一人の人間の命と引き換えに召喚可能」という文字を見つける。
方法から契約の流れまで全て書かれていた文を読み終えると、私は表情をニヤリと歪ませた。
「これなら簡単だね」
翌日、学校から帰ってきた私が鍵を出したとき、中から電話の音が聞こえ扉を開け電話を取る。
相手は警察で、母が事故に合い亡くなったと言う知らせだった。
ニヤつく表情を隠しもせず受け答えをしたあと、私は自室へと向かう。
警察の人は父にも電話をすると言っていたけど、あの人は私達に興味なんてないから葬儀にすら来ないだろう。
大声で笑いたいのを必死に堪え、引き出しから一枚の紙を取り出す。
私の血で描かれた印は悪魔を召喚するためのもの。
悪魔は誰が現れるのかわからないみたいだけど、悪魔召喚する材料に母を使えるなんて最高。
私に散々暴力を振るってきた報いよ。
召喚する前に復讐する相手が一人減ったけど、まだまだ沢山いる。
母の魂を召喚の材料にしたから、あとはこの紙に描かれた印に私の血を垂らすだけ。
痛いのは嫌だけど、アイツ等に与えられた痛みに比べたらどうってことない。
指先を刃物でスッと切ると、ポタリと紙の上に血が落ちる。
なのに、何も現れない。
「なんでよ! お母さんの事故は偶然だったの」
私は紙を手に取るとビリビリに破り捨てる。
折角復讐できると思ったのにやっぱり悪魔なんて物語の世界だけなんだと、椅子に座り机に顔を伏せる。
母が居なくなっても学校でのイジメがなくなるわけじゃない。
今日は、母の魂が材料になるか楽しみだったからイジメにも耐えれた。
もし母に何かあれば、昨日読んだ文は全て本当だと証明されたも同然だから。
「書いてあった通りにしたのに」
机の引き出しを開ければ、一枚の写真がある。
材料にする人間の写真と印の描かれた紙を一緒に保管する。
翌日、その人間の魂は材料として捧げられると書かれていた。
信じていたわけじゃないけど、母が亡くなったと連絡があった瞬間、私の鼓動は高鳴り何とも言えない感情が込み上げ、あれは本物なんだと思ってしまったからこそ絶望が押し寄せる。
「契約の紙をこのようにしてしまわれるとは。もうキャンセルは不可能ですよ」
誰もいないはずの部屋に突如聞こえた男性の声。
バッと顔を上げれば、私の横に知らない男性が立っており、机の上に置かれたバラバラの紙に視線を向けていた。
私は驚き椅子から勢い良く立ち上がると距離を取る。
「だ、誰!」
「誰とは随分なご挨拶ですね。アナタが私を呼んだのでしょう」
ニヤリと笑う男性は、バラバラになった紙を全て掴むと私の前に差し出し、目の前で紙をボッと消して見せた。
「もしかして、悪魔?」
悪魔といえば、翼や角、尻尾なんかがあると思っていたけど、どう見ても普通の人間。
「仰る通りです。アナタの母君の魂を召喚材料として捧げられたでしょう」
それを知っているのは私だけ。
間違いなく目の前のこの男性は悪魔。
私は召喚に成功したんだ。
「私と今すぐ契約をして。イジメてきた奴等や傍観してきた奴等に復習をしてほしいの」
「承知致しました。では、左手を前に出していただけますか」
言われた通りに差し出せば悪魔の手が重ねられ、離れたときには私の小指に細く黒い跡がついていた。
「この印は悪魔と契約をした証です。改めまして、これからよろしくお願いしますね」
私は悪魔との契約に成功した。
これで私の周りの邪魔者は皆消える。
自分の手は汚さず警察に捕まることもない。
「奏さん事故だって」
「なんか最近多いよね。担任もこの前──」
私をイジメてた奴等も傍観してた奴等も次々亡くなっていく。
学校で笑いを堪えるのが大変だったけど、残りはあと数人。
一日一日誰かが死ぬ。
近所に住んでる叔母さんも亡くなった。
皆私を苦しめたり傍観して助けてくれなかったからその罰が下っただけ。
クラスの数人も私がイジメられてるとき目があったのに無視して逃げた。
そいつ等も全員許さない。
「今宵で契約した復讐は全て完了致しました」
「あはは、ありがとう。アナタのお陰で心がスッとしたわ」
翌日。
清々しい気持ちで席に座った私に三人の女子が近づいてきた。
表情を見た瞬間、私は察してしまった。
またイジメられるんだと。
誰もいない教室に連れて行かれ、私はまた痛みと苦しみを味わう。
もう私を苦しめてきた奴等はいなくなったはずなのに、なんでまたこんな目に合わないといけないの。
「あんた気持ち悪いんだよ」
「クラスの子が亡くなったのにお前笑ってただろ」
「亡くなった奏は私の友達だったんだよ」
そんなの私には関係ないし、イジメてたアイツ等が悪いのになんで私が責められてるの。
皆事故で亡くなったのに、やり場のない感情を私にぶつけてるだけじゃないか。
こんなこと許されていいわけない。
許してはいけない。
汚れた制服で家に帰った私に「おやおや、どうされたのですか」と悪魔が声をかけてくる。
俯く顔を上げた私は歪んだ笑みを浮かべ「まだ、全員じゃないわよ」と言えば、ニヤリと笑った悪魔が契約のし直しを提案する。
前回契約時と人数が変わるなら当然だ。
再度契約をすると、私の小指の黒い線が一瞬絞まったように感じたけど関係ない。
これで契約が成立したのだから、今日受けた痛みより更に痛くて苦しい復讐をあの三人に味合わせるんだ。
「これからもよろしくお願いしますね。我が契約者様」
悪魔の契約には対価が必要。
その対価は悪魔により異なる。
そんな事など忘れ、何度も何度も繰り返し契約をするが、何人消しても新たに現れ、私の日々に平和は訪れない。
「昨夜学生がベッドで亡くなった状態で発見されました。原因は不明とのことで──」
対価は悪魔により異なる。
願いの叶え方も悪魔により異なる。
もし悪魔との契約を軽く考えれば如何なるか。
「死んでもなお繰り返される絶望、それこそ私の対価。アナタは本当に理想の方だ」
彼女の魂は閉じ込められ永遠の絶望を繰り返す。
決して幸せになることはない。
契約を交わした時点で彼女の死は決まっていた。
左手薬指は永遠の誓い。
左手小指は絶望の誓い。
黒い糸はその印。
覚めることのない世界で契約を繰り返す程に、魂はその世界に縛り付けられる。
囚われた魂が絶望に堕ちた時こそ、悪魔にとって最高の瞬間でありご馳走となる。
《完》
学校ではイジメられ、家では母からの暴力。
私の顔や身体に痣がたえることはないのに、周りの大人は見て見ぬふり。
こんな人生が嫌なのに、怖くて死ぬことすらできない自分が逃げ出せる場所なんてない。
苦しみも、痛みもなく死ぬ方法はないかって調べていたとき思った。
何で私が死ぬ必要があるのかと。
悪いのは私をイジメる奴等と親、そして傍観者の奴らだ。
検索内容を『復讐』に変えて調べるけど、どれも私が警察送りになるものばかり。
「なんかないの、アイツ等だけに復讐する方法は」
イライラしながらスライドする手が止まる。
書かれていたのは『悪魔契約』というもの。
対価は契約する悪魔によって異なると記載されているけど、つまり私の代わりに悪魔がアイツ等に罰を与えてくれるってこと。
これなら、私が罪に問われることはないけど、悪魔なんて物語の中だけの存在。
「本当に呼び出せるのかな……」
悪魔を呼び出すのに必要な物を確認すると、つい「うっ」となってしまうような物ばかり。
死骸なんて用意できるはずがないと諦めかけたとき「材料が揃えられない場合、一人の人間の命と引き換えに召喚可能」という文字を見つける。
方法から契約の流れまで全て書かれていた文を読み終えると、私は表情をニヤリと歪ませた。
「これなら簡単だね」
翌日、学校から帰ってきた私が鍵を出したとき、中から電話の音が聞こえ扉を開け電話を取る。
相手は警察で、母が事故に合い亡くなったと言う知らせだった。
ニヤつく表情を隠しもせず受け答えをしたあと、私は自室へと向かう。
警察の人は父にも電話をすると言っていたけど、あの人は私達に興味なんてないから葬儀にすら来ないだろう。
大声で笑いたいのを必死に堪え、引き出しから一枚の紙を取り出す。
私の血で描かれた印は悪魔を召喚するためのもの。
悪魔は誰が現れるのかわからないみたいだけど、悪魔召喚する材料に母を使えるなんて最高。
私に散々暴力を振るってきた報いよ。
召喚する前に復讐する相手が一人減ったけど、まだまだ沢山いる。
母の魂を召喚の材料にしたから、あとはこの紙に描かれた印に私の血を垂らすだけ。
痛いのは嫌だけど、アイツ等に与えられた痛みに比べたらどうってことない。
指先を刃物でスッと切ると、ポタリと紙の上に血が落ちる。
なのに、何も現れない。
「なんでよ! お母さんの事故は偶然だったの」
私は紙を手に取るとビリビリに破り捨てる。
折角復讐できると思ったのにやっぱり悪魔なんて物語の世界だけなんだと、椅子に座り机に顔を伏せる。
母が居なくなっても学校でのイジメがなくなるわけじゃない。
今日は、母の魂が材料になるか楽しみだったからイジメにも耐えれた。
もし母に何かあれば、昨日読んだ文は全て本当だと証明されたも同然だから。
「書いてあった通りにしたのに」
机の引き出しを開ければ、一枚の写真がある。
材料にする人間の写真と印の描かれた紙を一緒に保管する。
翌日、その人間の魂は材料として捧げられると書かれていた。
信じていたわけじゃないけど、母が亡くなったと連絡があった瞬間、私の鼓動は高鳴り何とも言えない感情が込み上げ、あれは本物なんだと思ってしまったからこそ絶望が押し寄せる。
「契約の紙をこのようにしてしまわれるとは。もうキャンセルは不可能ですよ」
誰もいないはずの部屋に突如聞こえた男性の声。
バッと顔を上げれば、私の横に知らない男性が立っており、机の上に置かれたバラバラの紙に視線を向けていた。
私は驚き椅子から勢い良く立ち上がると距離を取る。
「だ、誰!」
「誰とは随分なご挨拶ですね。アナタが私を呼んだのでしょう」
ニヤリと笑う男性は、バラバラになった紙を全て掴むと私の前に差し出し、目の前で紙をボッと消して見せた。
「もしかして、悪魔?」
悪魔といえば、翼や角、尻尾なんかがあると思っていたけど、どう見ても普通の人間。
「仰る通りです。アナタの母君の魂を召喚材料として捧げられたでしょう」
それを知っているのは私だけ。
間違いなく目の前のこの男性は悪魔。
私は召喚に成功したんだ。
「私と今すぐ契約をして。イジメてきた奴等や傍観してきた奴等に復習をしてほしいの」
「承知致しました。では、左手を前に出していただけますか」
言われた通りに差し出せば悪魔の手が重ねられ、離れたときには私の小指に細く黒い跡がついていた。
「この印は悪魔と契約をした証です。改めまして、これからよろしくお願いしますね」
私は悪魔との契約に成功した。
これで私の周りの邪魔者は皆消える。
自分の手は汚さず警察に捕まることもない。
「奏さん事故だって」
「なんか最近多いよね。担任もこの前──」
私をイジメてた奴等も傍観してた奴等も次々亡くなっていく。
学校で笑いを堪えるのが大変だったけど、残りはあと数人。
一日一日誰かが死ぬ。
近所に住んでる叔母さんも亡くなった。
皆私を苦しめたり傍観して助けてくれなかったからその罰が下っただけ。
クラスの数人も私がイジメられてるとき目があったのに無視して逃げた。
そいつ等も全員許さない。
「今宵で契約した復讐は全て完了致しました」
「あはは、ありがとう。アナタのお陰で心がスッとしたわ」
翌日。
清々しい気持ちで席に座った私に三人の女子が近づいてきた。
表情を見た瞬間、私は察してしまった。
またイジメられるんだと。
誰もいない教室に連れて行かれ、私はまた痛みと苦しみを味わう。
もう私を苦しめてきた奴等はいなくなったはずなのに、なんでまたこんな目に合わないといけないの。
「あんた気持ち悪いんだよ」
「クラスの子が亡くなったのにお前笑ってただろ」
「亡くなった奏は私の友達だったんだよ」
そんなの私には関係ないし、イジメてたアイツ等が悪いのになんで私が責められてるの。
皆事故で亡くなったのに、やり場のない感情を私にぶつけてるだけじゃないか。
こんなこと許されていいわけない。
許してはいけない。
汚れた制服で家に帰った私に「おやおや、どうされたのですか」と悪魔が声をかけてくる。
俯く顔を上げた私は歪んだ笑みを浮かべ「まだ、全員じゃないわよ」と言えば、ニヤリと笑った悪魔が契約のし直しを提案する。
前回契約時と人数が変わるなら当然だ。
再度契約をすると、私の小指の黒い線が一瞬絞まったように感じたけど関係ない。
これで契約が成立したのだから、今日受けた痛みより更に痛くて苦しい復讐をあの三人に味合わせるんだ。
「これからもよろしくお願いしますね。我が契約者様」
悪魔の契約には対価が必要。
その対価は悪魔により異なる。
そんな事など忘れ、何度も何度も繰り返し契約をするが、何人消しても新たに現れ、私の日々に平和は訪れない。
「昨夜学生がベッドで亡くなった状態で発見されました。原因は不明とのことで──」
対価は悪魔により異なる。
願いの叶え方も悪魔により異なる。
もし悪魔との契約を軽く考えれば如何なるか。
「死んでもなお繰り返される絶望、それこそ私の対価。アナタは本当に理想の方だ」
彼女の魂は閉じ込められ永遠の絶望を繰り返す。
決して幸せになることはない。
契約を交わした時点で彼女の死は決まっていた。
左手薬指は永遠の誓い。
左手小指は絶望の誓い。
黒い糸はその印。
覚めることのない世界で契約を繰り返す程に、魂はその世界に縛り付けられる。
囚われた魂が絶望に堕ちた時こそ、悪魔にとって最高の瞬間でありご馳走となる。
《完》
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