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恋を教えてお狐様
3 恋を教えてお狐様
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「どうかしたのか?」
「う、ううん。何でもないの」
お願いだから余計なことはしないようにと祈るも、その願いは届くことはなかった。
それもそのはず、どんなに神に願っても、宙に浮くアイツこそがその神本人なのだから。
「うわッ!?」
その時、突然拓海くんが私へと倒れ、女の力で支えきることなどできるはずもなく二人で床に倒れてしまう。
「わ、悪い!! 怪我はないか!?」
「う、うん。何とか」
拓海くんは慌てて私の上から退くと、手を差し伸べてくれる。
その手にそっと掴まると、私の体が引っ張り起こされた。
「ありがとう」
「いや、俺が悪かったんだし。でも、何か背中を誰かに押された気がしたんだけよな……。まぁ、色未に怪我なくてよかった」
笑みを浮かべながら安堵する拓海くんはやっぱり優しくて、こういう人を好きになりたいなと思えた。
だが、背中を誰かに押されたという拓海くんの言葉に、まさかと嫌な予感が頭に過り、今も宙でプカプカと浮くお狐様へと視線を向けると、ニコニコしながらピースをしている。
やっぱりかと思いながらも皆がいる前でお狐様を怒ることもできず、怒りをグッと抑え席へとつく。
それから授業も終わり休み時間になると、私は屋上へと向かった。
「アンタねぇ……」
「どうだ、いい考えだろ? ドキッとしただろ?」
「するわけないでしょッ!!」
そもそも拓海くんのことを好きかもわからないのに、あんなことをされても迷惑なだけだ。
「よし、わかった。次は任せとけ」
「え、次って、ちょっとッ!」
お狐様は何処かへと行ってしまい、屋上に一人取り残された私は嫌な予感を感じながらも教室へと戻る。
「任せとけって、また余計なことしないといいんだけど」
結局それきりお狐様が私の前に現れることはなく、時間は過ぎていき下校時刻となった。
「お狐様、一体何処に行ったんだろう?」
一人帰路を歩きながらお狐様のことを考えていると、突然背後から名を呼ばれ振り返る。
すると、拓海くんが走ってくる姿が見えた。
「拓海くん、どうしたの?」
「いや、ちょっとこっちに用事があってさ。途中まで一緒に帰らねぇか?」
「うん、いいよ」
昨日はお狐様と帰ったが、こうして人と帰るのは久しぶりかもしれない。
初めの頃は友達と帰っていたが、次第に話題は恋バナの話ばかりになり、段々と友達を避けるように一人で帰るようになってしまった。
それに、男子と帰るなんて初めてのことで、何だか不思議な気分だ。
「そういえば、拓海くんの用事って何?」
「あぁ、用事ってのは、色未に伝えたいことがあってさ」
一体なんだろうかと首を傾げると、思いもしない言葉が聞こえてくる。
私は拓海くんと別れた後、ぼーっとした頭で家へ帰ると、部屋にはお狐様の姿があった。
「あれから色々考えたんだけどさ、やっぱ恋に発展するには、って、どうしたんだよ。さっきからぼーっとしてさ」
部屋に入ったとたん話し出すお狐様だったが、私の頭はさっきのことで一杯で、お狐様の言葉など耳に入ってこない。
「告白、された……」
「はッ!? 誰にだよ!?」
「拓海くん」
今日の帰り道での事が脳裏に思い出され、拓海くんに言われた言葉がまだ脳裏で響いているように思える。
「用事っていうのは、色未に伝えたいことがあって、さ」
「伝えたいこと?」
よくわからず首を傾げると、拓海くんは私を真っ直ぐに見つめ口を開いた。
「好きだ、俺と付き合ってほしい」
突然の告白に返事ができずにいると、拓海くんは返事はいつでもいいからとその場を去ってしまった。
「なるほどな。初めての告白にぼーっとしてたってわけか。まぁ良かったじゃねぇか。これで恋がわかるんだしよ」
「駄目なの」
「何がだよ?」
「私、拓海くんのこと好きじゃないから……」
私が知りたいのはちゃんとした恋であり、気持ちがない恋愛を望んではいない。
お狐様は私が拓海くんのことを好きだと勘違いしているらしく、驚いた表情を浮かべている。
「いやいやいや!! 付き合ってみたら好きって気持ちも芽生えるかもしんねぇぜ?」
「そんな適当な気持ちで付き合ったら、拓海くんに失礼だよ」
「そうだよな……。悪い、俺余計なことしちまったよな。勝手にお前がアイツのこと好きだって勘違いしてさ」
「ううん、いいの。簡単に恋がわかるなんて思ってないから」
恋をしたことがない私にとって恋というものは簡単ではない。
翌日、私は拓海くんに屋上に来てもらい、告白の返事をした。
お狐様は、本当に断ってよかったのかと言っていたが、やっぱり拓海くんに思う感情は恋愛とは違うものだと感じた。
適当な気持ちで拓海くんと付き合ってはいけないと思ったからこそ断ることに決めたのだ。
やっぱり恋は難しく、今まで通り恋はさっぱりわからないが、今までの日常と少し変わったことがある。
あの日までは、私は普通に恋を夢見る女子高生だった。
でも、お狐様と出会って一緒に生活をするようになり、私の日常は大きく変化していた。
「おい」
「何よ」
「またこれ生じゃねぇか」
お狐様に油揚げをあげたのだが、生だということに怒っているらしく、かじった油揚げを吐き出している。
「うっさいわね。私に恋を教えるとかなんとか言って、私に何を教えてくれたってのよ」
「うッ……そ、それはだな、これから……」
「次生だとか文句言ったら油揚げあげないから」
少し強い口調で言ってしまい、言い過ぎたかなと思い謝ろうと後ろを振り返ってみると、私のベッドで生の油揚げをモグモグと黙って食べているお狐様の姿があった。
そんなお狐様が可愛いかも、なんて思ってしまい、クスッと笑みが溢れる。
最近では、こんな日常が当たり前になってきてしまい、お狐様に可愛いなんて思うことも増えてきていた。
まだ恋については何もわからないが、今はこの毎日が楽しいと感じ始めている。
「はい」
「なんだ? って、これ!!」
「まぁ、一応アンタも神様なわけだし」
生ではない油揚げを渡すと、お狐様は笑みを浮かべお礼言う。
私の手から油揚げを受け取ると、パクリと美味しそうに食べているお狐様の姿に胸がキュンとする。
お狐様の笑みを見たとたん、私の鼓動が騒がしくなる。
だがこの意味を、まだ私は知らなかったのだ。
そしてこの感情を知ったとき、私の何かが大きく変わることになる。
だがそれはまだ、先のお話──。
《完》
「う、ううん。何でもないの」
お願いだから余計なことはしないようにと祈るも、その願いは届くことはなかった。
それもそのはず、どんなに神に願っても、宙に浮くアイツこそがその神本人なのだから。
「うわッ!?」
その時、突然拓海くんが私へと倒れ、女の力で支えきることなどできるはずもなく二人で床に倒れてしまう。
「わ、悪い!! 怪我はないか!?」
「う、うん。何とか」
拓海くんは慌てて私の上から退くと、手を差し伸べてくれる。
その手にそっと掴まると、私の体が引っ張り起こされた。
「ありがとう」
「いや、俺が悪かったんだし。でも、何か背中を誰かに押された気がしたんだけよな……。まぁ、色未に怪我なくてよかった」
笑みを浮かべながら安堵する拓海くんはやっぱり優しくて、こういう人を好きになりたいなと思えた。
だが、背中を誰かに押されたという拓海くんの言葉に、まさかと嫌な予感が頭に過り、今も宙でプカプカと浮くお狐様へと視線を向けると、ニコニコしながらピースをしている。
やっぱりかと思いながらも皆がいる前でお狐様を怒ることもできず、怒りをグッと抑え席へとつく。
それから授業も終わり休み時間になると、私は屋上へと向かった。
「アンタねぇ……」
「どうだ、いい考えだろ? ドキッとしただろ?」
「するわけないでしょッ!!」
そもそも拓海くんのことを好きかもわからないのに、あんなことをされても迷惑なだけだ。
「よし、わかった。次は任せとけ」
「え、次って、ちょっとッ!」
お狐様は何処かへと行ってしまい、屋上に一人取り残された私は嫌な予感を感じながらも教室へと戻る。
「任せとけって、また余計なことしないといいんだけど」
結局それきりお狐様が私の前に現れることはなく、時間は過ぎていき下校時刻となった。
「お狐様、一体何処に行ったんだろう?」
一人帰路を歩きながらお狐様のことを考えていると、突然背後から名を呼ばれ振り返る。
すると、拓海くんが走ってくる姿が見えた。
「拓海くん、どうしたの?」
「いや、ちょっとこっちに用事があってさ。途中まで一緒に帰らねぇか?」
「うん、いいよ」
昨日はお狐様と帰ったが、こうして人と帰るのは久しぶりかもしれない。
初めの頃は友達と帰っていたが、次第に話題は恋バナの話ばかりになり、段々と友達を避けるように一人で帰るようになってしまった。
それに、男子と帰るなんて初めてのことで、何だか不思議な気分だ。
「そういえば、拓海くんの用事って何?」
「あぁ、用事ってのは、色未に伝えたいことがあってさ」
一体なんだろうかと首を傾げると、思いもしない言葉が聞こえてくる。
私は拓海くんと別れた後、ぼーっとした頭で家へ帰ると、部屋にはお狐様の姿があった。
「あれから色々考えたんだけどさ、やっぱ恋に発展するには、って、どうしたんだよ。さっきからぼーっとしてさ」
部屋に入ったとたん話し出すお狐様だったが、私の頭はさっきのことで一杯で、お狐様の言葉など耳に入ってこない。
「告白、された……」
「はッ!? 誰にだよ!?」
「拓海くん」
今日の帰り道での事が脳裏に思い出され、拓海くんに言われた言葉がまだ脳裏で響いているように思える。
「用事っていうのは、色未に伝えたいことがあって、さ」
「伝えたいこと?」
よくわからず首を傾げると、拓海くんは私を真っ直ぐに見つめ口を開いた。
「好きだ、俺と付き合ってほしい」
突然の告白に返事ができずにいると、拓海くんは返事はいつでもいいからとその場を去ってしまった。
「なるほどな。初めての告白にぼーっとしてたってわけか。まぁ良かったじゃねぇか。これで恋がわかるんだしよ」
「駄目なの」
「何がだよ?」
「私、拓海くんのこと好きじゃないから……」
私が知りたいのはちゃんとした恋であり、気持ちがない恋愛を望んではいない。
お狐様は私が拓海くんのことを好きだと勘違いしているらしく、驚いた表情を浮かべている。
「いやいやいや!! 付き合ってみたら好きって気持ちも芽生えるかもしんねぇぜ?」
「そんな適当な気持ちで付き合ったら、拓海くんに失礼だよ」
「そうだよな……。悪い、俺余計なことしちまったよな。勝手にお前がアイツのこと好きだって勘違いしてさ」
「ううん、いいの。簡単に恋がわかるなんて思ってないから」
恋をしたことがない私にとって恋というものは簡単ではない。
翌日、私は拓海くんに屋上に来てもらい、告白の返事をした。
お狐様は、本当に断ってよかったのかと言っていたが、やっぱり拓海くんに思う感情は恋愛とは違うものだと感じた。
適当な気持ちで拓海くんと付き合ってはいけないと思ったからこそ断ることに決めたのだ。
やっぱり恋は難しく、今まで通り恋はさっぱりわからないが、今までの日常と少し変わったことがある。
あの日までは、私は普通に恋を夢見る女子高生だった。
でも、お狐様と出会って一緒に生活をするようになり、私の日常は大きく変化していた。
「おい」
「何よ」
「またこれ生じゃねぇか」
お狐様に油揚げをあげたのだが、生だということに怒っているらしく、かじった油揚げを吐き出している。
「うっさいわね。私に恋を教えるとかなんとか言って、私に何を教えてくれたってのよ」
「うッ……そ、それはだな、これから……」
「次生だとか文句言ったら油揚げあげないから」
少し強い口調で言ってしまい、言い過ぎたかなと思い謝ろうと後ろを振り返ってみると、私のベッドで生の油揚げをモグモグと黙って食べているお狐様の姿があった。
そんなお狐様が可愛いかも、なんて思ってしまい、クスッと笑みが溢れる。
最近では、こんな日常が当たり前になってきてしまい、お狐様に可愛いなんて思うことも増えてきていた。
まだ恋については何もわからないが、今はこの毎日が楽しいと感じ始めている。
「はい」
「なんだ? って、これ!!」
「まぁ、一応アンタも神様なわけだし」
生ではない油揚げを渡すと、お狐様は笑みを浮かべお礼言う。
私の手から油揚げを受け取ると、パクリと美味しそうに食べているお狐様の姿に胸がキュンとする。
お狐様の笑みを見たとたん、私の鼓動が騒がしくなる。
だがこの意味を、まだ私は知らなかったのだ。
そしてこの感情を知ったとき、私の何かが大きく変わることになる。
だがそれはまだ、先のお話──。
《完》
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