1話完結の短編集

月夜

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目覚めるとそこは/テーマ:目覚めるとそこには……。

1 目覚めるとそこは

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 目を覚ますとそこには、青空があった。

 どうやら自分は倒れているらしく、上体を起こすと、陽菜よなはキョロキョロと辺りを見回す。



「なんで森の中なんかに……」



 自分の状況が全くわからない陽菜は、記憶を巻き戻していく。



「えっと、田舎のおばあちゃんの家に遊びに来てて、それで」



 思い出していたその時、突然何かが近づいてくる音が聞こえてくると、鳴き声を響かせ馬が飛び出してきた。

 驚きで叫び声を上げそうになると、落ち着け、と強い口調で声が聞こえる。
 すると、一人の男が暴れる馬の背に乗り手綱を引く。

 馬は次第に落ち着きを取り戻すと、ようやくその場で落ち着いた。



「驚かせてすまなかったな」

「いえ」



 よく見ると、男は着物姿であり、どこかでお祭りでもあるのだろうかと思ったが、それよりも、この人に聞けばここがどこかわかるかもしれないと思い、陽菜は立ち上がると口を開いた。



「あの、ここはどこでしょうか?」

「なんだ、お主迷子なのか?」

「はい。おばあちゃんの家に遊びに来てて、気づいたらここに」

「なんとも奇妙な話だな」



 男は顎に手をおき、不思議そうに奈草を見ると、驚かせてしまった礼にと、奈草を元来た場所まで送ろうと言い出した。

 流石に悪い気もしたが、このまま一人では帰れる気がせず、お言葉に甘えて送ってもらうことにした。



「では、参るとしよう」



 男は馬と共に歩き始め、その後を奈草もついていく。

 男の背を見つめ、その大きな背に、先程の馬を静止をするときのあの言葉の迫力を思い出す。
 あの迫力に、声を上げかけていた奈草まで言葉を失ったのだ。



「お主、名はなんと申すのだ?」

「な、佐々村ささむら 陽菜です!」



 突然の言葉に慌てて答えると、良い名だなと男は言う。

 本当は、自分の名は嫌いでしょうがなかった。
 古くさい名前で、小さい頃は名前のことでからかわれることもあったくらいだ。

 だが、こんな風に自分の名を褒められたのは初めてで、つい嬉しくなり口許が緩む。



「ようやく森を抜けたな。あと少し歩けば村が見えてくる」

「ありがとうございます。あとは一人で大丈夫ですので」

「いや、お主を送ると言った我の言葉に二言はない。それにだ、我も戻る途中だからな」



 そう言うと、再び歩き出してしまう男の後を着いていく。
 そして、目的の町が見えてくると、陽菜は言葉を失った。
 周りの店は、着物や簪などが売られているお店ばかり。



「ここは……」

「ここは私の国、甲斐の町だ」

「甲斐?国って、え?」



 訳がわからず混乱していると、男は陽菜の顔を覗き込む。
 突然の事に、顔を真っ赤に染める離れそうとするが、地面に足をとられ滑ってしまう。

 転んでしまうのを覚悟したその時、伸ばされた逞しい腕が腰を支え、なんとか転ばずにすんだ。

 だが、安堵したのも束の間。
 先程よりも近くなってしまった男との距離に、鼓動が大きく高鳴った。



「っす、すみません!!」

「気にするな。それよりも、町を目の前にしてから様子が可笑しいようだが、どうかしたのか?」

「あの、えっと……」



 なんと説明すればいいのかわからず、その先の言葉が出ないまま顔を伏せてしまうと、突然男が手を叩いた。



「お腹が空いたであろう。団子屋にでも寄るとしよう」

「あの、でも私、お金が……」

「気にするでない。我がご馳走しよう」



 どうしたものかと考える陽菜のことなどお構い無く、男は陽菜の腕を掴むと町に急ぎ、近くの茶屋へと向かう。

 茶屋に着くと、店の外に置かれた長椅子に座る。
 そのあと直ぐに、お団子の乗った皿とお茶が二人の間に置かれた。



「うむ、美味い!!遠慮はいらん。お主も食べてみよ」

「は、はぁ……」



 お団子を食べるような気分ではなかったが、折角の行為を無下にもできず、奈草はお団子の刺さった串を一本手で摘まむと、一番上のお団子をパクリと食べた。



「美味しい!!」

「ようやく笑ったな」



 ポツリと漏れた男の言葉に、もしかしたら、自分を気遣って団子屋に連れてきてくれたんじゃないかと気づく。

 思い出してみれば、先程から一度も笑みを浮かべていないことに気づくが、それも無理はないことだ。

 おばあちゃんの家に遊びに来ていたはずなのに、訳のわからない場所に来てしまったのだから。



「あの、実は」



 陽菜は、横に座る男に全てを話始めた。
 この場所は、自分がいた場所ではないことや、なぜこんな事になっているのかさえわからないことを。



「私が覚えているのは、おばあちゃんの家に遊びに来て、近くを散歩していたことだけなんです。この辺は見たこともないですし、少なくとも、おばあちゃんの家はここにはありません」

「そうか、ますます不思議な話だな。ここは甲斐の国であり、他の町から来たとしても、散歩で来れるような距離ではない」



 男の言葉で、自分はそんなに遠いところまで来てしまったのかと、今更ながらに不安が押し寄せる。

 知らない場所の上、どう行けばおばあちゃんの家に戻れるのかさえわからない。



「そう落ち込むことはない。我はお主を、元来た場所まで送り届けると言ったのだからな」

「でも、その場所がどこにあるのかもわからないのに……」

「案ずるな。我には頼れる家臣がいるのだからな」

「家臣?」



 先程から聞きなれない言葉の数々を不思議に思っていたが、団子を食べ終わり向かった先で、その謎は解けることとなった。

 目の前には大きな城があり、観光スポットか何かかとも最初は思ったが、男のあとに続き城の中へと入るも、観光客といった人はおらず、スレ違う人皆、男を目にすると端に寄り頭を下げている。

 ますます訳がわからなくなったまま通路を歩いていると、前から一人の男が怖い形相でこちらへと近づいてきた。



「お舘様!!また勝手に城を出られたのですね。あれほど、護衛もつけずに城を出られるのは危ないと、っ!?お、おなご!?」



 男は陽菜に気づくなり、顔を真っ赤に染めてしまう。
 そんな男に、陽菜をここまで連れてきた男の口角がニヤリと上がる。



「この娘なのだがな、帰る場所がどこなのかわからなくなってしまったらしくてな」

「だからといって女中でもないのに、お、おなごを城に入れるなど!!」

「そう怒るでない。我はこの娘と約束をしたのだ。元来た場所まで送り届けるとな。それにだ、天下をとろうとする男が、嘘をつくなどよくはないだろう」



 その言葉に言い返すことができず、男は口を閉ざしてしまう。

 自分のせいで迷惑をかけてしまっていることが申し訳なくなり、陽菜は男に近づくと、ご迷惑をお掛けしてすみませんと頭を下げた。



「っ……し、失礼致します!!」



 顔を真っ赤に染めたまま男は逃げるように去ってしまい、その様子を見ていたもう一人の男は声を上げ笑う。
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