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第十一幕 始まりの信玄餅
二 始まりの信玄餅
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「早く気づくことができていれば、貴女にこんな思いをさせずにすんだんだが」
才蔵は苦しそうに眉を寄せ、膝に置かれた手にはぎゅッと力が込められている。
自分だけでなく才蔵も苦しんでいたのだと知り、春はその手にそっと自分の手を重ねた。
「私は大丈夫です。薬の効果ももうすっかり無くなりました。これも霧隠さんや皆さんのお陰です。ありがとうございました」
微笑みを向け言うと、才蔵の表情は少しだが柔らかなものへと変わる。
「貴女は優しすぎる。だが、そんな貴女だからこそ、俺は惹かれたのかもしれない」
「え?」
「言葉の意味がまだできていないようだな」
才蔵の手が後頭部へと回されると、そのまま引き寄せられ触れるだけの口付けをされる。
先程まであんなに触れられ恥ずかしいところも見られたというのに、口付け一つで春の鼓動は音を立て頬に熱を宿す。
「な、何をッ!?」
「言わない。その答えは自分で見つけろ」
それだけ言うと、逃げた女中は見つかったか様子を見てくると言い残し、才蔵は部屋から出ていってしまった。
一人残された部屋で、まだ触れられた感触が残る唇を指で触れると、じんと熱くなるのを感じてしまう。
「私、やっぱりまだ薬の効果消えてないのかな」
わからない自分の感情を薬のせいにし、この気持ちについて考えることをやめた。
もしこの気持ちに気づいてしまったら、何かが変わってしまう、そんな気がしたからだ。
そしてその夜、新しく春のお世話をしてくれることになった女中が部屋を訪ねにやって来た。
「今日から春様のお世話をさせていただく、小梅(こうめ)と申します。これからよろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「甲斐の大切なお客人なのですから、そのようにお辞儀をなさらなくて良いのですよ」
そう言いながら柔らかな笑みを向ける小梅は、とても綺麗で上品で、なんだか女の春でさえもドキッとしてしまう。
「あ、そうでした。信玄様が広間にてお待ちですのでご案内させていただきますね」
小梅に案内され広間へと入ると、そこには、信玄、幸村、佐助、才蔵の皆が揃っており、春が来たところで信玄が口を開いた。
「皆に集まってもらったのは、今回の件のことだ。春も才蔵から大体の話は聞いたであろう」
「はい」
あの女中が尾張の人に、自分の情報を流していたという話を始めは信じられなかったが、今考えてみると気になる点はいくつかあった。
最初に信長に会った日のこと、春は信長に淫らなことをされたこともあり、お風呂に入りたかったが才蔵が戻るまで自室からでないようにと言われていたため、部屋で才蔵を待っていた。
だが、女中にお風呂を進められ入った際、出入り口で見張っていた女中は信長がお風呂に入ってきたというのに誰に知らせることもしなかった。
部屋に戻った際には才蔵もいたのだから、知らせることもできたはずだというのに。
それをせずに去ったのは、考えてみると不思議だ。
そして今回の件もそうだ。
女中が運んできたお茶を飲んだ際に体の熱で倒れ、それも、体の疼きのことなど話していないというのに、女中はこう言っていた。
「早く治ると良いのですが……。あっ、確か信長様が体の疼きにきく薬を持っていると前にお聞きしました」
まるで、信長の元へ誘導しているような発言だ。
そして何より今思い出せば、春の体が疼くのは決まっていつも食事を済ませたあとだった。
食事に媚薬がいつも入れられていたのなら納得がいく。
「その女中なのだが、すでに姿を眩まし消息は不明だ。そう不安そうな顔をするでない。あの女中もすでにこの城にはおらぬのだからな」
その言葉に安堵するが、引き続き佐助と才蔵は忍びとして情報を調べることとなった。
話が終ると解散になり部屋へと戻ってきたが、春は会話のことを思い出していた。
「明日から才蔵には忍びとしての任務に戻ってもらうことになる。春の護衛ご苦労であったな」
「はい」
今日の広間で最後に話したことは、才蔵が春の護衛ではなくなると言うことだった。
最初は無表情で冷たいように見えて、なんだか佐助に似てるなと思っていたが、一緒にいる時間が増えるといろんな表情や優しさを知り、護衛じゃなくなるんだと思うと寂しく感じてしまう。
「少しいいか」
音もなく突然現れた才蔵に驚くと、その手にはお盆が持たれている。
「これを一緒に食おうと思ったんだが」
差し出されたお盆の上にはお皿にの載せれた信玄餅と、湯飲みが二つある。
「私とですか?」
「ああ。護衛になった最初の日、一緒に食えなかったからな」
二人畳へと座るとお盆を置き、あの日一緒に食べられなかった信玄餅を一緒に食べる。
最初の時とは違う距離に仲良くなれた気がし、嬉しくてつい口が緩みそうになるのを抑えると、明日のことを思い表情が曇る。
「明日から、また忍の任務に戻ってしまうのですね」
ふと思い出し寂しくなり俯いてしまうと、頭に手が置かれ、顔を上げると優しい瞳が春を映していた。
「そんな顔をするな。忍の任務に戻っても、俺が春を想う気持ちは変わらない」
不意に呼ばれた自分の名に鼓動が高鳴り、頭に置かれた手の重みが一気に伝わってくる。
「私も……私もこの気持ちは変わりません……!霧隠さんも皆と同じ、私の大切な人ですから」
「それは変わってほしんだが……」
「え?」
「その様子だと、当分気づかなそうだ」
言葉の意味が理解できず、頭の上にハテナマークを浮かべている春を見て、楽しそうに笑う才蔵の本当の気持ちに気づく日は来るのだろうか。
才蔵は苦しそうに眉を寄せ、膝に置かれた手にはぎゅッと力が込められている。
自分だけでなく才蔵も苦しんでいたのだと知り、春はその手にそっと自分の手を重ねた。
「私は大丈夫です。薬の効果ももうすっかり無くなりました。これも霧隠さんや皆さんのお陰です。ありがとうございました」
微笑みを向け言うと、才蔵の表情は少しだが柔らかなものへと変わる。
「貴女は優しすぎる。だが、そんな貴女だからこそ、俺は惹かれたのかもしれない」
「え?」
「言葉の意味がまだできていないようだな」
才蔵の手が後頭部へと回されると、そのまま引き寄せられ触れるだけの口付けをされる。
先程まであんなに触れられ恥ずかしいところも見られたというのに、口付け一つで春の鼓動は音を立て頬に熱を宿す。
「な、何をッ!?」
「言わない。その答えは自分で見つけろ」
それだけ言うと、逃げた女中は見つかったか様子を見てくると言い残し、才蔵は部屋から出ていってしまった。
一人残された部屋で、まだ触れられた感触が残る唇を指で触れると、じんと熱くなるのを感じてしまう。
「私、やっぱりまだ薬の効果消えてないのかな」
わからない自分の感情を薬のせいにし、この気持ちについて考えることをやめた。
もしこの気持ちに気づいてしまったら、何かが変わってしまう、そんな気がしたからだ。
そしてその夜、新しく春のお世話をしてくれることになった女中が部屋を訪ねにやって来た。
「今日から春様のお世話をさせていただく、小梅(こうめ)と申します。これからよろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「甲斐の大切なお客人なのですから、そのようにお辞儀をなさらなくて良いのですよ」
そう言いながら柔らかな笑みを向ける小梅は、とても綺麗で上品で、なんだか女の春でさえもドキッとしてしまう。
「あ、そうでした。信玄様が広間にてお待ちですのでご案内させていただきますね」
小梅に案内され広間へと入ると、そこには、信玄、幸村、佐助、才蔵の皆が揃っており、春が来たところで信玄が口を開いた。
「皆に集まってもらったのは、今回の件のことだ。春も才蔵から大体の話は聞いたであろう」
「はい」
あの女中が尾張の人に、自分の情報を流していたという話を始めは信じられなかったが、今考えてみると気になる点はいくつかあった。
最初に信長に会った日のこと、春は信長に淫らなことをされたこともあり、お風呂に入りたかったが才蔵が戻るまで自室からでないようにと言われていたため、部屋で才蔵を待っていた。
だが、女中にお風呂を進められ入った際、出入り口で見張っていた女中は信長がお風呂に入ってきたというのに誰に知らせることもしなかった。
部屋に戻った際には才蔵もいたのだから、知らせることもできたはずだというのに。
それをせずに去ったのは、考えてみると不思議だ。
そして今回の件もそうだ。
女中が運んできたお茶を飲んだ際に体の熱で倒れ、それも、体の疼きのことなど話していないというのに、女中はこう言っていた。
「早く治ると良いのですが……。あっ、確か信長様が体の疼きにきく薬を持っていると前にお聞きしました」
まるで、信長の元へ誘導しているような発言だ。
そして何より今思い出せば、春の体が疼くのは決まっていつも食事を済ませたあとだった。
食事に媚薬がいつも入れられていたのなら納得がいく。
「その女中なのだが、すでに姿を眩まし消息は不明だ。そう不安そうな顔をするでない。あの女中もすでにこの城にはおらぬのだからな」
その言葉に安堵するが、引き続き佐助と才蔵は忍びとして情報を調べることとなった。
話が終ると解散になり部屋へと戻ってきたが、春は会話のことを思い出していた。
「明日から才蔵には忍びとしての任務に戻ってもらうことになる。春の護衛ご苦労であったな」
「はい」
今日の広間で最後に話したことは、才蔵が春の護衛ではなくなると言うことだった。
最初は無表情で冷たいように見えて、なんだか佐助に似てるなと思っていたが、一緒にいる時間が増えるといろんな表情や優しさを知り、護衛じゃなくなるんだと思うと寂しく感じてしまう。
「少しいいか」
音もなく突然現れた才蔵に驚くと、その手にはお盆が持たれている。
「これを一緒に食おうと思ったんだが」
差し出されたお盆の上にはお皿にの載せれた信玄餅と、湯飲みが二つある。
「私とですか?」
「ああ。護衛になった最初の日、一緒に食えなかったからな」
二人畳へと座るとお盆を置き、あの日一緒に食べられなかった信玄餅を一緒に食べる。
最初の時とは違う距離に仲良くなれた気がし、嬉しくてつい口が緩みそうになるのを抑えると、明日のことを思い表情が曇る。
「明日から、また忍の任務に戻ってしまうのですね」
ふと思い出し寂しくなり俯いてしまうと、頭に手が置かれ、顔を上げると優しい瞳が春を映していた。
「そんな顔をするな。忍の任務に戻っても、俺が春を想う気持ちは変わらない」
不意に呼ばれた自分の名に鼓動が高鳴り、頭に置かれた手の重みが一気に伝わってくる。
「私も……私もこの気持ちは変わりません……!霧隠さんも皆と同じ、私の大切な人ですから」
「それは変わってほしんだが……」
「え?」
「その様子だと、当分気づかなそうだ」
言葉の意味が理解できず、頭の上にハテナマークを浮かべている春を見て、楽しそうに笑う才蔵の本当の気持ちに気づく日は来るのだろうか。
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