イケメン武将は恋してる

月夜

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第八幕 護衛と来訪者

一 護衛と来訪者

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 あれから数日が経ち、葉流は再び平和な戦国ライフをおくっていたのだが、今日は信玄に呼ばれ殿へと訪れていた。

 そこには信玄だけでなく、幸村、佐助の姿もある。



「今日お主を呼んだのは、葉流に護衛をつけるためだ」

「護衛ですか?なぜ私に」

「葉流も知っておると思うが、我に女がいるという噂がどこからか流れ広がってしまっておる。我としては嬉しいことなのだが、その噂を信じた者がお主を狙うやも知れぬ」



 その言葉で、奥州の人に拐われた時のことを思いだす。

 奥州の人達は、信玄に女がいるなんて信じてなかったようだが、もしその噂を信じる人がいたらと思うと恐怖を感じる。



「そこでだ、今日からお主に護衛をつけようと思う」

「護衛ですか?」

「そうだ。だが、幸村と佐助には、噂を信じてよからぬことを考えている者がいないか調べてもらわなくてはならないのでな」



 幸村でも佐助でもないのなら、一体誰が護衛をしてくれるのだろうかと首を傾げる。



「俺が貴女の護衛をする」

「きゃッ!?」



 突然背後から声がし驚くと、そこには忍び装束を纏った男の姿がある。

 物音一つ立てず現れたため、全く気づくことができなかった。



「そやつの名は霧隠きりがくれ 才蔵さいぞうといって、真田十勇士の一人なのだ」

「そうなのですね。驚いてしまってすみません。私の名は__」

「知っている」

「そ、そうですか……」



 先程から表情一つ変わらない才蔵からは、佐助とは違う冷たさの様なものを感じる。



「これから才蔵には護衛として、葉流から昼夜問わず離れることを禁ずる」



 才蔵は返事の代わりにコクりと頷くが、葉流には聞きたいことがある。



「あの、昼夜問わず、とは?」

「言葉のままだ。いついかなる時に敵が葉流を狙うかわからぬからな。それに、才蔵なら幸村や佐助と違い風呂を覗いたりはしないだろう」

「お館様!!そんなことは俺もいたしません」

「俺もだ!!そんなことをしそうなのはお前くらいだろうが!!」



 二人が信玄に否定の言葉をのべるなか、葉流は微動だにしない才蔵をチラチラと気にしていた。


 そして信玄の話も終わり、葉流は自室へと戻ってきていたのだが、どうも落ち着かずにいた。

 チラリと見れば、部屋の端に座りじっと葉流へと視線を向ける才蔵の姿が視界に入る。



「幸村です」

「どうぞ」



 そんな落ち着かない空気の中、幸村の声が聞こえ中へ入ってもらうと、葉流が戦国時代で好きな信玄餅とお茶を目の前に置かれた。



「どうぞお召し上がりください。俺はこのあと仕事があるため失礼致します」

「はい、ありがとうございます」



 幸村が行ってしまった後、葉流は才蔵にも一緒に食べないか聞いてみるが、結構だ、と冷たい返事が短く返されてしまった。


 それから数時間ほど経つが、今だ才蔵は表情一つ変えることなく葉流へと視線を向けたままだ。

 護衛をしていもらっている間、この空気や視線に耐えるのも無理があると思った葉流は、才蔵へと向き直る。



「あの、少し外の空気を吸いにお庭に出たいのですが」

「お供します」



 思った通り才蔵もついてきてくれることになり、二人庭へと向かう。

 部屋にいると話しづらさを感じてしまうが、外なら少しは話せるのではないかと思い連れ出すことに成功した。



「葉も散り始めて、もうすぐ冬なのですね」

「そうだな」



 会話がそこで止まってしまい、表情が変わらないため何を考えているのかわからず、何を話していいのかわからなくなってしまう。

 どうしたらいいのだろうかと考えていたその時、突然強い風が吹き付けると、鮮やかに色付いた葉がまるで踊るように地面に舞い落ちていく。



「くしゅんッ!」



 体が冷えてしまったのかくしゃみをすると、横から伸ばされた手に腕を掴まれ引っ張られていかれる。

 顔を上げると目の前には才蔵の背があり、どうされたのですかと声をかけるが答えてはくれず、そのまま葉流は自室へと戻らされてしまった。

 やっぱりつまらなかったのだろうかと顔を伏せていると、肩にそっと何かが掛けられ、視線を向けると羽織が掛けられていた。



「外は冷える、それを羽織った方がいい」

「ありがとうございます」



 自分のことを心配してくれたからなのだとわかると、何だか嬉しくなり自然と笑みが溢れてしまう。

 そんな葉流につられるように、一瞬才蔵の表情が和らいだ気がしたが、すぐにまた無表情へと戻ってしまった。



「あの、どこか可笑しいですか?」

「何故だ」

「私のことを見ていらしたので……」



 才蔵は、質問には答えてくれず、その後も会話はないまま日は沈み、月が顔を出す。



「桜之様、入浴の準備が整いました」

「はい、いつもありがとうございます」



 物音一つ無い空間に、いつものように女中が声をかけてくれ、葉流はお風呂へと向かう。

 いつもと違うことと言えば、後ろを才蔵がついてきていることだけだ。



「俺はここで待つ」



 お風呂の入り口で足を止めると、才蔵は壁に背を預ける。

 待たせてしまうのも申し訳ないため、今日は早くお風呂から上がろうと中へ入っていく。

 戦国時代ではシャンプーやボディソープも存在せず、体はお湯で濡らしたタオルで擦ったりとするだけだ。

 最初は驚いたが今では慣れてしまい、体を拭き上げ髪も丁寧に洗い流すとお湯へと浸かる。

 こうしているときが一番落ち着き、一日の疲れがなくなっていくのを感じるが、今日は才蔵を待たせているためあまり長湯も出来ないままお風呂を出る。



「お待たせしました」

「まだ、髪が濡れている」



 待たせないようにとパッと着替えて髪もサッとしか拭かなかったため、まだしっかりと髪は乾いておらず濡れている。



「これくらいなら大丈夫ですよ」



 ニコリと笑みを向け言うと、伸ばされた手が葉流の肩に掛かる手拭いを取る。

 その手拭いを頭に被せると、わしゃわしゃと慣れない手つきで拭いていく。



「これでいい」

「あっ、もう乾いてる!」

「濡れたままでは風邪を引く」



 触れてみると、髪は乾き滴すらも落ちては来ない。

 手拭いだけで、しかもこんな短時間で乾かしてしまうことに驚く。

 城の庭に出たときといい、自分のことを心配してくれているのだと思うとつい口許が緩んでしまう。

 無表情で何を考えているのかはわかりにくいが、人のことを考えてくれる、とても優しい人なのだろう。
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