イケメン武将は恋してる

月夜

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第四幕 募る想い

一 募る想い

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幸村が城へと戻ると、葉流はずっと傍にいた佐助へと向き直り口を開く。



「猿飛さん、今日はありがとうございました」

「別にあんたのためじゃねぇ。幸村様からあんたを頼まれたからだ」

「だとしても、私を守ってくださったのは猿飛さんです」



 もう一度お礼を口にすると、そうかよと冷たく返事を返されてしまう。

 やはり、佐助にとって葉流は、城に侵入した怪しい女でしかないのだと落ち込んでしまいそうになる。



「何また暗い顔してんだよ」



 またも額を指で弾かれ、痛む額を手で押さえながら顔を上げる。



「笑ってろ」

「え……?」

「俺は笑ってるあんたのが好きだ」



 ずっと素っ気なかった佐助だが、今葉流の瞳に映るのは、ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、笑みを浮かべながら視線を向ける佐助の姿だった。

 その優しい笑みに鼓動が高鳴り、佐助から目が離せなくなる。



「ッ……勘違いすんなよ。さっきみたいなくれぇ顔されるより、笑ってる方のがましだって意味だからな」

「はい。わかっています」



 頬を色付かせながら必死に言う佐助を見て、こんな顔もするんだなと笑みを溢す。



「何笑ってんだよ」



 ムッとしながら横目で見ている佐助に言ったら怒られてしまいそうで、今思ったことはそっと心にしまう。



「猿飛さんに、笑顔を褒めていただいたのが嬉しかっただけですよ」



 クスクスと笑みを溢しながら言うと、呟くような佐助の声が耳に届く。



「佐助……」

「え?」

「佐助でいいって言ってんだよッ!」

「いいのですか?」

「じゃなかったら言わねぇっつの」

「ありがとうございます!佐助さん」



 まだ佐助のことはわからないが、名前を呼べることがこんなにも嬉しいことだったのだと初めて知った。

 葉流は佐助と距離が近づいたような気がし、頬が緩む。



「何ニヤけてやがる、さっさと城に入んねぇと風邪引くぞ」

「心配してくださっているのですか?」

「はッ!?んなわけねぇだろ。風邪なんて引かれたら幸村様が心配すんだろうが」



 ぶっきらぼうだが、それが佐助なりの優しさなのかもしれないと今ならわかる。

 城へと戻る佐助の背を追いかけ、葉流も城の中へと入っていく。


 自室へと戻った葉流は、戦が終わったことで安心したのか、その日は直ぐに眠りへとついた。


 そして翌日の夕方のことだ。
 何故か今日は、朝から誰とも会うことがないまま夜を迎えようとしていた。

 皆戦で疲れているため、休んでいるのだろうと思いながらも寂しく感じてしまう。

 考えてみれば、この時代に来てからずっと幸村や信玄によくしてもらい、一人でいることなく過ごしていた。

 そして佐助とも出会い助けてもらったりと、皆が傍にいてくれたため、忘れてしまいそうになるが、葉流だけが未来から来た人間なのだ。

 自分だけが皆と違うのだと思うと孤独を感じ、未来から来たことを隠しているのだと思うと胸が痛む。

 一人部屋でそんなことを考えていると、襖越しに声がかけられた。



「葉流様」



その声に返事をすると、信玄達が呼んでいるらしく、女中に連れられある部屋の前まで案内された。



「桜之です」



襖越しに声をかけ中に入ると、そこには、信玄、幸村、佐助の姿があり、目の前には沢山のご馳走が並べられていた。



「葉流、ようやく来たか。今日は我らが越後に勝利したことを祝っての宴だ。お主も存分に楽しむがよい」

「どうぞ、こちらへお座りください」



幸村に促され座るが、葉流は宴の席だというのに暗い顔をしていた。



「どうかなされましたか?」

「私は、何のお役にもたてていないどころか、迷惑をかけてしまったのに、皆さんと夕食を共にしても良いのでしょうか……」



戦にまで無理を言って同行したというのに、葉流は越後の人に捕まったりと皆に迷惑をかけてばかりだった。

こんな自分が宴に参加してもいいのかと考え顔を伏せてしまう。
そんな葉流の様子に、佐助が一つ溜息を吐くと口を開いた。



「いいに決まってんだろ」

「でも……」

「佐助の言う通りです。怪我をした者が言っておりました。貴女の笑顔に元気をもらったと」

「え……?」



そんな風に思ってくれていた人がいたのだと知り、葉流が戦に行ったことは無駄ではなかったのだと思えた。

自分でも、少しは誰かの役にたてたのだと目に涙が滲む。



「わかったらあんたも食え」

「はい!ありがとうございます、真田さん、佐助さん」

「ほぉ……。我を差し置いて、随分仲を深めたようだな、猿飛」



3人の会話を聞いていた信玄が、愉快そうに言う。

葉流は、言葉の意味がよくわからず首を傾げると、信玄と佐助を交互に見る。



「葉流はいつから、猿飛のことを佐助と呼ぶ間柄になったのだ?」



その言葉で、自分の佐助の呼び方が、苗字から名前に変わっていたことを思い出す。



「あの……昨夜城へと戻った際に、佐助さんから許可をいただいて」

「ほぉ、我でさえ名を呼ぶことを許さなかったあの猿飛がなぁ」



ニヤニヤと笑みを浮かべる信玄に、佐助は顔を逸らし舌打ちをする。



「ちッ、何だよ。俺の勝手だろうが」



佐助はいつものように素っ気なく答えるが、その頬はお酒のせいなのかほんのり色づいているように見える。



「佐助もようやく俺以外の者とも打ち解ける日がきたのだな!!」

「幸村様まで……。別にそんなんじゃないですから」



佐助が人に自分の名前を呼ばせることは滅多にないらしく、何だか仲良くなれたような気がし嬉しくなり、葉流の口許は緩んでしまう。


その後も賑やかな宴は続き、幸村はお酒を飲みすぎたらしく、風にあたりに部屋を出ていってしまった。

そんな幸村を心配し、葉流もそっと宴の席から抜け出し後を追うと、城の外に幸村の姿を見つけ声をかける。



「真田さん、大丈夫ですか?お酒を飲みすぎていたようなので心配で」

「俺のことを心配してくれたのですか?」



 はいと答えると、幸村は突然葉流の腕を掴み、自分へと引き寄せた。



「ッ、真田さん……?」



 突然のことにどうしたらいいのかわからず、幸村の名を呼ぼうとしたそのとき、耳元で声が聞こえた。



「先程は、佐助と貴女が仲良くなったことを嬉しく思う反面、何故だか気持ちに靄がかかったようになっていました。ですが、こうして貴女を腕の中に閉じ込めていると、不思議と心が落ち着きます」

「真田さん……。私も、佐助さんと少しは仲良くなれたのかなと嬉しくなりました。ですが、ここにいる皆にとって私は、疑われるべき存在だと思っていますから」



 この時代に来て、戦に同行させてもらい、自分にもできることがあるのだと知り嬉しかった。
 自分にも、皆の役にたてることがあるのだと。



「最初はそうでした。お館様のお命を守るために、俺は貴女を警戒していた。ですが、そんな警戒心すらも忘れさせてしまうほど、俺は貴女に惹かれていき、貴女をもっと知りたいと……」

「真田さん……。私は真田さんとも仲良くなれると思ってもいいのでしょうか?」

「はい、勿論です」



 そう答えた幸村が葉流に向ける瞳には、葉流が思っていたものとは違う想いが宿っていた。

 だが、そんなことに気づくはずもなく、葉流はこの時代の人達とも仲良くなれるのだと笑みを浮かべる。
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