イケメン武将は恋してる

月夜

文字の大きさ
上 下
3 / 25
第二幕 黄金色の世界

一 黄金色の世界

しおりを挟む
 それから葉流が目を覚ましたのは、朝日が登り、小鳥の囀りが聞こえだした翌日の朝。

 起きてすぐに布団を畳みしまうと、襖越しに幸村の声が聞こえ返事をする。



「おはようございます。お館様がお呼びですので、一緒に来ていただけますか」

「わかりました」



 幸村に案内され、信玄が待つ部屋へと通されると、葉流は信玄の前に向かい合う形で座る。
 幸村は、葉流から少し距離をとった横の隅に座る。

 信玄とは、最初に話したとき以来会っていないせいか、少し緊張してしまう。

 一体何のようなのだろうかと思いながら言葉を待つが、もしかしたら何か怪しまれたのかもしれないと嫌な事ばかりが頭を過る。



「朝から呼び出してすまなかったな。昨夜はよく眠れたのか?」

「はい、お陰様で」

「それは良かった。今日葉流を呼んだのは、これを渡そうと思ってな」



 そう言い差し出された木箱を開けてみると、中には薄い桜色の着物が入っていた。

 よく見ると、着物には細かく鮮やかな桜の刺繍が施されている。



「素敵な着物ですね。何方に贈られるのですか?」

「葉流にだ」

「私にですか!? 頂けません。こんな素敵な着物」

「葉流のために作らせた着物だ。受け取ってはくれぬか? でなければ、捨てることになってしまうのでな」



 信玄の言葉で、葉流はどうしたものかと考えた結果、躊躇いながらも受け取ることに決めた。

 こんな高価そうな着物を本当に頂いてしまっていいのか悩んだが、捨てると言われてしまっては受け取らないわけにはいかない。



「わかりました。有り難く受け取らせていただきます」

「そうか、なら早速着て見せてはくれぬか」



 信玄は女中を呼ぶと、女中は戸惑う葉流を連れ別の部屋へと連れていく。

 葉流は今着ている洋服を脱がされると、断る隙もなく着物を着させられてしまった。

 だが、こんな素敵な着物が自分に似合うとは思えず、葉流は顔を伏せてしまう。



「信玄様に贈り物をされるなんて羨ましいわ」

「でも、私にこんな素敵な着物は似合わないかなと……」

「そんなことございません。とってもお似合いですよ。ささ、信玄様がお待ちですので部屋へお戻り致しましょう」



 鏡がなく、自分ではその姿が見れないぶん尚更不安ではあるが、ここまできたら覚悟を決めるしかないと、葉流は信玄達が待つ部屋へと戻る。



「お待たせ致しました。あの、やはりこのような素敵な着物、私には勿体無いと……。真田さん、どうかされましたか?」

「ッ……!!」



 じっと葉流へと視線を向けたまま固まっている幸村に葉流が声をかけると、目を逸らされてしまった。

 幸村の反応に、やっぱり似合っていないのだと思っていると、同じく葉流へと視線を向け、じっと見詰めていた信玄が口を開く。



「ほぉ……。やはり葉流にその着物は似合っておるな」

「そ、そんなことは……」

「何を謙遜しておる、幸村など直視できなくなっておるではないか」

「え?」

「お、お館様ッ!!」



 信玄の言葉で、葉流が幸村へと再び視線を向けると、二人の視線が重なる。
 すると、幸村が頬を色付かせる姿が葉流の瞳に映るが、すぐに逸らされてしまった。

 この反応は似合っていないから目を逸らされていたのではなく、その逆だったのだと知り、葉流は嬉しいような恥ずかしい気持ちになる。



「あの、武田さんは何故、私にこの様な素敵な着物を?」

「この城にいるのならば、着物が必要だろうと思ってな。だが、葉流の着ている着物は見たことがない」



 信玄の言葉に、葉流の鼓動が跳ね上がる。

 葉流の着ている洋服は、葉流の時代の物であり、この時代では珍しくて当然だ。



「我が思うに、南蛮の物ではないかと思うのだが、何故この様な高価な物を葉流が着ておるのかがわからぬなぁ」



 鋭い眼差しで射竦められ、怪しまれてしまっただろうかと思いながらも、葉流は何か言わなければと言葉を探す。



「すみません、思い、出せなくて……」



 震えてしまいそうになる声を必死に抑えながら何とか返事を返すが、口から出た言葉はいつもの誤魔化しの言葉だった。

 今だ向けられる信玄の視線に、葉流の鼓動は早鐘を打つ。



「そうであったな。今だ記憶は戻らぬのに、無理に思い出させるようなことを言ってすまなかったな」



 なんとか誤魔化せたようでほっと胸を撫で下ろす葉流だが、またいつこんなことがあるのかわからないとなると、まだ気は抜けない。

 信玄は葉流を信じているようだが、疑いは消えたわけではなく、幸村にも疑われている。
 そんな現状で更に疑われるようなことをすれば、どうなるかわかったものではない。

 慎重にいかなくては、この時代、命すら危ういのだ。



「幸村」

「はッ!」

「今日は葉流を城下へと案内するが良い」

「承知致しました」



 城下ということは、葉流は城から初めて出ることになるわけだが、何故、信玄はそのようなことを突然言い出したのだろうかと、不思議そうに葉流は信玄に視線を向ける。



「何故、私を城下へ?」

「葉流にも我の国を見てもらいたくてな」



 正直、葉流にとってもこの時代を知るいい機会になるため有り難いが、この時代に来てお城の中でさえもまだわからず迷子になってしまうというのに、城下に行くなど不安でしかない。



「そう案ずるな、そのために幸村を共に行かせるのだからな。記憶が戻るいい手がかりが見つかるやもしれぬぞ」

「はい、そうですね。素敵な着物までいただいて、このようなお心遣いまでありがとうございます」



 今この機会を逃したら次はいつ城から出られるかわからないと思った葉流は、信玄の厚意に甘えさせてもらうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。

恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。 飼主さんが大好きです。 グロ表現、 性的表現もあります。 行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。 基本的に苦痛系のみですが 飼主さんとペットの関係は甘々です。 マゾ目線Only。 フィクションです。 ※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。

処理中です...