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第二幕 黄金色の世界
一 黄金色の世界
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それから葉流が目を覚ましたのは、朝日が登り、小鳥の囀りが聞こえだした翌日の朝。
起きてすぐに布団を畳みしまうと、襖越しに幸村の声が聞こえ返事をする。
「おはようございます。お館様がお呼びですので、一緒に来ていただけますか」
「わかりました」
幸村に案内され、信玄が待つ部屋へと通されると、葉流は信玄の前に向かい合う形で座る。
幸村は、葉流から少し距離をとった横の隅に座る。
信玄とは、最初に話したとき以来会っていないせいか、少し緊張してしまう。
一体何のようなのだろうかと思いながら言葉を待つが、もしかしたら何か怪しまれたのかもしれないと嫌な事ばかりが頭を過る。
「朝から呼び出してすまなかったな。昨夜はよく眠れたのか?」
「はい、お陰様で」
「それは良かった。今日葉流を呼んだのは、これを渡そうと思ってな」
そう言い差し出された木箱を開けてみると、中には薄い桜色の着物が入っていた。
よく見ると、着物には細かく鮮やかな桜の刺繍が施されている。
「素敵な着物ですね。何方に贈られるのですか?」
「葉流にだ」
「私にですか!? 頂けません。こんな素敵な着物」
「葉流のために作らせた着物だ。受け取ってはくれぬか? でなければ、捨てることになってしまうのでな」
信玄の言葉で、葉流はどうしたものかと考えた結果、躊躇いながらも受け取ることに決めた。
こんな高価そうな着物を本当に頂いてしまっていいのか悩んだが、捨てると言われてしまっては受け取らないわけにはいかない。
「わかりました。有り難く受け取らせていただきます」
「そうか、なら早速着て見せてはくれぬか」
信玄は女中を呼ぶと、女中は戸惑う葉流を連れ別の部屋へと連れていく。
葉流は今着ている洋服を脱がされると、断る隙もなく着物を着させられてしまった。
だが、こんな素敵な着物が自分に似合うとは思えず、葉流は顔を伏せてしまう。
「信玄様に贈り物をされるなんて羨ましいわ」
「でも、私にこんな素敵な着物は似合わないかなと……」
「そんなことございません。とってもお似合いですよ。ささ、信玄様がお待ちですので部屋へお戻り致しましょう」
鏡がなく、自分ではその姿が見れないぶん尚更不安ではあるが、ここまできたら覚悟を決めるしかないと、葉流は信玄達が待つ部屋へと戻る。
「お待たせ致しました。あの、やはりこのような素敵な着物、私には勿体無いと……。真田さん、どうかされましたか?」
「ッ……!!」
じっと葉流へと視線を向けたまま固まっている幸村に葉流が声をかけると、目を逸らされてしまった。
幸村の反応に、やっぱり似合っていないのだと思っていると、同じく葉流へと視線を向け、じっと見詰めていた信玄が口を開く。
「ほぉ……。やはり葉流にその着物は似合っておるな」
「そ、そんなことは……」
「何を謙遜しておる、幸村など直視できなくなっておるではないか」
「え?」
「お、お館様ッ!!」
信玄の言葉で、葉流が幸村へと再び視線を向けると、二人の視線が重なる。
すると、幸村が頬を色付かせる姿が葉流の瞳に映るが、すぐに逸らされてしまった。
この反応は似合っていないから目を逸らされていたのではなく、その逆だったのだと知り、葉流は嬉しいような恥ずかしい気持ちになる。
「あの、武田さんは何故、私にこの様な素敵な着物を?」
「この城にいるのならば、着物が必要だろうと思ってな。だが、葉流の着ている着物は見たことがない」
信玄の言葉に、葉流の鼓動が跳ね上がる。
葉流の着ている洋服は、葉流の時代の物であり、この時代では珍しくて当然だ。
「我が思うに、南蛮の物ではないかと思うのだが、何故この様な高価な物を葉流が着ておるのかがわからぬなぁ」
鋭い眼差しで射竦められ、怪しまれてしまっただろうかと思いながらも、葉流は何か言わなければと言葉を探す。
「すみません、思い、出せなくて……」
震えてしまいそうになる声を必死に抑えながら何とか返事を返すが、口から出た言葉はいつもの誤魔化しの言葉だった。
今だ向けられる信玄の視線に、葉流の鼓動は早鐘を打つ。
「そうであったな。今だ記憶は戻らぬのに、無理に思い出させるようなことを言ってすまなかったな」
なんとか誤魔化せたようでほっと胸を撫で下ろす葉流だが、またいつこんなことがあるのかわからないとなると、まだ気は抜けない。
信玄は葉流を信じているようだが、疑いは消えたわけではなく、幸村にも疑われている。
そんな現状で更に疑われるようなことをすれば、どうなるかわかったものではない。
慎重にいかなくては、この時代、命すら危ういのだ。
「幸村」
「はッ!」
「今日は葉流を城下へと案内するが良い」
「承知致しました」
城下ということは、葉流は城から初めて出ることになるわけだが、何故、信玄はそのようなことを突然言い出したのだろうかと、不思議そうに葉流は信玄に視線を向ける。
「何故、私を城下へ?」
「葉流にも我の国を見てもらいたくてな」
正直、葉流にとってもこの時代を知るいい機会になるため有り難いが、この時代に来てお城の中でさえもまだわからず迷子になってしまうというのに、城下に行くなど不安でしかない。
「そう案ずるな、そのために幸村を共に行かせるのだからな。記憶が戻るいい手がかりが見つかるやもしれぬぞ」
「はい、そうですね。素敵な着物までいただいて、このようなお心遣いまでありがとうございます」
今この機会を逃したら次はいつ城から出られるかわからないと思った葉流は、信玄の厚意に甘えさせてもらうことにした。
起きてすぐに布団を畳みしまうと、襖越しに幸村の声が聞こえ返事をする。
「おはようございます。お館様がお呼びですので、一緒に来ていただけますか」
「わかりました」
幸村に案内され、信玄が待つ部屋へと通されると、葉流は信玄の前に向かい合う形で座る。
幸村は、葉流から少し距離をとった横の隅に座る。
信玄とは、最初に話したとき以来会っていないせいか、少し緊張してしまう。
一体何のようなのだろうかと思いながら言葉を待つが、もしかしたら何か怪しまれたのかもしれないと嫌な事ばかりが頭を過る。
「朝から呼び出してすまなかったな。昨夜はよく眠れたのか?」
「はい、お陰様で」
「それは良かった。今日葉流を呼んだのは、これを渡そうと思ってな」
そう言い差し出された木箱を開けてみると、中には薄い桜色の着物が入っていた。
よく見ると、着物には細かく鮮やかな桜の刺繍が施されている。
「素敵な着物ですね。何方に贈られるのですか?」
「葉流にだ」
「私にですか!? 頂けません。こんな素敵な着物」
「葉流のために作らせた着物だ。受け取ってはくれぬか? でなければ、捨てることになってしまうのでな」
信玄の言葉で、葉流はどうしたものかと考えた結果、躊躇いながらも受け取ることに決めた。
こんな高価そうな着物を本当に頂いてしまっていいのか悩んだが、捨てると言われてしまっては受け取らないわけにはいかない。
「わかりました。有り難く受け取らせていただきます」
「そうか、なら早速着て見せてはくれぬか」
信玄は女中を呼ぶと、女中は戸惑う葉流を連れ別の部屋へと連れていく。
葉流は今着ている洋服を脱がされると、断る隙もなく着物を着させられてしまった。
だが、こんな素敵な着物が自分に似合うとは思えず、葉流は顔を伏せてしまう。
「信玄様に贈り物をされるなんて羨ましいわ」
「でも、私にこんな素敵な着物は似合わないかなと……」
「そんなことございません。とってもお似合いですよ。ささ、信玄様がお待ちですので部屋へお戻り致しましょう」
鏡がなく、自分ではその姿が見れないぶん尚更不安ではあるが、ここまできたら覚悟を決めるしかないと、葉流は信玄達が待つ部屋へと戻る。
「お待たせ致しました。あの、やはりこのような素敵な着物、私には勿体無いと……。真田さん、どうかされましたか?」
「ッ……!!」
じっと葉流へと視線を向けたまま固まっている幸村に葉流が声をかけると、目を逸らされてしまった。
幸村の反応に、やっぱり似合っていないのだと思っていると、同じく葉流へと視線を向け、じっと見詰めていた信玄が口を開く。
「ほぉ……。やはり葉流にその着物は似合っておるな」
「そ、そんなことは……」
「何を謙遜しておる、幸村など直視できなくなっておるではないか」
「え?」
「お、お館様ッ!!」
信玄の言葉で、葉流が幸村へと再び視線を向けると、二人の視線が重なる。
すると、幸村が頬を色付かせる姿が葉流の瞳に映るが、すぐに逸らされてしまった。
この反応は似合っていないから目を逸らされていたのではなく、その逆だったのだと知り、葉流は嬉しいような恥ずかしい気持ちになる。
「あの、武田さんは何故、私にこの様な素敵な着物を?」
「この城にいるのならば、着物が必要だろうと思ってな。だが、葉流の着ている着物は見たことがない」
信玄の言葉に、葉流の鼓動が跳ね上がる。
葉流の着ている洋服は、葉流の時代の物であり、この時代では珍しくて当然だ。
「我が思うに、南蛮の物ではないかと思うのだが、何故この様な高価な物を葉流が着ておるのかがわからぬなぁ」
鋭い眼差しで射竦められ、怪しまれてしまっただろうかと思いながらも、葉流は何か言わなければと言葉を探す。
「すみません、思い、出せなくて……」
震えてしまいそうになる声を必死に抑えながら何とか返事を返すが、口から出た言葉はいつもの誤魔化しの言葉だった。
今だ向けられる信玄の視線に、葉流の鼓動は早鐘を打つ。
「そうであったな。今だ記憶は戻らぬのに、無理に思い出させるようなことを言ってすまなかったな」
なんとか誤魔化せたようでほっと胸を撫で下ろす葉流だが、またいつこんなことがあるのかわからないとなると、まだ気は抜けない。
信玄は葉流を信じているようだが、疑いは消えたわけではなく、幸村にも疑われている。
そんな現状で更に疑われるようなことをすれば、どうなるかわかったものではない。
慎重にいかなくては、この時代、命すら危ういのだ。
「幸村」
「はッ!」
「今日は葉流を城下へと案内するが良い」
「承知致しました」
城下ということは、葉流は城から初めて出ることになるわけだが、何故、信玄はそのようなことを突然言い出したのだろうかと、不思議そうに葉流は信玄に視線を向ける。
「何故、私を城下へ?」
「葉流にも我の国を見てもらいたくてな」
正直、葉流にとってもこの時代を知るいい機会になるため有り難いが、この時代に来てお城の中でさえもまだわからず迷子になってしまうというのに、城下に行くなど不安でしかない。
「そう案ずるな、そのために幸村を共に行かせるのだからな。記憶が戻るいい手がかりが見つかるやもしれぬぞ」
「はい、そうですね。素敵な着物までいただいて、このようなお心遣いまでありがとうございます」
今この機会を逃したら次はいつ城から出られるかわからないと思った葉流は、信玄の厚意に甘えさせてもらうことにした。
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