【完結】ZERO─IRREGULAR─

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Episode1 選択肢は最初からない

2 選択肢は最初からない

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「いや、そうじゃなくてさ。何で成功例なんて言うんだ?」

「え? だって成功例だから」



 キョトンとした女は、さも当然だとでもいうような様子だが、その成功例っていうのが何なのかを知りたいんだ。
 何だかこの女に話を聞いてもこれ以上無駄な気がしてきたが、他に聞く相手もいないんじゃい仕方がない。

 俺は、女にその成功例とやらについて詳しく説明を頼んだ。
 するとようやく俺が知りたいことを話し始める。

 先ず今いるこの場所は、街から離れた森の中にある研究所であり、ここでは実験が行われている。
 そこまで聞いてまさかと思ったが、女の口から出た言葉は俺の予想通り人体実験。

 何故そんな実験が行われているのかは、今から数十年前に遡る。
 若くして天才だと研究所内で有名だった柳田やなぎだ博士は、ある研究を提案した。
 だがそれは、あまりに非科学的で周りは反対。



「そんなことは不可能だ」

「出来るはずがないだろう」



 否定的な言葉を浴びせられながらも、柳田博士は諦めてはいなかった。


 数年後、研究所を辞めた柳田博士は自分の研究のために森に研究所を用意し、そこで密かに研究を進めた。
 だが、薬が完成したところで問題が発生。
 それは、その薬を試す実験体がいないということ。

 博士の研究に必要な実験体は、モルモットなどの生き物では意味がない。
 そこで考えついたのが施設の子供。
 普通ならそう簡単に引き渡すなどされないが、一箇所だけそれが可能なところがある。
 そこは、前に働いていた研究所で密かに人体実験用の子供を取引していた施設。

 研究には、モルモットではなく人でなくてはならない実験が存在する。
 つまり、そういった取引をしていた施設が存在するということ。
 これは研究所でも極一部しか知らない情報。
 博士はその施設と契約を交わし、数人の子供を引き取った。

 数人の実験体は失敗に終わり、更に薬を改良して出来た薬で一人目の成功を果たすが、それは博士が求めるものの一部にすぎない。
 更に薬を改良し、二人目、三人目と成功を果たしたが、それでも博士が求めるものには行き着かなかった。



「それから数年、博士はずっと薬の研究をしてるんだよね。で、その時の成功例にして最後が私なんだ」



 ニコリと笑うその笑顔が、今は俺の胸を締め付ける。
 この女もさっきの男も、つまりは実験体にされた被害者だ。



「何で逃げないんだ。実験体にされたんだろ? 憎くないのか」

「憎くなんてないよ。だって博士は私達を施設から引取って育ててくれた人だもん」



 その笑顔に嘘はなくて、きっとコイツ等にとって博士は、育ててくれた父親のような存在なんだろう。
 自分が実験体に使われても、憎む事すら知らない子供だったに違いない。



「名前は」

「五番だよ」

「いや、成功例の順番じゃなくて名前だよ」



 俺の言葉に女は言った「この施設の成功例に名前は存在しないよ」と。
 確かにこの女もさっきの男も、五番、二番と呼んでいて名前は一切聞いていない。

 この研究所の博士は名前すらつけないのか。
 そもそも、実験が成功したかどうかにしか興味がないのかもしれない。
 こんな犯罪を平気で実行するくらいだからな。



「じゃあ五番、その博士に俺を会わせてくれないか」



 そんな奴に会うのは危険かもしれないが、会って直接文句を言ってやりたい。
 そしてこれ以上、コイツ等みたいな奴等を増やさない為にも説得しないと。

 警察に話すのは簡単だ。
 たが、そうしたらコイツ等はどうなる。
 少なくても五番は博士を父親のように思っていて、もし二番も同じ気持ちなら博士を止めるのが一番の解決方法だ。



「それは出来ないよ。博士は研究の間誰とも話さないし会わないから。私も、最後に会ったのは実験が最後だから」



 その時初めて、俺は五番の悲し気な表情を目にして言葉を失った。
 いや、これ以上何も言えなかったんだ。



「わかった。じゃあ、バイトとして俺はこれからどうすればいいのか教えてくれ」

「うん! えっとね――」



 一通りの説明を聞いたあと、俺は五番に先程の路地まで送られた。
 それも情けないことに「こうした方が疲れないでしょ」と言われて五番に担がれながらの到着。
 だが流石というべきか、もう深夜とはいえ人通りはあるのに、五番は慣れたように人がいない場所を通り俺をここまで運んだ。

 運ばれてる間で聞いた話によると、五番は疲れを知らない体力を持っているらしいく、それは、あの研究所での成功した結果らしい。
 ちなみに二番は常人より何倍もの力がある。
 なんでも成功例は、常人以上の力を持っているらしいが、二番はそれがズバ抜けているようだ。
 確かに疲れを知らない体力を持っているだけじゃ、俺をここまで担いでくるなんて芸当、女ができるはずがない。


 こうして五番と別れたあと、俺は家へと帰った。
 寂しい独り暮らしだが、何だか今日は数時間の間に色々なことがありすぎて疲れたせいか、その静けさが俺を眠りへと誘う。


 俺が目を覚したのは朝。
 風呂にも入らず寝てしまっていた俺は、大学に行く前にシャワーを浴びた。

 そして大学についてから俺は重大なことを思い出した。
 そう、今日はテストがある日。
 最近ずっと勉強してたってのに昨夜の出来事で、頭から今日までの勉強が抜け落ちてしまった俺は、長机に突っ伏していた。



「何だ何だ? 最近勉強してたわりには落ち込んじまってさー」



 声をかけてきたのは親友の冬也とうや
 流石に親友とはいえ昨日のことを話すわけにもいかず「色々あって頭に入れてたのが全部抜け落ちた」なんて言えば、バシバシ俺の背中を叩いて笑うその行動が昨日の二番を思い出させる。

 もし普通の家で平和に暮らしていたら、二番は冬也みたいになっていたかもしれない。
 そうだったら、友達になれたんだろうか、なんて考えてしまう。



「いきなりニヤけて気持ちわりーぞ」

「うっせーな、ほっとけ」



 そんなことを考えても、現実は違うんだから仕方がない。
 あの研究所では、今も研究が続いている。
 ただ薬が完成していないだけで、もしまた試作が完成したら更なる犠牲者が出る。

 俺に何か出来る事がないかと考えたところで、誰にも話せないこの状況で出来ることなんてない。
 それでも、バイトとしてアイツらの側にいれば何か自分にも出来るんじゃないかと、一人そんなことを考えていた。



「何ぼーっとしてんだよ。俺に話せば全て解決だぜ?」

「ばーか。お前には無理だっつの」



 俺にも、なんだが。
 そんな親友との会話や授業が終わったあと、俺はあの研究所へ向かった。
 確かそんなに離れてはいなかったはずだが、昨日は暗かった上に担がれてたから森までの道しかわからない。

 取り敢えずここで突っ立っていても仕方ないんで森の中へ入るが、草木ばかりで全く開けてこない。
 隠れて研究してんだから簡単に見つかったら意味ないんだろうけど、一体この森はどんだけ広いんだ。
 かれこれ十五分以上は森の中を進み続けている。

 引き返そうにも来た道すらわからず、このまま遭難なんてことになるんじゃと思ったとき、聞き覚えのある声が聞こえ視線を向けると五番が俺の方に向かっていた。
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