【完結】ZERO─IRREGULAR─

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Episode8 それはきっと普通の日常

4 それはきっと普通の日常

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 それから数日後。
 更に三番さんが続いて実験を成功させ部屋に戻ってきた。
 三番さんが薬で手に入れたチカラは記憶削除。
 とはいっても便利なものではなく、消したい事に関連した全ての記憶まで消えてしまうから厄介なチカラみたいだ。
 そのチカラの証明は、この研究所にいたバイトで試して博士の前で証明したらしい。

 そして最後に残されたのは俺だけ。
 だが、それから数週間が経った今も博士は一度もやってこない。
 素早さと記憶削除のチカラが成功した今、博士の目標はゆっくり成功に近づきつつあり、研究が進めば進むほど俺の不安は募っていく。


 それから更に数週間後。
 俺達の部屋に博士はやってきた。
 俺は二人に心配をかけないように「直ぐ終わらせて戻ってくるからな」と伝えて博士についていく。
 一番奥の部屋に連れて行かれると、そこにはいろんな機械や薬などが置いてあった。



「計算が正しければこれで完成だ。キミは幸運だよ。完成した薬の最初の実験体になるんだからね」



 そう言いながら博士が俺に薬の入った針をさすと、俺は全身が沸騰する熱さや苦痛に声を上げた。
 その声が部屋まで届いていたのか、足音がこちらへと近づいてきて聞き覚えのある声が聞こえる。
 苦しみの中遠くで聞こえるのは一番さんと二番、三番さんの声。
 返事を返したくてもまともに話すこともできず、身体は悲鳴を上げていた。

 しばらくすると俺の苦痛は和らぎ、朦朧とする意識の中立ち上がる。
 どうやら成功したらしい。
 博士にチカラを見せてくれと言われ、俺は一番さんのチカラである速さをその場でやってみせた。
 不思議と自分は何が出来るのか理解していて、他にも力、記憶能力、全てが常人以上であると確認できた博士は喜んだ。
 ついに研究が完成したと。
 だが俺の小さな身体は、そのチカラに耐える事ができなかった。

 その場で床に倒れた俺に駆け寄る一番さんと三番さん、二番の三人。



「やはり子供の身体では耐えられなかったか。だが、これで薬は完成した」

「博士! コイツを早く治してください」

「このままじゃ死んじまう!!」

「博士!!」



 心配する三人に博士が言った言葉は「実験に犠牲はつきものだ」の一言。
 それを聞いた二番が博士の腹を殴ると、その威力で博士は背中を壁に打ち付け気を失った。

 そうしている間も苦しみ続けていた俺の額に三番さんの人差し指が触れる。



「僕達はずっと友達です。僕だけはキミの事をずっと覚えてますからね」



 そこで俺の記憶は途切れ、気づいたら知らない施設の前で倒れているのを見つけられて保護された。
 その時の俺は元々いた施設のことも研究所のことも皆のことも全て忘れていた。

 それから数年後、俺は今の家に引き取られ、佳として生きてきたんだ。
 皆のことを全て忘れて。



「どうやら佳も博士も、一番、二番もみんな、思い出してしまったようですね。これも完成した薬のせいでしょうか」

「私は……私はすでに薬を完成させていたというのかっ!!」



 膝から崩れ落ちる博士。
 この状況で理解した。
 三番さんはあのとき俺の記憶を消し、博士や他の二人の記憶も消していたんだと。



「僕の記憶削除は一つの記憶を消そうとすると全てが消えてしまう。だから最初は少し大変でした」



 そう言って話したのは、記憶を消したあとのこと。
 俺の場合研究所での記憶を消せば、それに関係してくる施設や三番さん達のことも忘れてしまう。
 だがそれが、俺には一番の方法であり、三番さんにとっても大きな賭け。
 記憶を消したとして投与した薬もなかったことにできるのか。
 でも無事成功した。

 乱れていた呼吸や心臓の音は正常に戻り、三番さんは二番のチカラを借りて俺を知らない施設の前においていった。
 そして戻ってくると、博士が起きないか見張っていた一番さんが上手くいったか二人に尋ねる。



「ああ、バッチリだぜ!」

「これであの施設の人が保護してくれるでしょう」

「そうか。だが、博士の方はどうするんだ」



 そう言った一番さんの額に人差し指を三番さんが当てると、一番さんはその場に倒れた。
 目の前で起きたことに驚いていた二番の額にも三番さんは触れ、二人の中から俺の記憶を消した。
 気を失っている博士の記憶も。

 薬のデータは適当なところまで処分し、しばらくして目を覚ました三人に三番さんは「博士、僕の実験は成功しましたよ」と言った。

 三番さんは博士に、実験のため自分達を施設から引き取ったことや、実験が成功か試すために三人の記憶を消したということにして博士に話す。

 そして、俺の記憶を消したことで施設からの記憶全てが消えてしまった一番さんと二番にも俺の事を抜きにした今までの話を聞かせた。
 もしかすると、実験の記憶も消えている二人は俺同様にチカラを失っている可能性もあったが、三番さんの話に納得した二人を見てまだチカラを持っていると確信する。
 薬を投与した者は、自分がどんなチカラを持っているのか自覚があることを同じ三番さんも知っており、二人を信じさせる事は簡単だった。
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