【完結】ZERO─IRREGULAR─

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Episode8 それはきっと普通の日常

3 それはきっと普通の日常

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 そして昼飯と片付けを済ませた俺が部屋で待っていると三人がやってきて、案の定五番の言葉を否定すれば煩く騒ぎ出した。
 四番は「やっぱり五番の思い込みだったね」なんて言うもんだから、五番は頬を膨らまし拗ねてしまった。



「佳、この漫画の二十六ページのシーン凄いな!」

「ああ、あの戦闘はいいよな」



 宿題が終わる前以上に騒がしくなった部屋。
 色んな感情をお互いに見せられるようになった三人の姿を見ていると、少しは自分もコイツ等のために何かできたんだって嬉しくなる。

 だが忘れてはいけない。
 今こうしている間も研究室では、薬の研究が進められていることを。
 やっぱり夏休みの間に都合よく完成なんてしないかと思っていたとき、突然通路から笑い声が聞こえてきた。
 今までに聞いたことのない声にまさかと思えば三人は立ち上がり「博士だ」と部屋を飛び出していく。

 やっぱりアイツ等にとっては父親のような存在なんだなと、部屋を出ていったアイツ等の明るい笑顔を見たら胸が苦しくなった。
 自分達を実験台にしてこんなところに閉じ込めてる奴なのに。

 俺も三人の後を追って部屋から出ると、博士がこもっていた研究室の扉が開いていて、その前には一番さんから五番まで、全員が集まっていた。



「ようやく薬が完成したぞ! ああ、早くこれを試したい」



 そう言った博士と俺の視線が重なる。
 博士が「アイツは誰だ」と一番さんに尋ねると、バイトであることが伝えられた。
 すると博士は笑みを浮かべ俺へと近づき目の前で足を止めると「丁度いいところに実験体がいるじゃないか」と、俺の腕に薬の入った注射器を突き刺した。

 その光景を見ていた皆が驚いた表情を浮かべていたが、俺はその場で膝から崩れ落ちる。
 全身が沸騰したみたいに熱を持ち、体の奥底から湧き出る何かが俺に苦痛を与える。



「ああああぁぁぁぁッッ!!」



 なんでだ、なんで俺はこの感覚を知っている。
 前にもあったんだ。
 似たような感覚を味わったことが。


 遡る記憶。
 そこには俺と一番さん、二番、三番さんがいた。
 そう、そこは施設だ。

 ある時三十代くらいの男がやってきて、俺達四人と他三人の男の子が引き取られた。
 最初俺達は、一緒に引き取られたことを喜んだ。
 これからも一緒にいられるんだと。

 大きな建物に連れてこられた俺達は、二部屋に分けられ部屋に入れられた。
 俺と一番さん、二番、三番さんの四人は同じ部屋。
 他三人も施設では俺達みたいに仲が良かったから、直ぐに分け方は決まり、ここが今日から俺達の家になるんだと喜んだ。
 だがその日の食事時間、一部屋に集まって皆で食事をしていると二人の男の子が何やら騒ぎ出した。
 博士に連れて行かれた一人の男の子が部屋にも戻らずここにもいないと。

 博士もこの場に来ていなかったし、きっと何か話とかしてるんじゃないかと二番が言い、その話はそこで終わった。
 だが、それから数週間経ってもその男の子は戻らず、それどころかもう一人の男の子も博士に呼ばれてから戻ってこなくなったと聞かされた。

 流石に変に思った俺達がこの時建物にいたバイトに聞いてみたが、自分はバイトだから俺達の世話を頼まれてるだけで何も知らないという。
 よくわからないまま日にちは過ぎ、とうとう食事には俺達四人しかいなくなった。



「可笑しいよな。あの三人どこに行ったんだ」

「そうですね。いくら何でも最初にいなくなった子も日にちが経ちすぎてますし」

「やっぱり気になるよな」



 なんて俺以外の三人が話してると、部屋に博士がやってきた。
 一番さんに用事があるから来てほしいと言うとが、あの三人のこともあり俺達が心配そうにしていると「大丈夫だ。すぐ戻る」と言って一番さんは行ってしまう。

 それからしばらくして一番さんは部屋に戻ってきた。
 だが、何か様子がおかしい事に気づいてどうしたのか聞けば、一瞬にして一番さんの姿が俺達の前から消えた。
 背後から声が聞こえて振り返ると、そこにはいつの間にか一番さんがいた。

 一体何が起きたのかわからずにいた俺達に、一番さんは説明してくれた。
 まず聞かされたのは、博士がしている実験のこと。
 博士は全てにおいて常人以上になれる薬を研究しているらしく、その実験体として俺達が引き取られた。

 最初に消えた三人は失敗で死亡。
 そして初めての成功が一番さん。
 だが一番さんが薬で得たのは常人以上の素早さだけ、それも、力は常人以下になってしまい、好きな本は読めるもののある程度の重さに達すると持てなくなる。
 例えばフライパンや、カレーなどが入った鍋が例だ。

 これは博士が求める常人以上の速さという目標の一つが完成したに過ぎない。
 それからしばらくして呼ばれたのは二番。
 失敗したらと考えると、部屋で待つ俺は不安で一杯だった。
 そんな俺を「きっと大丈夫だ」と元気づけてくれる一番さん。

 しばらくして扉が開き無事戻ってきた二番の姿を見て、実験は成功したんだとホッとする。
 二番が手に入れたのは常人以上のチカラ。
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