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Episode7 夏を楽しみ仲を深める
1 夏を楽しみ仲を深める
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翌朝。
昨日の作戦を決行すべく、朝飯を運ぶときにあることを皆に伝える。
それは、今日夕飯を食べたあと十九時までに外に来るようにということ。
そして五番にはそれプラス買い出しに行くために、昼に森の出口まで運んでほしいと伝えた。
俺から頼むのは初めてだからか、なんかやたらとテンションが高くなる五番はまあいいとして、ここで一番の問題がある。
それは、今俺の目の前の扉の向こうにいる人物をどうやって外に出すかだ。
モニターで見てるであろうその人物に悟られないよう警戒してたから、俺が今日する内容までは知らないだろう。
だが、十九時までに外に来てほしいと伝えたところで扉を閉められるのは目に見えている。
何より俺は、四番とまともに話したことがない。
知ってることといえば、モニターで研究所内や外を監視してることと、他の奴等と違って何のチカラも持たない実験体の唯一の生き残りである事だけ。
更に付け加えるなら、部屋に引きこもってるけど困ってるときに助けてくれた実は良い奴ってこと。
こうして知ってることをあげてくと、本当に何も知らないということがわかる。
扉の前で考え込んでる俺のこともモニターで見てるんだろうなと思っていると、目の前の扉が開き四番が立っていた。
相変わらず顔を伏せてるから表情すらわからないし、まだどうしたらいいのかも決まらないまま四番に朝飯を運ぶ番になったんだからしかたない。
他の奴らを先にして四番のを最後に運べばその間にいい案が浮かぶかもしれないと思ったが駄目だった。
昨日からずっと考えてるんだけどいい考えが浮かばない。
「ご飯……」
「あ、悪い」
考える事に必死で忘れていた朝飯を慌てて渡すと扉が閉められ、結局伝える事は出来なかった。
下手に伝えて警戒でもされたら、それこそ扉すら開いてくれなくなり完全に今日の計画は台無しだ。
これは一番さんから五番まで、全員が参加しなくては意味がないからな。
一人だけ不参加になんてさせねえ。
その後、食器を回収し昼飯を届け食器を回収しを繰り返したが、未だなんの案も浮かばず時間だけが過ぎ、昼飯を食べ終えた五番に森の出口まで運んでもらい買い出しを済ませ夜の準備は出来た。
すでに時間は十四時。
俺は覚悟を決めて四番の部屋へと向かう。
ノックをする前に扉が開くのはいつもの事だから驚かない。
昼飯も済んで夕飯にはまだ時間があるこのタイミング、確実に何か用があるということは四番は気づいているだろう。
「あのさ、今日の夕飯後なんだが、十九時までに外に来てくれないか」
「なんで」
最もな返答だ。
他の奴らは理由も聞かずに頷いてたがな。
「理由はまだいえねーんだ」
「僕は部屋から出る気はないよ」
そう言って閉めようとした扉に手をかけると、驚いたのか四番の肩がビクッと跳ね上がったのがわかる。
怖がらせてまで参加させようとして、俺は一体何してんだ。
皆がもっとお互いを知って、仲良くなれたらと思ったからこそ全員参加を望んだ。
でも、こんな無理矢理じゃ意味なんてなかったんだ。
そもそも俺が、まだコイツのことを何も知らないんだからな。
「驚かせて悪い。今の話は忘れてくれていい。ただ、お前のことを俺に教えてくれないか」
その言葉で四番の顔が少し俺の方に向き、髪の隙間から片目が覗く。
初めて見た四番の瞳が俺を捉えるが、その視線は直ぐ下へと向けられた。
やっぱり駄目かと思ったとき「入って」と言われ、思いもしない言葉に戸惑いながらも部屋の中へと入り扉を閉める。
真っ暗な空間にモニターの明かり。
モニターの前には椅子が置かれていて、左の壁際には机があるだけの部屋。
「僕の何が知りたいの」
「何って言われると困るんだけどさ。俺、お前と友達になりてーんだ」
「友達……。僕の事聞いてるよね。実験体の生き残りで何のチカラも無いって」
確かに五番から最初に聞かされたけど、それと四番を知ることと何の関係があるのかわからない。
まさか、俺が知りたいのはチカラの事と勘違いしてるんじゃと思い「俺が知りたいのは四番個人の事なんだ」と言えば、四番は黙り込んでしまう。
何か変なこと言ったかと思っていると、四番は静かに話し始めた。
それは、四番が実験体となった日に遡る。
施設から引き取られたのは四番と五番。
研究所に着くと年上の人が数人いた。
それは、一番から三番の成功例達。
博士は研究室にこもり、四番と五番の面倒を他の成功例達がみた。
三人はそれぞれいろんなチカラを持っていて、二人の瞳は無邪気にキラキラと輝いた。
それから数日後、研究室から出てきた博士に自分達もこれから三人の様なチカラを持てると聞かされ、四番と五番は喜んだ。
完成した試作品を先に投与されたのは四番。
結果、何のチカラも得られず、ただ唯一の生き残りとして研究所に置かれた。
それからまた数日後。
前回の試作に改良を加えた薬が五番に投与されたが、最初は博士も他の皆も四番同様に変化はないとされた。
でも日が経つにつれ、五番が全く疲れないことに気づいた成功例達は博士に報告し、そのチカラが判明した。
そう、実験で唯一生き残っただけで置かれた四番は、成功例達の中にいながら失敗作。
皆と違うという事が成長する中で日に日に気になっていき、博士にモニターでの監視を頼まれたときに、内側のみ解除可能の扉にしてもらい、いつしかモニターでの監視を理由に閉じこもるようになった。
皆の様子を把握することができた四番は、部屋から出るときにも人に会うことなく行動ができる状況でもあり、皆と話す事がなくなるのに時間はかからなかった。
「これでわかったよね。僕は皆と違う、失敗作だから。こんな出来損ないに友達になる資格なんてないんだよ」
そう話す四番の表情は一切変わらなかった。
まるで感情を表に出さないようにしているようで、それは閉じこもっている四番そのもの。
感情が出ないように閉じこもる。
そうしていれば傷つかずに済むと思ってるんだろう。
「っ!? 何するんだよ!!」
四番の髪をグシャグシャにしてやったら、驚いたような、ムッとした表情に変わる。
「何かゴチャゴチャしてるみたいだからもっとグシャグシャにしてやろうと思ってさ」
「は? 意味分かんないよ」
俺の言ってることが理解できない四番は眉間にシワを寄せる。
やっぱり表に出さないようにしてるだけで、こうして話せば直ぐ顔に出る。
本当はわかりやすいのに、関わらないことで隠してるんだ。
「グチャグチャな頭の中が更にグシャグシャになったら。もう考えるのも面倒になって楽だろ」
ニッと笑って言えば、四番は瞳を大きく見開いたかと思うと顔を伏せてしまった。
四番って見た感じ十四歳くらいだし、このくらいの年頃の扱いは正直俺にはわからない。
でも、コイツが自分の中で悩んで溜め込んでる事は痛いほど伝わった。
髪もバラバラに切ってあるみたいだから自分でやったんだろうな。
誰にも頼まず、誰にも頼らず。
顔を伏せたまま黙り込んでしまった四番に大丈夫か声をかけたら、キラリと何かが光床に落ちた。
それがなんなのかすぐにはわからず固まっていた俺に「大丈夫なわけないだろ」と言った四番が顔を上げると、大粒の涙がモニターの明かりで輝いていて、それはポタポタと床を濡らす。
驚いた俺は部屋の中をキョロキョロして、机の上にあったティッシュを手に四番の前に差し出すと、それを掴んだ四番は自分の涙を拭いて鼻をかむ。
昨日の作戦を決行すべく、朝飯を運ぶときにあることを皆に伝える。
それは、今日夕飯を食べたあと十九時までに外に来るようにということ。
そして五番にはそれプラス買い出しに行くために、昼に森の出口まで運んでほしいと伝えた。
俺から頼むのは初めてだからか、なんかやたらとテンションが高くなる五番はまあいいとして、ここで一番の問題がある。
それは、今俺の目の前の扉の向こうにいる人物をどうやって外に出すかだ。
モニターで見てるであろうその人物に悟られないよう警戒してたから、俺が今日する内容までは知らないだろう。
だが、十九時までに外に来てほしいと伝えたところで扉を閉められるのは目に見えている。
何より俺は、四番とまともに話したことがない。
知ってることといえば、モニターで研究所内や外を監視してることと、他の奴等と違って何のチカラも持たない実験体の唯一の生き残りである事だけ。
更に付け加えるなら、部屋に引きこもってるけど困ってるときに助けてくれた実は良い奴ってこと。
こうして知ってることをあげてくと、本当に何も知らないということがわかる。
扉の前で考え込んでる俺のこともモニターで見てるんだろうなと思っていると、目の前の扉が開き四番が立っていた。
相変わらず顔を伏せてるから表情すらわからないし、まだどうしたらいいのかも決まらないまま四番に朝飯を運ぶ番になったんだからしかたない。
他の奴らを先にして四番のを最後に運べばその間にいい案が浮かぶかもしれないと思ったが駄目だった。
昨日からずっと考えてるんだけどいい考えが浮かばない。
「ご飯……」
「あ、悪い」
考える事に必死で忘れていた朝飯を慌てて渡すと扉が閉められ、結局伝える事は出来なかった。
下手に伝えて警戒でもされたら、それこそ扉すら開いてくれなくなり完全に今日の計画は台無しだ。
これは一番さんから五番まで、全員が参加しなくては意味がないからな。
一人だけ不参加になんてさせねえ。
その後、食器を回収し昼飯を届け食器を回収しを繰り返したが、未だなんの案も浮かばず時間だけが過ぎ、昼飯を食べ終えた五番に森の出口まで運んでもらい買い出しを済ませ夜の準備は出来た。
すでに時間は十四時。
俺は覚悟を決めて四番の部屋へと向かう。
ノックをする前に扉が開くのはいつもの事だから驚かない。
昼飯も済んで夕飯にはまだ時間があるこのタイミング、確実に何か用があるということは四番は気づいているだろう。
「あのさ、今日の夕飯後なんだが、十九時までに外に来てくれないか」
「なんで」
最もな返答だ。
他の奴らは理由も聞かずに頷いてたがな。
「理由はまだいえねーんだ」
「僕は部屋から出る気はないよ」
そう言って閉めようとした扉に手をかけると、驚いたのか四番の肩がビクッと跳ね上がったのがわかる。
怖がらせてまで参加させようとして、俺は一体何してんだ。
皆がもっとお互いを知って、仲良くなれたらと思ったからこそ全員参加を望んだ。
でも、こんな無理矢理じゃ意味なんてなかったんだ。
そもそも俺が、まだコイツのことを何も知らないんだからな。
「驚かせて悪い。今の話は忘れてくれていい。ただ、お前のことを俺に教えてくれないか」
その言葉で四番の顔が少し俺の方に向き、髪の隙間から片目が覗く。
初めて見た四番の瞳が俺を捉えるが、その視線は直ぐ下へと向けられた。
やっぱり駄目かと思ったとき「入って」と言われ、思いもしない言葉に戸惑いながらも部屋の中へと入り扉を閉める。
真っ暗な空間にモニターの明かり。
モニターの前には椅子が置かれていて、左の壁際には机があるだけの部屋。
「僕の何が知りたいの」
「何って言われると困るんだけどさ。俺、お前と友達になりてーんだ」
「友達……。僕の事聞いてるよね。実験体の生き残りで何のチカラも無いって」
確かに五番から最初に聞かされたけど、それと四番を知ることと何の関係があるのかわからない。
まさか、俺が知りたいのはチカラの事と勘違いしてるんじゃと思い「俺が知りたいのは四番個人の事なんだ」と言えば、四番は黙り込んでしまう。
何か変なこと言ったかと思っていると、四番は静かに話し始めた。
それは、四番が実験体となった日に遡る。
施設から引き取られたのは四番と五番。
研究所に着くと年上の人が数人いた。
それは、一番から三番の成功例達。
博士は研究室にこもり、四番と五番の面倒を他の成功例達がみた。
三人はそれぞれいろんなチカラを持っていて、二人の瞳は無邪気にキラキラと輝いた。
それから数日後、研究室から出てきた博士に自分達もこれから三人の様なチカラを持てると聞かされ、四番と五番は喜んだ。
完成した試作品を先に投与されたのは四番。
結果、何のチカラも得られず、ただ唯一の生き残りとして研究所に置かれた。
それからまた数日後。
前回の試作に改良を加えた薬が五番に投与されたが、最初は博士も他の皆も四番同様に変化はないとされた。
でも日が経つにつれ、五番が全く疲れないことに気づいた成功例達は博士に報告し、そのチカラが判明した。
そう、実験で唯一生き残っただけで置かれた四番は、成功例達の中にいながら失敗作。
皆と違うという事が成長する中で日に日に気になっていき、博士にモニターでの監視を頼まれたときに、内側のみ解除可能の扉にしてもらい、いつしかモニターでの監視を理由に閉じこもるようになった。
皆の様子を把握することができた四番は、部屋から出るときにも人に会うことなく行動ができる状況でもあり、皆と話す事がなくなるのに時間はかからなかった。
「これでわかったよね。僕は皆と違う、失敗作だから。こんな出来損ないに友達になる資格なんてないんだよ」
そう話す四番の表情は一切変わらなかった。
まるで感情を表に出さないようにしているようで、それは閉じこもっている四番そのもの。
感情が出ないように閉じこもる。
そうしていれば傷つかずに済むと思ってるんだろう。
「っ!? 何するんだよ!!」
四番の髪をグシャグシャにしてやったら、驚いたような、ムッとした表情に変わる。
「何かゴチャゴチャしてるみたいだからもっとグシャグシャにしてやろうと思ってさ」
「は? 意味分かんないよ」
俺の言ってることが理解できない四番は眉間にシワを寄せる。
やっぱり表に出さないようにしてるだけで、こうして話せば直ぐ顔に出る。
本当はわかりやすいのに、関わらないことで隠してるんだ。
「グチャグチャな頭の中が更にグシャグシャになったら。もう考えるのも面倒になって楽だろ」
ニッと笑って言えば、四番は瞳を大きく見開いたかと思うと顔を伏せてしまった。
四番って見た感じ十四歳くらいだし、このくらいの年頃の扱いは正直俺にはわからない。
でも、コイツが自分の中で悩んで溜め込んでる事は痛いほど伝わった。
髪もバラバラに切ってあるみたいだから自分でやったんだろうな。
誰にも頼まず、誰にも頼らず。
顔を伏せたまま黙り込んでしまった四番に大丈夫か声をかけたら、キラリと何かが光床に落ちた。
それがなんなのかすぐにはわからず固まっていた俺に「大丈夫なわけないだろ」と言った四番が顔を上げると、大粒の涙がモニターの明かりで輝いていて、それはポタポタと床を濡らす。
驚いた俺は部屋の中をキョロキョロして、机の上にあったティッシュを手に四番の前に差し出すと、それを掴んだ四番は自分の涙を拭いて鼻をかむ。
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