【完結】ZERO─IRREGULAR─

月夜

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Episode6 秘密な関係

2 秘密な関係

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 そしてある日の夜。
 一番さんが俺の部屋を訪ねに来た。
 勿論その理由は一つ。
 俺は一番さんから漫画を受け取ると、その漫画の続きの巻を差し出した。

 その本をまさに一番さんが受け取ったとき、通路からドタバタと走る音が近づいてきて部屋の扉が勢い良く開く。
 何やら言い合いをしながら入ってきたのは二番と五番。
 あの日、二人を追い返して以来来なくなってたのに、何で今日は二人してくるんだ。



「今日は俺が佳の部屋で漫画を読むんだ! 最近ずっと話してなかったからな。語りたいことが山程あんだよ」

「それなら私だって同じだよ! 最近全然佳っチと遊べてないんだから、今日は遊んでもらうのー」



 言い合いを始める二人は一番さんに気づいてないみたいだけど、これはヤバイんじゃないかと視線を横に向けたとき、そこに一番さんの姿はなかった。
 素早さって便利だな、なんて思いながら二人の喧嘩を止めると、俺は溜息を一つ吐いたあと久しぶりに二人と付き合うことにした。

 最近この二人が絡んでこなかったお陰で宿題も順調に進んでるし、今日の分もすでに終わらせている。
 それに、ここでまた断ったら更に面倒な事態にもなりかねないからな。

 その日の夜は二番と漫画の話をしたり、五番に付き合って疲れない遊びをした。
 たまになら、こういうのも悪くないかもしれないなと思うのは、楽しいと思う気持ちが自分の中にあるからだ。
 流石に毎日は勘弁してほしいが。


 それから数日後の夜。
 ついに、一番さんに貸すラストの本を朝飯のときに渡した。
 もうそろそろ返しに来るだろうなと思い、待っている時間が俺を暗くさせる。
 折角話せる話題が出来たけど、俺と一番さんは友達とかじゃなく共通の本で繋がった仲だ。
 その本が終わるということは、こんな風に話したりすることもなくなるってこと。 

 暗くなってしまう俺は心の中で思う。
 本の繋がりなんかじゃなく、友達になれるように頑張ればいいんだってな。
 俺は二番や五番、一番さん、ここにいる人達のことを知っていく度に好きになっていく。
 守りたい、傷つく姿を見たくないって気持ちも強くなって、最近ここでの暮らしに慣れすぎて忘れがちだけど、博士を止めなくちゃいけないって気持ちが強くなるのを感じる。

 五番や二番は胸に悲しみや辛さを押し込めている。
 それはきっと他の奴らも同じはずだ。
 コイツ等みたいな奴を増やさないためにも、ここにいる奴等が本当の意味で笑えるようになるためにも、俺は博士を止める。
 何の力も無い俺にそんなこと出来るかなんてわからない。
 でも、コイツ等の事を知っちまったんだから仕方がない。

 改めて決意を固めていると、突然スマホが振動する。
 こんな真剣なときにディスプレイには冬也の名。
 夜に一体なんだと思いながら応答を押すと、電話の向こうは無音。



「おい、どうしたんだよ」

「佳ー、助けてくれー! もう夏休み期間の半分も経つのに、全然宿題が終わらなくて――」



 なんとなくわかったんで途中で通話を切ると、再び着信。
 無視しようと思っても、振動が気になる。
 俺は大きな溜息を吐くと、まだ一番さんが来る様子もないんで渋々電話に出る。



「なんで切るんだよ!」

「いや、切るだろ。どうせ宿題の手伝いを頼みたいんだろ」

「わかってるなら頼むって。お前だけが頼りなんだ!」



 ここまで言われちゃ断るわけにもいかないが、一番さんがいつ来るかわからないからな。
 俺は仕方なく、少しだけならと手伝う事にした。


 それからしばらくして時間を確認すると、少しどころから一時間以上経っていた。
 もうここまで付き合えばいいだろうと、あとは自力で頑張るように伝えて通話を切る。
 冬也の奴凄い感謝してたけど、そりゃ今までなら俺を巻き込んで夏休み数日で宿題を全部終わらせて、残りは遊んでたんだから当然だよな。

 まだ宿題が終わってないってことは、冬也の奴は未だに遊べずにいるわけだし。
 とは言っても、俺も特に今年は夏らしい遊びや出かけはしていない。
 毎年冬也に宿題手伝わされたあとは、おもいっきり遊びまくるぞとかいって、祭りや海なんかに無理矢理引っ張られたからな。
 ここにいる奴等は研究所から離れられないわけだが、それでもできる夏らしい遊びってなんかあったかなとベッドに寝転がり考える。

 それにしても一番さん遅いな。
 いつもならとっくに来てるはずなんだが。

 もうしばらく待ってみるが一番さんは現れず、もしかして漫画を読み終えたから小説の方に集中してるんじゃないかと思い、それなら明日、朝飯を運ぶときついでに受け取ろうとその日は眠りについた。


 翌朝。
 朝飯を作り二番から四番まで届けたあと、最後に一番さんの部屋へと向かう。
 扉をノックすると「入れ」という声がする。
 いつもなら扉を開けてその場で食事を受け取るのに、部屋に呼ぶなんて珍しいなと思いながら朝飯を持って中へと入ると、そこには椅子に座る一番さんの姿があった。

 机の上には数冊の本が置かれているのが見えて、やっぱり昨日は小説に夢中で来られなかったんだなと思い、料理を机に置くと、俺の前に本が差し出された。
 一番上は俺が貸した本だが、他の二冊は何だろうかと不思議そうにしていると「お前からは漫画を借りたからな。今度は俺のおすすめを貸してやるよ」と言われ、俺は礼を伝えて受け取る。

 これはつまり、今まで通りの関係が続けられるってことなんだと思うと、嬉しさが込み上げてきてグッと耐える。
 すると一番さんは、昨日漫画を返しに行けなかったことを謝罪した。
 一番さんが言うには、俺が小説を好きかわからないから、苦手でも読めるものを選んでいたら時間が遅くなって行けなかったそうだ。

 俺の事まで考えて選んでくれたことが嬉しくて「読んだら感想伝えますね」と笑みを浮かべると、いきなり頭にほんの少しの重みが乗せられた。
 視線を少し上に向ければ、一番さんが俺の頭に手を置いている。



「あの……」

「悪い悪い、なんか今の笑顔が無邪気な子供に見えたんでついな。でも、俺だってあの時は驚かされたからな。まさか本を奪い取られるとはな」



 悪戯っ子のように笑う一番さんに俺は恥ずかしくなり「失礼します」と言って部屋を出た。
 そりゃ一番さんよりは年下かもしんないけど、子供扱いされる年でもない。
 それに最初の時本を奪い取ったのは、料理が冷めないうちに食べた方がいいと思ったからだ。
 普段は同い年の二番や五番みたいな年下といるせいかあんな風に言われたこともされたこともなくて、なんか無性に恥ずかしい。
 大学でこっちの街に独り暮らしをするってなったときに、母親に頭を撫でられたときみたいな感覚がする。

 最初は読書ばかりで人とは全く話さないって印象だったのに、話してみたら気が合って。
 さっきので年上の大人なんだって意識してしまった。
 本当にここにいる奴等は、知れば知るほど好きになる。
 だから俺はもっと皆とこの夏を楽しむために考えたことを明日するんだ。

 研究所を離れずに、全員で楽しめる事。
 一番さんから五番までみんな一緒に暮らしているのに、個人同士が話しているところを俺は一度も見たことがない。
 五番と二番ならしょっちゅう見てるが。

 それに一番さんは本に集中してることがほとんどで、誰とも話さないことは最初の頃に五番が話していた。
 四番は、部屋に閉じこもって出てこようとしないし、一番さん同様にあまり話さない上、部屋は内側からしか開けられないようにするくらい人を避けている。
 だからこそ明日は、みんなが夏らしいことで楽しめるようにする。
 そうすれば、今まで話さなかった奴とも自然と話すはずだ。
 なんて、密かに計画する俺だった。
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