【完結】ZERO─IRREGULAR─

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Episode3 バイト初日の二日間

5 バイト初日の二日間

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「眠れなかったんで夜風にあたりに来たんだ。二番は?」

「俺はいつもの事だ。夜に空を見上げんのがなんか好きでさ」



 意外なんて思ったら失礼なんだろうけど、二番が夜空を眺めるのが好きなんて思いもしなかった。
 これが冬也なら「星? んなもん見て何が楽しいんだよ」とか言うだろう。
 やっぱり、似ているようで別人なんだと思う。

 まあ、俺だって柄じゃないんだがな。
 今日は寝付けなかったから、ただそれだけの理由。



「あのさ、夕飯んとき話してた冬也ってヤツ、そんなに俺と似てんのか?」

「あの時はそう思ったけどさ、やっぱり冬也と二番は違うって今は思ってる」



 そう答えると、また二番は暗い表情をする。
 俺は今度こそしっかり話を聞こうと思い「どうかしたのか?」と声をかけた。
 二番は少し黙ったあと口を開き「俺も、お前の友達になれるのか」と声にする。
 まるで独り言のような言葉に、俺は「勿論だ」と答えると、二番はニッと歯を見せて笑う。



「つーか、友達になれるかなんてよくそんな恥ずかしいこと言えるよなー」

「っ、いいだろ!」



 いつもの二番との会話。
 何だか心のモヤモヤが晴れた気がして、二番と別れたあと自室に戻りベッドに横になる。
 きっと寝付けなかったのは、俺の中で二番のことが気になっていたからなんだと気づいたら自然と瞼が重くなり、眠りへと落ちていく。


 何とか初日を終えての二日目。
 今日は昨日より更に忙しく朝から動き回っていた。
 朝飯を皆に届けると同時に、洗濯はないか確認して受け取り各部屋を回ったあと、食器回収は後回しにして洗濯をする。
 外に干し終えたら食器回収。
 昼飯を作る時間までは研究所内の掃除。

 研究所内の通路やキッチンなどの掃除を終えたあとは直ぐに昼飯の準備。
 各部屋に配り終えたら洗濯物を取り込み畳む。
 夏でこれだけの晴天だと直ぐに洗濯が乾く。
 だが、朝からずっと動きっぱなしの俺にとってはこの暑さは耐え難い。

 みんなの自室には冷房が完備されているものの、通路やキッチンにはないためすでにシャツは汗で張り付いて気持ちが悪い。
 今すぐにでもシャワーを浴びたいところだが、まだこの洗濯を届けてついでに食器を回収し洗うという作業がある。
 それに、皆の部屋も散らかってるようなら片付けなくてはいけない。



「これ洗濯、それと食器回収するな」

「おう!」



 二番の部屋に最初に来たわけだが、キレイに整頓されていて俺が掃除をするまでもなさそうだ。
 イメージ的に散らかってるのを想像してたんだが、思い出してみれば二番の部屋はいつ来てもキレイに片付いていた。
 この調子で他の皆の部屋も片付いていると仕事が減って助かるんだが。
 なんて思いながら三番さんの部屋へ行き、洗濯を手渡し食器を回収する。
 三番さんの部屋も片付いていて、俺がすることはなさそうだ。

 次は一番さん。
 ノックをすると少しして直ぐに扉が開く。
 実は昨日の夕飯の時から、俺がノックをすると扉を開けてくれるようになった。
 最初は本を読み終わったタイミングだったんだろうと思っていたが、それが数回続くと全部が丁度いいタイミングだったというのは不自然。
 よくわからないが、周りの音が読書中でも耳に入るようになったということなんだろうか。



「あの、部屋を見せていただいてもいいですか?」

「なんでだ」

「もしゴミなどあれば掃除しようかなと」



 俺の言葉に返事はなく、扉を開けたまま背を向けた。
 これは、中に入ってもいいという意味なんだろう。
 取り敢えず中に入ってみるが、一番さんの部屋もキレイに片付いていた。



「キレイにされてるんですね」



 俺の言葉に返事はない。
 確認も終わり長居する必要はないため、俺は次に三番さんの部屋へと向かった。
 食器を回収して部屋を見るが、キレイに整理されていて二番同様に問題なさそうだ。

 その後向かったのは四番の部屋。
 扉をノックして呼ぶが返事はない。
 いつもなら俺が開けるより先に開いたりするのに。

 食器は通路に出してあったから回収できたけど、これじゃあ畳んだ洗濯が渡せない。
 取り敢えず食器だけでも先に回収しようと持ち上げたとき、お皿の下に紙が置かれていた。

 書かれていた内容は「部屋の確認は不要。洗濯はこの食器があったところに置いて」というもの。
 部屋に入られたくないんだろうか。
 考えてみれば、俺は四番の部屋には一度も入ったことがない。
 扉から見えるのは暗い部屋とモニターの明かりくらいだったからな。
 それに、四番の部屋だけ中からじゃないと扉が開かない仕様になっているし。

 ここは言われた通りにしようと、俺はビニール袋を持ってくるとそこに洗濯を入れて通路に置いた。
 流石に直に置いたら汚れるからな。

 こうして一番さんから四番までの部屋確認などが終わったわけだが、まだ最後に五番が残っている。
 イメージ的には一番散らかしてそうだが、何度か入ったときには片付いていたから、これで全部屋掃除する必要がなくなり、あとは食器を洗えば夕飯を作る時間まで休憩ができる。

 なんて思っていた俺が馬鹿だった。
 五番の部屋はどうしたらこうなるんだというくらいに散らかっていた。
 部屋の主を見ればニコニコしながら「佳っチがつまらないと思って部屋を散らかしておいたよ!」なんて言うものだから、おもいきり両手で五番の頬を摘んでやった。

 痛いなんて言葉が聞こえるが無視。
 余計な事ばかりする五番に溜息が漏れる。



「ほら、食器よこせ。あと、これは洗濯だ。いいか、これ以上何もするなよ」

「はーい」



 念押ししてからキッチンに戻り、回収してきた食器を洗う。
 俺も昼を食べたいところだが、あの部屋を放っておくこともできず、掃除道具やゴミ袋を持って五番の部屋に戻る。
 部屋一つだけならすぐに終わるだろう。



「って、なんでさっきより散らかってんだよ!」

「え? だって何もするなよって言ったから」

「フリじゃねーよ!」



 このアホに怒りさえ覚えるが今は掃除だ。
 今のこの部屋を見る限り、下手したら俺は昼飯抜きになりそうだ。
 兎に角早いところ片付けないと。

 まずは、床に散らばったぬいぐるみを拾い棚に並べ、雑に置かれた漫画も棚にしまう。
 ベッドが傾いてるのは五番に自分で直させ、床に落ちた掛け布団を畳む。
 次にスナック菓子などのゴミを袋に入れて片付けると、ようやく床が見えてきた。

 研究所のいいところは、床が畳などじゃないところかもしれない。
 ツルツルとした床だから、直ぐに食べかすなどの細かい塵もキレイに片付き、ようやく掃除が終わる。
 意外に早く終わったんじゃないかとスマホを見ると、もう少しで夕飯の時間。

 まさかこれだけのことで、ここまで時間が経っていたとは。
 本当に余計なことをしてくれたもんだ。
 でももし、五番以外の部屋も散らかっていたらと考えるとそれだけで疲れが倍増する。



「夕食楽しみだなー」

「お前なあ……」



 そのあとは夕飯を作り、皆に届け、ようやく俺も食にありつけた。
 昼抜きで動いたせいか今日はやけにお腹が空く。

 食べ終えたあとは、皆の食器を回収して皿を洗う。
 夕飯を運んだときと回収するときは、いつも通り四番は扉を開けてくれたから、やっぱり部屋に入られるのが嫌だったんだろう。

 なんだか忙しい二日間だったが、少し皆のことを知れた気がしたから悪い気はしない。
 それに今日みたいな掃除は毎回ではないから、しばらくはそこまで疲れなくても済みそうだ。
 そもそも五番がわざと散らかさなければもっと早く終わってたし、次は五番にキツく言っておかなければ。


 二日目のバイトも無事終わり、また明日から大学か、なんて部屋で考えていたら扉が勢いよく開かれて五番が中へと入ってきた。
 それに続いて五番を叱りながら二番までやってくる。
 その理由はなんとなくわかっていた。
 思った通りその日の帰り俺は、五番に担がれて夜の道を送り届けられた。

 これだけはこの先も慣れることはない。
 女に担がれることに慣れたら男としての終わりだと思いながら、俺の二日間は幕を下ろした。
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