【完結】ZERO─IRREGULAR─

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Episode3 バイト初日の二日間

2 バイト初日の二日間

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 先ずは一番さん。
 さっき部屋から出て行ったけど、もう戻っているだろうか。

 扉を二回ノックするが反応はない。
 更にもう二回と繰り返すがやはり何の反応も返って来ず、やっぱりまだ戻っていないのかと思った俺は一番さんを後回しにして二番の部屋へと行くことにした。

 扉をノックすれば直ぐに返事が返ってきて、昼飯を二番の部屋にある机の上に置くと「うまそー! お前、料理できたんだな」なんて言ってきたんで「どんなもんだ」と言ってやった。
 まるで、冬也と会話をするように。


 二番の部屋を出た俺が次に向かったのは、三番さんの部屋。
 一番まともで大人びた雰囲気のある三番さんだが、そのおっとりとした感じが俺には話しやすく感じさせる。
 ただ、記憶を消すチカラがあるせいで、少し怖くもある。
 もし俺の記憶が消されでもしたら、こんなことが行われている事実も忘れて平和な日々に戻ることになってしまうから。

 知らない頃に戻れれば楽なのかもしれないが、知ってしまった以上は忘れたくない。
 まだ短い時間しかコイツ等との関わりはないし、何を考えているのかとかわからないことだらけ。
 それでも知ったんだ。
 二番のフレンドリーさ。
 五番のアホだけど真っ直ぐなところ。
 四番が実は優しいってこと。
 俺はコイツらのことをもっと知っていきたい。

 そんなことを考えていたらあっという間に着いた三番さんの部屋の前。
 少し躊躇いながらもノックをすると、落ち着いた声音で返事が聞こえる。



「あの、お昼を持ってきたんですけど」

「ありがとうございます。そういえば今日からでしたね。キミがバイトとして来るのは」



 おっとりとした優しい微笑みを向ける三番さん。
 一体この人は、今まで何人の記憶を消してきたんだろう。

 そして消すその瞬間、何も感じなかったんだろうか。
 少なくても元バイトの人の様に関わりがあった人もいたわけだし、その人から自分達の記憶が消えてしまうのに、何も感じないなんてことがあるんだろうか。



「何か考え事ですか?」



 ついぼーっと考えてしまっていた俺を心配した三番さんが声をかけてくれる。



「いや、なんでもないです。料理が冷めてしまうんで、俺はこれで失礼します」



 複雑な気持ちが胸に渦巻くが、今は考えないように四番の部屋へと向かう。
 さっきはキッチンの場所だけじゃなく、研究所内をわかりやすく描いてくれた地図を貰ったし、四番にはしっかりお礼を伝えたい。

 部屋の前に着きノックをするが返事はない。
 モニターの監視なら返事くらいできるだろうに。
 まだ運ばなくちゃいけない奴らがいるのに、これ以上時間をかけてたら折角の料理が冷めてしまう。

 あんまりこういうことはしたくないが、五番のように勝手に入るしかないと思ったとき、この扉にはドアノブがないことに気づく。
 最初に研究所を案内してくれたときに四番の部屋だけ五番がノックしたのはコレのせいだったんだと今更わかったが、つまりこれは中からしか開けられないってことなのか。



「あー、四番いるか? 昼飯持ってきたんだけど」



 シーンとする通路。
 四番は後回しにするかと思ったとき、その扉は開かれた。
 そこには、やっぱり顔を伏せていて表情が読み取れない四番がいて、取り敢えず俺は夕飯を運ぶから部屋に入っていいか聞くと、四番は首を横に振る。

 なんかこういうタイプはどう扱っていいのかわからない。
 五番と最初来たときは一言だったけど言葉を発してくれたし、さっき俺がキッチンがどこにあるのかわからず困っていたときも声をかけてくれたのに。
 もしかして、俺の事警戒してたりとかするんだろうか。

 取り敢えず部屋に入るのがダメならと、昼飯を四番に手渡すと扉が閉められた。
 顔が見えない上にモニターの明かりしかないから少し怖いんだよな。
 そういえば地図のお礼を伝え忘れてしまったが、またの機会に言えばいいだろう。

 次は再度一番さんの部屋へ向かう。
 そろそろ部屋に戻っててもいい頃だろうと思ったが、扉をノックしても返事はない。
 もしかしてまた本に集中しているんじゃないかと思った俺は、一番さんの部屋はドアノブがある事を確認してそっと開ける。
 中を覗くとやっぱり一番さんは部屋にいて、椅子に座り本を読んでいる。

 これじゃあ入っても気づかないだろうなと思い、小さな声で「失礼します」とだけ言って中へと入り机に昼飯を置く。
 あとはこのまま去ればいいだけなんだが、見た感じ直ぐに読み終わる気配はなく、すでに冷めかかっている昼飯がこれでは冷たくなってしまう。



「一番さん」



 名前を呼ぶがやはり気づいていない。
 かといってこのままというわけにもいかず、俺は強行手段として読んでいる本を取り上げた。
 自分より年上だと思われる人に対してこんなことをするのはあれだが、やはり料理は少しでも温かいうちに食べた方がいい。

 一番さんの視線が本を取り上げた俺に向けられ、怒っているかと思ったが、その表情は驚いていた。
 本がいきなり取られたこと。
 そして、気付かないうちにいた俺に驚いたんだろうけど、ここまで集中し過ぎると逆に危ないように思える。



「お昼を用意したので、冷めないうちに食べてくださいね。それと、本を取り上げてしまってすみません」



 それだけ伝えて取り上げた本を返すと、俺は一番さんの部屋を出た。
 これで全員に運んだと言いたいところだが、一人だけ避け続けていた人物が残っている。

 持っていかないわけにもいかず、俺は渋々そいつの部屋へ向かう。
 扉の前でノックを躊躇っていると、勢い良く扉が開かれ五番が姿を現す。
 何だかムッと膨れているが、用事を済ませて早くこの場から去ろうと、そそくさと部屋の中に昼飯を運ぶ。



「ちょっと! レディーの部屋に無言で入らないでよね」

「この部屋にいるのはレディーじゃなくてアホだろ」



 つい心で思ったことを口に出してしまえば、自称レディーは更なる膨れっ面へと進化する。
 関わるとろくなことがないから避けたいのに、部屋を出ようとする俺の腕を五番は掴んで離さない。

 傍から見れば、膨れっ面の可愛い女の子が腕を掴んでいるなんとも羨ましい光景かもしれないが、忘れてはいけない。
 コイツ等の力は皆常人以上。
 今俺の腕を掴んでいる力は普通の女の力ではない。
 何故なら俺が本気で振り払おうとしてるのにビクともしないんだからな。
 男より力があり、見た目は可愛くても純粋なアホを俺は可愛いなんて微塵も思わない。
 それどころか恐怖だ。



「一体なんだ」

「お昼が遅い。絶対に私が最後だったでしょ」



 そんなことで膨れていたのかと溜息が漏れそうになるが、運んでくるのが遅くなったのは事実だ。
 ここは素直に謝罪をしようとしたが「炒飯とお吸い物だ! うわーん冷めてる美味しくなーい」という言葉が聞こえてその気はなくなった。

 確かにここに運ぶまでの間で冷めたのは認める。
 だが、作ってもらった相手に言う言葉か。
 何より美味しくないなんてのは俺の料理への侮辱。



「美味しくないならいらないな」

「あー、ごめんごめん! 食べます、食べますからー」



 料理を片付けようとした俺に必死になり謝る五番。
 最初から大人しく食べてればいいものを、本当に余計なことを言う奴だ。
 でも、目の前で美味しそうに食べる五番の姿を見ていたら、さっきの怒りも何処かへ行ってしまう。

 美味しくないとか言ってたわりにはその場で即完食。
 まあ夜は、五番から最初に夕飯を運んでやってもいいかもしれないな。
 冷めちまったお詫びも兼ねて。

 五番の食べ終えた食器を再び台車に乗せて、今度は皆の食べ終えた食器を回収しに向かう。
 回収だけなら運ぶ時よりは時間はかからないだろう。
 そう思いながら運んだ順番に取りに行く。

 先ずは二番の部屋に行き食器を回収すると、五番は何かしなかったかなど心配してくれた。
 これといって騒ぎになるようなことはなかったから大丈夫だと伝えて、次は三番さんの部屋へ向かう。
 三番さんは難しそうな本を読んでいたが、俺が訪ねるとその本を閉じて机に置き「食器はそちらに置いてありますので。美味しいお昼をありがとうございました」なんて言うもんだから何だか照れくさい。

 同じ読書でも、一番さんと三番さんではここまで違う。
 というより、三番さんが普通なんだと思う。
 一番さんが集中力ありすぎなだけで。
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