【完結】ZERO─IRREGULAR─

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Episode3 バイト初日の二日間

1 バイト初日の二日間

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 それから数日後。
 大学が休みの二日だけ、研究所でバイトをすることになった俺の初日一日目。
 家から通うのは大変ということもあり、前のバイトの人が使っていた部屋を借りて泊まり込むことになった。



「五番、少し相談なんだが」



 俺はこの前カレンダーを見て思いついた事を相談する
 それは、もう直ぐある夏休みの期間もここに置いてほしいということ。
 勿論バイトの雑用はその期間ずっとすることになる。



「やったー! 嬉しー! あ、でも、二番に相談してみないと」

「わかった。これから早速話にいってくる」



 少しでもいられる時は、この研究所で過ごしたい。
 次の犠牲者を出さないためにも。

 二番の部屋の前に着いた俺は、ドアをノックする。
 返事が聞こえて中に入れば、そこに二番はいた。
 自分の部屋なんだからいて当然なんだが、俺を見るなり「五番はいないのか?」と俺の背後を気にしているようだ。
 やっぱり二番は五番とはあまり関わりたくないみたいだな。
 気持ちはわかるけど。

 今日は一人であることを伝えると、二番は安堵の表情を浮かべる。
 そして俺の方に来ると、いきなり肩を組んで「今日から頼むぜ」と俺にニッと笑みを見せた。
 やっぱりこういうところが冬也に似ている。



「こっちこそよろしくな。あと今日は、二番に相談があってさ」



 その言葉で肩に乗せられていた腕が離れ、俺は夏休みの間ここにいられないか相談する。
 勿論、その理由は話さずに。
 きっと知られれば、博士の邪魔をしようとする俺の記憶は消されることになる。
 そうならないためにも、俺の考えを知られるわけにはいかない。



「それは構わねーけど、お前変わってんな。普通休みまで対価もでねーのにバイトなんかしたくねーだろ」



 俺がこのバイトをするのは大学が休みの二日だけ。
 夏休みなどの長期休みも大学の時と同じように二日でいいと言われていた。
 二番の言う通り、俺は変わってるんだろうな。
 まだそこまで知らないコイツ等や、他人の心配をしてここに居たいなんて思ってんだから。

 取り敢えず二番の了承を得た訳で、来月からの夏休みは研究所に泊まり込むことが決まった。
 大学の宿題なんかは空いた時間にここで終わらせれば問題ない。

 でも普通に考えれば、二番より先の成功例であり、博士の研究室のパスワードまで唯一知っている一番さんにも許可を得るべきなんじゃないだろうかと思った俺は、二番の部屋を出ると一番さんの部屋に向かう。
 この前来たとき挨拶もしてなかったし、良い機会かもしれない。

 部屋の前まで来て扉をノックするが返事はない。
 確かこの前五番に案内してもらったときは、本を読んでいた。
 そういうときは周りの音が耳に入らないと五番が言っていたし、もしかすると今も読書中かもしれない。

 最後にもう一度扉をノックするが反応はなく、まあ二番には許可はとったからいいだろうと思いその場から離れようとしたとき扉は開いた。
 開かれた扉から俺をジッと見詰める一番さん。
 考えてみればこの前俺は話すことは出来なかったが本人を見ている。
 だが、一番さんは俺とは初対面なんだから不審に思うのは当然だ。



「初めまして。今日からここで大学が休みの時だけバイトとして働く高林 佳です」



 自己紹介をするが反応はなく、どうしたらいいのかわからない俺は取り敢えず夏休みの間の事を一番さんにも伝える。



「て訳で、二番には許可をもらったんですけど、一番さんにも許可をとった方がいいかなと思いまして」



 ここまで話しても無言。
 更にどうしたらいいのかわからずにいる俺の横を通り過ぎて、一番さんは行ってしまう。
 これはどうしたらいいのか。
 もしかして許可をもらえなかったのかと思っていると「佳っチ!」なんて聞き覚えのある呼び方に振り返ればやっぱり五番の姿。

 コイツに関わるとトラブルに巻き込まれたり、話がややこしくなりそうなんで避けたかったんだが、どうやら夏休みの件を二番が了承したことを聞いて俺を探していたらしい。



「二番から了承もらったって聞いたよ。でも、なんで一番の部屋の前にいるの?」

「博士の次にこの研究所では上だからさ、一番さんにも許可を得ようとしたんだが、なんか一言もないまま行っちまってさ」



 夏休みの話と二番から許可を得たことは一番さんに伝えたと話すと「なら一番も許可してくれたんだね」と五番は言うが、一番さんは何も言ってないのに何故許可したことになるんだと、俺は五番の言葉を不思議に思う。

 すると五番は「何も言わなかったのが応えだよ」と一言。
 更に五番が続けた言葉で俺は納得する。
 一番さんが本を読んでいる間は周りの音が聞こえなくなることは知っていたが、本を読み終えて会話が聞こえる状態になっても基本話さず、重要な時にだけ声を発するらしい。

 つまり今俺が話したことに対して何も言わずに去ったのは、了承を得たということになる。



「なるほどな」

「よーし、そうと決まれば、夏休みは佳っチと遊びまくるぞー!」



 どうやら俺の夏休みは自分が遊んでもらえると思ってるみたいだが、俺がここにいるのはバイトとしての仕事をするためってことを忘れてるんじゃないだろうか。
 五番らしいといえばらしいが、こんな疲れ知らずと遊んでたら俺が死ぬ。
 そもそも夏休みの間は、バイトの仕事以外大学の宿題をやるからそんな時間に割いてる暇はない。

 直ぐ様「遊ばないからな」と言ったが、五番は何をしようかと考えを巡らせていて聞こえてない。



「今から夏休みの計画立ててくるね!」



 そう言ってダッシュで去っていく五番の背を見送る。
 夏休みに入って遊ばない事がわかったらガッカリするんだろうけど、人の話を聞かないアイツが悪い。

 そんなことをしてる間にスマホを確認すると、そろそろ昼飯を準備しないとマズイ時間だ。
 俺はキッチンへ向かおうとして思った。
 場所を知らない事を。

 誰かに聞くしかないが、誰に聞くべきか。
 五番は論外として、やっぱりここは一番話しやすい二番か、それとも一番落ち着いている大人な雰囲気を纏った三番さんか。
 誰に声をかけたらいいのか悩んでいると、扉が開く音が聞こえ視線を向ける。
 あそこは四番の部屋だが、とくに出てくる様子はなく不思議に思っていると、手だけがそろりと出て来てこちらに向かって手招きしてる。

 まるでホラーのようにも見えるが、ここにいるのは俺一人。
 考えなくても俺を呼んでいるんだろうと思いその手の元へ近づく。
 真っ暗な部屋にモニターの明かり。
 前にも見た光景。
 そして、開かれた扉の前に立つ俺の前には四番。



「えっと、どうかした?」

「何考えてたの」



 俺が質問したのに、無視して質問返し。
 五番に案内してもらった時、四番の態度は冷たかった事を思い出す。
 やっぱりここにいる奴らはみんな変わってるなと思いながら、俺は質問に答えた。
 すると四番は部屋の中へと戻り、モニターの前にある台の上で何かしだす。

 俺が不思議に思っていると、四番は俺の方に戻り紙を差し出した。
 訳もわからず受け取ると、扉は閉められてしまう。

 一体何だったのか。
 渡された紙を見てみると、そこには簡単にわかりやすく描かれた研究所内の地図。
 四番はモニターで監視をしているから、もしかしたら俺の様子に気付いて心配してくれたのかもしれない。
 研究所内にも数カ所監視カメラがあるから見られていてもおかしくはない。

 冷たい奴かと思っていたが、意外な優しい一面を知って何だか嬉しくなった俺は、その地図を見てキッチンがある場所へ向かう。
 独り暮らしの男は料理が出来ない、もしくはしない人が多いみたいだが、俺は母親が煩かったんで実家を出る前に一人で自炊をする知識は母親から得ている。
 普段の生活もそのお陰で助かってるが、まさかここでその知識が活かされるとは思いもしなかった。

 取り敢えず俺は冷蔵庫の中を確認するが食材はあまりなく、今ある材料だと炒飯とお吸い物が作れそうだ。
 買い出しは後からにして、取り敢えず人数分を作る。
 流石に自分合わせて六人分ともなると大変だが、数回に分けて作ることで無事完成。

 あとはこの料理をどうやって運ぶか。
 いちいちキッチンに戻ってくるのも手間だしなと考えていたとき、料理を運ぶ台車が視界に入りそれに全員分を乗せて一部屋ずつ回る。
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