上 下
3 / 9
2吸血 バンパイアと一緒の夏休み~1日目~

1 バンパイアと一緒の夏休み~1日目~

しおりを挟む
「おはよー」

「おはようございます。なんだか逢坂さん、今日はいつも以上に元気ですね」



 教室に入って早々、私は自分の席の後ろに座る、夏蓮かれんに挨拶をしながら机に鞄を置くと椅子に座る。



「まぁ、明日からは待ちに待った夏休みだしな。結がはしゃぐのもわかるぜ」



 そんな私の席の右隣から会話に入ってきたのは、よう
 この二人とは小さい頃からの仲であり、高校もクラスも一緒という幸運に恵まれていた。

 明日からは夏休み。
 つまり学校という拘束された日々から開放されゴロゴロし放題。

 浮かれる私を見て夏蓮が笑みを溢すと「夏休み、二人は用事ってないかしら」と夏蓮が私と陽に尋ねる。

 陽は私と同じで両親が仕事でほとんど家にいないということもあり、とくにこれといった用事はなく、私も陽と同じで家でゴロゴロすることしか予定はない。



「でしたら、私の別荘に3人で行きませんか」

「行く行く」

「俺も大丈夫だぜ。つーか相変わらずスゲーな、お前ん家」



 夏蓮の家はお金持ちで、別荘と聞いても付き合いの長い私と陽からしたらもう慣れてしまって驚かない。


 こうして夏休みに入る前に決まった予定だが、この時の私はすっかり忘れていた。
 家にいるもう一人の存在を――。



「お帰りなさい」

「はぁ……。ラルムのことすっかり忘れてた」



 今回の別荘は泊まりがけで2泊3日。
 その間ラルムを一人にすることも不安だが、何より一番の問題は血だ。
 もし私がいない間に吸血衝動が出てしまえば、ラルムは他の人の血を飲むしかない。
 考えた結果リスクはあるものの、ラルムも私達の泊まる別荘がある場所までついてきてもらうことにした。

 なんだか楽しみだったお出掛けが一気に不安でしかなくなったが、絶対に二人に見つからないようにとラルムと約束をし、この日は眠りへとつく。


 そして、ついにやってきたお出掛け当日。
 不安はあるものの、折角だから楽しもうと待ち合わせ場所へ行く。

 3人集まると夏蓮の家の車で別荘へと向かうが、私は移動の間ラルムの事が気になってしまう。

 そんな落ち着きのない私の様子に気づいた陽に「どうかしたのか」と声をかけられ、今日が楽しみだったからワクワクしてるだけだよと誤魔化す。

 このままでは自分がボロを出してしまいそうで、ラルムの事を一旦忘れることにした。


 それから数時間経つと窓から海が見え、目的地までもう少しなのがわかる。

 今回私達が泊まる場所は、海が目の前にあるところ。
 泳ぐのも楽しみの1つだ。
 そんなに離れた場所でもないため、お昼前に着くことができた。



「とうちゃーく! んー、潮風の香りがする」

「そりゃそうだろ。海なんだからさ」



 車から降りると潮風が肌に吹きつける。
 少しベタつくが、それさえも気にさせないほどに海が輝きを放っていた。

 今すぐ海にダイブしたいところだが、3人荷物を置きに今日から2日泊まる別荘への中へと入る。
 流石夏蓮の別荘だけあって中は広く、3人1つずつの部屋まで用意されていた。

 各々の部屋に一度荷物を置くと、そのまま持ってきた水着に着替え3人早速海へと向かう。



「ほらほら二人とも、早くー!」

「あいつはしゃぎすぎだろ」

「ふふ。陽くん、私達も行きましょう」



 泳ぎの競争をしたりしてはしゃいでいると、最初からテンションを上げすぎた私は少し疲れて一度海から上がる。

 ただ砂浜に座っていては折角来たのに勿体無いと思い、私は近くを散策することにした。
 やっぱりこういう場所でのんびり散歩をするのも楽しいなと思いながら歩いている、突然目の前に人影が現れた。

 驚きで声を上げそうになると、伸ばされた手に口を塞がれ制止されてしまう。



「大きな声を出しては他の方に気づかれてしまいますよ」



 目の前にはラルムの姿があり、スッカリ存在を忘れてしまっていたことを思い出す。

 ラルムを一人にするのは不安だから、皆に気づかれないようにこっそり空からついてきてもらっていたんだった。



「もしかして結さん、私の存在を忘れていたんですか?」

「え、あははは。そんなことあるわけないじゃない」



 あからさまに動揺している私を見て、ラルムはクククッと声を殺し笑う。

 取り敢えず運よく泊まる所には一人ずつの部屋が用意されていたから、ラルムには二人に見つからないように私の部屋に居てもらおうと、こっそり海から離れる。

 だがここで1つ問題があり、どうしたものか立ち止まり考え始る。



「どうかなされたのですか」

「うん、それがね。私達の泊まる建物には、家事をするために夏蓮の家のメイドさんが一人来てて、ラルムを見つからないように部屋まで連れていくにはどうしたらいいかなって」

「そうですね。でしたら、結さんの部屋の窓から私が入ればよろしいのではないでしょうか」



 ラルムの提案に、その手があったかと頷き、その方法でラルムを部屋に入れることにした。

 先ず私が中へと入り、自分の部屋へと向かう。
 そして、窓を開けて人目がないことを確認したら、ラルムに窓から入ってもらうという方法。

 予定通り部屋に戻り、キョロキョロと窓から周りを確認する。
 誰もいないことがわかると、手招きをしてラルムを部屋の中へと入れる。

 なんとか誰にも見られずに済んだものの、まだ安心はできない。

 誰か来る気配がしたら、どこかに隠れるか周りを確認して窓から一旦外に出るようにと伝えると「私としても正体が知られて結さんの側にいられないのは困りますからね」と言われ、不覚にも鼓動が小さく音をたてる。



「結さんの血が飲めなくなるなんて考えただけで喉が乾いてきました。そんなの耐えられません」

「はいはいそうよね。ラルムは血よね、わかってたわよ」



 やっぱりと思いながらも落胆している自分がいる。
 甘い答えを期待していたわけではないが、それでもほんの1%の確率に、少し期待をしてしまっていた。

 血だけではない別の感情が、もしかしたらラルムの中にあるのではないかと。

 でもそれは、そうであったらという私の思いであり、実際は血を欲する側と吸われる側という関係でしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】月夜の約束

鷹槻れん
恋愛
家出少女パティスと孤独な吸血鬼ブレイズ。 満月の晩、2人はとある約束をした。 NL、全年齢対象です。 エブリスタでも読めます。 ※ 表紙絵はあままつ様のフリーアイコンからお借りしたイラストを使わせていただいています。 無断転載など、硬くお断りします。 https://ama-mt.tumblr.com/about

吸血鬼を拾ったら、飼われました ~私の血はどうやら美味しいみたいです~

楪巴 (ゆずりは)
キャラ文芸
自ら灰になろうとしていた吸血鬼・トワを知らず助けてしまった柚姫(ゆずき)。 助けた責任をとって、血を提供しろってどういうこと~!? さらに謎の美青年・チトセ(9話登場♡)まで現れて柚姫を取り合う事態に……モテ期到来!? 「お前なんかに、柚姫はわたさん!」 「私は、欲しいものは必ず手に入れます」 トワもチトセさんも、ケンカはやめて~っ!! コミカルあり、シリアスありの吸血鬼×女子高生の物語、ここに開幕――  ※ 第5回キャラ文芸大賞にて、奨励賞をいただきました!! たくさんの応援、ありがとうございます✨  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

封印を解いたら、吸血鬼に結婚を迫られました。

白猫
恋愛
幼いある日、薔薇屋敷と呼ばれるお屋敷の、人の寄り付かない開かずの間で、ダイアナは見ず知らずの青年に出会った。 そんなことも忘れた11年後、ふとしたきっかけで再会を果たす。 「ダイアナ? お前、本当にあのダイアナか?」 「そう、だけど」 「好きだ」 「え?」 「タイプだ。結婚してくれ」 見た目のまったく変わらない彼は実は、齢300年の吸血鬼だった。 そしてなぜかいま、求婚されています……。

処理中です...