【完結】がぶちゅう★バンパイア

月夜

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1吸血 天使か悪魔かバンパイア

1 天使か悪魔かバンパイア

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 この世には、説明できないことが存在する。
 そして、今私の目の前で起きている現実も、その一つだということ――。



「初めまして、私はバンパイアです」

「いやいやいや! そんなの笑顔で言われても」



 突然家の中に現れ、自分はバンパイアと名乗る男は明らかに危険。
 そもそも不法侵入だ。

 取り敢えず警察を呼びたいところだが、目の前に立たれては身動きができず、距離を取るので精一杯。



「兎に角出ていってもらえますか? 警察呼ぶわよ」

「お断りします」

「即答!?」



 何とか隙を作ろうにも、逃げ出す隙を与えてはくれない。
 その上、直球に伝えた私の言葉もあっさりと却下。



「一体何が目的なの? お金?」

「私の目的ですか?」



 ニヤリと口角を上げ、男の瞳がキラリと光る。

 私の脳が告げている、こいつは危険だと。

 ゆっくり歩み寄ってくる男を前に、私の足は縫い付けられたように動かなくなり、ついに目の前まで近づいてくると、男の顔が近づけられた。

 よく見ると、その男の肌は透き通るように美しく、瞳は深海のようにどこまでも深く青い。

 きっとこの時の私の気持ちを言葉で表すのなら、目の前の男に瞳を奪われたというのが正しいのだろう。

 男は私をじっと見詰めると、何かに納得したらしく顔を離し頷いている。



「貴女はバンパイアですね」

「は?」



 男の言葉が理解できず、頭にハテナマークを浮かべる。



「ようやく出逢えました。運命のバンパイアに」

「ちょ、ちょっと待ってよ。バンパイアだとか運命だとか意味わかんないから。それに、バンパイアなんているわけないじゃない」

「可笑しなお方だ。同じバンパイアだというのに信じられないとは」

「いや、だから私はバンパイアじゃ――」



 言いかけたその時、突然体が何かに包まれたかと思うと、首筋に痛みが走る。
 何が起きたのかわからず目線だけを向けると、男が私を抱き締めており、私は慌てて男を突き飛ばすと距離を取る。



「御馳走様」



 男の口端には赤い何かがついており、垂れそうになるそれを舌でペロリと舐め取って見せた。

 ツキンと痛んだ首筋に触れると、ぬるりとしたモノが指につく。
 赤色のその液体は間違いなく血。

 何も言えず驚く私に「バンパイアなら血くらい見たことあるでしょう」と、ニヤリと笑みを浮かべる男の口には牙が見える。

 そして、男の言っている言葉が確信へと変わっていく。
 不法侵入なら警察でいいのだろうが、バンパイアは警察でいいのか。
 何よりバンパイアがこの現代社会にいるものなのか、ファンタジーじゃないのかと頭は混乱し始める。



「どうやら信じていただけたようですね。お仲間に出会えて嬉しく思います」



 先程から男は、私をバンパイアだとか仲間だとか言っており、私は人間だと否定する。

 すると男は鼻をヒクヒクさせながら私の周りを嗅ぎ始めると、顎に手をあて考える仕草をする。



「不思議ですね。先程までは同族の香りがしていたのですが、今は人の美味しそうな血の香りしかしない」

「だから人間だってば。つーか美味しそうな血の香りとか言うな」



 訳のわからないことを言っている男にぷんすこと怒っていると、伸ばされた手が腰へと回された。
 私の体は男へと引き寄せられ、今も血が滲んでいる首筋に男は舌を這わせ、その赤い液体を舐め取る。



「やはり美味しい。ですが、先程飲んだ時とは味が違いますね」

「いいから離れなさいよッ!!」



 男の体を思いきり突き飛ばし睨み付けると「そんな怖い顔しないでくださいよ」と男は言う。
 いったい誰のせいだと思っているのか。

 人間だとわかったならさっさと出て行くように伝えると「私は同族のプリンセスを探さなければならないので、これで失礼させていただきますよ」と、男は2階だというのにベランダから飛び降りた。

 私は慌てて下を覗き込むが、すでに男の姿はない。



「いったいなんだったんだろう」



 こんな話を誰かにしたところで信じてもらえるはずもないだろうなと思いながら戸締まりをすると、まるで何事もなかったかのように眠りにつく。


 翌日土曜日。
 学校もお休みのため、家でだらだらと過ごしていると、ふと昨夜のことを思い出す。

 バンパイアなんているはずがない。
 全て夢だったんじゃないかとさえ思えてしまうが、今も首筋に残る牙の跡は、その考えを否定しする。



「はぁ……。よしっ! 考えるのは止め止め、折角の休みなんだしゆっくり過ごさなきゃ」

「何を考えていたんですか?」



 背後から聞こえた声にバッと振り返ると、そこには昨夜の男の姿。

 何でここにいるのか、そもそもどうやって入ったのか聞くと「2階の窓が空いてましたので、そこからお邪魔しました。ちなみに、昨夜もそこから」と、ムカつくくらいに柔らかな笑みが向けられる。

 暑いからと窓を開けていた不用心な自分に後悔するが、まさか2階から侵入されるなんて、それもバンパイアになんて予想できるはずがない。

 それよりも、今は他に気になることがある。
 この男が何故ここに、私の前に現れたか。



「同族を探しに行ったんじゃないの?」

「はい、ですが何故でしょう。美味しそうな貴女の甘い香りに誘われ、ここへ来ていました。ジュルル」

「わかったから、ヨダレ垂らしながら私を見るのは止めて」



 折角のお休みだというのに、こんなバンパイアに付き纏われてはゆっくりどころではない。
 私は頭を横に傾けると「吸えば」と男に言う。



「いいのですか?」

「何度も来られたら迷惑なのよ。血を吸わせてあげるかわりに、もうここへは来ないでよね」



 男は柔らかな笑みを浮かべると、私に近づき腰を自分へと引き寄せる。
 近い距離に鼓動が高鳴り、男の唇が首筋へと近づく。

 昨夜と同じ痛みがくるのだろうと、ぐっと瞼を閉じたその時「いただきます」と耳元で囁かれた。
 その囁きと同時に、首筋に痛みを感じ声が漏れる。
 わかっていたことだが、やはり血を吸われる時の痛みに顔が歪んでしまう。

 だが次第にその痛みが気持ちいいと感じ始め、甘い痺れに酔ってしまったような感覚になる。



「って、いつまで吸ってんのよ」

「おっと、これは失礼。貴女の味が私好みで、つい吸い過ぎてしまいました」



 男は笑顔で答えているが、吸い過ぎると言うことは私の命に関わるということであり、笑い事ではない。

 兎に角これで満足したはず。
 約束通り、もうここへ来ないようにと念押しすると、伸ばされた手に顎を掴まれてしまう。

 男の妖艶な瞳が私を捉え、声が出せなくなってしまう。
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