【完結】1話完結のSS集

月夜

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小さな泥棒/テーマ:泥棒

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 最近私はある事を考えていた。
 ここ数日、何故か私の物が一つずつ無くなる。
 ブレスレットだったりお菓子だったり。
 最初は、何処かに置き忘れたり無くしたり、お菓子なら食べたのかもしれないと持っていた。

 でも、流石に昨日テーブルに置いた家の鍵が無いのは可笑しい。
 私はいつも帰宅後は無くさないようにテーブルの上に置いている。
 床にも無いしどこに消えたのか。
 独り暮らしで他に持っていく人なんていない。
 まさか、泥棒が出入りしてるんじゃないかと考えるとゾッとする。

 何にしろ、原因がわからなければこの先も物は消え続ける。
 毎日一つは無くなるから、今夜も現れるに違いない。
 私はいつも通りの一日を過ごし、電気を消したあとベッドに横になる。
 何があってもいいように、警察の番号が打ち込まれた状態のスマホを手に寝たフリをする。

 あれからどのくらい経ったのか、気づけば眠っていた私は音で目を覚ます。
 瞼を薄く開きテーブルを見ると、そこには小さな人型の生き物。
 一度手に持って落としたのか、ピアスの片方を両手で持ち歩き出す。

 泥棒はアレで間違いないだろうけど、一体アレは何なのか。
 どこに行くのか見ていると、その小さな人型はタンスの隙間へと消えてしまう。

 翌日、目を覚ました私はあの人型が消えたタンスを動かした。
 すると後ろに小さなドアがあるのを見つけ、指で摘んで開けようとするが全く開かない。
 仕方ないので今夜も待つことにする。

 夜も遅い時間、タンスの隅からまたあの人型が出てきた。
 慣れたようにテーブルの脚にしがみつき上に上がると、昨日と同じピアスのもう片方を手に持つ。
 そのまま帰ろうとしたその人型に、私は隠し持っていた瓶を上から被せて捕まえた。



「泥棒さん、アナタは一体何者なの?」



 声をかけると、人型は驚いて尻餅をつく。
 言葉が話せないのか土下座しているから、多分私が何を言っているのかはわかるんだろう。



「もう一度聞くわ。アナタは何者なの?」



 話せないからどう説明したらいいのかわからないんだろう。
 考える仕草をしたあと、今持ち出そうとしていたピアスを私に向かって差し出すポーズをしている。

 これじゃあ会話にならないと思い「もう私の物を取っちゃダメよ」と言うと、コクコク頷く。
 危険そうには見えないし、取り敢えず瓶を持ち上げ出してあげると、その人型はピアスをテーブルの上に置き私に何度も頭を下げた。

 よくわからないけど『妖精』と似たような者何だろうか。
 私は台所からお菓子の袋を一つ取り出すと人型の前にチラつかせる。
 金平糖の入った小さな袋。
 前に消えたお菓子は、沢山ある中から金平糖が選ばれていたから、もしかしたら好きなのかもしれないと思った。



「ピアスの代わりにこれをあげる。だから、もう泥棒はダメだよ」



 キラキラと瞳を輝かせた人型は大きく頷いたので、私は金平糖を渡す。
 その後、ピョンっとテーブルからおりると、金平糖を手にタンスへ向かう。
 最後に手を振ってきたので私も手を振れば、その人型はタンスの隙間へと姿を消した。


 翌日。
 目を覚ました私がタンスの後ろを見ると、あのドアは無くなっていた。
 アレは一体何だったのか。
 私が見た夢だったのかと思っていたとき、テーブルの上に置かれた物に気づく。



「ブレスレットにもう片方のピアス。それに、金平糖以外のここ最近無くなった物が全部……」



 やっぱり夢なんかじゃない。
 あの小さな泥棒は確かに居たんだ。
 でも、もう現れることはないだろう。
 少なくとも私の家には。

 もしかしたら、他の家でも無くし物があるのは、あの人型の仕業なのかもしれない。
 大人にもなってメルヘンチックな考えをする自分を嘲笑いながら、私は戻ってきたピアスを付けてスペアの鍵をしまい、戻ってきた鍵を手に取り外へと出かける。


《完》
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