【完結】1話完結のSS集

月夜

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家族で兄弟/テーマ:兄弟/姉妹

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 私に兄ができたのは小学校を卒業した後。
 父が再婚した相手には私より一つ上の息子がいた。
 同じ県ではあったけど、暮らしていた場所が離れていたので学校は違った。

 だが再婚したことにより、新しい母と兄は私と父の家で暮らすこととなり、兄とは中学から同じ学校になる。
 学年が違うから会うことはあまりないだろうけど、正直私は兄が苦手。
 新しい母は私の事も自分の娘のように接してくれたけど、兄はずっと私と口を利かない。

 考えられる理由は二つ。
 単に私が気に入らない。
 もしくは、再婚自体をよく思っていない。

 前者の場合、私にはどうすることもできない。
 後者の場合はムッとしてしまう。
 私の父も兄を本当の息子のように思い接している。
 それなのに気に入らないというなら、私は怒らずにはいられない。

 どちらにせよ、理由がわからないからどうすることもできないまま入学式を迎えた。
 今日から中学生。
 相変わらず兄は私と口を利かないけど、これから一年同じクラスになる生徒達の中には小学校からの付き合いの子もいてなんだか安心する。

 実は両親が離婚してることは、友達にも話してないけど、学年が違うならバレル心配は少ない。
 そもそも名字が同じでも、よくある名字だから特に誰も気にしないだろう。
 学年も違うから話題にすら上がらない、そう思っていたのに、突然友達が話しだしたのは一学年上の転校生の話。



「なんかね、二年から転校してきた男の人がいるんだって。お姉ちゃんが同じクラスなんだけどイケメンらしいよ」

「それ、私も噂で聞いた。確か柊真とうま先輩だよね」



 その名前にドキリと胸が高鳴る。
 こんな心臓に悪いドキドキは初めてだ。
 友達に気を使われたりするのが嫌で離婚のことを話してないのに、兄まで出来たなんて言ったら話題はしばらくそれが続くに違いない。
 まさか一年にまで噂されるほど兄がイケメンだとは思わなかった。
 見た目は確かに良いとは思うけど、義理とはいえ兄弟だからかそれ以上の感情はない。

 友達二人が兄の話をしている間、私が黙って話を聞いていると、今度はこっちにまで話を振られた。
 私は「そうなんだ」と普通に返すけど、もしかしたらバレるんじゃないかと内心ヒヤヒヤものだ。

 そんな中始業ベルが鳴り、私はようやくホッとする。
 その後は兄の話が出ることはなく、お昼休みになったとき私はあることに気づく。
 どうやらお弁当を家に忘れたらしい。
 何てドジなんだろうと溜息を小さくついたとき、何やら教室内が少しざわつき出した。

 何だろうかと視線を向ければ、扉が開いた入り口で私のお弁当を持ったまま立っている兄の姿。
 このまま名前なんて呼ばれたら大変だと思い立ち上がると「柊真お兄さん、わざわざお弁当届けてくれたんだね。家が近いってだけなのにごめんね」と、敢えてみんなに聞こえるように話す。
 お弁当を受け取ると、兄はその場から立ち去ってくれたのでホッとする。

 自分の席へと戻った私は、友達二人に詰め寄られたけど、近所に引っ越してきた人なんだと話す。
 何でさっき教えてくれなかったのかとか言われたけど、私は苦笑いを浮かべ「ごめんね。言い出すタイミングがなくて」と誤魔化した。

 お昼時間はずっと兄の話をされたけど、両親が離婚して兄弟になったと知られるよりはいい。
 でも一つ気になるのは兄のこと。
 お弁当を持ってきてくれたのに、家が違いお兄さんとして扱った挙句お礼すら言ってない。
 あの兄が気にしてるとは思えないけど、やっぱりお礼は伝えるべきだ。
 兄はイヤイヤながらも持ってきてくれたんだろうから。
 これが原因で、お父さんにまで嫌な印象を持たれたら困るから。


 その日家に帰った私は、玄関に兄の靴があることを確認して、自室に鞄を置くとその足で兄の部屋の前に行く。
 いざ扉をノックしようとすると、何だか緊張してくる。
 ただお礼を伝えるだけのことでも、自分をよく思ってない人と話したくはないものだ。
 それにきっと、お礼を伝えたところで無視されて終わり。
 それならいっそ言わないほうがいいんじゃないかと考えていると、扉が開いて私の額と鼻先にぶつかる。

 軽くぶつけただけで良かったと思いながら鼻先を手で押さえると、私の目の前に箱ティッシュが差し出された。
 顔を上げると、眉を寄せ心配そうにしている兄。
 もしかして心配してくれているんだろうか。



「大丈夫、軽くぶつけただけだから。あと……今日はお弁当、ありがとう、ございます」



 ぎこちなくお礼を伝えるが返事はない。
 わかっていたことだけど、折角の兄弟なのに何だか寂しい。
 取り敢えずお礼は伝えたから自室に戻ろうとしたとき、背後から声が聞こえた。
 お父さんとは違う男の人の声。



「兄弟のこと、誰にも話さないから」



 私は振り返って兄を見た。
 間違いなくお昼の事を言ってる。



「何で……?」

「知られたくないみたいだから」



 その一言に私は兄の優しさを感じた。
 もしかしたら、接し方がお互いにわからなかっただけなのかもしれない。
 私は、しっかり兄を見て話すことは今までしてこなかった。
 でも、これからは兄を見よう。

 視線が重なる。
 きっと兄はずっと私に視線を向けていてくれたんだ。
 私が合わさなかっただけで。



「ありがとう。兄さん」



 笑みを浮かべながら言った言葉に、兄の表情も綻ぶ。
 私は兄をもっと知りたい。
 そして、形だけじゃない本当の兄弟になりたい。


《完》
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