【完結】1話完結のSS集

月夜

文字の大きさ
上 下
83 / 101

近づく鈴の音/テーマ:猫

しおりを挟む
 私の傍には猫がいる。
 名前は無いと言いたいところだけど、ブルーという名を付けた。
 毛は紺色。
 瞳は青く美しい事から、ブルーと名をつけたんだけど、あまりに安直だなと自分でも思う。

 ブルーは不思議な猫で、私以外の人には見えていない。
 最初は幽霊かなにかなんだろうかと怖くもあったが、今ではとくに気にしていない。
 ただ、首に付いた鈴でリンリンと奏でながら着いてくるだけの存在に、幽霊だとか怖いという感情は無くなっていた。

 そんなある時、ふと思う。
 ブルーの首には鈴が付いている。
 なら、飼い猫だったんだろうか。
 今まで心地良い音色にばかり気を取られ考えもしなかった。



「にゃー」



 私が考えていることがわかるのか、ブルーはいつもタイミングよく鳴く。
 今もそうだ。



「アナタ、本当に何者なの?」



 その問に応えるように、ブルーは私のそばを離れると歩き出す。
 立ち止まってこちらを見るブルー。
 ついて来いと言っているみたいで、私はその後を追う。

 離れすぎない微妙な距離を保ちながら歩くブルー。
 しばらく歩いてついた先は、私が通う学校。
 ブルーは校門を通り過ぎ、校舎の中へ入ると階段を上っていく。

 着いたのは屋上。
 まだ十七時過ぎの夕暮れ時のこの場所には、部活中の人達の声が聞こえる。
 一体ここに来て何をするんだろうかとブルーを見ると、私の方を向き座ったその口がニッと笑う。

 初めて見る猫の、ブルーの笑顔に背筋がゾクッとするのを感じる。
 何故かはわからない。
 だけど私の中で危険を知らせるサイレンが鳴っている。
 この場から逃げ出せと警告するように。

 先程まで眩しいくらいに照らしていた夕陽は一瞬にして消え。
 聞こえていた生徒たちの声も聞こえなくなる。
 闇が私を包む中。
 ブルーの姿だけはハッキリと見えていた。



「ブルー……?」



 震える声でその名を口にした瞬間、ニッと笑ったブルーの姿が瞳に映る――。


 翌日。
 朝のニュースで、屋上から飛び降りた生徒の話が流れた。
 最近よく、色々な学校で飛び降り自殺が起きていた。

 立て続けに起きたことから、自殺ではなく殺人じゃないかと捜査がされたものの、亡くなった生徒に接点もなく、最終的には自殺として扱われた。



「何か最近自殺のニュースばっかだよね」

「そうね。望結みゆ、アナタは悩みとかないわよね?」

「あるわけないよー。じゃあ、行ってきまーす」



 私に悩みなんてない。
 明るさだけが取り柄なんだから。
 なんて思いながら学校に向かっていたら「リンッ」と鈴の音が聞こえた。

 いつの間にいたのか、私の足下には猫がいた。
 瞳が青い、綺麗な猫が──。


《完》
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

Fragment〜ショートショート集〜

初瀬四季[ハツセシキ]
大衆娯楽
 初瀬四季によるショートショート集です。  一つの章に一つの世界が綴られ、それらのフラグメントが集まることで構成された、初瀬四季の世界をご覧ください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

1話完結のSS集Ⅱ

月夜
恋愛
前作の「1話完結のSS集」が100話となりましたので、新たに作成いたしました! 別作品『1話完結の短編集』より短いお話の詰め合わせです。 ちょっとした時間のお供にでもお読みくださいませ。 多ジャンルではありますが、恋愛のお話が多めになると思うので、カテゴリは恋愛にしております。 [各話の表記] ・テーマ(コンテスト用に書いた作品にのみ) ・他サイト含むコンテスト(受賞、優秀作品を頂いた作品のみ記載有り)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

週一お題SS集

雨鬥露芽
恋愛
2019年後半くらいに友人達と行なった『週に一度お題を決めて、それぞれでSSを書く』という企画で作ったSS集のまとめ。 一部非掲載。 ・多少の修正等あり ・恋愛もの多め、非恋愛は暗い ・週一更新を予定 ・最後の画像はTwitter掲載時の背景 ※元々はTwitterで画像での公開。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...