66 / 101
入れて
しおりを挟む
雨が降り、雲で星も月も隠れてしまっている夜。
傘を差し歩いていると、電柱の側で一人の女性が立っている。
その前を通り過ぎようとしたとき「入れて」と声をかけられる。
そこで歩みを止め声のする方を見ると、長い髪の隙間から覗いた女性の目と合う。
傘も差さずに立ち尽くした女性は全身びしょ濡れ。
でも傘を貸してしまっては自分が濡れてしまう。
どうしたらいいのか考えていると「入れて」とまた声がする。
このままでは女性が風邪を引いてしまうと思い「いいですよ」と答えると、女はニーっと不気味な笑みを浮かべ姿を消した。
「その女性の入れてっていうのは、傘の中じゃなくてその人の中に入れてって意味だったの」
「つまり女性はその人に憑依したってこと?」
誰もいない教室で、女生徒二人は怖い話で盛り上がっていた。
作り話だったり、都市伝説だったり。
夏にはやっぱり怖い話だよねということで、下校前に二人で盛り上がっていると、突然教室の扉が開いて二人の肩がビクッと跳ね上がる。
視線を向ければ先生がいて「まだ残ってたのか。遅くなる前に帰れよー」と言われた二人は時計を見て慌てて教室を出た。
「この天気だと時間もわかんないよね」
「雨で空にはどんよりとした雲。まるでさっきの怖い話みたいな天気だもんね」
そんな会話をしていると、片方の女生徒が声のトーンを下げ言う。
実はあの話だけは作り話じゃなくて、ここ最近この地域だけで噂されている話だと。
「ちょっとー、そうやって怖がらせないでよ」
「あはは! ごめんごめん。ただの噂だけど、火のないところに煙は立たぬとか言うからねー」
「またそうやって脅かすー」
笑いながら二人別れると、片方の女生徒が一人帰路を歩く途中、先程まで怖い話をしてたせいか少し怖くなりはじめた。
取り敢えず遅くならないうちに帰ろうと早足になると「入れて」と声が聞こえ立ち止まる。
まるで先程友達から聞いた話のようで、恐る恐る振り返ると、女生徒の後には小さな女の子がいた。
ほっと胸をなでおろし周りを見るが、他に人はいない。
遅くまで遊んでこんな時間になったんだろうか。
「入れて」
再び繰り返す女の子の言葉に「いいよ」と笑みを浮かべ答える。
小さな子をこのままにはできず、家まで送るだけならと思い傘の中に入れると「ありがとう」と女の子は笑みを浮かべた。
その時ようやく気づく。
今日は一日ずっと雨だった。
こんな小さな子が一人で、親の迎えもなしに遊んでいるだろうか。
時間を忘れて遊ぶということは、小さな子にはよくある事。
だが、一日中雨が降っているのに傘を持っていないのは不自然。
それにこの女の子の服は、雨で濡れているはずなのに全く濡れた様子がない。
「入れてくれてありがとう」
女の子の姿が消えると、女生徒はニーっと笑みを浮かべ呟いた。
《完》
傘を差し歩いていると、電柱の側で一人の女性が立っている。
その前を通り過ぎようとしたとき「入れて」と声をかけられる。
そこで歩みを止め声のする方を見ると、長い髪の隙間から覗いた女性の目と合う。
傘も差さずに立ち尽くした女性は全身びしょ濡れ。
でも傘を貸してしまっては自分が濡れてしまう。
どうしたらいいのか考えていると「入れて」とまた声がする。
このままでは女性が風邪を引いてしまうと思い「いいですよ」と答えると、女はニーっと不気味な笑みを浮かべ姿を消した。
「その女性の入れてっていうのは、傘の中じゃなくてその人の中に入れてって意味だったの」
「つまり女性はその人に憑依したってこと?」
誰もいない教室で、女生徒二人は怖い話で盛り上がっていた。
作り話だったり、都市伝説だったり。
夏にはやっぱり怖い話だよねということで、下校前に二人で盛り上がっていると、突然教室の扉が開いて二人の肩がビクッと跳ね上がる。
視線を向ければ先生がいて「まだ残ってたのか。遅くなる前に帰れよー」と言われた二人は時計を見て慌てて教室を出た。
「この天気だと時間もわかんないよね」
「雨で空にはどんよりとした雲。まるでさっきの怖い話みたいな天気だもんね」
そんな会話をしていると、片方の女生徒が声のトーンを下げ言う。
実はあの話だけは作り話じゃなくて、ここ最近この地域だけで噂されている話だと。
「ちょっとー、そうやって怖がらせないでよ」
「あはは! ごめんごめん。ただの噂だけど、火のないところに煙は立たぬとか言うからねー」
「またそうやって脅かすー」
笑いながら二人別れると、片方の女生徒が一人帰路を歩く途中、先程まで怖い話をしてたせいか少し怖くなりはじめた。
取り敢えず遅くならないうちに帰ろうと早足になると「入れて」と声が聞こえ立ち止まる。
まるで先程友達から聞いた話のようで、恐る恐る振り返ると、女生徒の後には小さな女の子がいた。
ほっと胸をなでおろし周りを見るが、他に人はいない。
遅くまで遊んでこんな時間になったんだろうか。
「入れて」
再び繰り返す女の子の言葉に「いいよ」と笑みを浮かべ答える。
小さな子をこのままにはできず、家まで送るだけならと思い傘の中に入れると「ありがとう」と女の子は笑みを浮かべた。
その時ようやく気づく。
今日は一日ずっと雨だった。
こんな小さな子が一人で、親の迎えもなしに遊んでいるだろうか。
時間を忘れて遊ぶということは、小さな子にはよくある事。
だが、一日中雨が降っているのに傘を持っていないのは不自然。
それにこの女の子の服は、雨で濡れているはずなのに全く濡れた様子がない。
「入れてくれてありがとう」
女の子の姿が消えると、女生徒はニーっと笑みを浮かべ呟いた。
《完》
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
スカートの中、…見たいの?
サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。
「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる