【完結】1話完結のSS集

月夜

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そんなアナタに恋をした/テーマ:怒り

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 私の彼氏、須加すがは、正直いってモテる。
 そんな人を彼氏にもつ私は、普通なら羨ましいと思われるのかもしれないが、私と須加はそんな風に思われることはない。

 彼は学校でも評判になるほど、女癖が悪いから。
 実際私が告白した時も、彼女がすでに三人いた。
 そこに私も加わり四人になったが、果たして今は何人になっているのか。



「須加、今日一緒に——」

「須加くーん、一緒に帰ろー」



 隣のクラスから甘ったるい声を出して教室に入ってきたのは新し彼女だろうか。
 腕にしがみついて上目遣いをしているその姿に、私は溜息を我慢して教室を出た。

 一緒に帰ろうと私が誘うはずだったのに、いつも色んな女の子が現れて須加を独り占めする。
 こんなのわかってたことだけど、胸が痛む。
 でも、この痛みを言葉にはしない。
 こうなることを覚悟で付き合っているんだから。



 翌朝。
 校門で須加の後ろ姿を見つけて声をかけようとしたけど、他の子が先に声をかけて二人校舎の中へ消えてしまった。

 須加が私に声をかけることはない。
 だから私からいってるのに、いつも邪魔されて最後まで言えない。

 私は他の子みたいに強引にも強気にもなれないから、身を引くしかない。
 それでも、付き合っているという事実があれば満足だった。


 ある日の土曜、スマホに着信がはいった。
 それは須加からで、私は慌てて出る。
 須加からの電話は初めてで、もしかして別れ話なんじゃないかという不安もあった。
 でも、内容はデートのお誘い。

 初電話でデートのお誘いなんて嬉しくて、通話が終了したあとも私は浮かれていた。
 時間は今から二時間後に駅で待ち合わせ。
 私は慌てて洋服選びをする。
 普段話せてないんだから、こういうときこそ私に振り向いてもらわなくちゃ。


 それから二時間後。
 数分過ぎてしまい走って駅に向かうと、すでにそこには須加がいた。



「はぁはぁ……ごめ、んな、さ、い」

「二分しか過ぎてないんだし、そんな走ってこなくていいのに」



 付き合ってから初めて話すんじゃないかってくらい久しぶりの須加との会話。
 それが遅刻した挙句、走ったから髪もボサボサで、これじゃあ振り向いてもらえるはずがない。

 とにかく身なりをサッと整えて「どこか行く場所はあったりする?」と尋ねてみると、須加は頷き歩き出した。
 無言で歩き出す須加の後ろをついていく私は、恋人というより雛鳥のようだ。


 着いた先は映画館。
 須加は何も言わずチケットを二枚買うとスタスタと中へ入っていく。
 私も続いて入り席に座ると、上映された映画は私が最近気になっていた映画。
 須加もこういう映画好きなんだ。
 なんて思いながらチラリと隣を見ると、目が合ってしまい慌ててスクリーンに向ける。


 二時間を過ぎた頃に映画館を出ると、私は鞄から財布を取り出した。



「これ、映画代」

「いらない」



 受け取ってもらえず、そういうわけにはいかないとお金を無理矢理渡す。
 私達は高校生とはいえ、学校はアルバイト禁止だからお金は貴重。
 デートとはいえこういうことはしっかりしておかなくては。

 次はどこにいこうかと尋ねたとき、聞き覚えのある甘ったるい声が聞こえて視線を向ける。
 そこには、この前須加に一緒に帰ろうと誘いに来た隣のクラスの女子の姿。

 その子は私を見るなり鼻で笑った。
 そりゃ私はこの子みたいに可愛くもなければおしゃれでもないけど、今須加とデートをしているのは私なんだと目を逸らさない。



「須加くーん、今から一緒にデートしよー」



 私がいるのを知っていながら、眼中にないといった発言にイラッとする。
 でも、断ってくれるよねと思っていたら、須加は無反応だった。

 返事がないことを了承と捉えたその子は、須加の腕を掴んで歩き出す。
 その光景を見て私は、今まで以上の怒りを感じた。
 今日は須加が私を誘ってくれたのに、その彼女を放って別の子とデート。

 何も言えない私も勇気がないと思うけど、いつもそうしていろんな子に流される須加に対して頭にきた私は、二人を早足で追いかけると須加の頬を引っぱたいた。



「いい加減にしなよ!」



 私はそれだけ言うとその場から走り去る。
 友達からは「須加はやめときなって」なんて言われ続けたけど、私は知ってるから。
 須加はただ自分の気持ちや意見を口にしないだけで、それを周りの子達が都合のいいように捉えてるだけだって。

 ただそう思いたいだけなのかもしれない。
 でも須加は私が告白したとき「俺も好きだった」って笑顔を見せてくれた。
 今までに見たことない須加、あの言葉は本心だと思いたい。

 なのに、何で私はこんなに苦しくて辛いんだろう。
 わかってても我慢できなくて引っぱたいてしまった。

 自分の覚悟の弱さ、信じる気持ちの揺らぎに涙が溢れる。
 兎に角ひたすら走っていたら、突然腕を掴まれ前に傾いた身体は、引かれた力で後ろへと倒れる。
 背中が何かにあたり、顔を横斜め上に傾けると須加の顔があり一瞬呼吸が止まる。



「ごめん」



 ただその一言なのに、さっきまでの怒りも悲しみも和らいでいくのがわかる。
 追いかけて来てくれたってことは、あの子の誘いを断ってきてくれたってこと。
 やっぱり須加はただ言葉に出さないだけなんだ。



「私こそごめん。ほっぺ、痛くない?」

「痛い。でも、俺のせいで傷付けた痛みに比べたらなんてことない」



 須加の体温を背中に感じ、私はそっと瞼を閉じて思い出す。
 図書委員だった私が当番のとき、いつも見かける須加の姿。
 最初は、女癖が悪いなんて噂があって苦手意識を持っていた。

 そんなある日。
 須加は女生徒と一緒に図書館に来た。
 女の子の方は甘い声で須加に甘えているのに、須加は何の反応も示さなかった。

 別の日には違う子と一緒だったけど、やっぱり須加は何の反応もせず黙ったまま。
 それでも女生徒は一人でペラペラと話している。

 次第に須加の事が気になり始めていた時、何時もと違う様子で図書室に入ってきたかと思うと、奥へと行ってしまう。
 その後に、一人の女生徒がやって来ると、図書室の中をキョロキョロと見回していた。



「ねえ、須加くん見なかった?」



 よくわからないけど、何となくこの子から逃げている気がして「見てないよ」と答えると、その子は図書室を出ていく。
 もし逃げてたんじゃないなら申し訳ないなと思っていると、奥から須加が出てきて「ありがとう」と一言。

 やっぱり逃げてたんだとわかり、何となく理由を聞いてみると「一緒に帰りたいっていうから」何て返事が返ってきて、嫌なら断ればいいのにと思ったときようやく気づいた。
 須加は、自分の意見や考えを口にすることができないんだって。

 本人に確認したわけじゃないから確かなことはわからないけど、それなら何時も須加が女の子に対して無反応で何も話さないのかも頷ける。

 それからしばらくして、私は須加と付き合い始めた。
 たまに図書室で会っては話す、ただそれだけの関係だったけど、それでも須加が話してくれることが嬉しくて、私だけが特別なんだって思えた。

 それでも、須加が変わるわけじゃなくて、相変わらず女生徒は須加に纏わり付く。
 何時か須加自身が断ってくれるのを待っていたけど、つい我慢できなくて引っぱたいてしまった。



「須加はさ、もっと自分の気持ちを大切にしてよ。嫌な事はちゃんと断らないと、相手だって傷つくんだよ」

「わかった。頑張ってみる」



 今はその言葉を聞けただけで十分で、私は須加から離れると振り返り「デートの続きしよっか」と、笑みを浮かべた。


《完》
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