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始まりのおやすみ/テーマ:おやすみ
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おはようから始まる一日が、おやすみから始まる一日になるなんて考える人はいるんだろうか。
私も数日前までは考えもしなかったけど、今はそれが私の一日の始まり。
私は人見知りで友達が出来ないままズルズルと時が経ち、中学生になったとき、今度こそはと気合を入れて新たな学び舎へと通った。
でも、気合だけではどうにもならなかったみたいで、中学でも私は友達が出来ないまま一学期が終わり、私はそれから学校へ行かなくなった。
周りは友達と話していて、私だけが椅子に座ってポツンと過ごす毎日。
昔からそう。
こんなの楽しいなんて思えるはずがない。
私の両親は仕事でほとんど家にはいないから、休みの電話は自分でかけた。
始めは風邪と言って休んだけど、それが数週間続くと、先生もなんとなく察したみたいで「来れるときには学校に来るんだぞ」と言われ、それからは休みの電話も入れず毎日部屋に引きこもる。
たまに先生が様子を見に来たりしていたけど、最初の数回以降私がインターホンに出ることはなくなった。
新聞受けには先生からの手紙と学校でのプリントが入れられている。
それが私の日常となった。
そんなある日、夜の七時頃にお腹が空いた私がリビングの冷蔵庫を開けると中は空っぽ。
誰かに会うのは嫌だから、私はフードを被ってコンビニへ向かう。
誰も私の事なんて覚えていないだろうけど、同じ学校の制服を見るだけで私の心臓に悪い。
なんとか誰にも会わずに買い物を済ませ家へ帰ると、買ってきてお弁当を温めて食べる。
コンビニには冷凍食品などもあるから、こうして買い出しに行ったときにまとめ買いをしている。
これで一週間くらいは持つだろう。
その後は、お風呂や歯磨きをして眠る時間。
一人おやすみと、誰に言うわけでもなく口にして瞼を閉じる。
それからどれくらい眠ったのか、時計を見ると深夜零時。
変な時間に目が覚めてしまったなと思いながら再び眠りにつこうとしたとき、外から何か音が聞こえてカーテンから覗く。
「何あれ……」
つい口から漏れてしまった言葉。
何故なら家の前に、人ではない何かが倒れていたから。
暗くてよくわからないけど、その何かは立ち上がると何処かへと走っていく。
気になった私は羽織を掴むと、慌てて外へと飛び出しさっきの生き物の後を追いかける。
少し走ると、先程の赤ちゃんくらいの小さな生き物が見えたけど、その生き物は右へ曲がる。
あの先は行き止まりのはずだ。
チラリと覗けば、その生き物は壁の中へと消えてしまった。
一体何が起きたのかわからず、私もその壁に近づき触れてみる。
すると、私の手は壁の向こうにすり抜けた。
「ひっ!?」
驚きに声を上げて手を引き抜く。
怖いし帰ろうかとも思ったけど、気になった私はゆっくりと壁の中へ入っていった。
抜けた先は古びた建物。
木でできていて、昔の学校といった感じに見える。
「キミ」
突然声をかけられビクッと肩が跳ね上がる。
声のした方を振り返るが誰もいなくて首を傾げると「下じゃよ」と言う声に視線を落とす。
そこには、言葉を話す亀の姿。
驚いている私に亀は「ここへ来るのは初めてかの?」と尋ねてきたので、私は頷く。
「そうか、なら新入生じゃな。ついて来なされ」
言われるがままについていくが、亀だからだろうか、進むのが遅い。
このペースで行くんだろうかと苦笑いを浮かべると、校舎の中から何かがこっちへと近づいてくる。
「校長、こんなところで何をされてるんですか?」
「おお、いいところに来てくれたの。新入生の案内を頼めるかの」
どうやらこの亀は校長先生みたいだけど、今私達の元へやって来たこの生き物は、間違いなくサイだ。
亀とサイが人の言葉を話し、挙句にサイは二本足で立ってるなんて私は夢でも見てるんだろうか。
「新入生、私についてきなさい」
亀に代わりサイが私を校舎の中へと案内する。
向かう途中で、サイが私の担任になるカバ先生だと聞かされる。
サイなのに名前がカバってややこしい。
先生の足がある教室の前で止まり、私もその後に続いて中へと入る。
そこにあった光景は、席に座るいろんな生き物の姿。
驚きで声も出ないとはまさにこのこと。
先生は、新入生である私のことを紹介すると「空いている席で好きなところに座りなさい」と言った。
皆の視線を浴びながら、私は一番端の席に座ると授業が始まる。
一体どんなことを話すんだろうと先生に注目すると、先生は早口に問題を出して生徒を指差し、指された生徒はそれに即座に答えていた。
それが全員にされて、残るは私だけとなったとき「新入生にできるわけねーだろ」なんてクスクス笑う声が聞こえてくる。
ドクドクと脈打つ心臓。
ついに先生が私を指差し問題を出す。
「人間の足は何本」
「に、二本!」
早口で言われたせいか、緊張していたのに勢いにつられて答えていた。
「正解だ。やるじゃないか」
褒められた事が嬉しくて、なんだか恥ずかしい気持ちになる。
授業が終わり休み時間になると、生徒達が私の周りに集まり「さっきの問題答えるなんて凄いね」なんて褒めてくれて、顔に熱が宿る。
人ではない生き物ではあるけど、こんな風に誰かと話したのは初めてで嬉しくて、私の口元は自然と緩んでしまう。
そんな夜から数日が経ち、私はこの学校の生徒として通うようになった。
人が寝静まった零時から、朝五時までの短い授業。
でも、初めて友達が出来て、初めて学校が楽しいと思えた瞬間をくれた。
この羽織のネコちゃんフードのお陰で、まだ私が人間だとは知られていない。
もし正体がバレてしまったら、私がこの場所に来ることはきっと許されなくなる。
だけどそれまでは、ここでの学生生活を楽しみたい。
少しずつ人見知りを克服しながら、私は一人夜におやすみを告げ学校へ行く。
《完》
私も数日前までは考えもしなかったけど、今はそれが私の一日の始まり。
私は人見知りで友達が出来ないままズルズルと時が経ち、中学生になったとき、今度こそはと気合を入れて新たな学び舎へと通った。
でも、気合だけではどうにもならなかったみたいで、中学でも私は友達が出来ないまま一学期が終わり、私はそれから学校へ行かなくなった。
周りは友達と話していて、私だけが椅子に座ってポツンと過ごす毎日。
昔からそう。
こんなの楽しいなんて思えるはずがない。
私の両親は仕事でほとんど家にはいないから、休みの電話は自分でかけた。
始めは風邪と言って休んだけど、それが数週間続くと、先生もなんとなく察したみたいで「来れるときには学校に来るんだぞ」と言われ、それからは休みの電話も入れず毎日部屋に引きこもる。
たまに先生が様子を見に来たりしていたけど、最初の数回以降私がインターホンに出ることはなくなった。
新聞受けには先生からの手紙と学校でのプリントが入れられている。
それが私の日常となった。
そんなある日、夜の七時頃にお腹が空いた私がリビングの冷蔵庫を開けると中は空っぽ。
誰かに会うのは嫌だから、私はフードを被ってコンビニへ向かう。
誰も私の事なんて覚えていないだろうけど、同じ学校の制服を見るだけで私の心臓に悪い。
なんとか誰にも会わずに買い物を済ませ家へ帰ると、買ってきてお弁当を温めて食べる。
コンビニには冷凍食品などもあるから、こうして買い出しに行ったときにまとめ買いをしている。
これで一週間くらいは持つだろう。
その後は、お風呂や歯磨きをして眠る時間。
一人おやすみと、誰に言うわけでもなく口にして瞼を閉じる。
それからどれくらい眠ったのか、時計を見ると深夜零時。
変な時間に目が覚めてしまったなと思いながら再び眠りにつこうとしたとき、外から何か音が聞こえてカーテンから覗く。
「何あれ……」
つい口から漏れてしまった言葉。
何故なら家の前に、人ではない何かが倒れていたから。
暗くてよくわからないけど、その何かは立ち上がると何処かへと走っていく。
気になった私は羽織を掴むと、慌てて外へと飛び出しさっきの生き物の後を追いかける。
少し走ると、先程の赤ちゃんくらいの小さな生き物が見えたけど、その生き物は右へ曲がる。
あの先は行き止まりのはずだ。
チラリと覗けば、その生き物は壁の中へと消えてしまった。
一体何が起きたのかわからず、私もその壁に近づき触れてみる。
すると、私の手は壁の向こうにすり抜けた。
「ひっ!?」
驚きに声を上げて手を引き抜く。
怖いし帰ろうかとも思ったけど、気になった私はゆっくりと壁の中へ入っていった。
抜けた先は古びた建物。
木でできていて、昔の学校といった感じに見える。
「キミ」
突然声をかけられビクッと肩が跳ね上がる。
声のした方を振り返るが誰もいなくて首を傾げると「下じゃよ」と言う声に視線を落とす。
そこには、言葉を話す亀の姿。
驚いている私に亀は「ここへ来るのは初めてかの?」と尋ねてきたので、私は頷く。
「そうか、なら新入生じゃな。ついて来なされ」
言われるがままについていくが、亀だからだろうか、進むのが遅い。
このペースで行くんだろうかと苦笑いを浮かべると、校舎の中から何かがこっちへと近づいてくる。
「校長、こんなところで何をされてるんですか?」
「おお、いいところに来てくれたの。新入生の案内を頼めるかの」
どうやらこの亀は校長先生みたいだけど、今私達の元へやって来たこの生き物は、間違いなくサイだ。
亀とサイが人の言葉を話し、挙句にサイは二本足で立ってるなんて私は夢でも見てるんだろうか。
「新入生、私についてきなさい」
亀に代わりサイが私を校舎の中へと案内する。
向かう途中で、サイが私の担任になるカバ先生だと聞かされる。
サイなのに名前がカバってややこしい。
先生の足がある教室の前で止まり、私もその後に続いて中へと入る。
そこにあった光景は、席に座るいろんな生き物の姿。
驚きで声も出ないとはまさにこのこと。
先生は、新入生である私のことを紹介すると「空いている席で好きなところに座りなさい」と言った。
皆の視線を浴びながら、私は一番端の席に座ると授業が始まる。
一体どんなことを話すんだろうと先生に注目すると、先生は早口に問題を出して生徒を指差し、指された生徒はそれに即座に答えていた。
それが全員にされて、残るは私だけとなったとき「新入生にできるわけねーだろ」なんてクスクス笑う声が聞こえてくる。
ドクドクと脈打つ心臓。
ついに先生が私を指差し問題を出す。
「人間の足は何本」
「に、二本!」
早口で言われたせいか、緊張していたのに勢いにつられて答えていた。
「正解だ。やるじゃないか」
褒められた事が嬉しくて、なんだか恥ずかしい気持ちになる。
授業が終わり休み時間になると、生徒達が私の周りに集まり「さっきの問題答えるなんて凄いね」なんて褒めてくれて、顔に熱が宿る。
人ではない生き物ではあるけど、こんな風に誰かと話したのは初めてで嬉しくて、私の口元は自然と緩んでしまう。
そんな夜から数日が経ち、私はこの学校の生徒として通うようになった。
人が寝静まった零時から、朝五時までの短い授業。
でも、初めて友達が出来て、初めて学校が楽しいと思えた瞬間をくれた。
この羽織のネコちゃんフードのお陰で、まだ私が人間だとは知られていない。
もし正体がバレてしまったら、私がこの場所に来ることはきっと許されなくなる。
だけどそれまでは、ここでの学生生活を楽しみたい。
少しずつ人見知りを克服しながら、私は一人夜におやすみを告げ学校へ行く。
《完》
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