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オンラインバーチャルゲーム届け物/テーマ:オンライン○○
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私は冬が嫌いだ。
私の大切な人を奪い、私の心や身体まで冷たくするのだから。
そんな冬は毎年やってきて、今年も近づいているこの寒さに私の表情は歪む。
あの日から三年の時が流れても、私のこの胸の痛み、苦しみが消えることはないまま月日は流れていく。
まるで、私だけあの日に取り残されているようだ。
仕事も辞めて退職金を貰い、元々貯金してかなりの額を貯めていたからお金には困らずに過ごせた。
食欲もあまりないから食費もかからなかったし、家に閉じこもっていても何もせずにいたから光熱費も安い。
このまま私は死ぬんだろうか、そんな考えが頭に浮かんだりしたけど、それもいいかもしれないと思っていた。
そんなある日、久しぶりにインターホンが鳴った。
出たくなかったけど、扉を叩く音や宅配業者の声が大きくていやいや荷物を受け取る。
私は一言も声を発さなかったけど。
一体何が届いたんだろう。
することも特にない私はダンボールを開ける。
入っていたのはバーチャルオンラインゲームの機械。
パソコンにソフトをダウンロードしてこの機械をつけると、バーチャルの世界に自分が入って遊べる。
数年前に流行りだしたゲームで、彼が何度も勧めてくれたから知ってはいたけど、注文した覚えはない。
そもそも退職してからは人との関わりを断っていたし、ネットやテレビすら見ていないんだから。
配達先を間違えたのかなとも思ったけど、伝票には確かに私の名前と部屋番号が書かれている。
取り敢えず箱から出してみようと持ち上げると、商品の下に紙が入っていた。
手に取り見てみると、あるゲームのダウンロード手順が書いてあった。
特に興味はなかったけど、彼が話していたあの時の会話が頭に浮かび、少しだけプレイしてみようとパソコンの前に座る。
紙に書かれている手順によると、先ず「バーチャルオンラインゲーム届け物」と検索して出てきたゲームをダウンロードする。
ダウンロードが終わったら機械をパソコンに繋いで自分に付ける。
これで準備は大丈夫。
スタートをクリックするが何も起きない。
彼が話していた通りなら、別世界が目の前に広がるって言ってたけど、見えるのは変わらず私の部屋。
このゲームが不良なのか、届いた機械が壊れていたのかは知らないけど、元々注文した覚えもないものだからとパソコンの電源を切り機械を外す。
すると玄関から鍵が開く音が聞こえた。
まさか泥棒かも。
そう思ったその時部屋に入ってきたのは、目を疑う人物だった。
「優馬……?」
そんな筈ない。
確かに優馬は三年前に亡くなった。
葬儀にも出席してる。
でも、私の目の前には優馬がいる。
恐る恐る頬に手を伸ばす。
触れられるし温かい。
私は涙が溢れ出した。
三年前に出し尽くしていたと思っていた涙が止まらない。
「何泣いてんだよ。何時も強気なくせに」
「ッ……うるさい……バカ」
泣きじゃくる私を抱きしめて、大きくて温かい手が頭を撫でる。
それが懐かしくて愛しくて更に泣く。
あの日私は優馬の帰りをいつものように待っていた。
帰るというメールがきてから数時間経っても帰らない優馬を心配していた私の元に、優馬が亡くなったと、優馬の両親から連絡をもらって駆けつけたら、優馬は静かに目を閉じ眠っていた。
肌は青白く手は氷のように冷たくて。
その後、警察の人から聞いた話によると、冬の寒さで凍った雨の道路でタイヤを滑らせた車に跳ねられたと聞いた。
それからの私はまるで抜け殻のようになり、仕事も辞めて家に閉じこもる日々を送った。
優馬のいない世界なんて見たくなかったから。
「優馬……優馬ッ……何で、何であの日私の所へ帰ってきてくれなかったの!!」
優馬が事故にあった場所は、此処へ帰るには通らない道だった。
あの日、あの道を通らなければ優馬は死ななかった。
「辛い思いをさせてごめん。一人にしてごめん。でも、これを渡したかったんだ」
体が放れ、私の目の前に差し出された小さな箱。
受け取って開けると、また涙が溢れだす。
「何で……」
「事故にあった時にこれだけ飛んで何処かに落ちたみたいなんだ。本当はあの日、プロポーズするつもりだった」
涙で視界が歪む。
今プロポーズされたってもう遅い。
優馬はこの世にいないんだから。
「でも、もう俺はお前を幸せにできないからさ。だから幸せになる未来のために前に進んでくれ」
「無理だよ……。優馬のいない世界なんて――」
言葉を遮る口付け。
優馬は笑みを浮かべ、私が聞くことのできなかったあの日の言葉を口にした。
「ただいま」
私もそれに応えるように涙でぐちゃぐちゃの顔に笑みを作り「お帰りなさい」と口にする。
「んっ……」
目を覚した私は、パソコンの前で眠っていた。
慌てて立ち上がり部屋を見渡すが優馬の姿はなく、バーチャルオンラインゲームの機械も無くなっていた。
あれは夢だったのか。
翌日私は三年ぶりに外へ出た。
外は家の中より寒くて冬が近づいているのを全身で感じる。
向かった先は優馬が亡くなったあの場所。
買ってきたお花を置いて手を合わせ、帰ろうとしたとき近くの草むらに何かが落ちていることに気づき手に取る。
「っ……優馬」
私は小さな箱を胸の前でギュッと抱き締める。
箱に入っていた指輪をお守りのように首にかけ、私は現実を見て進む事にした。
止まっていた時を動かしてくれた優馬を不安にさせないために。
そして、幸せな未来のために私は歩き出す。
《完》
私の大切な人を奪い、私の心や身体まで冷たくするのだから。
そんな冬は毎年やってきて、今年も近づいているこの寒さに私の表情は歪む。
あの日から三年の時が流れても、私のこの胸の痛み、苦しみが消えることはないまま月日は流れていく。
まるで、私だけあの日に取り残されているようだ。
仕事も辞めて退職金を貰い、元々貯金してかなりの額を貯めていたからお金には困らずに過ごせた。
食欲もあまりないから食費もかからなかったし、家に閉じこもっていても何もせずにいたから光熱費も安い。
このまま私は死ぬんだろうか、そんな考えが頭に浮かんだりしたけど、それもいいかもしれないと思っていた。
そんなある日、久しぶりにインターホンが鳴った。
出たくなかったけど、扉を叩く音や宅配業者の声が大きくていやいや荷物を受け取る。
私は一言も声を発さなかったけど。
一体何が届いたんだろう。
することも特にない私はダンボールを開ける。
入っていたのはバーチャルオンラインゲームの機械。
パソコンにソフトをダウンロードしてこの機械をつけると、バーチャルの世界に自分が入って遊べる。
数年前に流行りだしたゲームで、彼が何度も勧めてくれたから知ってはいたけど、注文した覚えはない。
そもそも退職してからは人との関わりを断っていたし、ネットやテレビすら見ていないんだから。
配達先を間違えたのかなとも思ったけど、伝票には確かに私の名前と部屋番号が書かれている。
取り敢えず箱から出してみようと持ち上げると、商品の下に紙が入っていた。
手に取り見てみると、あるゲームのダウンロード手順が書いてあった。
特に興味はなかったけど、彼が話していたあの時の会話が頭に浮かび、少しだけプレイしてみようとパソコンの前に座る。
紙に書かれている手順によると、先ず「バーチャルオンラインゲーム届け物」と検索して出てきたゲームをダウンロードする。
ダウンロードが終わったら機械をパソコンに繋いで自分に付ける。
これで準備は大丈夫。
スタートをクリックするが何も起きない。
彼が話していた通りなら、別世界が目の前に広がるって言ってたけど、見えるのは変わらず私の部屋。
このゲームが不良なのか、届いた機械が壊れていたのかは知らないけど、元々注文した覚えもないものだからとパソコンの電源を切り機械を外す。
すると玄関から鍵が開く音が聞こえた。
まさか泥棒かも。
そう思ったその時部屋に入ってきたのは、目を疑う人物だった。
「優馬……?」
そんな筈ない。
確かに優馬は三年前に亡くなった。
葬儀にも出席してる。
でも、私の目の前には優馬がいる。
恐る恐る頬に手を伸ばす。
触れられるし温かい。
私は涙が溢れ出した。
三年前に出し尽くしていたと思っていた涙が止まらない。
「何泣いてんだよ。何時も強気なくせに」
「ッ……うるさい……バカ」
泣きじゃくる私を抱きしめて、大きくて温かい手が頭を撫でる。
それが懐かしくて愛しくて更に泣く。
あの日私は優馬の帰りをいつものように待っていた。
帰るというメールがきてから数時間経っても帰らない優馬を心配していた私の元に、優馬が亡くなったと、優馬の両親から連絡をもらって駆けつけたら、優馬は静かに目を閉じ眠っていた。
肌は青白く手は氷のように冷たくて。
その後、警察の人から聞いた話によると、冬の寒さで凍った雨の道路でタイヤを滑らせた車に跳ねられたと聞いた。
それからの私はまるで抜け殻のようになり、仕事も辞めて家に閉じこもる日々を送った。
優馬のいない世界なんて見たくなかったから。
「優馬……優馬ッ……何で、何であの日私の所へ帰ってきてくれなかったの!!」
優馬が事故にあった場所は、此処へ帰るには通らない道だった。
あの日、あの道を通らなければ優馬は死ななかった。
「辛い思いをさせてごめん。一人にしてごめん。でも、これを渡したかったんだ」
体が放れ、私の目の前に差し出された小さな箱。
受け取って開けると、また涙が溢れだす。
「何で……」
「事故にあった時にこれだけ飛んで何処かに落ちたみたいなんだ。本当はあの日、プロポーズするつもりだった」
涙で視界が歪む。
今プロポーズされたってもう遅い。
優馬はこの世にいないんだから。
「でも、もう俺はお前を幸せにできないからさ。だから幸せになる未来のために前に進んでくれ」
「無理だよ……。優馬のいない世界なんて――」
言葉を遮る口付け。
優馬は笑みを浮かべ、私が聞くことのできなかったあの日の言葉を口にした。
「ただいま」
私もそれに応えるように涙でぐちゃぐちゃの顔に笑みを作り「お帰りなさい」と口にする。
「んっ……」
目を覚した私は、パソコンの前で眠っていた。
慌てて立ち上がり部屋を見渡すが優馬の姿はなく、バーチャルオンラインゲームの機械も無くなっていた。
あれは夢だったのか。
翌日私は三年ぶりに外へ出た。
外は家の中より寒くて冬が近づいているのを全身で感じる。
向かった先は優馬が亡くなったあの場所。
買ってきたお花を置いて手を合わせ、帰ろうとしたとき近くの草むらに何かが落ちていることに気づき手に取る。
「っ……優馬」
私は小さな箱を胸の前でギュッと抱き締める。
箱に入っていた指輪をお守りのように首にかけ、私は現実を見て進む事にした。
止まっていた時を動かしてくれた優馬を不安にさせないために。
そして、幸せな未来のために私は歩き出す。
《完》
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