34 / 101
音色を奏でて/テーマ:やまない雨
しおりを挟む
今日は朝から雨。
仕事も休みだからお家でゆっくり過ごせばいいし、普段の休みもそんな感じだ。
でも、外に出なくてもやはり雨が降っていると憂鬱な気分になる。
雨だって降らなきゃ農家の人達が困るのもわかってはいるが、こうも雨がザーザー降っていると、音が気になりゆっくりどころではない。
ザーザーどころかすでにバケツをひっくり返し続けているような土砂降り。
床に寝転がり瞼を閉じると、やはり雨の音が煩い。
ちょっとした雨音なら心地よくも思えるが、ここまで降ると心地良いどころか騒音だ。
仕方ないと取り出したのは、音楽プレーヤーとイヤホン。
これさえあれば雨の音など関係ない。
「嘘でしょ……」
まさかのイヤホンが壊れていることが発覚。
こうなったらスマホで聞こうとすると、スマホ用のイヤホンは行方不明。
「一体なんの恨みがあるのよ」
これではこの騒音がしのげない。
他に何かいい方法はないかと部屋の中を見回すと、読もうと思ってそのままになっていた小説を発見。
本に集中してしまえば、雨の音など聞こえなくなると思い早速表紙を開く。
最初は気になっていた雨の音もいつの間にか耳に入らなくなり、私は本の世界に入り込んでいた。
だがそのとき。
突然ゴロゴロッという音が響いたかと思うと、ピカッと外が光る。
近くで雷でも落ちたんじゃないかというほどの凄まじい音に、一気に現実へと引き戻されてしまう。
「折角本の世界に入ってたのに」
今も鳴り響く雷にやまない雨。
これでは集中出来ないと思い本を閉じる。
これ以上することもなく、どうしたものかと考えているとインターホンが鳴る。
一体こんな天気に誰だと思いながらドアスコープを覗く。
にこやかに笑みを浮かべながら手を振る彼女を見て、私はゲッと漏れそうな言葉を心に留めて鍵を開ける。
「やっほー! 遊びに来たよ」
「こんな天気の中遊びに来る人はアンタくらいよ」
呆れながら言うも、彼女を部屋の中へと上げる。
彼女の名は真樹。
私と同じ職場で働く同期であり、何だかんだ友達という仲なのだが、彼女は雨女であり、一緒にいる人に何故か不幸をもたらすという人種。
私はすでに彼女のことを人だと認識していいものか悩んでいたりする。
挙句に彼女はかなり変わっている。
少なくとも、こんな土砂降りで雷も鳴ってる中、傘一本差して遊びに来る人物を私は彼女しか知らない。
「で、遊びに来たって何をするわけ?」
「フッフッフッ。これだよ」
そう言いながら目の前に掲げられたのはトランプ。
わかってはいたがやはり彼女は阿呆だ。
「あのさ、そのトランプびしょ濡れだけど」
「しまった! 傘さしたとき鞄の方だけ傘が足りてなかったみたい。そういうのあるよね」
ねーよ、と心の中で突っ込む。
一つの傘に二人入って片方の肩がっていうならわからなくもないが、何故一人で傘さしてそうなる。
そもそも傘が足りてなかったとしても鞄の方に傾けると思うんだが。
突っ込みたいことは山のようにあるが、これでトランプはダメになった。
適当に珈琲でも飲ませて帰らせようと、淹れた珈琲を彼女の前に置くと、テーブルに置かれていた先程のトランプが完全に乾いていた。
「フッフッフッ。こんなこともあろうかと、袋に入った未開封も持ってきていましたー」
なら最初から出せや、とか。
こんなこともあろうかと思ってたなら何故鞄の方に傘を傾けなかったと突っ込みたいが、ここもグッと我慢。
結局トランプをするはめになり、何故か彼女は二人しかいないのに大富豪をやろうと言い出した。
取り敢えず、適当に付き合って帰らせようと思っていたので、早速先ずはカードを配ろうと彼女がしたとき、電気が消えた。
どうやら停電らしいが。
これは彼女がバラまく周りへの不幸の一部だろう。
そしてこの不幸のムカつくところは。
「ほらほら。スマホのライトを顔の下から当てると怖いでしょ」
本人はとっても楽しんでるということ。
いくら周りが不幸なめにあい同じ状況に彼女もいたとしても、彼女自身はそれが不幸ではない。
だから、彼女というと一緒にいる人だけが不幸なめにあう。
「これじゃあトランプもできないし、帰ったほうがいいんじゃない」
「あ、大丈夫。ジャジャーン! 光るトランプも持ってきてました」
無駄に準備がいいのも腹が立つが、何故私は彼女と二人でスマホの明かりとトランプの灯りで大富豪をしているのか。
だが、たまにはこういう日があってもいいのかもしれない。
そう思ったのが数時間前。
そして現在夜。
お泊りセットまで準備していた彼女は私の家で泊まることとなった。
それも、お泊りセットは袋に入れて鞄に入れるという二重だったため濡れておらず、どこまでも変なところで準備がよく、周りの人を不幸なめにあわせる彼女。
今も降り続ける雨は、もしかしたら彼女が雨女だからなんじゃないかという考えが過るが、これ以上は考えることをやめ眠りにつく。
振り続けている雨だが、今は少し落ち着き。
私の耳には、心地のいい雨音が奏でる音色が聞こえ、私の心をポツポツと癒やす。
《完》
仕事も休みだからお家でゆっくり過ごせばいいし、普段の休みもそんな感じだ。
でも、外に出なくてもやはり雨が降っていると憂鬱な気分になる。
雨だって降らなきゃ農家の人達が困るのもわかってはいるが、こうも雨がザーザー降っていると、音が気になりゆっくりどころではない。
ザーザーどころかすでにバケツをひっくり返し続けているような土砂降り。
床に寝転がり瞼を閉じると、やはり雨の音が煩い。
ちょっとした雨音なら心地よくも思えるが、ここまで降ると心地良いどころか騒音だ。
仕方ないと取り出したのは、音楽プレーヤーとイヤホン。
これさえあれば雨の音など関係ない。
「嘘でしょ……」
まさかのイヤホンが壊れていることが発覚。
こうなったらスマホで聞こうとすると、スマホ用のイヤホンは行方不明。
「一体なんの恨みがあるのよ」
これではこの騒音がしのげない。
他に何かいい方法はないかと部屋の中を見回すと、読もうと思ってそのままになっていた小説を発見。
本に集中してしまえば、雨の音など聞こえなくなると思い早速表紙を開く。
最初は気になっていた雨の音もいつの間にか耳に入らなくなり、私は本の世界に入り込んでいた。
だがそのとき。
突然ゴロゴロッという音が響いたかと思うと、ピカッと外が光る。
近くで雷でも落ちたんじゃないかというほどの凄まじい音に、一気に現実へと引き戻されてしまう。
「折角本の世界に入ってたのに」
今も鳴り響く雷にやまない雨。
これでは集中出来ないと思い本を閉じる。
これ以上することもなく、どうしたものかと考えているとインターホンが鳴る。
一体こんな天気に誰だと思いながらドアスコープを覗く。
にこやかに笑みを浮かべながら手を振る彼女を見て、私はゲッと漏れそうな言葉を心に留めて鍵を開ける。
「やっほー! 遊びに来たよ」
「こんな天気の中遊びに来る人はアンタくらいよ」
呆れながら言うも、彼女を部屋の中へと上げる。
彼女の名は真樹。
私と同じ職場で働く同期であり、何だかんだ友達という仲なのだが、彼女は雨女であり、一緒にいる人に何故か不幸をもたらすという人種。
私はすでに彼女のことを人だと認識していいものか悩んでいたりする。
挙句に彼女はかなり変わっている。
少なくとも、こんな土砂降りで雷も鳴ってる中、傘一本差して遊びに来る人物を私は彼女しか知らない。
「で、遊びに来たって何をするわけ?」
「フッフッフッ。これだよ」
そう言いながら目の前に掲げられたのはトランプ。
わかってはいたがやはり彼女は阿呆だ。
「あのさ、そのトランプびしょ濡れだけど」
「しまった! 傘さしたとき鞄の方だけ傘が足りてなかったみたい。そういうのあるよね」
ねーよ、と心の中で突っ込む。
一つの傘に二人入って片方の肩がっていうならわからなくもないが、何故一人で傘さしてそうなる。
そもそも傘が足りてなかったとしても鞄の方に傾けると思うんだが。
突っ込みたいことは山のようにあるが、これでトランプはダメになった。
適当に珈琲でも飲ませて帰らせようと、淹れた珈琲を彼女の前に置くと、テーブルに置かれていた先程のトランプが完全に乾いていた。
「フッフッフッ。こんなこともあろうかと、袋に入った未開封も持ってきていましたー」
なら最初から出せや、とか。
こんなこともあろうかと思ってたなら何故鞄の方に傘を傾けなかったと突っ込みたいが、ここもグッと我慢。
結局トランプをするはめになり、何故か彼女は二人しかいないのに大富豪をやろうと言い出した。
取り敢えず、適当に付き合って帰らせようと思っていたので、早速先ずはカードを配ろうと彼女がしたとき、電気が消えた。
どうやら停電らしいが。
これは彼女がバラまく周りへの不幸の一部だろう。
そしてこの不幸のムカつくところは。
「ほらほら。スマホのライトを顔の下から当てると怖いでしょ」
本人はとっても楽しんでるということ。
いくら周りが不幸なめにあい同じ状況に彼女もいたとしても、彼女自身はそれが不幸ではない。
だから、彼女というと一緒にいる人だけが不幸なめにあう。
「これじゃあトランプもできないし、帰ったほうがいいんじゃない」
「あ、大丈夫。ジャジャーン! 光るトランプも持ってきてました」
無駄に準備がいいのも腹が立つが、何故私は彼女と二人でスマホの明かりとトランプの灯りで大富豪をしているのか。
だが、たまにはこういう日があってもいいのかもしれない。
そう思ったのが数時間前。
そして現在夜。
お泊りセットまで準備していた彼女は私の家で泊まることとなった。
それも、お泊りセットは袋に入れて鞄に入れるという二重だったため濡れておらず、どこまでも変なところで準備がよく、周りの人を不幸なめにあわせる彼女。
今も降り続ける雨は、もしかしたら彼女が雨女だからなんじゃないかという考えが過るが、これ以上は考えることをやめ眠りにつく。
振り続けている雨だが、今は少し落ち着き。
私の耳には、心地のいい雨音が奏でる音色が聞こえ、私の心をポツポツと癒やす。
《完》
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
1話完結のSS集Ⅱ
月夜
恋愛
前作の「1話完結のSS集」が100話となりましたので、新たに作成いたしました!
別作品『1話完結の短編集』より短いお話の詰め合わせです。
ちょっとした時間のお供にでもお読みくださいませ。
多ジャンルではありますが、恋愛のお話が多めになると思うので、カテゴリは恋愛にしております。
[各話の表記]
・テーマ(コンテスト用に書いた作品にのみ)
・他サイト含むコンテスト(受賞、優秀作品を頂いた作品のみ記載有り)
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる