【完結】1話完結のSS集

月夜

文字の大きさ
上 下
20 / 101

歪んで見えた世界(人)

しおりを挟む
 私の世界は歪んでいた。
 目に見えるモノ全てが歪んでいて、その中でも人が恐ろしい。

 歪んでいるのは見た目だけでなく心もで、平気で呼吸をするように嘘をつく。



「君だけを愛してる」

「ずっと友達だよ」



 そんな言葉は全て嘘。
 君だけを愛してると言っておきながら、結局別れたカップル。
 ずっと友達だと言っておきながら、陰で悪口を言っていた友達。

 全てが嘘で醜くて、歪んでいる。
 心の歪みは私の世界だけじゃなく、この世界がそうなのだ。

 そしてこの先も変わらない。
 そう思っていたのに、私の前に現れたのは眩しいお日様だった。



「俺の名前は田中たなか こう。今日からよろしく」



 高校生になった私は、田中くんと席が隣同士になった。

 それから数日経ったが、何故か田中くんは毎日私に声をかけてくる。
 朝はおはようから始まり、休み時間は読書をしていると何の本を読んでいるのかと話しかけてくる。

 その明るさは誰に対してもであり、数日でクラスの中心人物になっていた。

 でも私は知っている。
 そんな明るい人物も、心までそうだとは限らないことを。


 帰り道。
 私は偶然同じ制服を着た高校生が絡まれているのを見かけた。

 どうやらイジメのようだけど、私には関係ない。
 それに私が出ていったところで男子3人相手では何の意味もないことはわかりきっている。
 なら、わざわざ危険を犯す必要はない。

 見てみぬふりをして通り過ぎようとしたその時、聞き覚えのある声に足を止めた。



「おい、何してんだよ」



 視線を戻せば、イジメっ子達の前に田中くんが立っていた。
 いくら男とはいえ、3人の男子相手に適うはずがない。
 そもそも、あんな面倒な状況に関わろうとする人の気が知れない。



「関係ない奴はすっこんでろよ」



 どんどん状況は悪化していき、田中くんが殴られそうになったとき、私は声を上げた。



「おまわりさん!! こっちです! こっちで高校生達がもめてるみたいなんです」



 その声にイジメっ子達は逃げていき、イジメられていた人は田中くんにお礼を言いその場を去った。

 本当に、何故私はこんなことをしたのかわからない。
 こんな汚くて醜い世界も人もどうでもいいと思っていたはずなのに。



「やっぱり上田さんだったんだ」



 私に気づいた田中くんは、こっちに近づいてくると笑みを浮かべ「ありがとう」と言う。



「別に私はたいしたことしてないから。それより、あのままだったら田中くん、どうなってたかわからないんだよ?」

「そうだよな。でもさ、ほっとけねーじゃん」



 そう言い笑顔を向ける田中くんの姿に、私は驚き目を見開いた。
 だって、人なんて結局自分が大切なんだと思っていたから。
 少なくても私が見てきた人はそんな人ばかりだったのに、田中くんは違って見えた。

 眩しすぎて、最初から歪みさえ見えない田中くんの心は、真っ直ぐな自分の正義を持っていた。



「田中くんって変わってるね」

「そうか? 俺が変わってるなら、助けてくれた上田さんも変わってんじゃねーか」



 ニッと笑う田中くんにつられるように「そうだね」と私も口元に少しの笑みを浮かべた。

 歪んだ世界も人も、まだまだ捨てたものではない。
 そう思えた瞬間だった。


《完》
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

1話完結のSS集Ⅱ

月夜
恋愛
前作の「1話完結のSS集」が100話となりましたので、新たに作成いたしました! 別作品『1話完結の短編集』より短いお話の詰め合わせです。 ちょっとした時間のお供にでもお読みくださいませ。 多ジャンルではありますが、恋愛のお話が多めになると思うので、カテゴリは恋愛にしております。 [各話の表記] ・テーマ(コンテスト用に書いた作品にのみ) ・他サイト含むコンテスト(受賞、優秀作品を頂いた作品のみ記載有り)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

浅野浩二
恋愛
研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...