2 / 101
小さな華/テーマ:夏がきた
しおりを挟む
初めての恋人とのデートは夏祭りだった。
当日の夜空には月も星もなく真っ暗闇が広がっている。
駅で待ち合わせをしていた私と彼は浴衣姿で雨が止むのを待つ。
いくら待っても止む気配はなく、それどころか雨は次第に激しさを増し周りに居た人達も諦めたのか、すでに駅には誰もいなくなっていた。
「私達も帰ろっか」
「でもお前、楽しみにしてただろ」
「そうだけど、仕方ないよ。雨も強くなってきて止みそうにないし」
笑みを浮かべながら言ったつもりだったけど、その表情はどこかぎこちない。
これ以上ここにいても仕方ないので彼と共に電車に乗る。
本当なら今頃、屋台で楽しんで花火を見ていただろう。
初の花火デートがこんな形で終わってしまったことがショックで気持ちが沈む。
だからといってそれを口にしたところで彼を困らせてしまうだけだと考えていると、突然腕を掴まれ電車から下ろされてしまった。
驚く私など気に求めず彼は何も言わないまま歩きだし着いた先は彼の家。
両親が今日は出掛けていないからと、花火デートが終わったあと来るはずだったけどとても今の気持ちでは楽しめそうにない。
「ごめんね。今日は——」
言いかけたとき、彼はある物を私に差し出した。
それは、線香花火。
「これ……」
「それくらいならここでもできるだろ」
ニッと笑みを浮かべる彼につられるように口元を緩ませ頷く。
雨の入らない屋根のある庭で二人並んで火をつけると、小さな火の玉がパチパチと音をたて光だす。
打ち上げ花火のように大きくはないけど、瞳に映る小さな華はどんな花火よりも綺麗に見えた。
《完》
当日の夜空には月も星もなく真っ暗闇が広がっている。
駅で待ち合わせをしていた私と彼は浴衣姿で雨が止むのを待つ。
いくら待っても止む気配はなく、それどころか雨は次第に激しさを増し周りに居た人達も諦めたのか、すでに駅には誰もいなくなっていた。
「私達も帰ろっか」
「でもお前、楽しみにしてただろ」
「そうだけど、仕方ないよ。雨も強くなってきて止みそうにないし」
笑みを浮かべながら言ったつもりだったけど、その表情はどこかぎこちない。
これ以上ここにいても仕方ないので彼と共に電車に乗る。
本当なら今頃、屋台で楽しんで花火を見ていただろう。
初の花火デートがこんな形で終わってしまったことがショックで気持ちが沈む。
だからといってそれを口にしたところで彼を困らせてしまうだけだと考えていると、突然腕を掴まれ電車から下ろされてしまった。
驚く私など気に求めず彼は何も言わないまま歩きだし着いた先は彼の家。
両親が今日は出掛けていないからと、花火デートが終わったあと来るはずだったけどとても今の気持ちでは楽しめそうにない。
「ごめんね。今日は——」
言いかけたとき、彼はある物を私に差し出した。
それは、線香花火。
「これ……」
「それくらいならここでもできるだろ」
ニッと笑みを浮かべる彼につられるように口元を緩ませ頷く。
雨の入らない屋根のある庭で二人並んで火をつけると、小さな火の玉がパチパチと音をたて光だす。
打ち上げ花火のように大きくはないけど、瞳に映る小さな華はどんな花火よりも綺麗に見えた。
《完》
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる