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【第四章】 なりたかったもの
遺跡の探索
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しばらく遺跡を進んだあたりで、アルベルトさんが問いかけてくる。
「ニア、暗殺者を捕まえたところで、お前の疑いは晴れないんだが、その辺はどう考えているんだ?」
「わたくしは今どなたかにハメられているんですわ。暗殺者を捕まえることで、その真犯人の手がかりが掴めればと思っております」
「真犯人――つまり、ニアが魔族と内通しているという証拠を掴ませてきた奴がいるということか?」
「ええ」
「ふーむ、まあ俺もそれとなく気を張っておくよ」
私の方からも問いかけていく。
「アルベルトさんは証拠が出た現状でもニアさんの肩を持つんですか?」
「ニアが魔族と内通するっていうはちょっと信じ難い話だからな。それに、仮にそうだとしても暗殺者の雇い主はいったい誰になる。暗殺者を雇うのだって当然犯罪だ。仮にニアが悪いことをしていたからと言っても暗殺していい理由にはならない。そちらもだいぶ洗っているんだが、なかなか情報が出てこなくてな」
「あの二人組、何もない空間を出入りしてました。そんなものがあるなら、捕まえられません」
「俺はそうは思わない。もしどこでも好きな場所を出入りできるなら、なぜニアの宿を襲撃しない? 寝ているところを襲うのが一番簡単だと思う」
「……たしかにそうですね」
「となると、そのどこでも出入りできるもんってのも、実は『どこでも』じゃない可能性がある」
「空間系の魔法はたしかに構成が非情に複雑なんです。制約があってもおかしくはないですね。ただ、彼らが使っているのは魔法とは少し違うんです。うまく読み解けない部分があって――」
喋っている途中で、アルベルトさんとニアさんが呆れた表情となっていることに気付く。
「え、えっと、なんですか?」
「ミュリナってすごいよな。空間魔法ってのは使い手がいたとしても普通使いこなせないんだ」
え? そうなの?
「ミュリナさんはその読み解きまでできております。稀有な才能かと思われますよ」
「は、はあ」
「とりあえず先を目指そう。ミュリナからすると痕跡があるんだろ?」
「はい。内部へと続いております」
そのまま遺跡奥部へと侵入していく。
この遺跡はだいぶ広い作りとなっているようで、探索には時間がかかりそうだ。
だが、進んでいったところで痕跡とは別の違和感を覚え、咄嗟に杖を構えた。
「誰!?」
「なんだ? 何もいないぞ」
「いえ、います!」
私の掛け声で各々武器を取りだす。
男性二人は剣を抜き、ニアさんは私と同じく魔法使いなので杖だ。
四人してジリジリと足を進めていくと、
「あーしだ。攻撃すんな」
と、タカネさんが陰から出てくるのであった。
「タカネさん? こんなところで何してるんですか?」
「そりゃこっちが聞きたい。てめぇらこそ――」
「勇者だとっ!!」
タカネさんの言葉を遮って、ミナトさんが何かあり得ないものを目にしているかのような表情となっていた。
……どうしてタカネさんが勇者だってわかったの?
いや、そっか。
ミナトさんには相手を見抜く能力がある。
それで勇者だと見抜いたのかもしれない。
初めてだとやっぱり驚いてしまうものなんだな。
「あん? お前……勇者か。よっ、同郷人」
一方のタカネさんはだいぶ軽いノリで。
「どういうことだ!?」
「どうもこうもねぇよ。勇者は百年ごとに召喚されてんだ。世代の違う勇者がいたって不思議はねぇだろ」
「だ、だが、そうなると君は百年以上生きているということになる」
「あーしが来たのは七百年前だ。神無月高嶺。よろしくな」
ミナトさんが驚愕で言葉を失ってしまう。
今のやり取りで二つのことが確定した。
一つ目は、やはりタカネさんが勇者だったということ。
そしてもう一つに、勇者には相手の本質を見抜く技能が備わっているということ。
二人は出会って一目で相手を勇者だと見抜いていた。
ミナトさんは『かんてい』という名を出していたが、もしかするとそれのことなのかもしれない。
「今の話は本当ですの? あなたは勇者タカネなのですか?」
「ああ、そうだぜ。んま、勇者業はもう引退したがな。で? ミュリナはここで何してんだ」
いちおう目配せして、話していいかニアさんに確認し、順を追って説明していった。
*
「――という感じで、犯人追跡している途中なんです」
「空間を自在に行き来できるか。よしっ、当りだな」
「え? 何がですか?」
「あーしも同行させろ。ま、拒否しても勝手について行くがな」
ニアさんやアルベルトさんへと視線を送る。
「わたくしは構いませんよ。この方が七百年前の勇者であるというのは未だ信じ難い内容ですが、ここでこの方と争っても仕方ありませんし」
「俺も構わない。それに本物なら興味がある」
「わかりました。そしたら、ついてきて構いませんが、ただ――」
タカネさんに顔を寄せる
「今日こそはあなたの事を少しは話してくだいよ。いっつも勝手に聞くだけ聞いて帰っちゃうんで、あなたのこと全然わかってないんですからっ」
「あんだよ、やっぱりあーしのこと好きなのかよ」
「なっ! ち、違いますっ!」
「キスされたぐらいでギャーギャー騒いでたくせに」
「ぐ、ぐらい!? キスを『ぐらい』なんて言葉で済まさないで下さい! 人の唇勝手に奪ったくせにっ!」
「いーだろ別に、ガキくせぇな。小学生かよ」
「よくない! ぶー!!」
ふくれっ面になる私に対し、ニアさんたちは肩をすくめている。
「それでタカネさんはなんで遺跡の探索とか魔適合物の調査とかをしてるんですか?」
「言わなきゃいけねぇのかよ」
「いい加減、大魔法飛ばしますね?」
「ヒス女だな」
無言で魔法陣を十八個展開しながら杖を構える。
「わーったわーった。ったく、仕方ねぇな。歩きながら話すぞ」
「ちゃんと話して下さいよ?」
眉を寄せながら睨みつけると、タカネさんは肩をすくめる。
「あーしは人類の遺産を探している。基本的には危険なものが多いから、回収してさっさと処分したい。今お前らが捜している犯人とやらが持つアイテムもたぶんそうだぜ」
「遺産?」
「そうだ。魔法に科学を融合したもんだから危険なんだよ」
「科学と言ったか!? どういうことだ!」
私の代わりにミナトさんがツッコんでいく。
「てめぇは今代に召喚されたばっかだろ? だから知らねぇんだな。教えておいてやる」
タカネさんが立ち止まって、ミナトさんをねめつける。
「この世界はな、あーしらの元の世界の人類が逃げ込んだ世界だ」
「ニア、暗殺者を捕まえたところで、お前の疑いは晴れないんだが、その辺はどう考えているんだ?」
「わたくしは今どなたかにハメられているんですわ。暗殺者を捕まえることで、その真犯人の手がかりが掴めればと思っております」
「真犯人――つまり、ニアが魔族と内通しているという証拠を掴ませてきた奴がいるということか?」
「ええ」
「ふーむ、まあ俺もそれとなく気を張っておくよ」
私の方からも問いかけていく。
「アルベルトさんは証拠が出た現状でもニアさんの肩を持つんですか?」
「ニアが魔族と内通するっていうはちょっと信じ難い話だからな。それに、仮にそうだとしても暗殺者の雇い主はいったい誰になる。暗殺者を雇うのだって当然犯罪だ。仮にニアが悪いことをしていたからと言っても暗殺していい理由にはならない。そちらもだいぶ洗っているんだが、なかなか情報が出てこなくてな」
「あの二人組、何もない空間を出入りしてました。そんなものがあるなら、捕まえられません」
「俺はそうは思わない。もしどこでも好きな場所を出入りできるなら、なぜニアの宿を襲撃しない? 寝ているところを襲うのが一番簡単だと思う」
「……たしかにそうですね」
「となると、そのどこでも出入りできるもんってのも、実は『どこでも』じゃない可能性がある」
「空間系の魔法はたしかに構成が非情に複雑なんです。制約があってもおかしくはないですね。ただ、彼らが使っているのは魔法とは少し違うんです。うまく読み解けない部分があって――」
喋っている途中で、アルベルトさんとニアさんが呆れた表情となっていることに気付く。
「え、えっと、なんですか?」
「ミュリナってすごいよな。空間魔法ってのは使い手がいたとしても普通使いこなせないんだ」
え? そうなの?
「ミュリナさんはその読み解きまでできております。稀有な才能かと思われますよ」
「は、はあ」
「とりあえず先を目指そう。ミュリナからすると痕跡があるんだろ?」
「はい。内部へと続いております」
そのまま遺跡奥部へと侵入していく。
この遺跡はだいぶ広い作りとなっているようで、探索には時間がかかりそうだ。
だが、進んでいったところで痕跡とは別の違和感を覚え、咄嗟に杖を構えた。
「誰!?」
「なんだ? 何もいないぞ」
「いえ、います!」
私の掛け声で各々武器を取りだす。
男性二人は剣を抜き、ニアさんは私と同じく魔法使いなので杖だ。
四人してジリジリと足を進めていくと、
「あーしだ。攻撃すんな」
と、タカネさんが陰から出てくるのであった。
「タカネさん? こんなところで何してるんですか?」
「そりゃこっちが聞きたい。てめぇらこそ――」
「勇者だとっ!!」
タカネさんの言葉を遮って、ミナトさんが何かあり得ないものを目にしているかのような表情となっていた。
……どうしてタカネさんが勇者だってわかったの?
いや、そっか。
ミナトさんには相手を見抜く能力がある。
それで勇者だと見抜いたのかもしれない。
初めてだとやっぱり驚いてしまうものなんだな。
「あん? お前……勇者か。よっ、同郷人」
一方のタカネさんはだいぶ軽いノリで。
「どういうことだ!?」
「どうもこうもねぇよ。勇者は百年ごとに召喚されてんだ。世代の違う勇者がいたって不思議はねぇだろ」
「だ、だが、そうなると君は百年以上生きているということになる」
「あーしが来たのは七百年前だ。神無月高嶺。よろしくな」
ミナトさんが驚愕で言葉を失ってしまう。
今のやり取りで二つのことが確定した。
一つ目は、やはりタカネさんが勇者だったということ。
そしてもう一つに、勇者には相手の本質を見抜く技能が備わっているということ。
二人は出会って一目で相手を勇者だと見抜いていた。
ミナトさんは『かんてい』という名を出していたが、もしかするとそれのことなのかもしれない。
「今の話は本当ですの? あなたは勇者タカネなのですか?」
「ああ、そうだぜ。んま、勇者業はもう引退したがな。で? ミュリナはここで何してんだ」
いちおう目配せして、話していいかニアさんに確認し、順を追って説明していった。
*
「――という感じで、犯人追跡している途中なんです」
「空間を自在に行き来できるか。よしっ、当りだな」
「え? 何がですか?」
「あーしも同行させろ。ま、拒否しても勝手について行くがな」
ニアさんやアルベルトさんへと視線を送る。
「わたくしは構いませんよ。この方が七百年前の勇者であるというのは未だ信じ難い内容ですが、ここでこの方と争っても仕方ありませんし」
「俺も構わない。それに本物なら興味がある」
「わかりました。そしたら、ついてきて構いませんが、ただ――」
タカネさんに顔を寄せる
「今日こそはあなたの事を少しは話してくだいよ。いっつも勝手に聞くだけ聞いて帰っちゃうんで、あなたのこと全然わかってないんですからっ」
「あんだよ、やっぱりあーしのこと好きなのかよ」
「なっ! ち、違いますっ!」
「キスされたぐらいでギャーギャー騒いでたくせに」
「ぐ、ぐらい!? キスを『ぐらい』なんて言葉で済まさないで下さい! 人の唇勝手に奪ったくせにっ!」
「いーだろ別に、ガキくせぇな。小学生かよ」
「よくない! ぶー!!」
ふくれっ面になる私に対し、ニアさんたちは肩をすくめている。
「それでタカネさんはなんで遺跡の探索とか魔適合物の調査とかをしてるんですか?」
「言わなきゃいけねぇのかよ」
「いい加減、大魔法飛ばしますね?」
「ヒス女だな」
無言で魔法陣を十八個展開しながら杖を構える。
「わーったわーった。ったく、仕方ねぇな。歩きながら話すぞ」
「ちゃんと話して下さいよ?」
眉を寄せながら睨みつけると、タカネさんは肩をすくめる。
「あーしは人類の遺産を探している。基本的には危険なものが多いから、回収してさっさと処分したい。今お前らが捜している犯人とやらが持つアイテムもたぶんそうだぜ」
「遺産?」
「そうだ。魔法に科学を融合したもんだから危険なんだよ」
「科学と言ったか!? どういうことだ!」
私の代わりにミナトさんがツッコんでいく。
「てめぇは今代に召喚されたばっかだろ? だから知らねぇんだな。教えておいてやる」
タカネさんが立ち止まって、ミナトさんをねめつける。
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